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第二章
第73話:エリス、察する2
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【まえがき】
可能な限りわかりやすい努力はしましたが、わかりにくいかもしれません。
68話を参考にしていただけると幸いです。
――――――――――――――――――
フレンチトーストが完成して、ルーナの部屋に集まって朝ごはんを食べ終わると、アーニャは月光草の研究をするため、部屋を退出。一人で作業部屋へ向かうところをエリスは追いかけ、呼び止めた。
「アーニャさん、ちょっとお話してもいいですか?」
「どうしたの。私がいない間に、ルーナのことで何かあった?」
初めて三日間もルーナと二人きりで過ごしたエリスたちには、何も問題は起きていない。楽しくキャッキャウフフと話し込んでいただけで、関係は良好。
「いえ、ルーナちゃんはいつも通り元気ですよ」
しかし、アーニャとジルは違う。
二人が付き合っていると確信したエリスは、フレンチトーストを食べながらも、アーニャを監視。輝くような笑顔を見せるアーニャは、おいしそうにフレンチトーストを頬張り、ジルを褒め称えていた。幸せだわ……と、幸せオーラ全開のアーニャを見れば、察しの良いエリスはまたまた気づいてしまう。
キスしたのでは? いや、絶対にキスしてる。フレンチトーストだけに、フレンチキッスをしていると!
アーニャにジルを任せたいと思うものの、弟のファーストキス(多分)を奪ったのなら、相応のケジメをつけてもらう必要がある。そのため、真実の愛を確かめるために、アーニャを呼び止めたのだ。
当然、フレンチトーストが食べられて幸せだったアーニャに、何の罪もない。
「ジルと、何かありましたか?」
あえて、エリスはストレートな言葉で聞こうとしない。アーニャに自ら言わせることで、その責任の大きさを自覚してもらいたいと思っている。ファーストキスは、一生に一度しかないのだから。
「やっぱり……、気づくわよね」
もちろん、アーニャもわかっていた。名前で呼び始めたことくらい、エリスやルーナにはすぐ気づかれる。言葉にされると恥ずかしくて、頬をほんのり桜色に染めてしまうけれど。
その結果、両者の食い違いは加速する!
「当たり前ですよ、二人の距離感が違いますから」
キスをしたことくらい、姉である私にはすぐバレますよ、と、エリスはマウントを取り始める。
「雰囲気のある落ち着いた場所だったから……どうしても、ジルに伝えたかったのよ」
早くもエリスは言質を取ることに成功した! どうしても伝えたいこと、それはもう、愛の告白以外にあり得ない!
ムードの良い場所に誘い込み、ジルを落としたというのは、計画的な犯行になる。最初から月光草を採取する時に告白をしようと思っていたに違いない。
確信犯ですね、と思うエリスの目がキラーンッと輝く。
「本当に……大切に思ってくれているんですか?」
尊敬するアーニャを疑いたくはない。でも、一回りも年が離れた子供のジルと付き合うなら、アーニャの心のうちを、姉として、聞き出さなければならない。
ジルのことを本当に愛しているのか。その答えだけは、ハッキリと聞かせてもらいましょうか、アーニャさん!
「当たり前じゃないの。冗談であんなことは言わないわよ」
真剣な顔で問うエリスに、アーニャは即答した。
ジルがエリクサーを飲んだことに負い目を感じていると気づいていたアーニャは、ちゃんと伝えるべきだと思っていた。エリクサーをジルに使ってよかったと、後悔なんてしていないと、ちゃんと自分がジルに伝えて、心の枷を取ってあげなければならなかったのだ。
こんな大事なことを、冗談で言えるはずがない。キスしたとかしていないとか、そんな話とは重みが違う!
「でも、ジルはまだ子供です。ちゃんと言葉の意味を理解していないかもしれません」
誰よりもエリスが話を理解していない! 視野が狭くなったエリスは、頭がジルのことでいっぱいである!
「大丈夫よ。ちゃんと伝えた後にね、ちょっと恥ずかしかったんだけど、ジルって名前で呼ぶことにしたの。そうしたら、興奮して元気に駆け回っていたから」
なんと! 愛の告白してからの名前呼びである! 詳細に伝えられたアーニャの恋愛テクニックに、エリスは度肝を抜かれる!
だが、いくらジルが子供とはいえ、それだけで興奮するはずがない。アーニャの性格を考慮すれば、一番恥ずかしいことをまだ隠している。そう、キスである。
興奮して走り回る前に、絶対キスしてる。ジルと名前を呼び、キスが行われたに違いない。ああ、絶対にキスしてますよね! と、エリスは確信した!
頭の中で次々に偽りのストーリーが構築されていく。
「アーニャさんから、いったんですよね」
アーニャさんから、キスをしにいったんですよね、という少し言葉足らずなエリスは、強気な態度で攻める。
お互いに恥ずかしがり屋で照れ屋という共通点を持つ二人の恋愛を成功させるならば、アーニャがリードするのは必須条件。
どちらからキスをしたのか、ハッキリと答えてもらおうではないか! 当然、アーニャさんは自分からキスをしたんですよね! と、ものすんんんごい圧をかけていく!
「詳しく言わせないでよ。私が自分のことを話すの苦手なの、知ってるでしょ。私から言ったのは、事実だけど」
恥ずかしそうに右頬をポリポリと二回だけで掻いたアーニャは、エリスから目線を反らす。その姿を見たエリスは……、胸を撃たれてしまった。
欲望にまみれたキスをアーニャがしたわけじゃない。子供のジルのことを思いやり、頬にキスをしたと気づいてしまったから。
ポンポンッと右頬を二回叩いたのは、キスをした場所が頬であることを表すサイン。子供のジルのためを思って、刺激の強い唇を選ばないという、アーニャの気遣いだろう。少しずつ大人へステップアップしようとするアーニャは、恋愛の本気度が違う!
エリスの妄想力は、クオリティが違うけれどっ!
「気遣ってくれたんですね」
大人のアーニャが、子供のジルに合わせたキスを選んでくれた。その偽りの答えにたどり着いたエリスは、心から安堵した。
やっぱり私の憧れるアーニャさんは、素敵な人だな、と。
「そんなの当たり前じゃない。エリスと同じくらい、大切に思っているつもりよ」
親友のエリスと同じくらい大切、それはもう、恋愛対象ではない。好きの方向性がLOVEではなく、LIKEなのだ。これには、さすがのエリスも疑問を抱き……。
(私はジルのことばかりを考えていたけど、アーニャさんはもう結婚後の生活を見据えていたの? 義理の家族になる私も愛してくれるほど、本気で考えてくれていたなんて。やっぱり、アーニャさんには敵わないよ)
一ミリも疑問を抱かなかった! 尊敬しているアーニャの言葉を噛み締めている!
「アーニャさん。ジルのこと、これからもよろしくお願いします」
その結果、ジルを婿に出す前提で、エリスはアーニャに頭を下げた。
「かしこまるのはやめなさいよ。私とエリスの仲なんだから。それより、ジルがその場所にみんなでピクニックに行きたいって言ってたわ。ルーナの治療が終わったら、仕事を休めるようにしてほしいの。私もね、エリスにはあの景色を見てほしいと思ってるから」
エリスと一緒にあの綺麗な景色を眺めて、語り合いたい。本当にアーニャは、エリスのことを大切に思っているのだ。
「私とルーナちゃんも一緒に、ですか?」
しかーーーし! 女同士の友情を高め合おうとするアーニャとは違い、エリスは混乱した!
キスした場所へ姉を案内したいとは、いったいどういうことなのか! 初デートには絶対に尾行しようと思うくらいには溺愛しているが、弟もまた、キスをするところを見届けてほしいと思っていたのだろうか。大人の階段を上るところを見守ってほしいのであれば……、姉として、見届けなくてはならない!
当然じゃない、と頷くアーニャに、エリスは決意をする。
「……わかりました。ちなみに、ジ、ジルはなんて言ってたんですか?」
キスをされた後になんて言ったんですか、という質問である。今度は弟がどれくらいアーニャに惚れているのか、気になっていた。
「そうね。確か……、綺麗、そう言って見とれていたわ」
アーニャを綺麗と言って、見とれていた。恋愛経験のない弟が、そんなにロマンティックな雰囲気を出せることに、エリスは感激した。
そして偶然にも、ジルがアーニャを綺麗と言って見とれていたのは、奇跡的に事実である! 恋心を開花させたジルは恋愛キュンキュンモードに入り、月光石の綺麗な景色に目もくれず、アーニャの横顔に夢中だったのだ。
さすが同じ血が流れていると言えよう。アーニャという女性に、姉弟は溺れている。
「本当にいい場所なのよ。でも、このことはルーナに内緒にしておいてちょうだい」
ルーナの治療がいつ終わるかわからないいま、無駄に期待をさせたくはない……というアーニャの思いは、当然のように伝わらない。
交際していることを知られずに、正式に婚約が決まってから報告したい。そういうことですね、アーニャさん! 恥ずかしがり屋さんなのに、サプライズがお好きなんですね! と、よくわからない解釈をする。
「わかりました。絶対にルーナちゃんに内緒にします。……絶対に」
「え、ええ。頼んだわよ」
なんだか妙に嬉しそうなエリスに、アーニャは少しばかり押され気味になるのだった。
可能な限りわかりやすい努力はしましたが、わかりにくいかもしれません。
68話を参考にしていただけると幸いです。
――――――――――――――――――
フレンチトーストが完成して、ルーナの部屋に集まって朝ごはんを食べ終わると、アーニャは月光草の研究をするため、部屋を退出。一人で作業部屋へ向かうところをエリスは追いかけ、呼び止めた。
「アーニャさん、ちょっとお話してもいいですか?」
「どうしたの。私がいない間に、ルーナのことで何かあった?」
初めて三日間もルーナと二人きりで過ごしたエリスたちには、何も問題は起きていない。楽しくキャッキャウフフと話し込んでいただけで、関係は良好。
「いえ、ルーナちゃんはいつも通り元気ですよ」
しかし、アーニャとジルは違う。
二人が付き合っていると確信したエリスは、フレンチトーストを食べながらも、アーニャを監視。輝くような笑顔を見せるアーニャは、おいしそうにフレンチトーストを頬張り、ジルを褒め称えていた。幸せだわ……と、幸せオーラ全開のアーニャを見れば、察しの良いエリスはまたまた気づいてしまう。
キスしたのでは? いや、絶対にキスしてる。フレンチトーストだけに、フレンチキッスをしていると!
アーニャにジルを任せたいと思うものの、弟のファーストキス(多分)を奪ったのなら、相応のケジメをつけてもらう必要がある。そのため、真実の愛を確かめるために、アーニャを呼び止めたのだ。
当然、フレンチトーストが食べられて幸せだったアーニャに、何の罪もない。
「ジルと、何かありましたか?」
あえて、エリスはストレートな言葉で聞こうとしない。アーニャに自ら言わせることで、その責任の大きさを自覚してもらいたいと思っている。ファーストキスは、一生に一度しかないのだから。
「やっぱり……、気づくわよね」
もちろん、アーニャもわかっていた。名前で呼び始めたことくらい、エリスやルーナにはすぐ気づかれる。言葉にされると恥ずかしくて、頬をほんのり桜色に染めてしまうけれど。
その結果、両者の食い違いは加速する!
「当たり前ですよ、二人の距離感が違いますから」
キスをしたことくらい、姉である私にはすぐバレますよ、と、エリスはマウントを取り始める。
「雰囲気のある落ち着いた場所だったから……どうしても、ジルに伝えたかったのよ」
早くもエリスは言質を取ることに成功した! どうしても伝えたいこと、それはもう、愛の告白以外にあり得ない!
ムードの良い場所に誘い込み、ジルを落としたというのは、計画的な犯行になる。最初から月光草を採取する時に告白をしようと思っていたに違いない。
確信犯ですね、と思うエリスの目がキラーンッと輝く。
「本当に……大切に思ってくれているんですか?」
尊敬するアーニャを疑いたくはない。でも、一回りも年が離れた子供のジルと付き合うなら、アーニャの心のうちを、姉として、聞き出さなければならない。
ジルのことを本当に愛しているのか。その答えだけは、ハッキリと聞かせてもらいましょうか、アーニャさん!
「当たり前じゃないの。冗談であんなことは言わないわよ」
真剣な顔で問うエリスに、アーニャは即答した。
ジルがエリクサーを飲んだことに負い目を感じていると気づいていたアーニャは、ちゃんと伝えるべきだと思っていた。エリクサーをジルに使ってよかったと、後悔なんてしていないと、ちゃんと自分がジルに伝えて、心の枷を取ってあげなければならなかったのだ。
こんな大事なことを、冗談で言えるはずがない。キスしたとかしていないとか、そんな話とは重みが違う!
「でも、ジルはまだ子供です。ちゃんと言葉の意味を理解していないかもしれません」
誰よりもエリスが話を理解していない! 視野が狭くなったエリスは、頭がジルのことでいっぱいである!
「大丈夫よ。ちゃんと伝えた後にね、ちょっと恥ずかしかったんだけど、ジルって名前で呼ぶことにしたの。そうしたら、興奮して元気に駆け回っていたから」
なんと! 愛の告白してからの名前呼びである! 詳細に伝えられたアーニャの恋愛テクニックに、エリスは度肝を抜かれる!
だが、いくらジルが子供とはいえ、それだけで興奮するはずがない。アーニャの性格を考慮すれば、一番恥ずかしいことをまだ隠している。そう、キスである。
興奮して走り回る前に、絶対キスしてる。ジルと名前を呼び、キスが行われたに違いない。ああ、絶対にキスしてますよね! と、エリスは確信した!
頭の中で次々に偽りのストーリーが構築されていく。
「アーニャさんから、いったんですよね」
アーニャさんから、キスをしにいったんですよね、という少し言葉足らずなエリスは、強気な態度で攻める。
お互いに恥ずかしがり屋で照れ屋という共通点を持つ二人の恋愛を成功させるならば、アーニャがリードするのは必須条件。
どちらからキスをしたのか、ハッキリと答えてもらおうではないか! 当然、アーニャさんは自分からキスをしたんですよね! と、ものすんんんごい圧をかけていく!
「詳しく言わせないでよ。私が自分のことを話すの苦手なの、知ってるでしょ。私から言ったのは、事実だけど」
恥ずかしそうに右頬をポリポリと二回だけで掻いたアーニャは、エリスから目線を反らす。その姿を見たエリスは……、胸を撃たれてしまった。
欲望にまみれたキスをアーニャがしたわけじゃない。子供のジルのことを思いやり、頬にキスをしたと気づいてしまったから。
ポンポンッと右頬を二回叩いたのは、キスをした場所が頬であることを表すサイン。子供のジルのためを思って、刺激の強い唇を選ばないという、アーニャの気遣いだろう。少しずつ大人へステップアップしようとするアーニャは、恋愛の本気度が違う!
エリスの妄想力は、クオリティが違うけれどっ!
「気遣ってくれたんですね」
大人のアーニャが、子供のジルに合わせたキスを選んでくれた。その偽りの答えにたどり着いたエリスは、心から安堵した。
やっぱり私の憧れるアーニャさんは、素敵な人だな、と。
「そんなの当たり前じゃない。エリスと同じくらい、大切に思っているつもりよ」
親友のエリスと同じくらい大切、それはもう、恋愛対象ではない。好きの方向性がLOVEではなく、LIKEなのだ。これには、さすがのエリスも疑問を抱き……。
(私はジルのことばかりを考えていたけど、アーニャさんはもう結婚後の生活を見据えていたの? 義理の家族になる私も愛してくれるほど、本気で考えてくれていたなんて。やっぱり、アーニャさんには敵わないよ)
一ミリも疑問を抱かなかった! 尊敬しているアーニャの言葉を噛み締めている!
「アーニャさん。ジルのこと、これからもよろしくお願いします」
その結果、ジルを婿に出す前提で、エリスはアーニャに頭を下げた。
「かしこまるのはやめなさいよ。私とエリスの仲なんだから。それより、ジルがその場所にみんなでピクニックに行きたいって言ってたわ。ルーナの治療が終わったら、仕事を休めるようにしてほしいの。私もね、エリスにはあの景色を見てほしいと思ってるから」
エリスと一緒にあの綺麗な景色を眺めて、語り合いたい。本当にアーニャは、エリスのことを大切に思っているのだ。
「私とルーナちゃんも一緒に、ですか?」
しかーーーし! 女同士の友情を高め合おうとするアーニャとは違い、エリスは混乱した!
キスした場所へ姉を案内したいとは、いったいどういうことなのか! 初デートには絶対に尾行しようと思うくらいには溺愛しているが、弟もまた、キスをするところを見届けてほしいと思っていたのだろうか。大人の階段を上るところを見守ってほしいのであれば……、姉として、見届けなくてはならない!
当然じゃない、と頷くアーニャに、エリスは決意をする。
「……わかりました。ちなみに、ジ、ジルはなんて言ってたんですか?」
キスをされた後になんて言ったんですか、という質問である。今度は弟がどれくらいアーニャに惚れているのか、気になっていた。
「そうね。確か……、綺麗、そう言って見とれていたわ」
アーニャを綺麗と言って、見とれていた。恋愛経験のない弟が、そんなにロマンティックな雰囲気を出せることに、エリスは感激した。
そして偶然にも、ジルがアーニャを綺麗と言って見とれていたのは、奇跡的に事実である! 恋心を開花させたジルは恋愛キュンキュンモードに入り、月光石の綺麗な景色に目もくれず、アーニャの横顔に夢中だったのだ。
さすが同じ血が流れていると言えよう。アーニャという女性に、姉弟は溺れている。
「本当にいい場所なのよ。でも、このことはルーナに内緒にしておいてちょうだい」
ルーナの治療がいつ終わるかわからないいま、無駄に期待をさせたくはない……というアーニャの思いは、当然のように伝わらない。
交際していることを知られずに、正式に婚約が決まってから報告したい。そういうことですね、アーニャさん! 恥ずかしがり屋さんなのに、サプライズがお好きなんですね! と、よくわからない解釈をする。
「わかりました。絶対にルーナちゃんに内緒にします。……絶対に」
「え、ええ。頼んだわよ」
なんだか妙に嬉しそうなエリスに、アーニャは少しばかり押され気味になるのだった。
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