ゆとりある生活を異世界で

コロ

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人外との日常

異名持ち

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ワイナール皇国暦286年、6の月



「さて、皆さん集まってくださってありがとうございます」
ロウが座卓を見回すと、ロシナンテ、ロベルト、スコット、リズ、ミア、フワック、トロリー、オムル、ライザー、スー、ハンプティ、ポロが座り、メイドが数人控えている

ロウ達はダンジョン創りの翌日深夜、闇に紛れ帰ってきていて
その翌日の夜、人を集めた

「あらかじめ言っておきますが、これは決まった事の伝達事項です
反対意見は聞きますが変更はしません」

皆が頷く

「と言っても、何がなんだかの人も居ると思うんで
なんぼなんでも全く分からないのも可哀想だから、かいつまんで何故こんな事を始めたかを説明します」

皆が笑いさざめく

「じゃあ先ずは現在のコウトーの経済危機から」

「ん?私にはコウトー経済が危ないとの報告は来ていなかったが?」
ロベルトがスコットを振り返ると、スコットも首を傾げる

「なるほど、では魔獣の大移動はどうですか?」

「うん、それはリズから…と言うより冒険者組合から報告があったと言うのが適切か」

ロウがウンウン頷き
「リズ達が頑張ってて僕も鼻が高いよ」
リズ達が嬉しそうにはにかむ
「では、コウトー経済の1番稼ぎ頭はなんですか?」

「それは冒険者の魔獣駆除による素材採取や、稼いだ冒険者が落とす金だろうね」

「その起点となる魔獣が居なくなっていますが?」

「えっ?それは…魔獣の生態は詳しく知らないが、いずれ戻ってくるか繁殖するんじゃないのかい?」

ロウが頭をフルフルと振る
「戻ってこないでしょうし、繁殖もあり得ません」

「何故かな?」

「簡単な事です。僕と龍王達が居るからです
僕と龍王達が恐ろしくて魔獣達が避難したんです、それも仔連れで、です
僕たちが居る限りコウトー周辺には近寄らないし、仔連れだから次世代の繁殖も無いでしょう」

「う~~ん…確かにコウトー経済には打撃だね…
なるほど、やらかしってのはそれだね?」

「ええ、そうです。それで今回、冒険者の稼ぎ場を創る事にしました
その為に生まれたのが従魔のマヨヒガ、名前は魔世です」
魔世の分体がフヨフヨとロウの前に行く
「本体は別にあって、これは分体になります」

「「「「「ほう…」」」」」
小さいとは言え、キラキラと輝く宝石が浮かんでいるのを見た全員が感嘆の息を漏らす

そしてハンプティの目が魔世よりもキラキラ輝いていた
“意思ある宝石…なんて素晴らしい…なんて素晴らしい…本当に、本当に辺境まで来て良かった。これ以上の土産話もない”

『魔世と申します、宜しくお願い申し上げます』
「マヨだって!ヨロシクって!」

「ほう⁉︎何を言っておるのか解らなかったが名乗っておったのか⁉︎」
「ワラシにはマヨの言葉が解るのかい?」
「うん!我とヴァイパーはマヨのお兄ちゃんだからわかる♪」
「ほう⁉︎なるほど、ワラシの兄弟になるのじゃな?マヨよ、宜しく頼む。ロシナンテじゃ」
「ふふふっ、ロベルトだよ」
「リズですよ、マヨ」
「ミアです、宜しくねマヨ」
「フワックだよ」「トロリーだ」「ライザーだよマヨ」「オムルだ」「スーだよ」

『皆さん知っています』
「みんな知ってるって!」

「あ⁉︎あの!わたくしめはハンプティと申します、こちらのポロ共々お見知り置きを!」
「ポロです」

『知っています、主人様あるじさまの為に外で動いている事も』
「知ってるって!ロウの?うごいてる?」

「??ポロ?解るかね?」
「いえ…えっと…ひょっとしたらロウ様の為に動いているのを知っていると?」

「ポロ、正解」

「はっ…知っていらっしゃったので…」
ハンプティが感動して頬がプルプルする

『主人様が褒美に困っているので、我が代わりに褒美を与えます』
「えと?ロウのかわりに?あげるって!」

「「あげる?」」
ハンプティの前にパサッと金襴緞子の両締め巾着が落ちて来た
「これは?素晴らしい刺繍袋ですな?」

「魔世から、今までの働きへの御褒美だってさ」

「はっ…それはそれは、大事に扱わせて頂きます」
ハンプティが矯めつ眇めつ表から見、裏から見、おもむろに袋に手を入れると……肘まで入った
「はあっ⁉︎」

「良かったね?商人にとって最高じゃない?盗まれない様にね?」

「はっ!ははっ‼︎」

巾着から手を抜き、慌てて胸元で大事そうに抱きしめる
周囲からの羨ましげな視線から隠すように…

「さて、と…魔世の紹介も済んだし、ここで話をしていてもキリが無いから
新たに魔世が創った冒険者の稼ぎ場に案内します
そして、そこで実物を見ながら説明しますね
では、先ずは全員、僕の部屋へ行きましょう
そこから僕の別荘へ案内します」

全員がゾロゾロとロウの部屋へ入ると
「魔世?お願いね」

『承知いたしました』
魔世がフワフワと壁際へ飛んでいき一瞬光ると高さ2mはある楕円の大鏡が現れる

「なるほどねぇ…では、みんな鏡の向こうへ行きましょう」

「あ、あのロウ様!」

「なに?パンデモネ?」

「私たちも良いのですか?」

「構わないよ?タクシャカの御付きでしょ?
それに、ここまできて仲間ハズレは嫌じゃない?」

「はい♪」「ありがとうございます♪」

「まぁ初めては不安でしょうから僕から行きますね?」
あっさりとロウが波紋を浮かばせながら鏡の中へ入り
ワラシ、アナヴァタプタ、タクシャカ、パンデモネ、ノイリマナ、リズ達が続くも、残った男4人が顔を見合わせた
やはり不安ではあるのだろう

「やれやれ、ロウ君が来てから退屈しないねぇ。
私が先に行きましょう」
ロベルトが先頭に鏡に入ると覚悟を決めたのか、ロシナンテ、ハンプティ、ポロが続いた

鏡を抜けた先は妙に明るく感じる夜の平原、先に目に入ったのは
上を見上げて口をあんぐりと開けたリズ達
何事かと見上げれば、扉の無い月明かりに照らされ輝く巨大な門
全員が全員、見惚れていた

「良いですかー?」
パンパンと手を叩きロウが声をあげると、皆がハッと我にかえる
「本当は直接中に入る予定でしたが、敢えて外にしました
この場所はコウトーから東に徒歩で半刻程、秘境の入り口ぐらいの場所です
距離にして…“この世界の人は健脚だからな”10kmぐらい…
でしょうか?
で!ロベルト叔父さん!」

「うおっ⁉︎はい!」

「この門傍に冒険者組合の出張所と兵の駐屯所を造ってください
最初は掘っ建て小屋で大丈夫です、後々拡張しましょう
後は冒険者組合管理の格安簡易宿泊所ですね
先に、それさえあれば何とかなるでしょう」

「うん、了解した。で?出張所の役割りは?」

「中に入る者達のチェックをします。でなければ中で力尽きた者が行方不明のままになりますからね?
駐屯所は冒険者の戦利品狙いの輩を取り締まる為です
この場所は上手くいけば冒険者目当ての市が立ちます、いわゆる参道です
立ち退き交渉なんか面倒事でしかありませんから、その前に場所確保をしなければなりません」

「うんうん、なるほどね?理解した」
「ロウ様?」

「なに?ハンプティ?」

「我々が先に支店を建てて区画を切り売りするのは?」

「ダメだ、自由競争にする。僕のお膝元で独自利権は許さない
それに、個人で利の匂いを嗅ぎとって直ぐに来る者は使える
そういう者は、個人のままに取り込んだ方が役に立つ
閃き、嗅覚、腰の軽さ、権力争いに巻き込むには惜しい
真っ当に商売で競争してもらいたいね
でも、ハンプティが先立って支店を立てるのは賛成だよ
呼び水になってくれるのはありがたいからね
僕の部下としての特権で冒険者組合と組んで素材や宝の買い取りをしてくれてもいい
その代わりにコウトーからの道を整備して?
馬車3台が横並びで走れるぐらいの道幅で。
道自体は自然に出来るだろうけど、それじゃあ発展は望めないだろうからね」

「なるほど、流石はロウ様。
ロウ様の部下としての義務と権利ですな?
また感服致しましたよ、グフフフフフ…
そして、住居と酒場は造らせない様にしなければなりませんな?」

「ふふっ…僕みたいな子供に嫌な言葉を言わせないでくれるハンプティには大助かりさ」

ロウとハンプティの出会いを知らないロシナンテとロベルトが目を剥いていた



「さて、ざっくりと外側が片付きましたから中に入りましょう」

全員が鳥居を潜ると景色が一変し、柔らかな陽射しが降り注ぐ桃源郷が現れると全員が硬直した

「もしも~し?気持ちは分かるけど先に行きますよ?」

「「「「「あ…はい…」」」」」


日本庭園を横切り、竹藪を抜け茅葺き一軒家が見える

「これが僕の別荘です、魔世が創ってくれました」

ロウが縁側から上がっていくと、今日は人数が多いからか囲炉裏板張りではなく畳敷きの部屋になっている
それを見たロウが「流石は魔世だ分かってるなぁ~♪」と満面の笑みを浮かべ、どっかり座る

「お褒めに与り光栄です、主人様」
奥の間から魔世が茶を載せた盆を持って出て来ると、ロウに釣られて座ろうとしていた面子が再び硬直する

「「「「「「マヨ⁉︎」」」」」」

「はい?」
魔世が可愛らしく首を傾げる

「「「「「「………」」」」」」

「はいは~い、もういいでしょ?この子は魔世のうつし身。本体はこの空間全て。あの門を潜ってから魔世の胎内です」

「何が何やら混乱するわい…」
「ちょっと頭の整理が追いつかないね…」
「ふ~む、私が聞いていた話しはまだまだでしたなぁ…」

「ハンプティ?それは褒め言葉じゃないから
さて、話しを進めます
冒険者達に伝える事もあるから、ミア達はなるべく聞き漏らさないように」

「「「「「「「はい!」」」」」」」

「先ずは、この家には僕の許可が無いと何人なんぴとたりとも入れません
ですから、誤って冒険者などが入る事はありません
冒険者達が最初に見るのは広大な魔獣溢れる平原、その奥に迷宮の入り口があります
なので、魔獣を倒すなり躱すなり迷宮入り口まで辿り着ける実力が無いといけない
この平原は初心者の練習場扱いでいいでしょう
それに、強力な魔獣が出ないから魔獣素材は安い物しか採取出来ないので、ここに腰を据えて狩場にしても儲かりません
いや?消耗品など考えると収支はマイナスでしょうね?
これは、冒険者組合でしっかりと説明しないといけないよ?」
リズ達が頷く

「次は迷宮に入れる者たち、ここからが本番
ここからは強力な魔獣やモンスターが出ます
とはいえ、段階的に下に降りるほど強くなるから浅い階層は少し緩いです
しかし、油断すると確実に命を落とすでしょう
それは魔獣やモンスターに負けるかもしれないし、罠にハマるからかもしれない
これは探索する者の運もありますから一概に言えませんね
でも、後で少し見せますが階層に見合った宝を用意します
魔獣やモンスターの素材と宝、命を賭ける価値を与えます
そして、1番大事なのは迷宮の形状は魔世の気分で変わります
中層階から下は、なるべく変えない様にさせますが浅い階層は変化します
地下1階は変化しない広大な迷宮ですが、それから下は迷宮のままの場合、密林、砂漠、都市
まぁ、伸び代がない冒険者は地下2階で頭打ちでしょう」

「ロウよ、儂は最下層まで行けると思うか?」

「無理です。最下層まで行く途中にアナヴァタプタとタクシャカの僕龍しもべが暮らす階層を創ります
中位龍と下位龍が1000頭単位で住む場所を突破出来ますか?」

「むう……しかし、それでは永遠に踏破出来る者が現れぬぞ?」

「そうですね、僕もそう思います。ですが僕も砂の楼閣を造らせようとは考えていませんよ?
最奥の宝を手に入れ食べた者は超人になれるでしょう
下手をしたら龍王と同等か凌ぐかもしれませんね」

「なんと⁉︎」

「ふふっ…リズ、冒険者組合で説明する時は今のを踏まえてね」

「はい!」

「次はお宝、浅い階層の普通の宝はソコソコの価値がある武具や装飾品、鉱石
深くなるほど価値が上がる様にします
例えば鉱石であれば銀から金、そしてミスリルですね」

「「ほう⁉︎」」
「ミスリルとは豪気だな?」
「我々魔導士としてはミスリルは垂涎ものだね」

「え?そうなんですか?」

「そうだよ?ミスリル製品は魔導士の為にある鉱石と言っても過言ではないよ
なにしろ魔力の伝導率が高いから魔力の消耗が抑えられ、効果が数段階上がるからね」

「なるほど」
『コストパフォーマンスが良いんだな』
「では、ミスリル製品を使っているんですか?」

「そうだね、魔法杖staffの芯に使っていたり、ローブに編み込んであったりね」
「儂の異名もミスリルのお陰だ」

「へぇ?御祖父様とロベルト叔父さんはミスリルが出る階層ぐらいは攻略出来ると思いますよ?挑戦してみますか?」

「お?入っても良いのか?」

「ええ、構いません。ただし単独ソロではダメですよ?
と言うより、ソロでは浅い階層までしか攻略出来ないでしょう
獲得した宝や素材を運ぶのも考慮していかないといけませんからね」

「なるほどのぅ…探索する前の準備から攻略が始まっているのだな?
よし、ではメンバーの1人はキホーテだな」

「はあ⁉︎御祖母様⁉︎一体全体何をバカな事を言ってるんですか⁉︎」
パンデモネ、ノイリマナ、リズ達が目をひん剥いて頷いている横でロベルトがニヤリと嗤う

「何を驚いておる?【英雄の成り損ね】の嫁が儂より弱い訳が無かろう?」
さも当たり前の様に言うロシナンテ

「いや…いやいや…冗談ですよね?夫婦関係の比喩ですよね?」

「何が冗談や比喩なものか、【狂風のキホーテ】だぞ?
高笑いしながら下位龍を寸刻みにしておったのう
若いアイリスを力で捩じ伏せた事もあったな」

ロウを筆頭に全員が愕然とした



「くっ…いかん…あまりの衝撃に放心しちまった、狂風…なんて破壊力だ…

ま、まぁ御祖母様の話しはまたにしましょう…リズ!」

「あっ⁉︎は、はい!」

「今までの話しは飛んでないよね?覚えているよね?」

「は、はい、精霊も使っていますから大丈夫かと思います…」

「うん、じゃあ大丈夫だね
他の皆んなは?ミア?フワック?」

「すみません…正直自信がありません…」
「すみません、アイリスさんの名前が出て飛びました…」
「「「「俺もです、すいません…」」」」

「うん、怒る気にはなれないね
僕ですら同じ事を寸分違わず話せる自信がない…」

「ロウ?」

「なに?ワラシ?」

「あのバーちゃんがスゴイのか?」

「うん、そうらしいね?」

「我よりもか?」

「え⁉︎いや、ヤメて?勝ち敗け以前に闘っているのを想像したくない…」

「わかったー!」



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