ゆとりある生活を異世界で

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新しい目覚めは狛犬と

メイドの務め

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ワイナール皇国暦286年、1の月


コマちゃんがやって来て10日過ぎた朝がきた
フカフカベッドから半身起こして伸びをする

「この世界にきてから、すっかり朝日の光で目覚める身体になったなぁ」
と独り言ちる

「さて、コマちゃん起こすかぁ」

今のコマちゃんはベビーベッド揺り籠にフカフカクッション敷いて仰向け大の字で寝ている
なんか色々と間違っている気がするけど、まぁいい

コマちゃん来邸2日目に何処から持ってきたのか、ロドニーとカミーユが2人がかりで運んできた
なんでも「コマちゃんが兄様のベッドで一緒に寝るのが悔しい」らしい
本気で意味がわからん

今まで体が無く、睡眠という行為が初めてだったコマちゃんが喜ばないはずがない
そりゃもう大騒ぎさ

「ようコマちゃん、朝だぞ、起きろよ」

【うう~ん…トマトが食べたいんじゃないんだよぉ…】

「なに寝ボケてんだよ、ほら、早く起きれ!」

【う~ん…目覚めのモフモフしてぇ~】

「うるせーよ、寝起きの彼女みたいなこと言うな
言ってるの微妙に人間じゃねーし
あ、獣人ならアリか
ほら、サッサと起きて風呂に行くぞ!」

【しょうがないなぁ~も少し優しくしてもバチは当たらないよ?】

「創世神が言うとホントっぽいからヤメレ
つか、今まで寝た事無いくせに何でそんなに寝るんだよ?」

【う~ん、それは私にも分からない、この体に引きずられてんのかな?】

「ふ~ん、実体持ったらそんなもんなんかね
つか、ほら、早く風呂に行くぞ
他の人が迷惑すんだから!」

【tattooぐらいそんなに気にする事ないんじゃない?】

「気にするわ!つか、なんでtattoo復活させたんだよ
祝福から急にそんなんあったら変だろうよ」

【いやぁ、だってさ、そのtattooって凄い思い入れあったじゃん?
自分でデザイン考えて友達の彫り師に頼んでさ
だから丁度いいかって魔素吸収紋の代わりに復活させてみたんだよ
だってさ、見た目がデザイン化した魔方陣みたいじゃない?
こうなるの予測してたみたいにさ
だから、使ってみよーってさ

そしたら、思いの外tattooデザインが良かったみたいで
魔素吸収どころか魔力放出まで自在にするとは思わなかったなぁ
でもこれでMS-05・アタック出来るよ
(シロウトめ、間合いが遠いわ!)って言えるよ

でも、左二の腕のペガサスは復活してないから良いじゃん】

「言わねーよ!
フッ、ボウヤだからな

そりゃ思い入れはあるさ、娘の名前と俺の名前をデザイン化してんだもんよ
だからってさ…
はぁ…もういいや、風呂行くぞ」


祝福の日、晩飯に行こうとしたら
コマちゃんが体のチェックしといた方がいいよっつーから
なんで?って思ったんだけど
右二の腕見て凍りついた
tattooが復活してるのも驚いたけど、薄っすら光ってるし…
自分の二の腕の外側って意識しないと見ないもんなんだな

親や弟妹に見られたら、どう考えても言い訳が思い付かない
だから晩飯時に皆んなに告げた
「理由は言えませんが
少し特別な事情があって、明日から僕とコマちゃんだけは早朝にお風呂に入ります」

すると、弟妹達はコマちゃんと風呂に入りたいとブーブー言っていたが
父と母達が無条件で同意した
のみならず俺とコマちゃんが風呂に入っている間は家の者達が浴場に近寄る事を禁じる始末だ
物分かりが良過ぎて、さすがに気持ちが悪かったから
「理由は聞かないのですか?」
思わずアホな質問をしてしまう

「あっはっはっは、理由は言えないって自分で言ったじゃないか」

ごもっとも…

「それに、コマちゃんとロウがそうする必要があるからなんだろう?
だったら、私達に嫌なはないよ
ねえ?クローディア、アルモア、エリー?」
「「「ええ、まったく問題ありません」」」

…問題が無いらしいから風呂に入る、それでいいのだ…


風呂から上がって少ししたら朝食だ
家族の皆が三々五々集まってきて
いつもの和気藹々とした食卓を囲む
朝食終わったら今日は何するかな?
って考えていると
アイリスメイド長が
「皆様、少し宜しいでしょうか」

「どうしたんだい?メイド長?」

「はい、先日、暫く里帰りしたアンの代わりの者が今日から奉公しますので紹介致します」

「おぉそうなんだね?」

おや?にこやかな父の目だけがチカッと光った様な気がしたな

「はい、ミア、こちらへ」 

「はいメイド長、公爵家御家族の皆様、初めまして
今日から奉公させて頂きます、ミアと申します
これから宜しく御願い致します」
深々と頭を下げた

「アンによると、こちらのミアは腕を買われて諸侯の御屋敷を廻って居たので安心して留守を任せる事が出来るそうです」

『おぉ、すっげ美人だな!!
見た感じネコ科みたいだけど、ありゃ豹かチーターだね
黄と黒ツートンのウェーブがかったショートヘア、獲物を見極めるような切れ長の目、スッと通った鼻筋、獣人だから上唇が割れてるけど引き締まった口
何より動きがしなやかで衣摺れの音さえしない
メイドじゃなくて忍者みたいだな
忍んでそうだ
背は他のメイドと大差ないみたいだけど高く見える
ありゃアレだな、背筋がシャンと伸びてて姿勢が良いんだな』

「ワフ」(一目見ただけで、そこまで考える君に感心するよ)

『前世じゃ、コレのおかげで名前は忘れても顔は絶対忘れなかったからな
水商売じゃ重宝するんだよ

でも、コマちゃんを見る目に変化がないな?
ウチのメイドの中じゃ初めてじゃないか?
残念だったなコマちゃんw
でも、同じ獣系だから興味ないのかな?
けど、他の獣人系メイドは眼の色変えてモフりにくるしな?
って事は、ワザと気にしないフリしてる?
なんで?
あちこちの諸侯を廻ってた?
本来、家政を任せられるメイドがそんなに動き回るか?
この世界の渡り仕事人に対する評価がわからんなぁ
普通は、ひとっ処で仕事熟さないと家政って任せられんわな?
それも、諸侯っつったら地方やんな?
地方を廻ってた出来るメイドがイキナリ公爵家に?
話としてはアリっちゃアリか?
でも、こうやって俺が疑問に思うってこた何か変だよな?
なんも無くて、身体能力が高そうだから俺が無駄に警戒してるだけならいいんだけどな…』

「ワッフ?ワフ?」(考え過ぎじゃない?いやホントに考え過ぎ、1回挨拶しただけだよ?)

『これぐらいの思考は長年オープンキッチンの店してる様な人だったら普通だろ
チート無しで並列思考紛いの事は出来るんじゃないかな
常連だったら顔色見ただけで、その日の味付けの好みすら分かるよ?
顔色を伺うってな悪い言葉じゃないんだぜ?
本来は相手を気遣うって事なんだから

でも、うん、そうだよな
残念姫の事があったから気にし過ぎたのかもな』

「ワウ…」(残念姫…)
ブルッと身慄いした





一通りの挨拶が終わったミアはアイリスから邸内を案内される

「ここがロウ様のお部屋です
ロウ様は私達が部屋の掃除をするのを好まれませんから注意するように
あゝ心配しなくても御自分で掃除しておられます」
キチンと整理整頓された部屋を見渡す

「公爵家の惣領が御自分で掃除をなさっているのですか!?
そんな話は初めて聞きました!?」
「お部屋に他の誰かが入るのを嫌がっておられるのでは無く
『ただ単に掃除が好きなんだよ』と仰ってましたね」
「変わった御方なのですね…
でも、今は少し前に来られたコマ…様?が居るのですから抜け毛とかで大変そうですが?」
「それも『やり甲斐がある』の一言でした
そもそもロウ様は幼少の砌より、何でも自分でサッサとしてしまわれる手のかからない方でしたからね」
「そう…ですか…」
「そうそう、それと、コマちゃんです、様付けは必要ありません」
「え?しかしそれは?」
「心配しなくてもお叱りは受けません
ロウ様曰く『コマちゃんは、コマちゃん迄が名前と思ってコマちゃんで良いよ、コマちゃん様って変でしょ?だからコマちゃん』との事です
少し頭がこんがらがりそうですけどね、オホホホ…」
「は、はぁ…」
「では、次はロドニー様の部屋へ行きます」



ミアの初日の仕事はコロージュン家の大まかな者との挨拶と邸内を案内される事で少し早めに終わり
アンが使っていた4人部屋へ戻っていた
まだ他の3人は戻っていない、夕食の準備をしているのだろう
毒気を抜かれた顔をして自分のベッドに倒れ込む
「あーもう、やりづらい…
公爵家の長男坊が自分で率先して掃除するってありえないでしょうよ!
それに、長男に感化されて下の4人も掃除してるなんてどういうこと?
ココって4英雄の1家よね?
部屋に入るのは問題無いらしいけど、用も無いのに入れるわけないじゃない
どうやって調べろよってのよ」

実はロドニー、カミーユ、ロジャー、マリーが掃除を始めたのはココ数日の話だったりする
理由は従魔が欲しいから兄の真似をすると言う可愛い理由
その理由はコロージュン家の皆が知っている事ではあるが
来たばかりのミアには、まだ知る術は無い

「アン以外にも皇家の間者は居るって話しなんだけど
失敗しても一網打尽にならない様、それぞれが誰か分からない様になってるみたいだからアテにならないし…」

現在、アンは皇家にコロージュン家の近況報告をした後は身バレを防ぐ為に西の諸侯の屋敷に向かっているから
ミアの苦悩を知る由もなく
乗り合い馬車に揺られながら「頑張ってね、ミアちゃん」と気楽なものだ


その日の深夜、薄暗い廊下を歩くミア
行き先はロウの部屋に忍び込むつもりだった
情報収集がままならないならば、本命をサッサと済ませてオサラバするのが手っ取り早いとかんがえて…

同室のメイド達が寝静まってから部屋を抜け出し廊下を歩く
(当たって砕ける訳にはいかないけど、それに近い事をしなけりゃ命令完遂出来ないわよね)
とスッスッと歩いていく


ミアの少し後を完全に気配を消した影が付いて行くのも気付かずに…



「うん?コマちゃん、誰か来てるぞ?」
【こんな深夜に?】
「あゝ微かに気配がコッチくる
ん?あぁこれは忍んでんのか、って事はミアちゃんだろ」
【あら?夜這いされちゃうんじゃない?一目惚れしましたー!とか?前世でも経験あるじゃないw】
「冗談だろ!?6歳だぞ?俺ぁ皮も剥けてねーよw
さ、戯言はここまで、魔導律書片して寝たフリしますか」
【はいよ】



微かにカチャリとドアを開けた音がする
部屋の中は暗いが夜目が利くネコ科の獣人には苦にならない
ゆっくりと揺り籠に近付きコマちゃんの様子を探る
寝息を立てているのを確認すると
懐から小瓶を取り出し、コルク栓を取ってコマちゃんの鼻の前にかざし嗅がせる
暫く様子を見て、変化がないのを確認すると
(やれやれ、思ったより簡単だった)
と、ホッと息を吐きコマちゃんを抱える


「息を抜くのは部屋を出てからが良いんじゃない?」

「……っ!?……」

コマちゃんを抱えたまま咄嗟にドアへ駆け出すもロウが先回りする
相手は子供と右手の爪を立て「シッ!」と繰り出すもしゃがんで躱される
と、同時に腹部に圧痛
ロウの掌底が入る
体がくの字に曲がると、瞬間で顎を下から突き上げられ意識が飛んだ

【やる~!カッコいい!】
「子供だから舐めてくれたからね」
【それでもさ、新しい身体を使いこなしてるじゃん。順応性高いねぇ】
「あゝなんか馴染んだよね
それよりも、やっぱミアちゃんは残念姫関係かな?
コマちゃん真っしぐらだったし」
【なんか、キャットフードみたいな言い方するなぁ
でも、ホントに来たね?君の読みってどうなってんのさ?
ミアちゃんの人となりの予想もさ】
「ん?ただの消去法だね、威張れるほどじゃない」


「誇ってもよろしいかと思いますわ、ロウ様」
ポッと明かりが灯り、柔らかな声が響いた


「アイリス!?」
「ワフッ!?」(ふぁっ!?)
「はい、アイリスで御座います」
「な、な、なんで!?」
「当屋敷の新人メイドを監督するのはメイド長の務めなれば」
と、言いながらうつ伏せで倒れるミアの腕を後ろ手にし両手親指を縛り、懐から小瓶を抜き取る
「無言での掌底2連、御見事で御座いました」

「務めなればって、そして、その評価…あんた…何者?」
「あら?ロウ様、コマちゃんと話す時の様に素が出ておりますわよ!オホホホ…
私はコロージュン家のメイド長、それ以上でもそれ以下でもありません」
「む、参ったなぁ、生まれた時から居たから全然違和感感じなかった…」
「ええ、私も、生まれたばかりで泣かずに周りの大人を観察する御子は初めて見ました
悟られない様にするのが大変でしたわ、ウフフ…」

『見た目、アーデ○ハイド!って怒りそうな人なんだけどなぁ』
「ワフッ」(あゝモフ犬に舐められてひっくり返った人ね)

「あら?コマちゃんと内緒話ですか?
人前では感心しませんよ?」

『何故わかったし!?』
「やだな、そんな訳ないじゃないか」

「ウフフ…さあミアを起こしましょう」
軽くパンパンと頬を叩いて起こす

「う……ぅ…あ…はっ!?」
ミアの顔を覗き込むアイリス
「お目覚めですね?御自分がした事は分かっているのでしょう?どうしますか?」

「くっ…拷問でも何でもすればいいわ…」

「うわぁ、リアルで(何でもすれば)っての初めて聞いたな」

「リアル?」

「そこはどうでもいいよ?
でも、女を拷問ってのは嫌だなぁ
元々そんな趣味ないしさ
それに、どうせ命令元は皇家の『残念』姫さんなんでしょ?
だから拷問する意味もない、どうする?」

「ぐっ…私は何も知らない…」

「まぁそう言うよね?じゃあ解放、アイリス解いてやって?」

「はい」
と、親指拘束をパチンと切る

「え?なんで?」

「なんでって、そんな(ポケッ)とした顔で聞かれてもね?
ミアちゃんには僕たちをどうにも出来ないでしょ?
たぶんアイリスにも敵わない
そんな危険性皆無な人をどうこうしようとか思わないよ(笑)」

「でも、私はこのまま帰れない、帰ったら死を賜る」

「ふ~ん、じゃあウチで働いてりゃ良いんじゃない?
ねぇアイリス?問題ある?」

「え?」

「全く御座いません、ただし暫く只働きして罰を受けてもらいますが」

「え?」

「うん、妥当。衣食住には困らないしね」

「え?」

「なに(え?)ばかり言ってんのさ
はい、お疲れさん、明日から朝早いよ?早く戻って寝なさい
アイリス?」

「はい、かしこまりました、お休みなさいませ
ロウ様?お勉強も大事ですが、早くお休みになるのも大切な事ですよ?

さ、行きますよミア」
静かにドアを閉め戻って行った

「バレテーラ(苦笑)
アイリスがあんなキャラだとは侮れん
屋敷内に他にも居そうだな」




「さあミア、部屋に戻って休みなさい
明日から人一倍働いてもらいますよ」

「あの…」

「なんですか?」

「あの…よろしいのでしょうか?」

「ロウ様が良いと仰った事が不満ですか?」

「いえ、そんな事ではございません。でも、その…」

「コロージュン家惣領のロウ様が良いと仰ったのです
この屋敷に、その言葉に逆らう者はおりません
旦那様ですらです
分かったなら早く休みなさい」

「はい…」

その晩、ミアは声を押し殺して泣きに泣いた
それは悔しかったのか、情けなかったのか、命が助かって嬉しかったのか自分にもわからない

同室の他の3人のメイド達は気付いていたが、朝まで寝たフリをして次の日が辛くミアは少し恨まれた



翌朝
「おはようございますロウ様」
シャンと立って深々と一礼するミアが居た


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