真夜中のアヤカシ洋菓子店にようこそ

あさぎかな@コミカライズ決定

文字の大きさ
19 / 35
第4幕 高校入学編

第16話 ケット・シー+林檎のフランベ

しおりを挟む
「こ、校長うぅうう!?」

 ──オレの高校生活、終わった。校長に対して失礼な発言。馴れ馴れしさ……これはお叱りものじゃ……。

 オレは目の前にいるケット・シーの正体に震えた。中学にも猫又はいたので、なんとなく同学年だと考えていたが、大人である可能性もあるのだ。

「ン? もしかして信じてないニャ」

 ケット・シー校長は前足で頬を掻くと、ぴょんと宙返りする。するとグレーのスーツ姿の老紳士が立っていた。
 あのモフモフふわふわの猫からは想像できない厳格そうな老紳士だ。

「これで信じてくれたかね」

「そこは語尾にニャはつかないっスね……です」

「はははっ、まあこの姿で語尾を付けたら貫禄かんろくがなくなるからね」

 確かにこの姿なら校長っぽい。まあ、《アヤカシ》の中でも人と暮らすなら人に近い姿になるほうが便利だからだろう。

「さて、雑談はここまで。ゴーレム君もいいだろう?」

 そう言うと老紳士は、厨房にいるゴーレムに声をかけた。
  golemゴーレム。ヘブライ語で《胎児》を意味する。主人の命令だけを忠実に実行する意思のない召使い。自動人形──というのが一般的に知られている。泥や骨、鉄から作られることも多いのだが、ここにいるゴーレムは機械人形に近い。外見は人型に近いが、素材は鉄のようなもので作られており、決定打は額に「emet」の紋様が刻まれている。小柄でオレと同じぐらいの背丈の少女だ。

──コックコートが似合うし、ツインテールも可愛らしい。双方の目がカメラレンズのように動くのは驚いたけど。

「声紋、顔認証、骨格から校長の確率九十八パーセントを確認。校長と判断する。──校長の命令なら、一時的に食堂の使用許可を承諾」

「よし、決まりだ」

校長は一瞬で巨大な猫へと戻った。なぜ戻ったのだろう。

「フフフ、スイーツの時間だニャ」

「あ、これ職権乱用じゃないかな」とオレは心の中で思ったのだった。


***


 手洗いうがいを行ったのち、オレは腕をまくってから調理場に入った。
 注文は「卵、牛乳、チョコレートを使わないスイーツ」だ。ちょうどホットケーキの粉と絹豆腐、それとバニラエッセンスと砂糖、植物性クリームもあった。

──まずはボウルに豆腐を入れて泡立て器でダマがなくなるまで混ぜる。それからホットケーキと水を加えて、軽く混ぜる。バニラエッセンスはこの時にいれるっと、砂糖──いや蜂蜜があるからこっちにしよう。

オレは手早くホットケーキを焼きあげていく。それと同時に生クリーム仕上げて冷蔵庫へと移した。三十分もかからずにケット・シーの座るテーブルの前に出来立てのホットケーキが積みあがった。

「いい匂いだニャ」

 ──あ、そうだ。フルーツがあったから、クダラ師匠に教えてもらった飾り付けデコールを試してみよう。

「ニャニャ!? これは林檎のフランベ。しかも飾り付けが薔薇の模様だニャ」

「あとお好みで植物性生クリームもどうぞ。コクや風味は動物性クリームに劣るッスけど、あっさりして美味しいっスよ……です」

「頂きますニャ。むぐ……ん! 甘いニャ、美味しいニャン!」

 猫の姿なのに、ナイフとフォークの使い方も完璧だった。というか、食べるならさっきの人の姿の方が良いんじゃ……。
 オレはそう声をかけようとしたが、美味しそうに食べるケット・シー校長を前に言葉が出なかった。

「んん! 土曜日は何も買えなかったから、嬉しいニャ!」

「それはどうも。……でも、食堂に彼女ゴーレムがいるなら作って貰えば良いんじゃないッスか? ……です」

 オレはケット・シー校長に何となく聞いてみた。前に白蛇様のスイーツを作る時に始さんが「自分じゃ望んでいるモノが作れない」と言っていた言葉が脳裏に過る。

「ン? 人間が食べるなら美味しいだろうけど、《アヤカシ》やその血を色濃く引く先祖返り者が料理や菓子を作っても、《アヤカシ》が食べたらほとんど味がしないんだニャ」

「え? ……味がないって……」

 オレは本気でケット・シーが何を言っているのか分からなかった。いや、理解できなかった。

「十二年前。《アヤカシ》がこの世界に顕現したとき、という感覚器官が備わらなかったんだニャ」
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

あやかし甘味堂で婚活を

一文字鈴
キャラ文芸
調理の専門学校を卒業した桃瀬菜々美は、料理しか取り柄のない、平凡で地味な21歳。 生まれる前に父を亡くし、保育士をしながらシングルで子育てをしてきた母と、東京でモデルをしている美しい妹がいる。 『甘味処夕さり』の面接を受けた菜々美は、和菓子の腕を美麗な店長の咲人に認められ、無事に採用になったのだが――。 結界に包まれた『甘味処夕さり』は、人界で暮らすあやかしたちの憩いの甘味堂で、和菓子を食べにくるあやかしたちの婚活サービスも引き受けているという。 戸惑いながらも菜々美は、『甘味処夕さり』に集まるあやかしたちと共に、前向きに彼らの恋愛相談と向き合っていくが……?

黄泉津役所

浅井 ことは
キャラ文芸
高校入学を機にアルバイトを始めようと面接に行った井筒丈史。 だが行った先は普通の役所のようで普通ではない役所。 一度はアルバイトを断るものの、結局働くことに。 ただの役所でそうではなさそうなお役所バイト。 一体何をさせられるのか……

【完結】御刀さまと花婿たち

はーこ
キャラ文芸
【第9回キャラ文芸大賞エントリー中】 刀の神さまを待ち受けていたのは、ひとびとを苦しめるあやかし退治、そして弟と元主と生みの親からの溺愛学園生活!? 現代日本のとある島。神社の蔵で目を覚ました少女・鼓御前(つづみごぜん)は、数百年の時をへて付喪神となった御神刀だった。 鼓御前の使命はひとつ。島にはびこる悪しきあやかしを斬ること。そのためには、刀をふるう覡(かんなぎ)と呼ばれる霊力者の存在が必要不可欠なのだという。 覡とは、あやかしに対抗する武装神職者のこと。しかし鼓御前のもとに集まった三人の覡候補は、かつて同じ刀であった弟、持ち主であった戦国武将、鼓御前を生み出した刀鍛冶が転生した男たちで。 鼓御前は彼らとともに、覡を養成する学び舎へ通うことになる。 ひとと刀は片時も離れず、寄り添うもの。まるで夫婦のように。個性豊かな『花婿候補』たちにかこまれながら、鼓御前は闘い、そしてひとのこころ──恋を知る。 時をこえて想いが花ひらく、現代和風ファンタジー。 ※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体などとは関係ありません。 ※他サイトにて公開中の作品を、コンテスト用に大幅改稿したものです。 ※掲載しているイラストはすべて自作です。

大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~

菱沼あゆ
キャラ文芸
華族の三条家の跡取り息子、三条行正と見合い結婚することになった咲子。 だが、軍人の行正は、整いすぎた美形な上に、あまりしゃべらない。 蝋人形みたいだ……と見合いの席で怯える咲子だったが。 実は、咲子には、人の心を読めるチカラがあって――。

火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~

秦朱音|はたあかね
キャラ文芸
王を中心に五家が支配する、綺羅ノ国。 五家に覡(かんなぎ)として仕える十六夜家の娘、久遠(くおん)は、幼い頃から男として育てられてきた。 都では陽を司る日紫喜家の王が崩御し、素行の悪さで有名な新王・燦(さん)が即位する。燦の后選びに戦々恐々とする五家だったが、燦は十六夜家の才である「夢見」を聞いて后を選ぶと言い始めた。そして、その夢見を行う覡に、燦は男装した久遠を指名する。 見習いの僕がこの国の后を選ぶなんて、荷が重すぎる――! 久遠の苦悩を知ってか知らずか、燦は強引に久遠を寝室に呼んで夢見を命じる。しかし、初めて出会ったはずの久遠と燦の夢には、とある共通点があって――? 謎に包まれた過去を持ち身分を隠す男装姫と、孤独な王の恋と因縁を描く、和風王宮ファンタジー。 ※カクヨムにも先行で投稿しています

後宮薬師は名を持たない

由香
キャラ文芸
後宮で怪異を診る薬師・玉玲は、母が禁薬により処刑された過去を持つ。 帝と皇子に迫る“鬼”の気配、母の遺した禁薬、鬼神の青年・玄曜との出会い。 救いと犠牲の狭間で、玉玲は母が選ばなかった選択を重ねていく。 後宮が燃え、名を失ってもなお―― 彼女は薬師として、人として、生きる道を選ぶ。

祓い姫 ~祓い姫とさやけし君~

白亜凛
キャラ文芸
ときは平安。 ひっそりと佇む邸の奥深く、 祓い姫と呼ばれる不思議な力を持つ姫がいた。 ある雨の夜。 邸にひとりの公達が訪れた。 「折り入って頼みがある。このまま付いて来てほしい」 宮中では、ある事件が起きていた。

オヤジ栽培〜癒しのオヤジを咲かせましょう〜

草加奈呼
キャラ文芸
会社員である草木好子《くさきよしこ》は、 毎日多忙な日々を送り心身ともに疲れきっていた。 ある日、仕事帰りに着物姿の女性に出会い、花の種をもらう。 「植物にはリラックス効果があるの」そう言われて花の種を育ててみると…… 生えてきたのは植物ではなく、人間!? 咲くのは、なぜか皆〝オヤジ〟ばかり。 人型植物と人間が交差する日常の中で描かれる、 家族、別れ、再生。 ほんのり不思議で、少しだけ怖く、 それでも最後には、どこかあたたかい。 人型植物《オヤジ》たちが咲かせる群像劇(オムニバス)形式の物語。 あなたは、どんな花《オヤジ》を咲かせますか? またいいオヤジが思いついたらどんどん増やしていきます!

処理中です...