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第二章
第66話:妙に静かね(自分のせい)
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今日は妙に静かね、とアーニャは思いながら、ジルと一緒に山を登っていく。
いつもは魔物が少ない荒れた道を進むけれど、今日は歩きやすい道を優先する。風属性が付与されたブーツがあるとはいえ、冒険者活動をしていないジルにとって、山道は険しい。踏み外して怪我をしたり、足場の悪い場所で戦闘したりすれば、危険が伴ってしまうだろう。
ジルが良質なジェムを大量に作ってくれたこともあり、安全を第一に考え、迷うことなく歩きやすい道を選択していた。
「もっと魔物が多いと思ってたけど、意外に山は安全なんだね」
「油断しちゃダメよ。きっと何かが起こってるに違いないわ。魔物の姿すら見かけないなんて、今までなかったことよ。ヤバイ魔物が現れたのかもしれないわ」
これっぽっちも自分に原因があると思っていないアーニャは、より一層警戒している。
アーニャが一人で来ているときは、魔物がいれば遠回りするか、様子を見てやり過ごしてばかり。どうしても戦闘しなければいけないときは、先制攻撃を取って、確実に討伐。その結果、それぞれの部族にアーニャの存在が知れ渡ることはなかったのだが、今は違う。
この地にアーニャがやって来たことは、それぞれの部族に急ピッチで連絡が回り始めているため、どんどんと魔物が下山している。アーニャとジルが歩く山の反対側では、魔物の大渋滞が起こるほどの騒ぎだった。
しかし、魔物たちにこの地の支配する悪魔だと思われていることを知らないアーニャは、存在しないヤバイ魔物の存在が気になっている。
(ゆっくり登ろうと思っていたけど、予定を変更しないとダメね。寝坊したのも大きかったわ。この子といると、なぜか自分のペースが良くも悪くも崩されるのよ。子供の面倒を見る親って、魔物を討伐するよりも大変だわ)
なぜか子育ての苦労を感じ始めるアーニャは、ジルの手をしっかりと握り締めた。
「ちょっとだけ歩くペースを上げるわよ。このままだと、目的地に着く前に夜になっちゃうの」
「はーい! 今日はいっぱい寝たから、全然大丈夫ー!」
昨晩の恋愛モードを脱したジルは、手を繋いで一緒に歩くことができる幸せを噛み締めている。
「あんた、今日はやけに元気ね。まあ、いいわ。途中で休める場所はあるし、また魔力酔いをしたらちゃんと言うのよ。もっと魔力が濃い場所に行ったとき、トラウマになるくらい気持ち悪くなるから」
経験者は語る。魔力が強い土地を強行突破しようとして、三日間も寝込んだ経験がある者は、言葉の重みが違う!
アーニャの頭の中では、一切食事を取ることもできず、ルーナに看病された日が蘇っている。姉さんは無茶ばっかりするんだから、ちゃんと考えないとダメだよ、と、ルーナに怒られたことが忘れられない。いつも穏やかで優しいルーナが、呆れて冷たい表情をしていたから。
結界石を使って寝坊したことは、絶対に内緒にしようと思うアーニャだった。
「本当に大丈夫だよー。最近ね、マナを見ないように特訓してるの」
意味のわからないことを言うジルに、アーニャは戸惑う。普通、錬金術師はマナを認識する訓練を行うが、ジルはまったく逆のことをしている。
マナの認識能力に長け過ぎたジルは、錬金術に触れ合い続けたことで、異常なレベルで能力が向上。普通に過ごすだけでも人の魔力量や魔力色が気になり、生活に支障が出始めていたのだ。そのため、マナや魔力を目視しない特訓をしていた。
「小籠包と同じだと思うんだよね。薄いマナで自分を覆うと、周りのマナが気にならなくなっちゃうの」
熱々で口内が火傷してしまう料理、小籠包。包み込む皮が冷めても、いつまでも中は熱いという特徴を、現在の自分と照らし合わせていたのだ。
どれだけマナの認識能力が高くても、マナという皮で包み込んでしまえば、周囲のマナが気になりにくい。こうすることで、必要以上にこの地の魔力から干渉を受けることもなくなり、魔力酔い対策にもなっていた。
「なによ、その小籠包って。すでに響きがおいしそうじゃない」
「すごい熱いから、絶対に火傷しちゃう料理なんだよ」
「意味がわからないわね。食べられるくらいまで冷ましてから、人の前に出せばいいじゃないの」
結局、呑気なことを話しながら、二人は歩くペースを速めて山を登っていく。得体の知れない料理、小籠包が気になるアーニャだった。
いつもは魔物が少ない荒れた道を進むけれど、今日は歩きやすい道を優先する。風属性が付与されたブーツがあるとはいえ、冒険者活動をしていないジルにとって、山道は険しい。踏み外して怪我をしたり、足場の悪い場所で戦闘したりすれば、危険が伴ってしまうだろう。
ジルが良質なジェムを大量に作ってくれたこともあり、安全を第一に考え、迷うことなく歩きやすい道を選択していた。
「もっと魔物が多いと思ってたけど、意外に山は安全なんだね」
「油断しちゃダメよ。きっと何かが起こってるに違いないわ。魔物の姿すら見かけないなんて、今までなかったことよ。ヤバイ魔物が現れたのかもしれないわ」
これっぽっちも自分に原因があると思っていないアーニャは、より一層警戒している。
アーニャが一人で来ているときは、魔物がいれば遠回りするか、様子を見てやり過ごしてばかり。どうしても戦闘しなければいけないときは、先制攻撃を取って、確実に討伐。その結果、それぞれの部族にアーニャの存在が知れ渡ることはなかったのだが、今は違う。
この地にアーニャがやって来たことは、それぞれの部族に急ピッチで連絡が回り始めているため、どんどんと魔物が下山している。アーニャとジルが歩く山の反対側では、魔物の大渋滞が起こるほどの騒ぎだった。
しかし、魔物たちにこの地の支配する悪魔だと思われていることを知らないアーニャは、存在しないヤバイ魔物の存在が気になっている。
(ゆっくり登ろうと思っていたけど、予定を変更しないとダメね。寝坊したのも大きかったわ。この子といると、なぜか自分のペースが良くも悪くも崩されるのよ。子供の面倒を見る親って、魔物を討伐するよりも大変だわ)
なぜか子育ての苦労を感じ始めるアーニャは、ジルの手をしっかりと握り締めた。
「ちょっとだけ歩くペースを上げるわよ。このままだと、目的地に着く前に夜になっちゃうの」
「はーい! 今日はいっぱい寝たから、全然大丈夫ー!」
昨晩の恋愛モードを脱したジルは、手を繋いで一緒に歩くことができる幸せを噛み締めている。
「あんた、今日はやけに元気ね。まあ、いいわ。途中で休める場所はあるし、また魔力酔いをしたらちゃんと言うのよ。もっと魔力が濃い場所に行ったとき、トラウマになるくらい気持ち悪くなるから」
経験者は語る。魔力が強い土地を強行突破しようとして、三日間も寝込んだ経験がある者は、言葉の重みが違う!
アーニャの頭の中では、一切食事を取ることもできず、ルーナに看病された日が蘇っている。姉さんは無茶ばっかりするんだから、ちゃんと考えないとダメだよ、と、ルーナに怒られたことが忘れられない。いつも穏やかで優しいルーナが、呆れて冷たい表情をしていたから。
結界石を使って寝坊したことは、絶対に内緒にしようと思うアーニャだった。
「本当に大丈夫だよー。最近ね、マナを見ないように特訓してるの」
意味のわからないことを言うジルに、アーニャは戸惑う。普通、錬金術師はマナを認識する訓練を行うが、ジルはまったく逆のことをしている。
マナの認識能力に長け過ぎたジルは、錬金術に触れ合い続けたことで、異常なレベルで能力が向上。普通に過ごすだけでも人の魔力量や魔力色が気になり、生活に支障が出始めていたのだ。そのため、マナや魔力を目視しない特訓をしていた。
「小籠包と同じだと思うんだよね。薄いマナで自分を覆うと、周りのマナが気にならなくなっちゃうの」
熱々で口内が火傷してしまう料理、小籠包。包み込む皮が冷めても、いつまでも中は熱いという特徴を、現在の自分と照らし合わせていたのだ。
どれだけマナの認識能力が高くても、マナという皮で包み込んでしまえば、周囲のマナが気になりにくい。こうすることで、必要以上にこの地の魔力から干渉を受けることもなくなり、魔力酔い対策にもなっていた。
「なによ、その小籠包って。すでに響きがおいしそうじゃない」
「すごい熱いから、絶対に火傷しちゃう料理なんだよ」
「意味がわからないわね。食べられるくらいまで冷ましてから、人の前に出せばいいじゃないの」
結局、呑気なことを話しながら、二人は歩くペースを速めて山を登っていく。得体の知れない料理、小籠包が気になるアーニャだった。
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