悪役令嬢としての役割、立派に努めて見せましょう〜目指すは断罪からの亡命の新しいルート開発です〜

水月華

文字の大きさ
58 / 59
第2章

59.ジョゼフの家に行く事になりました

しおりを挟む

 ジョゼフの家。ジョゼフは住み込みという形で公爵家に仕えているが、ちゃんと家はある。

 そもそも公爵家の執事長になる程の人間なのだ。元々しっかりした家の出なのである。

 そう言えば、亡命の計画を話した時にそろそろ引退を家族に勧められていると言っていた。
 
 公爵家に仕えていると、どうしても家庭は後回しにされてしまう。それが貴族として珍しくない事とはいえ、一緒に過ごしたいから、家族はジョゼフにそろそろ帰って来て欲しいと言っていたのだろう。

「けれどわたくしが居候すれば、ご家族に迷惑がかかるわ。それに、どんな噂が立つことか……」

 公爵家の長女が来るとなれば、神経を使うだろう。レティシアが気にしなくても、相手はどうしても気を遣うことはクロード達で理解している。

 どうせもう後数ヶ月で亡命するのだし、と考えてジョゼフはレティシアについて来る気だと思い出した。

「問題ありません。先に家族に説明していますので」
「早いわね……。ねぇ、ジョゼフ。ご家族に亡命の事は話しているのかしら? ご家族の事も考えたら――」
「……本当に、お嬢様は……」

 ジョゼフがレティシアの言葉を遮って、手をぎゅっと握り直す。

「ジョゼフ?」
「お嬢様、貴女はご自分を蔑ろにし過ぎです。こんな状況なのに、何故私の家族の心配をするのですか」
「だって……」

 ジョゼフだって家族がいるではないか。レティシアの都合にジョゼフを付き合わせて、家族が寂しい思いをしたら意味がない。

 レティシアは、誰かを犠牲にして幸せになりたいわけではない。

 そう思うのだが、ジョゼフはその健気さが逆に悼ましく写った。

「ええ、お嬢様の考えることは分かります。なので、もう手続きを済ましていました。今からでも、お嬢様は私の家に行けます」
「事後承諾じゃない……」

 仕事が早いというか何というか。

「公爵にも許可はもぎ取っております」
「……それじゃあお言葉に甘えようかしら」

 根回しは完璧だと言われれば、レティシアはもう断れない。

 ジョゼフからしたら、レティシアから行きたいと言わせた方がレティシアの為になると思っていた。しかし想像以上にレティシアが、自分も蔑ろにするので強行突破せざるを得なかったわけだ。

「お嬢様はまだ動くのは辛いでしょう。本当は今すぐにでもお連れしたいのですが、流石に体調悪化の可能性もあります。もう少し回復してからにしましょう」
「……そう言えば学園は?」

 少しずつ思考が戻ってきた。学園はこの1週間休んでしまったのは仕方ないが、あまり欠席を長くしたくない。
 
「暫く休みましょう。というより、行ける状態でもないでしょう?」
「それはそうだけれど……。オデット様とわたくしの処遇もあるでしょう?」

 そうだ。オデットの事も気になるし、自分の処遇も気になる。何せ嘘とは言え、自白したのだから何かしら処罰されると思ったのだが。

「今は考えなくて良いですよ。ただでさえストレスが溜まっているんです」

 ジョゼフにそう言われてしまえば、何も言えなくなってしまう。

 無言になった頃に、ルネが温かなポタージュを運んできた。

「お嬢様、どうぞ」
「ありがとう」

 膝の上にトレーを置いて、簡易なテーブルのようにする。ほこほこと湯気を立てているポタージュ。

 スプーンを入れれば、トロリと満たされる。

 口に入れると、そのとろみがゆっくり口に広がる。嚥下すれば、その通りが温かくなるのを、感じた。

 味は分からないけれど、その感覚が心地良くてレティシアは息を吐く。

「お嬢様、ゆっくり食べてくださいね。その間にジョゼフさんから話を聞いておきますから」
「ええ」

 ルネに言われ、レティシアはポタージュを食べる事に集中する。

 2人の話をぼんやり聞きながら、ゆっくり時間をかけて平らげた。

 スプーンをトレーに置いて2人を見ると、ちょうど話が終わったらしい。

 ルネがにっこり笑いながら、片付ける。

「良かったです。お嬢様、ここにいたら本当に悪化しますから。早く動けるくらいに回復すると良いですね」
「ええ」
「私も許可が出たので、ご一緒できます」
「仕事が本当に早いわ」

 外堀埋められている感じだ。

 体が温まったからか、睡魔がレティシアを襲う。

 うつらうつら舟を漕いでいると、ルネがそっとベッドに横にならせてくれた。

「ゆっくり休んでください。今のお嬢様には、それが1番必要です」
「ええ……あり……がとう」

 眠気に抗うことなく、辛うじてお礼を言うと意識を手放した。


 ◇◇◇


 レティシアはそれから1週間程、寝ては食事をするということを繰り返した。

 体がどうにも重く、お腹が満たされるとすぐに眠くなってしまう。

 けれどそのおかげか、体は順調に回復した。

 まだ精神的ダメージが大きいので以前ほどではないが、それでも動けるようになった。

 時折医者も来て、レティシアの様子を診る。

 医者がレティシアの部屋に来た時、驚いてしまったレティシアだ。何せ風邪を引いても、医者は積極的に呼ばれなかった。

 診察の後、ジョゼフの家に行けると判断されたので、ジョゼフとルネが直ぐに準備を始めた。

 次の日には行けるようになったので、本当に仕事が早い。あっという間に、ジョゼフの家に行く事になった。

 少ない荷物を持って馬車に乗り込む。3人でジョゼフの家に向かう。

 見送りに、バンジャマンとジュスタンは来なかった。

 今、レティシアが2人と接触すれば、また悪化してしまうかも知れないという医者の見解だ。

 レティシアは、バンジャマン達のことはあれからあまり考えていない。

 いや、頭に過ぎることはあるが、直ぐにモヤがかかるように消えていくのだ。

 きっとレティシアの自己防衛なのだろう。

 この後どうするかなんて、全く考えられないまま、流れてゆく外の景色を眺めていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜

矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】 公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。 この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。 小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。 だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。 どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。 それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――? *異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。 *「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。

嫁ぎ先は悪役令嬢推しの転生者一家でした〜攻略対象者のはずの夫がヒロインそっちのけで溺愛してくるのですが、私が悪役令嬢って本当ですか?〜

As-me.com
恋愛
 事業の失敗により借金で没落寸前のルーゼルク侯爵家。その侯爵家の一人娘であるエトランゼは侯爵家を救うお金の為に格下のセノーデン伯爵家に嫁入りすることになってしまった。  金で買われた花嫁。政略結婚は貴族の常とはいえ、侯爵令嬢が伯爵家に買われた事実はすぐに社交界にも知れ渡ってしまう。 「きっと、辛い生活が待っているわ」  これまでルーゼルク侯爵家は周りの下位貴族にかなりの尊大な態度をとってきた。もちろん、自分たちより下であるセノーデン伯爵にもだ。そんな伯爵家がわざわざ借金の肩代わりを申し出てまでエトランゼの嫁入りを望むなんて、裏があるに決まっている。エトランゼは、覚悟を決めて伯爵家にやってきたのだが────。 義母「まぁぁあ!やっぱり本物は違うわぁ!」 義妹「素敵、素敵、素敵!!最推しが生きて動いてるなんてぇっ!美しすぎて眼福ものですわぁ!」 義父「アクスタを集めるためにコンビニをはしごしたのが昨日のことのようだ……!(感涙)」  なぜか私を大歓喜で迎え入れてくれる伯爵家の面々。混乱する私に優しく微笑んだのは夫となる人物だった。 「うちの家族は、みんな君の大ファンなんです。悪役令嬢エトランゼのね────」  実はこの世界が乙女ゲームの世界で、私が悪役令嬢ですって?!  ────えーと、まず、悪役令嬢ってなんなんですか……?

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///) ※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。 《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》

気配消し令嬢の失敗

かな
恋愛
ユリアは公爵家の次女として生まれ、獣人国に攫われた長女エーリアの代わりに第1王子の婚約者候補の筆頭にされてしまう。王妃なんて面倒臭いと思ったユリアは、自分自身に認識阻害と気配消しの魔法を掛け、居るかいないかわからないと言われるほどの地味な令嬢を装った。 15才になり学園に入学すると、編入してきた男爵令嬢が第1王子と有力貴族令息を複数侍らかせることとなり、ユリア以外の婚約者候補と男爵令嬢の揉める事が日常茶飯事に。ユリアは遠くからボーッとそれを眺めながら〘 いつになったら婚約者候補から外してくれるのかな? 〙と思っていた。そんなユリアが失敗する話。 ※王子は曾祖母コンです。 ※ユリアは悪役令嬢ではありません。 ※タグを少し修正しました。 初めての投稿なのでゆる〜く読んでください。ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください( *・ω・)*_ _))ペコリン

転生したら乙女ゲームのヒロインの幼馴染で溺愛されてるんだけど…(短編版)

凪ルナ
恋愛
 転生したら乙女ゲームの世界でした。 って、何、そのあるある。  しかも生まれ変わったら美少女って本当に、何、そのあるあるな設定。 美形に転生とか面倒事な予感しかしないよね。  そして、何故か私、三咲はな(みさきはな)は乙女ゲームヒロイン、真中千夏(まなかちなつ)の幼馴染になってました。  (いやいや、何で、そうなるんだよ。私は地味に生きていきたいんだよ!だから、千夏、頼むから攻略対象者引き連れて私のところに来ないで!)  と、主人公が、内心荒ぶりながらも、乙女ゲームヒロイン千夏から溺愛され、そして、攻略対象者となんだかんだで関わっちゃう話、になる予定。 ーーーーー  とりあえず短編で、高校生になってからの話だけ書いてみましたが、小学生くらいからの長編を、短編の評価、まあ、つまりはウケ次第で書いてみようかなっと考え中…  長編を書くなら、主人公のはなちゃんと千夏の出会いくらいから、はなちゃんと千夏の幼馴染(攻略対象者)との出会い、そして、はなちゃんのお兄ちゃん(イケメンだけどシスコンなので残念)とはなちゃんのイチャイチャ(これ需要あるのかな…)とか、中学生になって、はなちゃんがモテ始めて、千夏、攻略対象者な幼馴染、お兄ちゃんが焦って…とかを書きたいな、と思ってます。  もし、読んでみたい!と、思ってくれた方がいるなら、よかったら、感想とか書いてもらって、そこに書いてくれたら…壁|ω・`)チラッ

処理中です...