心を惑わす紅い華、気持ちを静める蒼い華

niyuta

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第3章 親友の苦悩

真相

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店内はザワザワと騒がしかった。ここはつい一昨日に田上と室町がコンパをやった居酒屋である。

2人用のテーブル席についているのは田上と翔子の二人だ。

二人を知る大学の友人が見たら腰を抜かしそうなシチュエーションである。今日は珍しく二人きりでお酒を飲みに来ていた。

誘ったのは翔子の方であるが、これは翔子にとっても大事件であった。

翔子は今時の女性にしては珍しい程、おとなしい性格なのでこういう場面は今までの人生においても数えるほどしか無いだろう。いや、まったく皆無かもしれない。

翔子はもともとお酒があまり強く無いので普段はあまり飲まないのだが、今日は緊張をほぐす為にかなりの量を飲んでいた。

「今日は無理に誘ってしまってすいません。ご迷惑でした?」

ちょっとろれつのまわらない口調で翔子は聞いた。

「いや、大丈夫だよ。ところで大事な話って何?」

そう、田上は今日、翔子に「大事な話があるんです!」と言われてこの居酒屋に来ているのだ!!

平静を装っているが田上の内心は口から火を吹きそうな程緊張していた……

もちろん翔子は田上に告白をするつもりでいる。

うまくいかないのは分かっている。分かってはいるが告白をする。そして失敗をしてから華の蜜を使おうと思っているのだ。昨日、裏庭から持って来た花はカバンの中に入っている。

田上の「ごめんなさい」を聞いたらすぐに使うつもりである。

実は田上も昨日の朝に裏庭から取ってきた華をカバンの中に忍ばせていた……

田上は思った。翔子はかなりモジモジしている。これはもう間違い無い!告白だ!!告白をされるのだ!!

本当のところ田上はまだ花の威力を使う決心がつかずにいたのだが、考えている暇は無い。

早くも使う時がきた。

「先輩。私……」

田上も緊張してきた。ググッと意味も無く力がはいる。

「……ちょっと私、お手洗いにいってきます」

田上は内心でずっこけていた!!

翔子は緊張をほぐす為だろう。トイレに立ってしまったのだ……

しかし田上は思う。間違い無い!俺は今から告白される!!そして田上は翔子がトイレに入って行くのを確認した。

そしておもむろに自分のカバンから昨日、例の場所で取ってきた【紅い華】を出して、その蜜を【自分】のグラスに入れた。

なんと田上は【紅い華】を持ち帰っていたのだ!!

そして何を思ったか、目の前の相手を好きになってしまう紅い華の蜜を自分のグラスに入れたのだ!!

一方、翔子はトイレで鏡の自分と向かい合い、心を落ち着かせようとしていた。

「落ち着くのよ、私。大丈夫、仮に玉砕したって、この【蒼い華】の蜜があるわ。これをすぐに飲んでしまうのよ。そうすれば……」

そう、翔子は蒼い華を持っていた。翔子は考えて考え抜いた末、やはり蒼い華を自分に使うことを決心していたのだ。

昨日、決心を固めた翔子は授業が終わり、花壇のある裏庭に行ってみると……すでに2本の蒼い華しか残っていなかった。

翔子は拍子抜けをしたがもともと蒼い華を持って帰るつもりだったので関係が無かった。

紅い華がほんの数時間程で消えた理由など考えもせずにさっさと蒼い華を持って家に帰ってきてしまったのだ。

田上はじっくりと自分のお酒が入ったグラスを眺めていた。

田上が頼んだお酒はただのビール、紅い華の蜜をいれたからといって色が変わったりはしなかった。

田上は考えていた。本当にこれでいいのだろうか?悪魔の力を借りて人を好きになったとしてそれが本当の愛か?

悪魔が現れた朝に目を覚ました時、田上の耳には悪魔の「もうこれ以上無い程に相手を好きになります。我慢出来ない程にね」という言葉が山のこだまのように響いていた……

誰かを好きになりたい!と強く願う田上にその言葉は本当の意味で悪魔のささやきであった……

その朝、大学の裏庭に花を取りに行った田上はほとんど迷うことなく紅い華を手にしたのだ。

悪魔と約束をして本来この華をもらうべき人がいたはずである。田上もその人には申し訳が無いと思った。

しかし田上は、心の底から人を愛するという事を知りたいという欲求に勝てなかった……

田上にとって次に重要なのは誰を好きになるかである。

もちろん誰も好きでは無い田上には、好きになりたい相手などいない。

室町が聞いたら馬鹿な話だ!と鼻をならしそうだが田上は真剣だった。そして真剣に悩んだ結果、翔子を選んだ。もちろん翔子が自分に好意を寄せてくれているからである。

それなりには仲がいいし、自分が翔子を好きになれば翔子も嬉しいはずだ!

それだけでもこの怪しい華の蜜を飲む意義が出来る。心の底では悪魔の怪しい薬を飲むことを躊躇していた田上だったが、時までもが自分に味方をしている!……と田上は勝手に思った。

もし、この紅い華を手に入れて無ければ自分は翔子の告白を断っただろう。翔子は失恋をする訳だ。

しかし今はこの紅い華がある。そして自分も本気で燃えるような恋が出来る。

なんだか少し田上はワクワクしてきた。

田上が少しばかりもの思いにふけっていると、トイレで態勢を立て直してきたのだろう、翔子が田上のいる席に戻ってきた。

もちろん、田上に告白をする為だ……
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