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第二章
第81話:エリス、話し合いに同席する2
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必死に逃げようと試みるエリスを押さえつけ、アーニャがギルドマスターの部屋の扉を、ノックもせずに勢いよく開けた。その瞬間、錬金術ギルドの職員であるエリスは悪あがきをやめて、動きをピタッと止める。
上司にみっともない姿を見せるわけにいかないし、アーニャと揉めていたら後で怒られそうで怖い。
ギルドマスターの部屋でソファに座っていたのは、二人。一人は、小さなメガネを付けた白髪の老人男性で、顔のシワに悩む錬金術ギルドのギルドマスター。もう一人は、のんびりと紅茶を嗜む公爵家の令嬢、ミレイユだった。
公爵家襲撃事件に巻き込まれたエリスは、公爵家を嫌っている。治療費は出してくれたことには感謝しているが、助けを求めても門前払いされた経験があるし、ミレイユの興味なさそうな態度が苦手。
うわっ……と顔に出てしまうほど、エリスはミレイユが大嫌いなのである。
「ちょっとあんた、エリスも同席させていいわよね? じゃないと、私は帰るわ」
そんなことなどお構いなしのアーニャは、すぐにギルドマスターに許可を求めた。わかってるわよね、という脅しに似た圧を添えて。
断ってくれますよね、というエリスの期待の眼差しは……、ギルドマスターに受け入れられるはずもない。
「エリスくん、アーニャくんと一緒にソファにかけなさい」
「あの、まだ受付の仕事がありますが……」
「気持ちはわかるが、仕事には優先順位というものがある。アーニャくんの隣に座ることは、エリスくんにとっての最優先事項に当たる仕事だ。アーニャくんの期待を裏切ってはならん」
「はぁ~、わかりました」
ふっふーん♪ 話がわかるじゃないの、と急に機嫌が良くなったアーニャと一緒に、エリスはソファに腰を下ろす。残念なことに、ミレイユと向き合うような形で。
「それで、どうしてわざわざ呼び出したの。久しぶりに錬金術ギルドへ来たのに、嫌な気持ちでいっぱいよ。冒険者ギルドで呼び出されたことを思い出すもの」
一瞬で不機嫌になったアーニャは、冒険者時代に何度も呼び出しを食らっている。
いつもギルドマスターにやんわりと怒られるのだが、無駄に時間を使うだけで良い思い出がない。タイミングを見計らってルーナに仲介してもらわないと、永遠に続きそうな気がするほど面倒だった。
だから、エリスが同席してくれるようになって、とっても嬉しい。やっぱり持つべきものは友達ね、などと、自分で無理やり連れてきておいて、エリスの優しさを称賛していた。
「アーニャくん、落ち着いてくれたまえ。老いぼれにプレッシャーをかけるものじゃない。ワシは錬金術ギルドのギルドマスターをやっている、バランだ。なかなか君みたいな冒険者の相手をすることがないのだよ」
破壊神という二つ名が先行していることもあり、アーニャのピリピリした雰囲気が威圧のように受け取られてしまう。ミレイユも緊張しているのか、紅茶が入ったカップを口に付ける仕草をするだけで、まったく飲んでいなかった。
「別にこれくらいは普通よ。エリスは何も言わないもの。あんたたちが慣れていないだけよ。で、用件は何なの?」
不機嫌そうなオーラは全開ですけどね、とコロコロ気分が変わるアーニャに、エリスは突っ込まない。この荒れそうな話し合いに巻き込まれまいと、存在感を消すために動かないことを決めていた。自分は銅像、自分は銅像……、と言い聞かせている。
「こちらとしても、アーニャくんに無茶なお願いをするつもりはない。しかし、少々厳しい現状になってきてな。今朝、冒険者たちの調査が終わったばかりなんだが、街の近辺に魔草ラフレシアが数多く自生し、環境を破壊しつつある。毒地に変化する前に焼き払わなければならなくて、困っておるのだ」
強力な毒を持つ魔草ラフレシアは、厄介な存在ではあるものの、浸食スピードが遅い。放っておくと大地が死に、草木が生えないどころか、毒が湧き出る沼地と化してしまう。
(そういえば、月の洞窟から帰ってくるときに、変なニオイがしたわね。あの時からラフレシアが花を咲かせ、花粉を飛ばしていたのかしら。これは、随分と地中深くに根を張っているかもしれないわ」
長年、冒険者で生活をしていた経験を踏まえ、アーニャは瞬時に状況を把握。早く話し合いを終らせるため、ドヤ顔でギルドマスターに迫る。
「なるほど。ラフレシアを根元からキッチリ焼き払う爆弾を作れっていう依頼ね。確かに、品質の高い爆弾を生産できる人材は少ないわ。仕方ないわね、作ってあげるわよ。いくつ必要なの?」
「いや、そうではない。そこに魔封狼が住み着いたことが問題なんじゃ」
「……はぇ?」
情けない声を出したアーニャは、瞬時に頭をフル回転させる。魔法が効かない魔封狼はジェムで討伐できないため、弱体化したアーニャの天敵になってしまう。
(ポーチ作りにジルが持ってきた魔封狼の革、妙に鮮度がよかったわね。街の外で見かけたものを狩ったのかしら。あれ? 魔封狼とラフレシアは共存関係にあるんだっけ? 確か、互いに繁殖を助け合うことから、両者が一定数揃うと、特定環境破壊第二級に分類され……)
サーッと血の気が引くアーニャは、徐々に胸の鼓動が高まっていく。
「現在、かなりの規模に拡大しておる。このままでは、三日後に特定環境破壊第二級に該当し、冒険者に一斉招集がかかるだろう。アーニャくんにも、是非参加してほしい」
上司にみっともない姿を見せるわけにいかないし、アーニャと揉めていたら後で怒られそうで怖い。
ギルドマスターの部屋でソファに座っていたのは、二人。一人は、小さなメガネを付けた白髪の老人男性で、顔のシワに悩む錬金術ギルドのギルドマスター。もう一人は、のんびりと紅茶を嗜む公爵家の令嬢、ミレイユだった。
公爵家襲撃事件に巻き込まれたエリスは、公爵家を嫌っている。治療費は出してくれたことには感謝しているが、助けを求めても門前払いされた経験があるし、ミレイユの興味なさそうな態度が苦手。
うわっ……と顔に出てしまうほど、エリスはミレイユが大嫌いなのである。
「ちょっとあんた、エリスも同席させていいわよね? じゃないと、私は帰るわ」
そんなことなどお構いなしのアーニャは、すぐにギルドマスターに許可を求めた。わかってるわよね、という脅しに似た圧を添えて。
断ってくれますよね、というエリスの期待の眼差しは……、ギルドマスターに受け入れられるはずもない。
「エリスくん、アーニャくんと一緒にソファにかけなさい」
「あの、まだ受付の仕事がありますが……」
「気持ちはわかるが、仕事には優先順位というものがある。アーニャくんの隣に座ることは、エリスくんにとっての最優先事項に当たる仕事だ。アーニャくんの期待を裏切ってはならん」
「はぁ~、わかりました」
ふっふーん♪ 話がわかるじゃないの、と急に機嫌が良くなったアーニャと一緒に、エリスはソファに腰を下ろす。残念なことに、ミレイユと向き合うような形で。
「それで、どうしてわざわざ呼び出したの。久しぶりに錬金術ギルドへ来たのに、嫌な気持ちでいっぱいよ。冒険者ギルドで呼び出されたことを思い出すもの」
一瞬で不機嫌になったアーニャは、冒険者時代に何度も呼び出しを食らっている。
いつもギルドマスターにやんわりと怒られるのだが、無駄に時間を使うだけで良い思い出がない。タイミングを見計らってルーナに仲介してもらわないと、永遠に続きそうな気がするほど面倒だった。
だから、エリスが同席してくれるようになって、とっても嬉しい。やっぱり持つべきものは友達ね、などと、自分で無理やり連れてきておいて、エリスの優しさを称賛していた。
「アーニャくん、落ち着いてくれたまえ。老いぼれにプレッシャーをかけるものじゃない。ワシは錬金術ギルドのギルドマスターをやっている、バランだ。なかなか君みたいな冒険者の相手をすることがないのだよ」
破壊神という二つ名が先行していることもあり、アーニャのピリピリした雰囲気が威圧のように受け取られてしまう。ミレイユも緊張しているのか、紅茶が入ったカップを口に付ける仕草をするだけで、まったく飲んでいなかった。
「別にこれくらいは普通よ。エリスは何も言わないもの。あんたたちが慣れていないだけよ。で、用件は何なの?」
不機嫌そうなオーラは全開ですけどね、とコロコロ気分が変わるアーニャに、エリスは突っ込まない。この荒れそうな話し合いに巻き込まれまいと、存在感を消すために動かないことを決めていた。自分は銅像、自分は銅像……、と言い聞かせている。
「こちらとしても、アーニャくんに無茶なお願いをするつもりはない。しかし、少々厳しい現状になってきてな。今朝、冒険者たちの調査が終わったばかりなんだが、街の近辺に魔草ラフレシアが数多く自生し、環境を破壊しつつある。毒地に変化する前に焼き払わなければならなくて、困っておるのだ」
強力な毒を持つ魔草ラフレシアは、厄介な存在ではあるものの、浸食スピードが遅い。放っておくと大地が死に、草木が生えないどころか、毒が湧き出る沼地と化してしまう。
(そういえば、月の洞窟から帰ってくるときに、変なニオイがしたわね。あの時からラフレシアが花を咲かせ、花粉を飛ばしていたのかしら。これは、随分と地中深くに根を張っているかもしれないわ」
長年、冒険者で生活をしていた経験を踏まえ、アーニャは瞬時に状況を把握。早く話し合いを終らせるため、ドヤ顔でギルドマスターに迫る。
「なるほど。ラフレシアを根元からキッチリ焼き払う爆弾を作れっていう依頼ね。確かに、品質の高い爆弾を生産できる人材は少ないわ。仕方ないわね、作ってあげるわよ。いくつ必要なの?」
「いや、そうではない。そこに魔封狼が住み着いたことが問題なんじゃ」
「……はぇ?」
情けない声を出したアーニャは、瞬時に頭をフル回転させる。魔法が効かない魔封狼はジェムで討伐できないため、弱体化したアーニャの天敵になってしまう。
(ポーチ作りにジルが持ってきた魔封狼の革、妙に鮮度がよかったわね。街の外で見かけたものを狩ったのかしら。あれ? 魔封狼とラフレシアは共存関係にあるんだっけ? 確か、互いに繁殖を助け合うことから、両者が一定数揃うと、特定環境破壊第二級に分類され……)
サーッと血の気が引くアーニャは、徐々に胸の鼓動が高まっていく。
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