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第4幕 高校入学編
第16話 ケット・シー+林檎のフランベ
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「こ、校長うぅうう!?」
──オレの高校生活、終わった。校長に対して失礼な発言。馴れ馴れしさ……これはお叱りものじゃ……。
オレは目の前にいるケット・シーの正体に震えた。中学にも猫又はいたので、なんとなく同学年だと考えていたが、大人である可能性もあるのだ。
「ン? もしかして信じてないニャ」
ケット・シー校長は前足で頬を掻くと、ぴょんと宙返りする。するとグレーのスーツ姿の老紳士が立っていた。
あのモフモフふわふわの猫からは想像できない厳格そうな老紳士だ。
「これで信じてくれたかね」
「そこは語尾にニャはつかないっスね……です」
「はははっ、まあこの姿で語尾を付けたら貫禄がなくなるからね」
確かにこの姿なら校長っぽい。まあ、《アヤカシ》の中でも人と暮らすなら人に近い姿になるほうが便利だからだろう。
「さて、雑談はここまで。ゴーレム君もいいだろう?」
そう言うと老紳士は、厨房にいるゴーレムに声をかけた。
golem。ヘブライ語で《胎児》を意味する。主人の命令だけを忠実に実行する意思のない召使い。自動人形──というのが一般的に知られている。泥や骨、鉄から作られることも多いのだが、ここにいるゴーレムは機械人形に近い。外見は人型に近いが、素材は鉄のようなもので作られており、決定打は額に「emet」の紋様が刻まれている。小柄でオレと同じぐらいの背丈の少女だ。
──コックコートが似合うし、ツインテールも可愛らしい。双方の目がカメラレンズのように動くのは驚いたけど。
「声紋、顔認証、骨格から校長の確率九十八パーセントを確認。校長と判断する。──校長の命令なら、一時的に食堂の使用許可を承諾」
「よし、決まりだ」
校長は一瞬で巨大な猫へと戻った。なぜ戻ったのだろう。
「フフフ、スイーツの時間だニャ」
「あ、これ職権乱用じゃないかな」とオレは心の中で思ったのだった。
***
手洗いうがいを行ったのち、オレは腕をまくってから調理場に入った。
注文は「卵、牛乳、チョコレートを使わないスイーツ」だ。ちょうどホットケーキの粉と絹豆腐、それとバニラエッセンスと砂糖、植物性クリームもあった。
──まずはボウルに豆腐を入れて泡立て器でダマがなくなるまで混ぜる。それからホットケーキと水を加えて、軽く混ぜる。バニラエッセンスはこの時にいれるっと、砂糖──いや蜂蜜があるからこっちにしよう。
オレは手早くホットケーキを焼きあげていく。それと同時に生クリーム仕上げて冷蔵庫へと移した。三十分もかからずにケット・シーの座るテーブルの前に出来立てのホットケーキが積みあがった。
「いい匂いだニャ」
──あ、そうだ。フルーツがあったから、クダラ師匠に教えてもらった飾り付けを試してみよう。
「ニャニャ!? これは林檎のフランベ。しかも飾り付けが薔薇の模様だニャ」
「あとお好みで植物性生クリームもどうぞ。コクや風味は動物性クリームに劣るッスけど、あっさりして美味しいっスよ……です」
「頂きますニャ。むぐ……ん! 甘いニャ、美味しいニャン!」
猫の姿なのに、ナイフとフォークの使い方も完璧だった。というか、食べるならさっきの人の姿の方が良いんじゃ……。
オレはそう声をかけようとしたが、美味しそうに食べるケット・シー校長を前に言葉が出なかった。
「んん! 土曜日は何も買えなかったから、嬉しいニャ!」
「それはどうも。……でも、食堂に彼女がいるなら作って貰えば良いんじゃないッスか? ……です」
オレはケット・シー校長に何となく聞いてみた。前に白蛇様のスイーツを作る時に始さんが「自分じゃ望んでいるモノが作れない」と言っていた言葉が脳裏に過る。
「ン? 人間が食べるなら美味しいだろうけど、《アヤカシ》やその血を色濃く引く者が料理や菓子を作っても、《アヤカシ》が食べたらほとんど味がしないんだニャ」
「え? ……味がないって……」
オレは本気でケット・シーが何を言っているのか分からなかった。いや、理解できなかった。
「十二年前。《アヤカシ》がこの世界に顕現したとき、味覚という感覚器官が備わらなかったんだニャ」
──オレの高校生活、終わった。校長に対して失礼な発言。馴れ馴れしさ……これはお叱りものじゃ……。
オレは目の前にいるケット・シーの正体に震えた。中学にも猫又はいたので、なんとなく同学年だと考えていたが、大人である可能性もあるのだ。
「ン? もしかして信じてないニャ」
ケット・シー校長は前足で頬を掻くと、ぴょんと宙返りする。するとグレーのスーツ姿の老紳士が立っていた。
あのモフモフふわふわの猫からは想像できない厳格そうな老紳士だ。
「これで信じてくれたかね」
「そこは語尾にニャはつかないっスね……です」
「はははっ、まあこの姿で語尾を付けたら貫禄がなくなるからね」
確かにこの姿なら校長っぽい。まあ、《アヤカシ》の中でも人と暮らすなら人に近い姿になるほうが便利だからだろう。
「さて、雑談はここまで。ゴーレム君もいいだろう?」
そう言うと老紳士は、厨房にいるゴーレムに声をかけた。
golem。ヘブライ語で《胎児》を意味する。主人の命令だけを忠実に実行する意思のない召使い。自動人形──というのが一般的に知られている。泥や骨、鉄から作られることも多いのだが、ここにいるゴーレムは機械人形に近い。外見は人型に近いが、素材は鉄のようなもので作られており、決定打は額に「emet」の紋様が刻まれている。小柄でオレと同じぐらいの背丈の少女だ。
──コックコートが似合うし、ツインテールも可愛らしい。双方の目がカメラレンズのように動くのは驚いたけど。
「声紋、顔認証、骨格から校長の確率九十八パーセントを確認。校長と判断する。──校長の命令なら、一時的に食堂の使用許可を承諾」
「よし、決まりだ」
校長は一瞬で巨大な猫へと戻った。なぜ戻ったのだろう。
「フフフ、スイーツの時間だニャ」
「あ、これ職権乱用じゃないかな」とオレは心の中で思ったのだった。
***
手洗いうがいを行ったのち、オレは腕をまくってから調理場に入った。
注文は「卵、牛乳、チョコレートを使わないスイーツ」だ。ちょうどホットケーキの粉と絹豆腐、それとバニラエッセンスと砂糖、植物性クリームもあった。
──まずはボウルに豆腐を入れて泡立て器でダマがなくなるまで混ぜる。それからホットケーキと水を加えて、軽く混ぜる。バニラエッセンスはこの時にいれるっと、砂糖──いや蜂蜜があるからこっちにしよう。
オレは手早くホットケーキを焼きあげていく。それと同時に生クリーム仕上げて冷蔵庫へと移した。三十分もかからずにケット・シーの座るテーブルの前に出来立てのホットケーキが積みあがった。
「いい匂いだニャ」
──あ、そうだ。フルーツがあったから、クダラ師匠に教えてもらった飾り付けを試してみよう。
「ニャニャ!? これは林檎のフランベ。しかも飾り付けが薔薇の模様だニャ」
「あとお好みで植物性生クリームもどうぞ。コクや風味は動物性クリームに劣るッスけど、あっさりして美味しいっスよ……です」
「頂きますニャ。むぐ……ん! 甘いニャ、美味しいニャン!」
猫の姿なのに、ナイフとフォークの使い方も完璧だった。というか、食べるならさっきの人の姿の方が良いんじゃ……。
オレはそう声をかけようとしたが、美味しそうに食べるケット・シー校長を前に言葉が出なかった。
「んん! 土曜日は何も買えなかったから、嬉しいニャ!」
「それはどうも。……でも、食堂に彼女がいるなら作って貰えば良いんじゃないッスか? ……です」
オレはケット・シー校長に何となく聞いてみた。前に白蛇様のスイーツを作る時に始さんが「自分じゃ望んでいるモノが作れない」と言っていた言葉が脳裏に過る。
「ン? 人間が食べるなら美味しいだろうけど、《アヤカシ》やその血を色濃く引く者が料理や菓子を作っても、《アヤカシ》が食べたらほとんど味がしないんだニャ」
「え? ……味がないって……」
オレは本気でケット・シーが何を言っているのか分からなかった。いや、理解できなかった。
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