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第二章
第82話:エリス、話し合いに同席する3
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アーニャを呼び出した理由をギルドマスターのバランが伝えると、物々しい空気が場を包みこんだ。
「待ちなさい、私はルーナ以外と連携が取れないわよ。そこらへんの冒険者とは、絶対に無理なの。ビックリするくらい無理よ。全然息が合わなくて、戦闘に支障が出るほどにね」
自分が戦わなくてもいい方向へ持っていこうと、アーニャは必死である。
「承知しておるよ。そこで、こちらからの提案は二つだ。アーニャくんが現地へ一人で行って壊滅させてくるか、一人で街に残って防衛するか、どちらか好きな方を選んでほしい」
どっちも無理に決まってんじゃないのー! 弱体化していなければ、どっちも余裕だけど! とアーニャは思うが、声には出さない。ワナワナと口を動かすだけで、グッと堪える。
「いくら私が高ランク冒険者といっても、負担の割合がおかしいわ。こんな理不尽な扱いを受けるなら、私は参加しな……」
「知っていると思うが、特定環境破壊第二級にもなれば、ルーナくんのように戦闘ができない事情をギルドに報告していない限り、参加が義務付けられている。……わかっておるよな?」
言えないだけで戦闘できない事情があるのよ! と、ギルドマスターの顔面をぶん殴りたい衝動に駆られる。さすがに我慢するが。
「わかってるわよ! それで、なんで私だけそんなに負担が大きいのかしら。わかるように説明してちょうだい」
「実力を冷静に判断した結果になる。ワシらは間違ったことを言っているとは思わん。アーニャくんには、それだけ圧倒するほどの力がある」
まあ、本当ならそうなんだけどね、と納得してしまうため、アーニャは何も言い返せなかった。
世間から見たアーニャの評価は、戦闘において右に出るものはいない。誰かを連れて行けば足手まといになるだけで、アーニャの手伝いをしないことが大前提で考えられる。
つまり、どう考えてもアーニャが活躍する必要があり、命の危険が危うい案件であることは明らかだった。
下唇を噛み締めて考えるアーニャに、エリスはいつもと様子が違うことに気づく。存在感を消して口を挟まないと決めていたのだが……堪えきれなくなり、小さく右手を挙げた。
「あの~、錬金術ギルドと冒険者ギルドを兼任している場合、メインで活動している方を優先させる規則がありませんでしたか?」
「そうよ! それよ、さっすがエリスだわ! 私は冒険者活動を休止して、錬金術師として活動しているの。冒険者として参加する必要はないはずよ」
エリスが少し口を突っ込んだだけで、アーニャは強気な姿勢で押し切ろうと試みる。逃げ道がまったくわからないため、僅かな希望にすがりつくような思いでいっぱいだ。
「うむ、その通りだな。前回、街にポイズンバタフライが襲来した緊急案件のときは、冒険者ギルドがアーニャくんに声をかけなかっただろう。だが、例外もある」
バランがチラッとミレイユの方を見ると、手元に置かれていた資料から、一枚の紙を取り出した。
「冒険者ギルドのギルドマスターと、その街を治める領主の協力要請があった場合は該当しない、という規則もあります」
「はぁ~~~!?」
紙をスーッと出されたアーニャは、引きちぎるような勢いでガバッ! と受け取った。そこには、『緊急事態要請』と書かれていて、すでに冒険者ギルドと公爵家の印鑑が押されている。
「ルーナ様の治療薬を優先したい気持ちはわかりますが、よろしくお願いいたします」
つまり、最初からアーニャに逃げ道は残されておらず、依頼を受理するだけのために、ギルドマスターの部屋へ呼ばれたのだ。どう足掻いたとしても、弱体化したアーニャにこなせる依頼ではないが。
(この依頼から逃れるためには、弱体化したと報告しなければならないわ。でも、告白するにはリスクが高すぎる。街で噂が広まってしまえば、名前を売ろうと襲撃してくる人も出てくるだろうし、動けないルーナが襲われる危険もある。公爵家から国に連絡がいけば、政治に利用されるだけ。どうしたらいいのよ、初めて不名誉な二つ名が身を守る役に立っていたっていうのに……)
ギリギリと歯を食いしばるアーニャを見て、エリスの違和感は大きくなっていく。
今まで人の命に関わる依頼を、アーニャが断ったことはない。前述のポイズンバタフライが襲来した際、予想を遥かに上回る被害が出たことで、解毒ポーションが不足する事態が起きた。エリスを通じてアーニャに出された緊急依頼ですら、文句を言いながらも、すぐに原材料の採取へ向かってくれた。おまけに、徹夜までして解毒ポーションを大量作成してくれたのだ。
付き合いの長いエリスは、アーニャが依頼を受けられない何かがあると、察した。そう、エリスは察したのだ! アーニャの命が関わる大事な案件で、正確に察したッ!!
「アーニャさんが参加を拒否する権利を持っていなくても、提示された二つの選択肢のどちらかを選ばなくてはならない、っていうわけではないんですよね?」
そして、頭の中で今までの話し合いを振り返り、錬金術ギルドの規約と照らし合わせ、逃げ道を探し始める。
「そうですわね。冒険者ギルドと公爵家、錬金術ギルドで話し合い、一番理想的な案を提案しただけになります」
「じゃあ、交渉はできますよね。例えば、街を一人で防衛するという案は、いくらアーニャさんでも物理的に不可能です。いつどこから魔物がやってくるかわかりませんし、魔封狼以外にも魔物がいます。移動距離を考えれば、防衛範囲が広すぎると思います」
唐突にルーナのような頼りがいのあるエリスになり、アーニャは歓喜した。
本当にエリスを同席させてよかったわ。もっとガンガン言ってやりなさい。弱体化してなければ、魔法で外壁を囲むだけで余裕だったんだけどね、と、元もないことを考えている。
そして、話し合いというフィールドで、エリスは大嫌いなミレイユと対峙することになった。
「エリスさん、それは誤解があります。街を守るために兵士は滞在しますから、防衛はアーニャ様だけではありません。あくまで、街に流れてきた魔封狼をアーニャ様が撃退する、という提案になります」
淡々としたミレイユの態度に、エリスは牙を剥き出しにする。敬愛するアーニャのために、この街を統べる公爵家の令嬢だろうが、喉元をガブッと噛みつこうとしていた。
こっちは破壊神アーニャの担当者だぞ! と、謎のマウントを取りながら!
「待ちなさい、私はルーナ以外と連携が取れないわよ。そこらへんの冒険者とは、絶対に無理なの。ビックリするくらい無理よ。全然息が合わなくて、戦闘に支障が出るほどにね」
自分が戦わなくてもいい方向へ持っていこうと、アーニャは必死である。
「承知しておるよ。そこで、こちらからの提案は二つだ。アーニャくんが現地へ一人で行って壊滅させてくるか、一人で街に残って防衛するか、どちらか好きな方を選んでほしい」
どっちも無理に決まってんじゃないのー! 弱体化していなければ、どっちも余裕だけど! とアーニャは思うが、声には出さない。ワナワナと口を動かすだけで、グッと堪える。
「いくら私が高ランク冒険者といっても、負担の割合がおかしいわ。こんな理不尽な扱いを受けるなら、私は参加しな……」
「知っていると思うが、特定環境破壊第二級にもなれば、ルーナくんのように戦闘ができない事情をギルドに報告していない限り、参加が義務付けられている。……わかっておるよな?」
言えないだけで戦闘できない事情があるのよ! と、ギルドマスターの顔面をぶん殴りたい衝動に駆られる。さすがに我慢するが。
「わかってるわよ! それで、なんで私だけそんなに負担が大きいのかしら。わかるように説明してちょうだい」
「実力を冷静に判断した結果になる。ワシらは間違ったことを言っているとは思わん。アーニャくんには、それだけ圧倒するほどの力がある」
まあ、本当ならそうなんだけどね、と納得してしまうため、アーニャは何も言い返せなかった。
世間から見たアーニャの評価は、戦闘において右に出るものはいない。誰かを連れて行けば足手まといになるだけで、アーニャの手伝いをしないことが大前提で考えられる。
つまり、どう考えてもアーニャが活躍する必要があり、命の危険が危うい案件であることは明らかだった。
下唇を噛み締めて考えるアーニャに、エリスはいつもと様子が違うことに気づく。存在感を消して口を挟まないと決めていたのだが……堪えきれなくなり、小さく右手を挙げた。
「あの~、錬金術ギルドと冒険者ギルドを兼任している場合、メインで活動している方を優先させる規則がありませんでしたか?」
「そうよ! それよ、さっすがエリスだわ! 私は冒険者活動を休止して、錬金術師として活動しているの。冒険者として参加する必要はないはずよ」
エリスが少し口を突っ込んだだけで、アーニャは強気な姿勢で押し切ろうと試みる。逃げ道がまったくわからないため、僅かな希望にすがりつくような思いでいっぱいだ。
「うむ、その通りだな。前回、街にポイズンバタフライが襲来した緊急案件のときは、冒険者ギルドがアーニャくんに声をかけなかっただろう。だが、例外もある」
バランがチラッとミレイユの方を見ると、手元に置かれていた資料から、一枚の紙を取り出した。
「冒険者ギルドのギルドマスターと、その街を治める領主の協力要請があった場合は該当しない、という規則もあります」
「はぁ~~~!?」
紙をスーッと出されたアーニャは、引きちぎるような勢いでガバッ! と受け取った。そこには、『緊急事態要請』と書かれていて、すでに冒険者ギルドと公爵家の印鑑が押されている。
「ルーナ様の治療薬を優先したい気持ちはわかりますが、よろしくお願いいたします」
つまり、最初からアーニャに逃げ道は残されておらず、依頼を受理するだけのために、ギルドマスターの部屋へ呼ばれたのだ。どう足掻いたとしても、弱体化したアーニャにこなせる依頼ではないが。
(この依頼から逃れるためには、弱体化したと報告しなければならないわ。でも、告白するにはリスクが高すぎる。街で噂が広まってしまえば、名前を売ろうと襲撃してくる人も出てくるだろうし、動けないルーナが襲われる危険もある。公爵家から国に連絡がいけば、政治に利用されるだけ。どうしたらいいのよ、初めて不名誉な二つ名が身を守る役に立っていたっていうのに……)
ギリギリと歯を食いしばるアーニャを見て、エリスの違和感は大きくなっていく。
今まで人の命に関わる依頼を、アーニャが断ったことはない。前述のポイズンバタフライが襲来した際、予想を遥かに上回る被害が出たことで、解毒ポーションが不足する事態が起きた。エリスを通じてアーニャに出された緊急依頼ですら、文句を言いながらも、すぐに原材料の採取へ向かってくれた。おまけに、徹夜までして解毒ポーションを大量作成してくれたのだ。
付き合いの長いエリスは、アーニャが依頼を受けられない何かがあると、察した。そう、エリスは察したのだ! アーニャの命が関わる大事な案件で、正確に察したッ!!
「アーニャさんが参加を拒否する権利を持っていなくても、提示された二つの選択肢のどちらかを選ばなくてはならない、っていうわけではないんですよね?」
そして、頭の中で今までの話し合いを振り返り、錬金術ギルドの規約と照らし合わせ、逃げ道を探し始める。
「そうですわね。冒険者ギルドと公爵家、錬金術ギルドで話し合い、一番理想的な案を提案しただけになります」
「じゃあ、交渉はできますよね。例えば、街を一人で防衛するという案は、いくらアーニャさんでも物理的に不可能です。いつどこから魔物がやってくるかわかりませんし、魔封狼以外にも魔物がいます。移動距離を考えれば、防衛範囲が広すぎると思います」
唐突にルーナのような頼りがいのあるエリスになり、アーニャは歓喜した。
本当にエリスを同席させてよかったわ。もっとガンガン言ってやりなさい。弱体化してなければ、魔法で外壁を囲むだけで余裕だったんだけどね、と、元もないことを考えている。
そして、話し合いというフィールドで、エリスは大嫌いなミレイユと対峙することになった。
「エリスさん、それは誤解があります。街を守るために兵士は滞在しますから、防衛はアーニャ様だけではありません。あくまで、街に流れてきた魔封狼をアーニャ様が撃退する、という提案になります」
淡々としたミレイユの態度に、エリスは牙を剥き出しにする。敬愛するアーニャのために、この街を統べる公爵家の令嬢だろうが、喉元をガブッと噛みつこうとしていた。
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