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第4幕 高校入学編
第15話 ケット・シー×ホットケーキ
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花の高校生活。屋上での昼食、生徒会が特殊だとか、変わった部活動がある──なんてアニメや漫画のような設定はない。ごくごく普通の学校だ。
「はぁ」とオレはテーブルに突っ伏しながら溜息を漏らした。
ここは雨月校舎内、食堂室。
なぜ入学もしていないオレがここにいるのかというと、入学前に教科書を買いに来たからだ。
テーブルの上には部活動一覧リストのプリントがある。職員室で先生から貰ったのだ。《野球部》という文字にオレは溜息を落とす。
別に野球が嫌いという訳じゃない。ただ費やす時間が多すぎる。体力づくりの為だったのに、土日も練習試合や大会で菓子作りは本当に限られていた。
県でベスト5と強豪校だった──というのも大きい。
その中でピッチャーの一人として、ポジションをもらえたことは幸運だった。たくさん鍛えて、みんなで勝負に勝った時は嬉しくて──負けたらぼろぼろ泣くまで悔しかった。
「……でも、オレは」
爺ちゃんとの約束を守りたい。未成年のオレが店を継ぐなんて無理だ。でも、大人になって、あの店で仕事できるようになるなら、部活とパティシエと勉強の両立は厳しいだろう。
最初はうまくいっていてもどこかで綻びが生まれる。
「困っているのかニャ?」
ふとオレの傍にやってきたのは喋る猫だった。
「!?」
というか、全長二メートルを超えるメインクーンの白い猫。ふわふわで、琥珀色の瞳、二足歩行で、首に大きなリボン、赤の燕尾服を羽織っている。
「どうしたですニャ?」
見た目の可愛さとは裏腹に声は渋い。
ぬう、とオレと同じ目線になろうと、テーブルに突っ伏している。なんか、もふもふして可愛い。
「あー、えっとですね。この学校はどこかの部活に所属しないといけないと……書いてあったのを見て……、迷っているというか」
「ニャんだ。それなら一番下の欄を見てみるとよいのですニャ」
プリントの一番下の欄には『帰宅部』とあった。
「え? 帰宅部って部活なんッスか!?」
「建前的にだニャン。家の都合とか塾や習い事もあるし、この学校の周辺から来ている子たちは家業を継ぐ子たちもいるニャ。だから救済処置として『帰宅部』を用意したんだニャ」
──この語尾って素なのか、それともわざとなんだろうか。……って、それよりも思わぬ救いがあったなんて。『帰宅部』なら店の仕事も出来る。
「ところで、キミは卵も牛乳、チョコレートも使わないで美味しいスイーツって作れるニャ?」
ずい、と顔を近づける巨大な猫は、アーモンドのような瞳をオレに近づけた。
「へ?」
***
「そっか、Cait Sithだったのか。オレは猫又だと思ってた」
「猫又は知り合いにいるけど存在は全然違うニャ」
オレに難題を振ってきた奴はCait Sith。人語をしゃべり二足歩行で歩き、王制を布いて暮らしているという。普通は黒猫らしいが、それは双子の弟だとか。民話The King of the Catsに出てくる。有名どころだと「長靴をはいた猫」のモデルとしても描かれているらしい。
「で、なんで急にスイーツの話に……」
「え、だってキミ、パティシエ見習いだろう? 両手に甘い匂いさせていたら、我慢できないニャ」
もふもふの猫──ケット・シーは身悶えしながら床でごろごろと転がる。駄々をこねているだけなのだが、猫がいざやると可愛い。
「それにキミ有名ニャ」
ケット・シーの話では《真夜中のアヤカシ洋菓子店》のスイーツを作ったのがオレだと言い当てた。《アヤカシ》界隈であれば知らないモノはいないという。
「いや……作るのは構わないけど、一度家に帰って材料を用意……」
「ニャ!? すぐに作れるのかニャ?」
「うん、ちょっと工夫したふわふわホットケーキなら作れるけど?」
薄力粉、重曹(食用)またはホットケーキミックス、豆腐か豆乳、ミツカン(穀物酢)があれば出来る。あとは生クリーム。植物性クリームを使えば、あっさりとした味わいになるだろう。
「今食べたいニャ。お仕事頑張ったからご褒美欲しいニャ」
「今ってアンタ……。ここ学校だから」
ケット・シーは食堂の厨房へと視線を向ける。まさかとは思ったが──
「食堂に材料とかいろいろあるから使っていいニャン」と言い切った。
「いやいやいや。先生に見つかったら……」
「大丈夫ニャ」
「どこから来るんだよその自信!」
「だって自分、校長だニャ」
「は?」
「はぁ」とオレはテーブルに突っ伏しながら溜息を漏らした。
ここは雨月校舎内、食堂室。
なぜ入学もしていないオレがここにいるのかというと、入学前に教科書を買いに来たからだ。
テーブルの上には部活動一覧リストのプリントがある。職員室で先生から貰ったのだ。《野球部》という文字にオレは溜息を落とす。
別に野球が嫌いという訳じゃない。ただ費やす時間が多すぎる。体力づくりの為だったのに、土日も練習試合や大会で菓子作りは本当に限られていた。
県でベスト5と強豪校だった──というのも大きい。
その中でピッチャーの一人として、ポジションをもらえたことは幸運だった。たくさん鍛えて、みんなで勝負に勝った時は嬉しくて──負けたらぼろぼろ泣くまで悔しかった。
「……でも、オレは」
爺ちゃんとの約束を守りたい。未成年のオレが店を継ぐなんて無理だ。でも、大人になって、あの店で仕事できるようになるなら、部活とパティシエと勉強の両立は厳しいだろう。
最初はうまくいっていてもどこかで綻びが生まれる。
「困っているのかニャ?」
ふとオレの傍にやってきたのは喋る猫だった。
「!?」
というか、全長二メートルを超えるメインクーンの白い猫。ふわふわで、琥珀色の瞳、二足歩行で、首に大きなリボン、赤の燕尾服を羽織っている。
「どうしたですニャ?」
見た目の可愛さとは裏腹に声は渋い。
ぬう、とオレと同じ目線になろうと、テーブルに突っ伏している。なんか、もふもふして可愛い。
「あー、えっとですね。この学校はどこかの部活に所属しないといけないと……書いてあったのを見て……、迷っているというか」
「ニャんだ。それなら一番下の欄を見てみるとよいのですニャ」
プリントの一番下の欄には『帰宅部』とあった。
「え? 帰宅部って部活なんッスか!?」
「建前的にだニャン。家の都合とか塾や習い事もあるし、この学校の周辺から来ている子たちは家業を継ぐ子たちもいるニャ。だから救済処置として『帰宅部』を用意したんだニャ」
──この語尾って素なのか、それともわざとなんだろうか。……って、それよりも思わぬ救いがあったなんて。『帰宅部』なら店の仕事も出来る。
「ところで、キミは卵も牛乳、チョコレートも使わないで美味しいスイーツって作れるニャ?」
ずい、と顔を近づける巨大な猫は、アーモンドのような瞳をオレに近づけた。
「へ?」
***
「そっか、Cait Sithだったのか。オレは猫又だと思ってた」
「猫又は知り合いにいるけど存在は全然違うニャ」
オレに難題を振ってきた奴はCait Sith。人語をしゃべり二足歩行で歩き、王制を布いて暮らしているという。普通は黒猫らしいが、それは双子の弟だとか。民話The King of the Catsに出てくる。有名どころだと「長靴をはいた猫」のモデルとしても描かれているらしい。
「で、なんで急にスイーツの話に……」
「え、だってキミ、パティシエ見習いだろう? 両手に甘い匂いさせていたら、我慢できないニャ」
もふもふの猫──ケット・シーは身悶えしながら床でごろごろと転がる。駄々をこねているだけなのだが、猫がいざやると可愛い。
「それにキミ有名ニャ」
ケット・シーの話では《真夜中のアヤカシ洋菓子店》のスイーツを作ったのがオレだと言い当てた。《アヤカシ》界隈であれば知らないモノはいないという。
「いや……作るのは構わないけど、一度家に帰って材料を用意……」
「ニャ!? すぐに作れるのかニャ?」
「うん、ちょっと工夫したふわふわホットケーキなら作れるけど?」
薄力粉、重曹(食用)またはホットケーキミックス、豆腐か豆乳、ミツカン(穀物酢)があれば出来る。あとは生クリーム。植物性クリームを使えば、あっさりとした味わいになるだろう。
「今食べたいニャ。お仕事頑張ったからご褒美欲しいニャ」
「今ってアンタ……。ここ学校だから」
ケット・シーは食堂の厨房へと視線を向ける。まさかとは思ったが──
「食堂に材料とかいろいろあるから使っていいニャン」と言い切った。
「いやいやいや。先生に見つかったら……」
「大丈夫ニャ」
「どこから来るんだよその自信!」
「だって自分、校長だニャ」
「は?」
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