ゆとりある生活を異世界で

コロ

文字の大きさ
上 下
120 / 184
ゆるり辺境生活

試される決断力

しおりを挟む

ワイナール皇国暦286年、7の月




「まずは私の家族を紹介しておこうかな
今後、どこかで再び会うことがあるかもしれないからね」

食堂のテーブルに着席し、コロージュン公爵一家を目の当たりにしてカチンコチンに固まるガロ一家の緊張をほぐそうと、ロマンが声をかけるも

「あっ⁉︎いや、畏れ多いですから!
俺、いや、私どもからします。公爵様!」

ガロが慌てて“ガタン”と席を蹴立てて立ち上がり、しまった!という顔をして赤くなるも
その場のコロージュン家、バスチャ、ハンス、アイリス、メイド達の誰もが責める事なく微笑んでいる

「そうかね?ではガロ殿からお願いしようかな」
そして、何事も無かったかのようにロマンが促す

「は、はい!では、まずは私から
ガロと申します、皇都に来る前はダムド領で冒険者をしていました
皇都に来たのは息子に勉強をさせる為です
その息子が、この…」
ガルムを立たせて
「ガルムです!7歳になります!」
ガルムも元気よく立ち上がるも、メイドがソツなく椅子を引き、ガロの時の様にはならなかった
「そして、妻のキリムと娘のキアンです」
キリムとキアンも立ち上がってお辞儀するも、その表情は緊張で固い

「うん、ありがとう
では、私の家族も紹介しようか
まずは私、ロマン・コロージュンだ
そして妻のクローディア、君達は既にクローディアとの子、ロウには出会っているね」
「クローディアですわ、ロウの母になります
ようこそ御出でになって」
クローディアが立ち上がり優雅に微笑む

「「「「は、は、はい」」」」

「こちらも妻のアルモア、そちらに居る双子、ロドニーとカミーユの母だ」
アルモア、ロドニー、カミーユが立ち上がり
「アルモアですわ、お話は予々かねがね
「ロドニーです」「カミーユです」

「「「「はい!」」」」

「そして、妻のエリーとその子、ロジャーとマリー」
エリー、ロジャー、マリーが立ち上がり
「エリーですわ、利発そうな嫡男様と、御器量が良いお嬢様ですこと」
「ロジャーです」「マリーです」

「「「「ありがとうございます!」」」」

「うん。そしてガロ殿達を迎えに行った執事長のハンスとメイド長のアイリス
彼等は最近、私達の一族に迎え入れてね。今はコロージュン分家の立場だ」

ハンスとアイリスは微笑んで一礼する

「「「「えっ⁉︎」」」」
「そんな方が迎えに来てくださったのか…」

「そして、君達家族を探す事になった話を持ってきたバスチャ」

「初めまして、ガロ様、御家族の皆様
わたくし、ケセイ大蔵典長の執事をしております
バスチャ・センと申します。
お見知り置きください」
初めから座ることなく佇んでいたバスチャが、鳩尾みぞおち辺りに右手を充てて丁寧に一礼すると
“バスチャは相変わらずだ”とロマンが含み笑う

「「「「あ、はい」」」」
「その…大蔵?典長?えっと、私は田舎モンでよく解らないんですが…」

「まぁ、その話を含めて、食事でもしながら話そうか
全員座りなさい
ハンス、アイリス、頼むよ」

「「畏まりました」」








カエルの様な姿の中位龍の舌が伸び、マチカネ教徒に貼り付いたかと思うと
凄い勢いで口まで運ばれる
「うわ⁉︎うわあぁぁぁぁ⁉︎」
そのままパクリ……と喰われるかと思いきや
まん丸の鏡になっていた魔世に放り込む

「魔世、ヤツラは広い龍の階層に満遍なくね」

『はい、承知しています』

「ククク…ヤツラが大好きな龍達の真っ只中に放り込んでやれ、それは本望な事だろう
なにしろ龍が1000単位でるんだ
そして、自らを供物くもつとして死ぬまで龍とたわむれるがいい
魔世?」

『はい主人様あるじさま

胎内ナカの龍達には簡単に殺さないように言っておいてね」

『はい、勿論です』

「あ、こっちに来てくれた龍達は不満に思う必要は無いからね
まだ、敵本拠が残ってるからね、それは君達の獲物だよ」

「「「「「うむ!」」」」」


「クラリー、ソニアー、タインー?」

「「「なにー?」」」

「神殿に住んでた子は全部連れて来られてるー?」

「うんー!」
「でもねー!ちょっと多いー!」
「知らない子もいるー!」

「は?なに?まさか途中で拐ってきてんのか⁉︎
ドサクサに紛れて?じゃあ、その子達も孤児?まさか親からはぐれた子じゃないよな?
問題発生した!ちょっと後ろに行ってくる、龍達は突入を待って!
とりあえず教徒全員を魔世に放り込んだら待機で!」

「「「「「承知」」」」」





“カチャ…カチャカチャ…カチャ…”
食事が運ばれて全員が食べ始めたところで、おもむろにロマンが話し出す
「さて、バスチャ?どこから説明するかね?
ある程度は私が話そうか?」

バスチャがナイフとフォークを置き、ナプキンで口元を軽く拭うと水を軽く飲み
「ありがとうございます公爵様。ですが、それには及びません」
とロマンに軽く頭を下げて、座ったままながらピシッと姿勢を正し
「ガロ様、わたくし主人あるじは皇家に仕えていて
皇都…いえ、皇国。ワイナール皇国ですね
その経済。金の流れを仕切る部署のおさをしております
その役職名が大蔵典長でございます」

「「「「ヒェッ⁉︎」」」」
「こ、こ、皇家⁉︎と、と、とんでもねぇ…
そ、そ、そんな雲の上の御方々に仕えている御方の執事様が…」

「雲の上?なるほど。しかし、そう緊張なさらなくてもよろしいのですよ
ガロ様が仰る雲の上の御方は、こちらにも我々の元へ降りてこられていらっしゃるではないですか」
と、ロマンに平手をかざす

「「「「え?」」」」

「まぁ御存知無いのも仕方ありません
ワイナール皇国皇帝陛下とワイナール四公爵様は同格でらせられます
それも当然ではありませんか?
皇家も四公爵様も皇国創世時は五英雄として上下の無い関係だったのですから
皇国創世記や英雄叙事詩はお読みになっておられませぬか?
まぁ読んではいても最後の方ですし、皇家と公爵家と言う上下がある様な言い方ですから
世の人々が気付かないのも当然ではありますが」

「「「「………」」」」
ガロ一家がポカーンとなるも
「あ!そうですよね!
英雄シュトロムが少し弱くて、それを補い盛り立てる為に他の四英雄が英雄シュトロムを護るべく自ら公爵になって
英雄シュトロムを皇帝に推し立てたのですよね!」
と、いち早くガルムが反応した

「ほう⁉︎ガルム君はお読みになっていたようですね
あの長大な物語を読み込むとは、その幼さで大したものです
なるほど、これは御話相手に相応しいかもしれません」
とバスチャがロマンへ微笑む

「ふふっ…ロウの紹介だからね」

「あゝ、左様で御座いました
やはり、あの御方は底知れない」

「そ、その…もう頭が回ってしまいます…
そんな…そんな御方々が田舎モンの獣人に、家族に何の御用をしろと仰るんでしょうか?」
ガロが言うとキリムとキアンも無言でコクコクと頷く
しかし、ガルムは眼をキラキラと輝かせている

「ふむ…では、本題に入りましょう
まずは一通りお話しますので、質問などは後からお伺いします」
と前置き
「実は、さる御方が急々にヒトを必要とされる事になりました
それは護衛であり、身の周りを整える者であったりと多岐に渡ります
そして、その御方とはワイナール皇国皇帝陛下の第二皇子でいらっしゃいます
そんな御方が何故急に。と思われるでしょうが理由はあります
その理由、簡単に言えば、今まで居なかった。という理由です
では、何故今まで居なかったのか。急に必要とされるのか。
それは、今までは皇子という立場で満足されておられたから必要性が無かった。
しかし、今回、とある事情があって立太子を目指される事となりました
となれば、単純に敵が増えるのです
ですから護衛等の人員、すぐ御傍でお仕えする者達が急遽必要となります
しかし、有象無象を御傍に置くわけにもまいりません
極力万難を排して、御心安らかに過ごされ
そして、立太子へと邁進して頂く必要があります
そこで、第二皇子様と親しくされているコロージュン公爵様に御無理をお願いし
今回は、たまたま公爵家惣領様の御力添えも戴き、ガロ様、そして御家族を紹介頂いたのです
公爵家惣領様。いえ、ロウ様にはわたくしも1度だけ御尊顔を拝し、親しく御話をさせて戴きましたが
わたくし如きが烏滸がましいのですが、とても信頼が置ける御方だと確信致しました
そんな御方がガロ様と御家族を御紹介下さいました
それに否やはありません
いえ、むしろわたくしとしては諸手を挙げて歓迎すべき事です
御理解頂けましたか?
質問があれば伺います」

バスチャが語る事をポカーンとして聴いていたガロがハッと我に返ってブルブルっと震え
「いや…いやいや……俺…いや、私は田舎でしがない冒険者をやっていたオスなんですよ⁉︎
いくらロウ?様?が推薦したからって、こんな粗雑な者が高貴な御方の御傍近くに御仕えなんてありえませんって⁉︎
もっとこう、教養?とか礼儀?を身に付けた適任者が居るんじゃないですか⁉︎」

「ふむ。ガロ殿、良いかね?
ガロ殿が今言った教養や礼儀なんて取るに足らない事柄だね
そんなモノは心掛け次第、後でいくらでも身に付くものだよ
それに、いきなり貴族並みの教養や礼儀作法等は求めていないのだよ
第一義は信頼に値するか。が大事なのだよ」

「公爵様の仰る通りでございます
教養や礼儀作法等、皇宮で暮らせば嫌でも自然に身に付きます
我々が求めているのは誠心誠意、シュルツ皇子様に御仕え出来る事なのです
そしてシュルツ皇子様が挫けそうになった時には、寄り添い支えてあげて欲しいのですよ」

「「「………」」」
「そ⁉︎わ、私らのような亜人では不敬ではないですか?」

「ありません。皇国は亜人差別を公式に禁止している国です
人種平等の国なのです
立場での区別以外、あってはならない国なのですから」

「表向きはそうなんだろうが…」

「そう、表向き。いえ、建前とはとても大事な事です
実際にはそうではなくても、建前さえあれば公然とは非難されないのです
そして、皇宮とはワイナール皇国で公然とした最たる場所なのですよ
御判りになりますか?
と言う事は、ガロ様を非難する者は罰せられると言う意味にもなります」

「そ、それは権威の傘の下の強権なのでは?」

「強権ではありません。法です
法とは上手く使えば強いチカラを持つものです
そして、法に逆らう者達は報いを受けるものです
ガロ様も御覧になったのではありませんか?あの龍禍りゅうか
皇都では、あの時被害にあった場所は龍の罰を受けたとの認識になっております
そして、そうしないとあの時顕れた巨大で強大な龍を討伐しなければなりません
出来ますか?出来ないでしょう?
誰が考えてもヒト種には無理なのです
ですから建前が必要となります、龍の法を破ったのだと
少し話が逸れましたが、以上の理由でガロ様の心配は取り除けます
後はガロ様の決断次第でございます
それとも、まだ御懸念は払拭されませんか?」

「あ、あゝ、いや、私が護衛として仕える理由は解ったし、
本当にそうなるかは解らんが、獣人が傍に居ても心配は要らなそうだとも思えた
しかし、妻子は何をすれば良いのだ?ですか?」

「あゝ、それは身の周りのお世話、ですね
奥方は何もした事がないと仰っておられましたが
それでも御一緒になられてからは家内の事をされてきたのでしょう?
それを拡大して頂くだけです。お嬢様と共に
いかんせんガルム君は、まだ子供ですから出来る仕事などは無いでしょうが
そこは学問好きなシュルツ皇子様、後々出来る事があるでしょうが、初めは御話相手からになるでしょう」

「むう…なるほど…キアン、キリム、ガルム、どうだ?
俺は受けようと思うが」

「お父さん、アタシはやるわ!そして皇子様のお気に入りになってみせるわ!
こんな好機は一生に一度も無いかもしれないんですもの!」
キリムが鼻をフンス!と鳴らして意気込む

「お…おう……ガルムは?」

「父さん、この話を受けないと学院には行けないんだよ?
受けるに決まってるじゃないか!」

「う…うん……そうだったな……じゃあキアンは?」

「私は…正直、不安です…こんな田舎出の草臥くたびれた虎獣人のオバちゃんが高貴な御方の身の周りをお世話するなんて…
ですが、みんながするのならば私だけが家に居るなんて出来ませんから
立派にお仕えしてみたいと思います」

「うんうん、そうか、そうか…ではバスチャ殿、どこまでしっかりと務めを果たせるか分からんが
ウチの家族全員で世話になろうと思う、思います」

「はい、それは重畳
わたくしも安心いたしました
では、食事を戴きましたら皇宮へ向かいましょう
いきなり、皇居内には無理がありますので
まずはケセイ邸にて我が主人のケセイと、シュルツ皇子様に来邸戴き、面通ししていただきます
その後、直接シュルツ皇子様に皇居内進入許可を頂く手筈になっております
そして、ガロ様御家族の部屋を用意してありますから入居してください」

「じ、準備万端なんだな⁉︎私らが断った時の事は考えていなかったのか?ですか?」

「クククッ…せっかくロウが推薦してくれた者達を私が逃すはずもなし
父親として、そんな不様を晒してしまえば息子に見限られてしまうよ」

「ふふっ…それに公爵様は、ガロ様取り込みの複数の手を考えていらっしゃられたのではありませんか?」

「クックックックック…当たり前だろう、私は公爵だよ」
「「「ウフフフフフ…」」」
「「「「クスクスクスクス…」」」」

コロージュン家の皆が笑い、ガロは果てしない迷宮に踏み込んだかのような夢見心地になった







ロウが腕を組んで難しい顔をしてヴァイパーの元へ戻ってきた
「まいったなぁ…5人もいるのか…
そして、5人ともに親が居るとか……
しかもマチカネ教信者の子…
どれが親か解らない以上は巻き添えで殺しちゃうかもしれないぞ?
くっそ!バカ共がくだらない手ばっか打ちやがって‼︎
…しかし効果的だ…」

「ロウ殿、如何するのか?」
「あまり刻をかけるのは良策ではないと思うが?」
「うむ、一気呵成に攻め滅ぼす方が良いのではないかな?」

「そう…確かにそうなんだ
その方が後腐れなく終わらせられるのも解ってる…
しかし、アロのエサになっていたかもしれない孤児を助けるのは構わないんだけど
孤児達と知り合ってしまった子を孤児にしていいのか?と思えば
それは断じて否なんだ
そりゃあ、そのまま攻め込んでいたら知らずに孤児を生み出したかもしれない
でも、それは俺の認知外なんだ
自分があずかり知らない事柄なんて知った事じゃあない
《ふ~ん、運が悪かったね》で済ませてしまえる
高度に福祉化された文明ならば孤児でも8:2で生きていける
けど此の世はそうじゃない、数字は逆転して8:2で死ぬ
それだけ無条件で子供を保護し育てる親は必要なんだよ
信者の親は少なからず孤児達がエサになっているのを知っていたはずだから同罪だと断罪する事に否は無いんだが
俺と知り合ってしまった、その子供にまで罪を償わせるのは違う気がするんだよね
そして、案の定と言うべきか子供達は事実を知らなかった
いや、聞かされたかもしれないが理解出来なかったのかもしれない
それぐらいヒト種の幼い頃は理性知性が育っていない生き物なんだよ」

「??ロウ殿は、あの大多数の子供達より幼く見えるが?」
「うむ、確かに我にもそう見える」

【プー、クスクスクスクス…】
『クスクスクスクス…』

「そ、それは…事情があるんだよ!
あまり気にしないでくれると嬉しいな‼︎
と、とにかく!そんなに時間はかけないから考えさせてよ!
答えが出なかったら、俺も仕方ないって諦める!
ん?そういえば、あの子供達の中に入れられた経緯を聞いてなかったな…
俺とした事が、少し慌ててたみたいだ
売られたり、捨てられたんなら気兼ねなく行動出来るんだけど…」









しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

仲良しな天然双子は、王族に転生しても仲良しで最強です♪

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:688pt お気に入り:305

婚約破棄上等!私を愛さないあなたなんて要りません

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:149pt お気に入り:4,579

気だるげ男子のいたわりごはん

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:881pt お気に入り:17

処理中です...