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壱 ルーナの魔女薬店
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夜、ルーナはレーヴ都市の城壁を出て、郊外の森へと来ていた。わざわざ夜に来た理由は、夜にしか手に入らない薬草があるからだ。
見習い魔女のルーナは、呪いや魔法薬作りが得意とはいえ戦闘力はほぼ無いと言える。一人で夜の郊外の森へ行くのはあまりにも危険なので、冒険者協会で護衛を一人雇った。
比較的弱い魔物しか出てこないこの森なら、賃金の安いD級冒険者でも安全に薬草採取が出来るだろう。
ルーナはそう思い、ギルドの受付お姉さんに依頼を出したのだが…やって来たのは、なんとA級冒険者のラスだった。
「え? なんでラスさんが?」
こんなちっぽけな依頼を受けるA級冒険者なんて、聞いた事がない。ギルドの受付お姉さんも困った表情でぎこちなく笑いながら、ルーナにラスを紹介していた。
ギルドで斡旋する仕事は、指名依頼でない限り基本的には早い者勝ちだ。依頼ボートに貼られた依頼書を一番に受付へ持ってきた者から受注権利がある。
だから、たいした事のない仕事内容でも、ごく稀だろうがA級冒険者が受注する事だってあるだろう。ルーナもそれは分かっている。
しかし、それは普通のA級冒険者であって、今ルーナの目の前に立つ彼は、あの女嫌いで有名な聖騎士ラスなのだから、驚くのも無理はない。
そもそも、ラスはルーナを特に嫌っているはずだ。
(どうしてこの人が、わざわざ私の依頼を受けようとするの?)
普段の自分に対する彼の態度から、不思議に思いつい眉を顰めるルーナだったが、まぁ…依頼を受けてくれるというのなら、誰だって構わない。でも…
「私、D級分のお賃金しか支払えないよ?」
ルーナが一番気にしたところはそこだった。ギルドの受付お姉さんも思うところがあったのか、ラスに考え直すよう促していたが…彼は何も言わず、いつもの顰めっ面でその依頼を半ば強引に受諾してしまったのだった。
こうして、ルーナはラスをお供に夜の森へと来ているわけだが…。
(私のことを毛嫌いしているくせに、どうして護衛依頼を受けたんだろう?)
今もこうして、自分と十分な距離を空けて後を付いてくるラスにチラリと目配せしながら、ラスが何故この依頼を受諾したのかますます分からないとルーナは思った。
しかし、彼女が悩むのも一瞬で、ルーナはラスと過ごす静かな雰囲気が、案外心地良いことに気付く。
彼はアークやリジェルとは違い、必要最低限のことしか喋らない男なので、ルーナは逆に気が楽だった。それに、向こうが勝手に距離をあけてくれるのも助かる。
魔女の集落には男が居らず、ルーナを産んだ母もどこかで自分を身籠ると、ふらりと集落へ戻り出産したらしい。だから、ルーナは自分の父を知らない。
つまり、ルーナはこれまで『男性』という生き物とあまり接した事がないのだ。正直、興味もない彼らと何を話せばいいのか分からないし、話しかけられたらそれはそれで気を使うし…ラスみたいに無口だと、彼女は無理に話すこともしなくていいので、とても助かると感じていていた。
ルーナがお目当ての月光草は、花弁はただの飾りだが根に薬効効果のあるとくに珍しくもない薬草だった。しかし、今回はその根が目的ではない。
「やった! 月光草が花粉散布してる!」
月光草の群生地を見つけたルーナは目を輝かせながら、そこへ駆けて行った。
みれば、普段はただの白くて小さな可愛い花の月光草なのだが、今は銀色に輝く粉を散布している。その光景は幻想的で美しかった。
「なんだこの光は…?」
ラスが驚いたように呟くと、それを耳にしたルーナが嬉しそうに笑いながら説明する。
「月光草はね、あまり知られていないけど満月に受粉する植物なの。だから、満月の夜の数時間だけ、こうして花粉を散布するんだよ。中でもこの光る花粉は、百回満月の光を浴びた月光草しか吐き出さない貴重な花粉なの。あまり見られない珍しい光景だから、貴方も驚いたでしょ?」
ラスはそう説明するルーナの横顔を、目を細めながら見た。
「あ! 散布が終わる前に花粉採取しなきゃ! 月光草の光る花粉はこうやって花粉散布された時にしか手に入らないの!」
ルーナは慌ててポーチから小瓶を幾つか取り出すと、さっそく月光草の元に膝を付き光る花粉を採取し始めた。
夜、ルーナはレーヴ都市の城壁を出て、郊外の森へと来ていた。わざわざ夜に来た理由は、夜にしか手に入らない薬草があるからだ。
見習い魔女のルーナは、呪いや魔法薬作りが得意とはいえ戦闘力はほぼ無いと言える。一人で夜の郊外の森へ行くのはあまりにも危険なので、冒険者協会で護衛を一人雇った。
比較的弱い魔物しか出てこないこの森なら、賃金の安いD級冒険者でも安全に薬草採取が出来るだろう。
ルーナはそう思い、ギルドの受付お姉さんに依頼を出したのだが…やって来たのは、なんとA級冒険者のラスだった。
「え? なんでラスさんが?」
こんなちっぽけな依頼を受けるA級冒険者なんて、聞いた事がない。ギルドの受付お姉さんも困った表情でぎこちなく笑いながら、ルーナにラスを紹介していた。
ギルドで斡旋する仕事は、指名依頼でない限り基本的には早い者勝ちだ。依頼ボートに貼られた依頼書を一番に受付へ持ってきた者から受注権利がある。
だから、たいした事のない仕事内容でも、ごく稀だろうがA級冒険者が受注する事だってあるだろう。ルーナもそれは分かっている。
しかし、それは普通のA級冒険者であって、今ルーナの目の前に立つ彼は、あの女嫌いで有名な聖騎士ラスなのだから、驚くのも無理はない。
そもそも、ラスはルーナを特に嫌っているはずだ。
(どうしてこの人が、わざわざ私の依頼を受けようとするの?)
普段の自分に対する彼の態度から、不思議に思いつい眉を顰めるルーナだったが、まぁ…依頼を受けてくれるというのなら、誰だって構わない。でも…
「私、D級分のお賃金しか支払えないよ?」
ルーナが一番気にしたところはそこだった。ギルドの受付お姉さんも思うところがあったのか、ラスに考え直すよう促していたが…彼は何も言わず、いつもの顰めっ面でその依頼を半ば強引に受諾してしまったのだった。
こうして、ルーナはラスをお供に夜の森へと来ているわけだが…。
(私のことを毛嫌いしているくせに、どうして護衛依頼を受けたんだろう?)
今もこうして、自分と十分な距離を空けて後を付いてくるラスにチラリと目配せしながら、ラスが何故この依頼を受諾したのかますます分からないとルーナは思った。
しかし、彼女が悩むのも一瞬で、ルーナはラスと過ごす静かな雰囲気が、案外心地良いことに気付く。
彼はアークやリジェルとは違い、必要最低限のことしか喋らない男なので、ルーナは逆に気が楽だった。それに、向こうが勝手に距離をあけてくれるのも助かる。
魔女の集落には男が居らず、ルーナを産んだ母もどこかで自分を身籠ると、ふらりと集落へ戻り出産したらしい。だから、ルーナは自分の父を知らない。
つまり、ルーナはこれまで『男性』という生き物とあまり接した事がないのだ。正直、興味もない彼らと何を話せばいいのか分からないし、話しかけられたらそれはそれで気を使うし…ラスみたいに無口だと、彼女は無理に話すこともしなくていいので、とても助かると感じていていた。
ルーナがお目当ての月光草は、花弁はただの飾りだが根に薬効効果のあるとくに珍しくもない薬草だった。しかし、今回はその根が目的ではない。
「やった! 月光草が花粉散布してる!」
月光草の群生地を見つけたルーナは目を輝かせながら、そこへ駆けて行った。
みれば、普段はただの白くて小さな可愛い花の月光草なのだが、今は銀色に輝く粉を散布している。その光景は幻想的で美しかった。
「なんだこの光は…?」
ラスが驚いたように呟くと、それを耳にしたルーナが嬉しそうに笑いながら説明する。
「月光草はね、あまり知られていないけど満月に受粉する植物なの。だから、満月の夜の数時間だけ、こうして花粉を散布するんだよ。中でもこの光る花粉は、百回満月の光を浴びた月光草しか吐き出さない貴重な花粉なの。あまり見られない珍しい光景だから、貴方も驚いたでしょ?」
ラスはそう説明するルーナの横顔を、目を細めながら見た。
「あ! 散布が終わる前に花粉採取しなきゃ! 月光草の光る花粉はこうやって花粉散布された時にしか手に入らないの!」
ルーナは慌ててポーチから小瓶を幾つか取り出すと、さっそく月光草の元に膝を付き光る花粉を採取し始めた。
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