魔女と聖騎士 〜女嫌いで有名な聖騎士に呪いをかけたら、むっつりスケベな本性を暴いてしまった〜

香咲りら

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伍 月の魔女の呪い【ラスside】

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 ——俺は呪われている。

 ある日、ラスがアークとリジェルと共に、討伐依頼の任務明けで久しぶりにレーヴ城塞都市へ戻ってきた時……彼は一人の魔女と出会った。

 その人は怪しい魔法薬を次々と紹介してきて何とか売りつけようとする魔女で、大きなフードで顔を隠しているからか、余計に信用出来ないとラスは第一印象に思った。

(効果を得るたびに副作用? まるで、呪いじゃないか)

 そもそも、聖騎士であるラスは呪いの類に長けた魔女にあまりいい感情が持てない。

 心の中で魔女の魔法薬を嘲笑い、自分は絶対にこんな魔女からそんな得体の知れない薬は買わないと誓った。

 …はずなのに。

「ど、どうして私を『お嬢ちゃん』だなんて呼ぶの!?」

 アークによって、顔を露わにされた魔女。

 くるりと巻かれた栗色の髪が揺れて、成人したばかりなのかまだあどけなさの残る表情と仕草。その愛らしく丸みを帯びた輪郭は、思わず指でつつきたくなるほどに柔らかそうだ。

 驚いた魔女は、その大きな緑色の瞳を見開いてこちらを見つめていた。

 その時、ラスの頭は真っ白になってしまった。

 春の花弁のように小さなピンク色の唇が動くたび、彼の目は釘付けになってしまった。

 その日は、世間知らずの魔女ルーナを、アークが筆頭に手助けしてやり、無事にルーナの店が店舗登録されたところで一日を終えた。

 夜の自室で眠りにつこうとラスがベッドに横たわると……頭の中には、何故か昼間に見た魔女ルーナの姿が焼き付いて離れなかった。

(…………なんだ?)

 ラスは怪訝な表情を浮かべて上体を起こす。気を抜くと何度もルーナの事を考えてしまうのだ。

(おかしい……俺の頭の中に、あの魔女が入り込んでくる!)

 ラスは自分が正気じゃないと悟り慌てて机に着くと、本棚から聖書を取り出し写本を始めた。

 一字一字、丁寧に。彼はこれまでの修行で何度も聖書の内容を書き写してきた。だが、今の彼はより一層に真剣に、心を込めて書き写していく。

(——消えない)

 精神統一をする為に写本しているのに、ラスの頭の中から魔女が消えてくれないのだ。

(何故だ、どうして? ……忌々しい魔女め)

 きっと自分は魔女に呪われたのだと、ラスは思った。

(明日、魔女の店に行き問い詰めてやる——!)

 彼はそう決意を固めて、もう夜も深いというのに新たな用紙を取り出し、一字目を書き始めたのだった。



 翌日、ラスは元々魔女の店に行こうと考えていたが、彼が外出する前にアークとリジェルが彼を誘った。

「ルーナちゃんの店に行かないか?」

 ラスはまるで戦場に向かうかのような真剣な顔付きで静かに頷き、彼らの後に続く。

「ラス、珍しいね。女性を避ける君がこんな誘いに乗るなんて」

 リジェルが珍しそうな表情でラスを見る。

 ラスは彼から目を逸らしながら素っ気なく言った。

「魔法薬店に行くだけだ」

 つまり、ラスはルーナに会いに行くのではなく、店に行くだけだと言っていた。

 リジェルは「そうだね」と、納得した様子でそれ以上は聞いてこなかった。

 魔女ルーナの店は街外れにあり、通行人が少ない。昨日店舗登録をし終えたばかりの店に、客が来る筈もなかった。

 ラス達が彼女の店に訪れれば、ルーナは暇そうにレジカウンターで両肘を付いている。

「わぁ、初めてのお客さん! いらっしゃい!」

 ラス達の姿を見たルーナは、とても嬉しそうに笑って駆け寄ってきた。

「どんな魔法薬がご入用で!?」

 期待に満ちた目で見つめられて、ラスは買う気もなかったが何故かアーク達と共に幾つかの魔法薬を購入してしまったのだ。

(買わないと誓っていたのに……何故だ!?)

 本来、ラスがこの店に来た目的は、彼女に自分へ呪いをかけたかと問い詰めることだったはずだ。

 なのに、いざルーナを前にすると何も言えずに、そのまま流されるように買い物をしている自分がいる。

 ラスが自分の矛盾した行動に唖然としていると、ルーナは店の奥に姿を消し、そしてすぐに戻ってきた。

 その手には、三つの小さな瓶が握られている。

「初めてのお客さんになってくれたら、薬草軟膏を付けてあげるって言ったでしょ!」

 と、弾む声でルーナは言って、アーク、リジェルと軟膏が入った小瓶を手渡した。

「はい! えーと…ラスさん?、も!」

 ラスがハッとした時、彼の大きな手をルーナが掴み、そしてその軟膏を握らせていた。

 その瞬間、ラスの心臓がバクバクと暴れ始めた。

(うっ……し、心臓が……!!)

 ラスの表情は険しくなる。

 彼は自分の手を掴むルーナの小さな手を振り払うように腕を振って、彼女を睨み付けた。

(この魔女…次は俺の心臓を狙ってきやがった!)
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