討伐師〜ハンター〜

夏目 涼

文字の大きさ
34 / 60

第34話

しおりを挟む
「はぁ…!はぁ…」

あがった息を整えるために少し歩く。

もう結構走ったし…これで兄さんたちの邪魔にはならないだろう。
きっと兄さんたちなら勝てる。

息を整えるため近くにある岩に座り込む。

どうなっているのか気になるけど…。

ちらりと来た道を見る。
闘いがまだ行われていないのか、あっさり決着がついたのか、何も音がしないし何も見えない。
少し戻って見つからない距離なら見ていてもいいだろうか…。
ふとそんな考えがよぎる。

いや…でも、もし見つかってまたあんなことになったら兄さんたちの闘いの邪魔になる。
それだけは…邪魔だけはしたくない…。

「あら?何か悩み事でもあるのかしら?よかったら相談にのるわよ?」

聞き覚えのある声。
背中からの冷や汗…悪寒…やつだ。
なぜここに?

赤髪がいる気配のある背後を振り返った瞬間、レオンの記憶は遠くなった。

















「くっそ!あの野郎!ぶち殺してやる!」
「落ち着け…ロー…イライラしてはあいつには勝てない」
「分かってる!だけど…あいつは俺の弟だ…守ってやらないといけないと思っていたのに…危険な目にあわせてる…たった一人の肉親なのに…これが落ち着いていられるか!」
「分かっているわ…ロー…とりあえず今はあいつを追いかけましょう」

3人はレオンが走っていった町へと続く一本道を走っていた。
ローは明らかに焦りと動揺を見せている。

「ロー…これじゃ、あいつの思う壺だ」
「わかってる…けど…」

ガサガサと周りの草が揺れる。
3人は警戒し、戦闘体制になる。

「な、なに?」

お互いに顔を見合わせる。
すると、勢いよく何か黒い影が飛び出してきた。

「きゃぁ?!」

その影はルディに飛び掛る。
真っ赤な液体が地面に広がる。

「ルディ!!!」

大きな狼がルディの肩に噛み付いていた。

「あ…あ…かはっ………!」
「おい!ルディを離せ!ファイアーボール!」

火の玉を狼に向けて放つ。
狼はルディを離し、火の玉を避ける。

「ルディ………ミルヴォ!治癒魔法を……」
「あ、あぁ…」

ミルヴォがルディの傷を治している間にこの狼を倒す。
きっとあいつの使役獣に違いない。

「そんなに俺を懲らしめたいなら、受けてたつよ。レオンも大事だが、ルディやミルヴォも大事なんだ!」
「グゥルルルル…」

狼はこちらをみて唾液を流している。
かなりの興奮状態、もしくは錯乱状態になっているようだ。
きっと、もう一回ルディや治療をしている無防備なミルヴォにも容赦なく攻撃をするだろう。

「シャインバリア」

そう唱えると、光の壁がルディとミルヴォの周りに現れる。

「なっ?!ロー!まだ魔力が完全じゃないんだろう?それを俺たちの結界に使うな!」
「いいんだ…これくらいで…俺は負けない」
「くっ…あのばか」

ローは深呼吸を2、3回して杖を前に出す。

「さぁ……かかって来いよ!」

ギロリと狼を睨みつける。
そんなローの殺気など気付いていないのか、気にも留めていないのか狼はローに向かって襲いかかってきた。

「サンダーボルト!」

ゴロゴロと空が暗くなり黒い雲が集まってくる。
そして狼に向けて雷が落ちる。

「グウァァァァ…」

苦しそうな声を上げて狼はぐったりと倒れこむ。

「くっ…やった…か?」

ガクッと力が抜けて片膝をつき倒れこんだ狼を見る。
狼はビリビリと痙攣を起こしている。
この様子だとしばらく立つことはないだろう…かなりの電流を流したからもしかしたらこのままあの狼は死ぬかもしれない。

「んふふ…まさかあんな狼一匹で大量の魔力を込めたサンダーボルトを打ち付けるなんて…それだけその女に瀕死の怪我を負わせたのが許せなかったのかしら?それとも…私と闘うことはすっかり忘れていたのかしらね?」
「くっ…」

赤髪がローの前に現れ、魔力の使いすぎで上手く身体を動かせないでいるローの顎を持ち上げる。

「あーん…動けなくなってるローちゃんをこのまま攫いたいのだけど…この真実を知ってからにした方がいいわよね」
「しんじ…つ?」
「そうよ…」

クイッと持ち上げていた顎を左に向けて、痙攣を起こしている狼に向ける。

「あの狼…よーっく見ると毛が何色に見える?獣になると色が分かりにくくなるなんて私も新しい発見をさせてもらったわ」
「なに…言ってんだ?」

目を凝らしても白にしか見えない。
何が言いたいんだ…こいつは。

「ロー!この狼はレオンだ!毛が…銀色だ…」
「なっ!そんなわけ…」

赤髪の顔を見るとニヤニヤとローの顔を見ている。
狼がレオンだと言うミルヴォの顔も真剣だ。

「そんな…馬鹿な…」

ローは顎を持ち上げている赤髪の手を振り払い、痙攣で苦しむ狼の元へとフラフラと近づく。

「ほ、本当だ…銀色の毛」

遠くから見ると白にしか見えなかったのだが、光の反射で銀色の毛だということが分かる。

「うそ…だろ?レオン!!」

狼に駆け寄り、抱きしめる。

「おい!ロー、まだレオンの体内には電気が残ってる!お前も感電したいのか!」
「ぐぅぅ…ぅぅ…」

ビリビリとレオンの体内の電気が身体に入り込んでいるのだろう。
だが、ローは離れなかった。

「ごめん…こんな兄ちゃんで…ごめん」
「グル…グウ…ゥゥゥゥゥ…」
「いいわねぇ~…兄弟愛!惚れ惚れしちゃうわぁ…でも…そういうのって…」

赤髪はクスクスと笑いながら顔を手で覆う。
そして笑い声はピタリと止み、顔を覆っていた手を退かすと不適な笑みを浮かべる顔が現れた。

「無性に壊したくなっちゃうのよね」

その言葉を合図にレオンは抱きかかえられたローの腕を振り払い、ローのお腹に噛み付いた。

「うわぁぁぁぁっ!」
「ロー!!!」

ローを咥えたレオンは赤髪の元へローを運ぶ。

「よしよし…お前はいい子だね…。やっと手に入れたわ…ロー…君を」
「くっ…うぅううぅ…」
「帰ってちゃんと手当てしてあげるから心配しないで…それじゃ、弟ちゃんはもうひとりの始末をお願いね」
「グゥゥッゥ…ウゥゥゥ…」
「や…やめろ……仲間には……手を……だすな」
「その反応よ!いいわぁ…もっと…壊したくなっちゃう」

赤髪はローの頬に舌を這わす。

「くっ!やめ…ろ!この…変態…やろぅ…」

そう言ってローは赤髪の腕の中で意識を失った。

「ふふふ…お褒めの言葉…ありがたく頂いておくわ。さぁ、あとの邪魔者は片付けておいてね…弟ちゃん」

赤髪はそういい残し、ローと共に姿を消した。

「くっ!ロー…!」

ミルヴォはルディを治しながら狼となったレオンをみる。

「グオォォォォォッ~~~!!!」
「ちっ!これは…ローが張ったこの結界に命預けるしか道はねぇな…」























「……」

俺は無言で少年を見た。
そんな壮絶な過去をこの年で経験していたなんて。
俺はなんて言葉をかけていいのか迷っていた。

しかし、俺がそんなことを考えているのを分かっているかのように笑顔で少年は俺に向かう。

「…狼になっていたときの記憶は所々しか覚えていないんだ…だからミルヴォとルディがどうなったのかは覚えていないんだ…気づいた時には2人はいなかったから。しかもあれからどれだけの時間が経ったのかも分からないし」
「きっと生きているよ…お兄さんの自慢の仲間なんだろう?」

俺はそっと横に座る少年の肩を抱える。
きっとお兄さんが近くにいたらそうしたであろうと…そう思って。

「それに…きっと罪の無い魔法使いを…傷つけたと思う…」
「どうしてだ?」
「この町に魔法使いが来ると、僕が現れるって言ってたでしょ?きっとあの赤髪が僕に命令したんだと思う…僕に耐えうる魔法使いを探せって…そしたら自由にして力をやるって…」
「お前の言う赤髪って…赤い瞳の腰くらいある赤い髪のやつか?」
「うん。ご主人様、そいつ知ってるの?」

絶対…間違いない、サクラをあんな状態にした…あいつだ。
レオンの兄が気に入られて連れ去られたってことは、俺もいずれは連れ去られるってことか?
おいおい…学校の課外授業でこんな危険な冒険になるなんて思っても見なかったぞ…。
ブラークに一回相談してみた方がいのかもな。
ま、それは追々考えよう。

「じゃ、お前の名前はレオンって呼べばいいか?」
「…いや…生まれ変わったと思って違う名前をつけて欲しいんだ」
「ん~…じゃあ、条件がある」
「…え?」
「俺のことはご主人と呼ぶな…カイトでいい」
「え…でも」
「狼に変化していない少年からご主人と呼ばれるなんていい気分じゃない」
「うん…わかったよ…カイト」
「よし!いい子だ…チェイン」
「…え?」
「俺の知っている言葉で”変わる”のことを”チェンジ”って言うんだ。でもそのままだと名前っぽくないからチェイン…どうだ?」
「変わる…チェイン…」

俺にネーミングセンスがあるとは思わない。
だけど、これが俺の精一杯考えた結果だ。

「うん!いい!気に入ったよ…カイト!ありがとう」

俺の心配を気にせずに大喜びするチェイン。
ま、気に入ってもらえて何よりだ。

俺は安心して電気を消そうとする。

「さ、もう夜も遅い…ベッドに入れ」
「はーい」

なんだかさっきよりもチェインの声が明るくなった気がする。
新しい名前が決まったからなのか、過去を俺に話したからなのかは分からないが…気が晴れたのなら良かった。

俺はチェインがベッドに入るのを確認し、部屋の電気を消した。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

忘れ去られた婚約者

かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』 甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。 レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。 恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。 サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!? ※他のサイトにも掲載しています。 毎日更新です。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

無自覚に世界最強だった俺、追放後にチートがバレて全員ざまぁされる件

fuwamofu
ファンタジー
冒険者団から「役立たず」と追放された青年リオ。 実は彼のスキル《創造》は、世界の理を作り替える最強の能力だった。 追放後、孤独な旅に出るリオは、自身の無自覚な力で人々を救い、国を救い、やがて世界の中心に立つ。 そんな彼の元には、かつて彼を見下していた美少女たちが次々と跪いていく──。 これは、無自覚に世界を変えてしまう青年の、ざまぁと覇道の物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

拾った年上侯爵が甘え上手すぎて、よしよししてたら婚約することになりました

星乃和花
恋愛
⭐︎火木土21:00更新ー本編8話・後日談8話⭐︎ 王都の市場で花屋をしているリナは、ある朝―― 路地裏で倒れている“美形の年上男性”を拾ってしまう。 熱で弱っているだけ……のはずが、彼はなぜか距離が近い。 「行かないで」「撫でて」「君がいると回復する」 甘えが上手すぎるうえに、褒め方までずるい。 よしよし看病してあげていたら、いつの間にか毎日市場に現れるようになり、 気づけば花屋は貴族の面会所(?)になっていて―― しかも彼の正体は、王都を支える侯爵家の当主だった!? 「君は国のために必要だ(※僕が倒れるから)」 年上当主の“甘え策略”に、花屋の心臓は今日ももたない。 ほのぼの王都日常コメディ×甘やかし捕獲ラブ、開幕です。

追放料理人とJKの異世界グルメ無双珍道中〜ネットスーパーは最強です〜

音無響一
ファンタジー
わーい、異世界来ちゃった! スキルスキル〜何かな何かな〜 ネットスーパー……? これチートでしょ!? 当たりだよね!? なになに…… 注文できるのは、食材と調味料だけ? 完成品は? カップ麺は? え、私料理できないんだけど。 ──詰みじゃん。 と思ったら、追放された料理人に拾われました。 素材しか買えない転移JK 追放された料理人 完成品ゼロ 便利アイテムなし あるのは、調味料。 焼くだけなのに泣く。 塩で革命。 ソースで敗北。 そしてなぜかペンギンもいる。 今日も異世界で、 調味料無双しちゃいます!

妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?

木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。 彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。 公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。 しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。 だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。 二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。 彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。 ※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。

異世界国盗り物語 ~戦国日本のサムライ達が剣と魔法の世界で無双する~

和田真尚
ファンタジー
 戦国大名の若君・斎藤新九郎は大地震にあって崖から転落――――気付いた時には、剣と魔法が物を言い、魔物がはびこる異世界に飛ばされていた。 「これは神隠しか?」  戸惑いつつも日本へ帰る方法を探そうとする新九郎  ところが、今度は自分を追うように領地までが異世界転移してしまう。  家臣や領民を守るため、新九郎は異世界での生き残りを目指すが周囲は問題だらけ。  領地は魔物溢れる荒れ地のど真ん中に転移。  唯一頼れた貴族はお家騒動で没落寸前。  敵対勢力は圧倒的な戦力。  果たして苦境を脱する術はあるのか?  かつて、日本から様々なものが異世界転移した。  侍 = 刀一本で無双した。  自衛隊 = 現代兵器で無双した。  日本国 = 国力をあげて無双した。  では、戦国大名が家臣を引き連れ、領地丸ごと、剣と魔法の異世界へ転移したら――――? 【新九郎の解答】  国を盗って生き残るしかない!(必死) 【ちなみに異世界の人々の感想】  何なのこの狂戦士!? もう帰れよ!  戦国日本の侍達が生き残りを掛けて本気で戦った時、剣と魔法の異世界は勝てるのか?  これは、その疑問に答える物語。  異世界よ、戦国武士の本気を思い知れ――――。 ※「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも投稿しています。

処理中です...