真夜中のアヤカシ洋菓子店にようこそ

あさぎかな@コミカライズ決定

文字の大きさ
25 / 35
終幕 パティシエは二度奇跡を起こす

第22話 まほろば祭り

しおりを挟む
 ──拝啓、爺ちゃん、父さん、母さん。お元気でしょうか?
 オレは元気です。帰宅部の申請も通り、店の手伝いに学業と充実しています。高校生活が始まって一週間。そう一週間経つのですが──友達が未だに出来ません。
 いわゆる「ぼっち」です。

「はあ……」

 オレは途中まで打っていたメールを削除して、机に突っ伏した。
 窓側の後ろから二番目の席。朝のホームルーム前で、クラスメイトの賑やかな声が耳に入る。
「おはよう」と挨拶はするのだが、どうにもそれ以上の会話に発展しない。あからさまに避けられているのだった。

 ──なんでこんなことに……。

 悩むものの原因は不明。白蛇様たちがいたことで目立っただろうけど、それ以外に何かヘマをした覚えはない。
 ガネーシャに相談してみたら「頑張れ☆」と返信が来ていた。

 ──オレの高校生活は灰色なのかな。

 そう悲観した思いで突っ伏していると、ガラリと教壇側のドアが勢いよく開いた。

「失礼します、旭孝太郎くんはいますか?」

 威風堂々いふうどうどうという言葉があるなら、まさに彼女の為にあるようなものだった。凛とした横顔に、造形の整った顔立ち、艶のある長い髪、印象的な右目の泣きぼくろが妖艶さを醸し出している。そんな美女がオレの名を呼んだのだ。

「っ……あ、はい。オレが孝太郎ッス」

 彼女はオレの机の前まで歩くと、立ち止まった。長い髪と制服のスカートが僅かに揺らいだ。いつの間にかクラスメイトだけではなく、他の生徒たちも見物と言うようにオレと彼女に視線が注がれた。

 ──というか、めちゃくちゃ美人だけど……なんの用なんだろう。

 オレが「何の用ですか?」と聞く前に、彼女は小さな唇を動かした。オレを見る目は真剣そのものだ。何らかの罰ゲームやらの類ではない必死さがあった。

「私は二年二組の古川結ふるかわゆい。貴方の腕を見込んでお願いしたいことがあるの」

 ──うん。一瞬でも告白かも? と浮かれたオレの馬鹿! でも、少しぐらいは夢見たっていいじゃん!

 オレは心の叫びを飲み込んで、「お願いしたいことってなんすか?」と言葉を返した。
 考えられるのは《真夜中のアヤカシ洋菓子店》か、入学式の時に居た白蛇様たちのことぐらいだ。

「……今度のゴールデンウイークに行われる《まほろば祭り》に協力してほしいの!」

「《まほろば祭り》?」


 ***


 お昼休み。
 話が途中になってしまった為、「詳しい話はお昼休みに家庭科室で」ということになったのだ。
 家庭科室は食堂の隣にあった。オレは弁当を片手に約束の家庭科室へとやって来た。ぼっちであるオレは教室でご飯を食べるのが辛くて、ここ一週間は食堂で食べているのだ。

 ──早く話を終わらせて食堂でご飯食べよう。

 そう思い、オレは家庭科室のドアを開いた。
 教室の二倍の広さの家庭科室は白を基調としており、厨房用のテーブルが六つ並んでいた。教壇のあるホワイトボードには今朝、教室を訪れた古川先輩の姿と──

 豆狸まめだぬきがちょこん、とパイプ椅子に座っていた。あとは坊主頭の──やたら目つきの悪い男子と目があった。

「あぁ? なんだテメェ」

「山田くん、彼は私が呼んだの」

 山田という男子生徒は喧嘩腰に突っかかって来たのだが、古川先輩の一声を聞いた瞬間──

「古川先輩が呼んだんですか!? すいませんでした!!」

 彼は折り目正しくオレに頭を下げた。この短い会話で彼はオレと同じ一年だと分かった。あと、古川先輩のことが好きだというのも察した。

「みんなに紹介するわ。彼は旭孝太郎くん、洋菓子店でスイーツを作っているの」

 「あの」というのは恐らく《真夜中のアヤカシ洋菓子》の事だろう。それを耳にして豆狸も、坊主頭の山田も何か察したようだ。

「孝太郎くん、ここにいる彼らは貴方と同じく《まほろば商店街》で店の手伝いをしている生徒たちなの」

「は、はあ」とオレは生返事を返す。ここに集められた共通点なのだろうけれど、ますます《まほろば祭り》とは? という疑問が浮かび上がる。

「ボク、一年三組。《先祖返り》した《アヤカシ》で豆狸の林です。酒屋の息子なんだ」

 豆狸はぴょんと椅子から降りると、気弱そうな少年へと姿を変えた。栗色のふわふわの髪に、白い肌。人が好さそうな柔和な笑みで挨拶をしてくれた。

「俺は一年二組、山田敦志やまだあつし。豆腐屋だ、文句あっか?」

 坊主頭の彼はオレを睨みつける。なぜ睨まれるのだろう……。
 そう思っていたが、オレはふとあることに気付いた。

「ん、酒屋? ああ、じゃあ、あの珍しいブランデーや洋酒を扱っている?」

「そうです! 洋菓子店さんからはいつもありがとうございます」

 ぽやぽや、とした笑顔にオレも和んだ。あ、林とならなんか仲良くなれそうな気がしてきた。

「おいおい、ガキがなんで酒の話しているんだよ!?」

 茶々を入れる山田にオレは一応弁明する。

「ああ。スイーツを作るのにお酒を少量使う時があるからだよ」

「はっ、甘いもののなにがいいのか……」と吐き捨てるように言う。空気がどんよりと悪くなった。さっきから山田はガラが悪い上に、どうにも雰囲気を乱そうとしている節がある。

 ──もしかして、オレがいるから……か?

 重苦しい空気を換えようと古川先輩が話を戻した。

「じゃあ、本題に入るね。まず《まほろば祭り》のことだけど、孝太郎君はこのお祭りの事を知っている?」
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

あやかし甘味堂で婚活を

一文字鈴
キャラ文芸
調理の専門学校を卒業した桃瀬菜々美は、料理しか取り柄のない、平凡で地味な21歳。 生まれる前に父を亡くし、保育士をしながらシングルで子育てをしてきた母と、東京でモデルをしている美しい妹がいる。 『甘味処夕さり』の面接を受けた菜々美は、和菓子の腕を美麗な店長の咲人に認められ、無事に採用になったのだが――。 結界に包まれた『甘味処夕さり』は、人界で暮らすあやかしたちの憩いの甘味堂で、和菓子を食べにくるあやかしたちの婚活サービスも引き受けているという。 戸惑いながらも菜々美は、『甘味処夕さり』に集まるあやかしたちと共に、前向きに彼らの恋愛相談と向き合っていくが……?

黄泉津役所

浅井 ことは
キャラ文芸
高校入学を機にアルバイトを始めようと面接に行った井筒丈史。 だが行った先は普通の役所のようで普通ではない役所。 一度はアルバイトを断るものの、結局働くことに。 ただの役所でそうではなさそうなお役所バイト。 一体何をさせられるのか……

【完結】御刀さまと花婿たち

はーこ
キャラ文芸
【第9回キャラ文芸大賞エントリー中】 刀の神さまを待ち受けていたのは、ひとびとを苦しめるあやかし退治、そして弟と元主と生みの親からの溺愛学園生活!? 現代日本のとある島。神社の蔵で目を覚ました少女・鼓御前(つづみごぜん)は、数百年の時をへて付喪神となった御神刀だった。 鼓御前の使命はひとつ。島にはびこる悪しきあやかしを斬ること。そのためには、刀をふるう覡(かんなぎ)と呼ばれる霊力者の存在が必要不可欠なのだという。 覡とは、あやかしに対抗する武装神職者のこと。しかし鼓御前のもとに集まった三人の覡候補は、かつて同じ刀であった弟、持ち主であった戦国武将、鼓御前を生み出した刀鍛冶が転生した男たちで。 鼓御前は彼らとともに、覡を養成する学び舎へ通うことになる。 ひとと刀は片時も離れず、寄り添うもの。まるで夫婦のように。個性豊かな『花婿候補』たちにかこまれながら、鼓御前は闘い、そしてひとのこころ──恋を知る。 時をこえて想いが花ひらく、現代和風ファンタジー。 ※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体などとは関係ありません。 ※他サイトにて公開中の作品を、コンテスト用に大幅改稿したものです。 ※掲載しているイラストはすべて自作です。

大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~

菱沼あゆ
キャラ文芸
華族の三条家の跡取り息子、三条行正と見合い結婚することになった咲子。 だが、軍人の行正は、整いすぎた美形な上に、あまりしゃべらない。 蝋人形みたいだ……と見合いの席で怯える咲子だったが。 実は、咲子には、人の心を読めるチカラがあって――。

火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~

秦朱音|はたあかね
キャラ文芸
王を中心に五家が支配する、綺羅ノ国。 五家に覡(かんなぎ)として仕える十六夜家の娘、久遠(くおん)は、幼い頃から男として育てられてきた。 都では陽を司る日紫喜家の王が崩御し、素行の悪さで有名な新王・燦(さん)が即位する。燦の后選びに戦々恐々とする五家だったが、燦は十六夜家の才である「夢見」を聞いて后を選ぶと言い始めた。そして、その夢見を行う覡に、燦は男装した久遠を指名する。 見習いの僕がこの国の后を選ぶなんて、荷が重すぎる――! 久遠の苦悩を知ってか知らずか、燦は強引に久遠を寝室に呼んで夢見を命じる。しかし、初めて出会ったはずの久遠と燦の夢には、とある共通点があって――? 謎に包まれた過去を持ち身分を隠す男装姫と、孤独な王の恋と因縁を描く、和風王宮ファンタジー。 ※カクヨムにも先行で投稿しています

後宮薬師は名を持たない

由香
キャラ文芸
後宮で怪異を診る薬師・玉玲は、母が禁薬により処刑された過去を持つ。 帝と皇子に迫る“鬼”の気配、母の遺した禁薬、鬼神の青年・玄曜との出会い。 救いと犠牲の狭間で、玉玲は母が選ばなかった選択を重ねていく。 後宮が燃え、名を失ってもなお―― 彼女は薬師として、人として、生きる道を選ぶ。

祓い姫 ~祓い姫とさやけし君~

白亜凛
キャラ文芸
ときは平安。 ひっそりと佇む邸の奥深く、 祓い姫と呼ばれる不思議な力を持つ姫がいた。 ある雨の夜。 邸にひとりの公達が訪れた。 「折り入って頼みがある。このまま付いて来てほしい」 宮中では、ある事件が起きていた。

オヤジ栽培〜癒しのオヤジを咲かせましょう〜

草加奈呼
キャラ文芸
会社員である草木好子《くさきよしこ》は、 毎日多忙な日々を送り心身ともに疲れきっていた。 ある日、仕事帰りに着物姿の女性に出会い、花の種をもらう。 「植物にはリラックス効果があるの」そう言われて花の種を育ててみると…… 生えてきたのは植物ではなく、人間!? 咲くのは、なぜか皆〝オヤジ〟ばかり。 人型植物と人間が交差する日常の中で描かれる、 家族、別れ、再生。 ほんのり不思議で、少しだけ怖く、 それでも最後には、どこかあたたかい。 人型植物《オヤジ》たちが咲かせる群像劇(オムニバス)形式の物語。 あなたは、どんな花《オヤジ》を咲かせますか? またいいオヤジが思いついたらどんどん増やしていきます!

処理中です...