魔女と聖騎士 〜女嫌いで有名な聖騎士に呪いをかけたら、むっつりスケベな本性を暴いてしまった〜

香咲りら

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壱 ルーナの魔女薬店

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 暫くすると、光る花粉がたくさん詰まった小瓶を見つめながら笑うルーナが立ち上がった。

 ラスは黙ってそんな彼女の姿を見ていたが…急に剣を抜くと、ルーナ目掛けて剣先を突き刺さした。

「へ?」

 ポカンとした表情で立ち尽くすルーナは、呆然と目の前のラスを見上げた。

 ラスは無言で剣を引き抜く。すると、ルーナの後ろでドシン…と、何か重たいものが落ちる音がした。振り向けば、そこには大蛇の死骸が転がっていた。

 ラスは魔物の大蛇からルーナを守ってくれた。

 凶暴な中型魔物を目の当たりにして、ルーナが怯えるのではないかと思いチラリと彼女の様子を窺うラスだったが、彼の予想に反して彼女は喜びの声を上げた。

「わぁ! この大蛇の毒牙は薬のいい材料になるんだよね!」

 ルーナは蛇の牙を抜いて持ち帰ろうと、さっそく小刀を取り出した。彼女が何をするのか察したラスは、素早くルーナを軽く突き飛ばすと、剣で大蛇の頭を切り落とす。

 流石に何の準備もなく毒牙をそのまま触るのは危ないので、頭ごと持って帰れという彼の無言の指示だった。

「でも私…そんな大きいもの抱えて帰れないよ」

 ルーナが困った顔で言うと、「……自宅まで届けてやる」と、ラスが仕方なさそうに素っ気なく言った。

 ルーナは思った。ラスは女嫌いで冷たい男だと巷では言われているが、女嫌いはともかくとして、そこまで冷たい男ではないのかもしれない、と。

(案外、親切な人みたい)

 ルーナはラスに笑顔でお礼を述べると、そのまま彼女の自宅へと向かったのだった。


 ◆


 ルーナの自宅は彼女の店の二階部分だった。しかし、ラスが大蛇の頭を運ぶように彼女に指示されたのは地下室。彼は初めて踏み入れる地下室の階段をゆっくりと降りていった。

「危険な材料もあるし、今作りかけの魔法薬もあるから気を付けてね」

 ルーナの忠告を背にラスが階段の下まで降りていけば、少しカビ臭い古びた木の扉があった。彼はそっとその扉を開く。

 戸を開いた瞬間、ツンと鼻を刺激する匂いが立ち込めた。

「…なんだこの匂いは…」

 ラスが顔を顰めて狼狽えていると、ルーナは平気な顔で彼の脇を通り過ぎ、扉の奥へと入っていく。

「私が開発中の魔女の薬だよ!」

 ルーナは笑顔で、部屋の奥に鎮座する大釜を指差しながら答えた。

「今は薬効を高めるために、この後、外に出して月の光を浴びさせるの。あと、満月の光を2回くらい浴びせれば、完成かなぁ」

 彼女の言葉を聞いて、ラスはまたどんな呪われた魔法薬が完成するんだとゾッと顔を青くしていた。

 ルーナは確かに人々が世間一般的に魔女へ抱くイメージとは違い若くて可愛いが、やっている事は怪しげな魔法薬を作り出す立派な魔女だった。

 ラスが中に入ると、臭いの元凶が大釜に入っており、その周りの棚には所狭しと怪しげな『材料』たちが並んでいる。

 それだけでなく、壁には幾つもの器具が掛けられており、大小色んなサイズの包丁から始まり、ラスには一体何に使うのか分からないが、棘が付いたハンマーだったり、何かを砕くための器具もある。見る人が見れば、思わずここを拷問部屋だと思うかもしれない。

 魔女は戦闘力がない代わりに、占いや呪い、そして魔法薬を作ることに長けている。このルーナも見た目こそ可愛らしいお嬢さんなのだが、魔女らしく呪い効果が付与された魔法薬を作り出すのが得意だった。

 魔女の作業場に初めて入ったラスは、あまり見慣れないおどろおどろしい光景に思わず緊張からゴクリと唾を飲み込む。

 聖騎士職業ジョブの彼は、呪いとは無縁の神聖な修行を積んできた身だ。彼の熱心な信仰心に神の加護も大きな恩恵を授ける程だった。

「頭はここの台の上に置いてくれる?」

 ルーナは広く開いた台の上を指で指し示し、ラスは頷いてから部屋の奥へ足を進めると、そこに大蛇の頭を置いた。

 するとルーナは、大きな箪笥たんすの引き出しから何かを探し出し、小さな包みを取り出すとそれをラスに差し出した。

「これ、あげる。魔法薬でも何でもない、ただの茶葉だけど…私が自分で飲むようにブレンドした薬草茶葉なの。月光草の光る花粉だけじゃなく、大蛇の毒牙まで…さすがにD級分のお賃金だけじゃ忍びないから」

 ラスはルーナの手の中にある小包をジッと見つめていたが、無言のままそれを受け取ろうと手を伸ばした。

 彼女とラスの手が触れる。

「わ!」

 ルーナは驚いて思わず手を離した。すると、小包が落ちてしまい、それを慌ててキャッチする。ラスも落ちていく小包を掴もうと手を伸ばしたので、結果的にルーナの手を握り締めることになった。

「ご、ごめんね! 貴方は確か、女性が嫌いで触れるのも嫌なんだよね?」

 ルーナが慌てて手を離そうとすると、ラスの手に力が入り彼女の手はびくりとも動かなかった。

 ルーナが驚いて顔を上げる。彼に手を握られたまま、ラスの冷たさを含むブルーグレーの瞳と目が合った。
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