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終幕 パティシエは二度奇跡を起こす
第22話 まほろば祭り
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──拝啓、爺ちゃん、父さん、母さん。お元気でしょうか?
オレは元気です。帰宅部の申請も通り、店の手伝いに学業と充実しています。高校生活が始まって一週間。そう一週間経つのですが──友達が未だに出来ません。
いわゆる「ぼっち」です。
「はあ……」
オレは途中まで打っていたメールを削除して、机に突っ伏した。
窓側の後ろから二番目の席。朝のホームルーム前で、クラスメイトの賑やかな声が耳に入る。
「おはよう」と挨拶はするのだが、どうにもそれ以上の会話に発展しない。あからさまに避けられているのだった。
──なんでこんなことに……。
悩むものの原因は不明。白蛇様たちがいたことで目立っただろうけど、それ以外に何かヘマをした覚えはない。
ガネーシャに相談してみたら「頑張れ☆」と返信が来ていた。
──オレの高校生活は灰色なのかな。
そう悲観した思いで突っ伏していると、ガラリと教壇側のドアが勢いよく開いた。
「失礼します、旭孝太郎くんはいますか?」
威風堂々という言葉があるなら、まさに彼女の為にあるようなものだった。凛とした横顔に、造形の整った顔立ち、艶のある長い髪、印象的な右目の泣きぼくろが妖艶さを醸し出している。そんな美女がオレの名を呼んだのだ。
「っ……あ、はい。オレが孝太郎ッス」
彼女はオレの机の前まで歩くと、立ち止まった。長い髪と制服のスカートが僅かに揺らいだ。いつの間にかクラスメイトだけではなく、他の生徒たちも見物と言うようにオレと彼女に視線が注がれた。
──というか、めちゃくちゃ美人だけど……なんの用なんだろう。
オレが「何の用ですか?」と聞く前に、彼女は小さな唇を動かした。オレを見る目は真剣そのものだ。何らかの罰ゲームやらの類ではない必死さがあった。
「私は二年二組の古川結。貴方の腕を見込んでお願いしたいことがあるの」
──うん。一瞬でも告白かも? と浮かれたオレの馬鹿! でも、少しぐらいは夢見たっていいじゃん!
オレは心の叫びを飲み込んで、「お願いしたいことってなんすか?」と言葉を返した。
考えられるのは《真夜中のアヤカシ洋菓子店》か、入学式の時に居た白蛇様たちのことぐらいだ。
「……今度のゴールデンウイークに行われる《まほろば祭り》に協力してほしいの!」
「《まほろば祭り》?」
***
お昼休み。
話が途中になってしまった為、「詳しい話はお昼休みに家庭科室で」ということになったのだ。
家庭科室は食堂の隣にあった。オレは弁当を片手に約束の家庭科室へとやって来た。ぼっちであるオレは教室でご飯を食べるのが辛くて、ここ一週間は食堂で食べているのだ。
──早く話を終わらせて食堂でご飯食べよう。
そう思い、オレは家庭科室のドアを開いた。
教室の二倍の広さの家庭科室は白を基調としており、厨房用のテーブルが六つ並んでいた。教壇のあるホワイトボードには今朝、教室を訪れた古川先輩の姿と──
豆狸がちょこん、とパイプ椅子に座っていた。あとは坊主頭の──やたら目つきの悪い男子と目があった。
「あぁ? なんだテメェ」
「山田くん、彼は私が呼んだの」
山田という男子生徒は喧嘩腰に突っかかって来たのだが、古川先輩の一声を聞いた瞬間──
「古川先輩が呼んだんですか!? すいませんでした!!」
彼は折り目正しくオレに頭を下げた。この短い会話で彼はオレと同じ一年だと分かった。あと、古川先輩のことが好きだというのも察した。
「みんなに紹介するわ。彼は旭孝太郎くん、あの洋菓子店でスイーツを作っているの」
「あの」というのは恐らく《真夜中のアヤカシ洋菓子》の事だろう。それを耳にして豆狸も、坊主頭の山田も何か察したようだ。
「孝太郎くん、ここにいる彼らは貴方と同じく《まほろば商店街》で店の手伝いをしている生徒たちなの」
「は、はあ」とオレは生返事を返す。ここに集められた共通点なのだろうけれど、ますます《まほろば祭り》とは? という疑問が浮かび上がる。
「ボク、一年三組。《先祖返り》した《アヤカシ》で豆狸の林です。酒屋の息子なんだ」
豆狸はぴょんと椅子から降りると、気弱そうな少年へと姿を変えた。栗色のふわふわの髪に、白い肌。人が好さそうな柔和な笑みで挨拶をしてくれた。
「俺は一年二組、山田敦志。豆腐屋だ、文句あっか?」
坊主頭の彼はオレを睨みつける。なぜ睨まれるのだろう……。
そう思っていたが、オレはふとあることに気付いた。
「ん、酒屋? ああ、じゃあ、あの珍しいブランデーや洋酒を扱っている?」
「そうです! 洋菓子店さんからはいつもありがとうございます」
ぽやぽや、とした笑顔にオレも和んだ。あ、林とならなんか仲良くなれそうな気がしてきた。
「おいおい、ガキがなんで酒の話しているんだよ!?」
茶々を入れる山田にオレは一応弁明する。
「ああ。スイーツを作るのにお酒を少量使う時があるからだよ」
「はっ、甘いもののなにがいいのか……」と吐き捨てるように言う。空気がどんよりと悪くなった。さっきから山田はガラが悪い上に、どうにも雰囲気を乱そうとしている節がある。
──もしかして、オレがいるから……か?
重苦しい空気を換えようと古川先輩が話を戻した。
「じゃあ、本題に入るね。まず《まほろば祭り》のことだけど、孝太郎君はこのお祭りの事を知っている?」
オレは元気です。帰宅部の申請も通り、店の手伝いに学業と充実しています。高校生活が始まって一週間。そう一週間経つのですが──友達が未だに出来ません。
いわゆる「ぼっち」です。
「はあ……」
オレは途中まで打っていたメールを削除して、机に突っ伏した。
窓側の後ろから二番目の席。朝のホームルーム前で、クラスメイトの賑やかな声が耳に入る。
「おはよう」と挨拶はするのだが、どうにもそれ以上の会話に発展しない。あからさまに避けられているのだった。
──なんでこんなことに……。
悩むものの原因は不明。白蛇様たちがいたことで目立っただろうけど、それ以外に何かヘマをした覚えはない。
ガネーシャに相談してみたら「頑張れ☆」と返信が来ていた。
──オレの高校生活は灰色なのかな。
そう悲観した思いで突っ伏していると、ガラリと教壇側のドアが勢いよく開いた。
「失礼します、旭孝太郎くんはいますか?」
威風堂々という言葉があるなら、まさに彼女の為にあるようなものだった。凛とした横顔に、造形の整った顔立ち、艶のある長い髪、印象的な右目の泣きぼくろが妖艶さを醸し出している。そんな美女がオレの名を呼んだのだ。
「っ……あ、はい。オレが孝太郎ッス」
彼女はオレの机の前まで歩くと、立ち止まった。長い髪と制服のスカートが僅かに揺らいだ。いつの間にかクラスメイトだけではなく、他の生徒たちも見物と言うようにオレと彼女に視線が注がれた。
──というか、めちゃくちゃ美人だけど……なんの用なんだろう。
オレが「何の用ですか?」と聞く前に、彼女は小さな唇を動かした。オレを見る目は真剣そのものだ。何らかの罰ゲームやらの類ではない必死さがあった。
「私は二年二組の古川結。貴方の腕を見込んでお願いしたいことがあるの」
──うん。一瞬でも告白かも? と浮かれたオレの馬鹿! でも、少しぐらいは夢見たっていいじゃん!
オレは心の叫びを飲み込んで、「お願いしたいことってなんすか?」と言葉を返した。
考えられるのは《真夜中のアヤカシ洋菓子店》か、入学式の時に居た白蛇様たちのことぐらいだ。
「……今度のゴールデンウイークに行われる《まほろば祭り》に協力してほしいの!」
「《まほろば祭り》?」
***
お昼休み。
話が途中になってしまった為、「詳しい話はお昼休みに家庭科室で」ということになったのだ。
家庭科室は食堂の隣にあった。オレは弁当を片手に約束の家庭科室へとやって来た。ぼっちであるオレは教室でご飯を食べるのが辛くて、ここ一週間は食堂で食べているのだ。
──早く話を終わらせて食堂でご飯食べよう。
そう思い、オレは家庭科室のドアを開いた。
教室の二倍の広さの家庭科室は白を基調としており、厨房用のテーブルが六つ並んでいた。教壇のあるホワイトボードには今朝、教室を訪れた古川先輩の姿と──
豆狸がちょこん、とパイプ椅子に座っていた。あとは坊主頭の──やたら目つきの悪い男子と目があった。
「あぁ? なんだテメェ」
「山田くん、彼は私が呼んだの」
山田という男子生徒は喧嘩腰に突っかかって来たのだが、古川先輩の一声を聞いた瞬間──
「古川先輩が呼んだんですか!? すいませんでした!!」
彼は折り目正しくオレに頭を下げた。この短い会話で彼はオレと同じ一年だと分かった。あと、古川先輩のことが好きだというのも察した。
「みんなに紹介するわ。彼は旭孝太郎くん、あの洋菓子店でスイーツを作っているの」
「あの」というのは恐らく《真夜中のアヤカシ洋菓子》の事だろう。それを耳にして豆狸も、坊主頭の山田も何か察したようだ。
「孝太郎くん、ここにいる彼らは貴方と同じく《まほろば商店街》で店の手伝いをしている生徒たちなの」
「は、はあ」とオレは生返事を返す。ここに集められた共通点なのだろうけれど、ますます《まほろば祭り》とは? という疑問が浮かび上がる。
「ボク、一年三組。《先祖返り》した《アヤカシ》で豆狸の林です。酒屋の息子なんだ」
豆狸はぴょんと椅子から降りると、気弱そうな少年へと姿を変えた。栗色のふわふわの髪に、白い肌。人が好さそうな柔和な笑みで挨拶をしてくれた。
「俺は一年二組、山田敦志。豆腐屋だ、文句あっか?」
坊主頭の彼はオレを睨みつける。なぜ睨まれるのだろう……。
そう思っていたが、オレはふとあることに気付いた。
「ん、酒屋? ああ、じゃあ、あの珍しいブランデーや洋酒を扱っている?」
「そうです! 洋菓子店さんからはいつもありがとうございます」
ぽやぽや、とした笑顔にオレも和んだ。あ、林とならなんか仲良くなれそうな気がしてきた。
「おいおい、ガキがなんで酒の話しているんだよ!?」
茶々を入れる山田にオレは一応弁明する。
「ああ。スイーツを作るのにお酒を少量使う時があるからだよ」
「はっ、甘いもののなにがいいのか……」と吐き捨てるように言う。空気がどんよりと悪くなった。さっきから山田はガラが悪い上に、どうにも雰囲気を乱そうとしている節がある。
──もしかして、オレがいるから……か?
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