ゆとりある生活を異世界で

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新しい目覚めは狛犬と

栄冠は誰の手に

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ワイナール皇国暦286年、2の月


~コロージュン騎士団宿舎~

夜勤組と昼勤組の引き継ぎが行われていた
まさにその時、響き渡る規則的な金属音
〈ガンガン ガン ガンガン ガン ガンガン ガン〉
熟睡中だった準夜勤組も目を覚ます

「あれ?非常呼集じゃねーか?」
「あ、あの鳴らし方はそうだな」
「おい!急げ!」
「宿舎前広場に集合ーーー!」

広場には副騎士団長のハリーとウィリーが待ち構える

「みんな出て来たか?」
「うん、揃ったみたいだぞ?」
「あゝそうみたいだな、じゃあ俺から言うか?」
「俺でもいいけど、じゃあ頼むよウィリー」


「あー、急な呼集で済まないな
特に準夜勤だった者達には叩き起こす羽目になって申し訳ない
非常呼集を鳴らしはしたが非常事態ではないんだ」

集まった騎士団員達が、どういう事だ?と騒めく

「はい、静かに!
非常事態ではないが、我が騎士団にとってはある意味で非常事態にはなる!

えー、実は3の月になったらロウ様が辺境領へ行き
暫くあちらで生活される事になった」

「なに!」「なんだって!?」「何があったんだ?」「最近何かあったか?」「いや、何も聞いてない」
広場がどよめく


「聞けよー?いいかー?

今回、急ではあるがロウ様が辺境領へ行くまでの護衛と滞在中の従者を兼任する者を小隊単位の5人で募る事になった

たった5人と思う者も居ると思うが、そこはロウ様の指示と言うことで納得してもらう

今、この場には宿舎内の団員しか居ないが
数年間の任務だから、ロウ様が妻帯者はダメだと仰られた
なので独身宿舎内の団員のみから募る事になる
それと、宿舎内の団員であっても恋人が居る者はダメだ
その辺りは自己申告だから、どうとでも言えるが
万が一にも、その任務で別れる事にでもなったら
ロウ様を、どれだけ悲しませる事になるかを考えた上で申告するように

あとは人の趣味嗜好に対して否定はしないが
同性愛者も勿論ダメだ!
ロウ様に余計な心労をかけるわけにはイカン!」

再び広場に動揺が走る

悔しそうに顔を歪める者
恋人が居ない事に哀しむべきか喜ぶべきか微妙な表情を浮かべる者
ヤレナイカ…と呟く者
ある意味、晒し者になる事に気付き頭を抱える者
何も考えずに、恋人居なくてラッキーみたいな者
悲喜こもごもだ

「では、条件に合う者は前へ
条件が合わない者は後ろへ下がってくれ!」

恋人が居ないヤーツと言わなかったのは、せめてもの優しさ

300人ほど居た独身団員だが50人ほどに減った

「よし、だいぶ減ったな
では、これから5人になるまで ふるい落としにかかるぞ

先ずは、俺たちが止める前までに5人組を作れ!
俺たちが止める前までに出来なければ、その時点で脱落

ヨーイ、始め!」

慌てて50人ほどが右往左往し始める

「ヨーシ、止め!」

5人組になれなかった者達が、えっ?と振り向く
不満顔がありありとわかる

「間に合わなかった者達は
戦場で部隊崩壊した場合、緊急再編に間に合わなくなり戦死したと同等に考える
当てにならない人数を数えて戦争は出来んからな
分かったら後ろへ下がれ

それでも、8組出来たのは上々だ

次は、俺たちが止めるまでに5人の中で小隊長を決めろ!
適当に決めると後が困る事になると断言しておくぞ?

ヨーイ、始め!」

8組が輪になって相談を始め、喧々諤々になった

「ヨーシ、止め!

では、選ばれた小隊長は次の行動を考え行動しろ!」

8組中、5組の小隊長が走ってウィリーの元へ来た
「編成終わりました!」
「我が組も編成終了!」
「我々も終わりました!」
「編成完了!」
「編成出来ました!」

「ヨーシ!合格!
遅れた3組は解散、後ろへ下がれ

次は、後ろに下がった者達は倉庫から訓練用の人型を30本持ってきてくれ!

その間に5組の者達は得意な武器を持ってこい!
急げ!」

60人ぐらいが倉庫へ走ると同時に5組の者達も走る

「お、ありがとう
では先ず1つ作るから、間隔を空けて同じ物を4つ作ってくれ

ココに先ずは1本立ててくれ、それと次は…」

1本5m間隔ぐらいのヘキサが出来る

「他のも出来たな?
ヨシ、5組はそれぞれ1つのサークルに入れ
下がった皆も、コッチへ

では、戦闘訓練だ!

周りを6人の敵に囲まれた、と想定しての訓練を見る
何故、今、この訓練なのか、その辺りを考えろ
つまり、想定任務は自分達で考え判断しろ!と言う事だ

それと、人型1本につき2人、誰か付いてくれ
そして、中の者を牽制したり攻撃したりと動いてくれ
ただし、サークル内には入らない様に
中の者は人型のみを攻撃し、倒したら排除したとする
中の者の行動は他の人間に攻撃しない限り制限しない

俺たちが個別に止めるまで続けるように!

周りの者達は戦闘訓練の評価をしろ
これは全員が審査員だ

作戦は考えたか?
準備は出来たか?

ヨーシ、始め!」


暫くすると、人型を全て倒した組が出た
他の組も半分倒した組や1本だけ倒した組もある
全部倒した組は勿論ドヤ顔だ

「ふん、止めるまでも無かったみたいだな?

さて、1つ聞きたい
1本だけ倒してサークルから外に出ている組
お前達だけサークルから出ているが
どういうつもりか理由を聞こう

小隊長は名乗ってから理由を述べよ!」

「ハッ!小隊長のフワックであります!
我々は、この任務がロウ様の護衛であると考えました!
そして、敵に囲まれた時に如何にロウ様を無事に逃すかに重点を置き
先ず、ロウ様を我々が盾になり守りつつ一点突破を図りました
サークルの外に出るなとは言われなかったので
人型1本だけを倒し、陣形を維持したままサークルの外に出た、が理由であります」

「ふむ……
周りで見ていた者達は、これがロウ様の護衛任務だと考えた場合
その任務であれば合格だと思う組を指差せ」

圧倒的多数がフワック達を指差す

「ふむ、フワックの組の者に聞きたいんだが
何故、フワックを小隊長に選んだ?」
1人を指差す
「はい、スーであります!
深く考えた訳ではありません
ですが、以前フワックが警護の時に(ロウ様に指揮棒を貸した)と自慢していましたので
フワックには縁があるのかと愚考しました」

「ほう!?そうか!」

騎士団詰所の方から聞こえてきた
皆が振り向くとバフ騎士団長がニコニコしながら歩いてくる
「少し前から見ていた、皆んな頑張っていたな
儂も独身なら参加したんだが残念だ

それよりも、フワックはロウ様に指揮棒を貸した事があるのか?
凄いではないか!
その腰に差している物か?」
「ハッ!そうです、トレントの若木で作ってあります
街の道具屋で購入し愛用しております
南の辺境領へ来た交易商人が持ち込んだ輸入品みたいです」
「ほう、少し見せてくれるか?
おー良い品だ、ロウ様が欲しがらなかったか?」
「いえ、ありがとうと返してくれました
ですが、その後チラチラとこちらを見ておられました」
「そうだろうな
ロウ様は、あまり刃物を好まれない様に見えるから
そういった物を好まれるのかもしれぬ」

「団長、そろそろよろしいですか?」
「おぉ済まんなハリー
して、結果は?」
「はい、フワック達で宜しいかと
状況判断力、機転、決断力、問題無いと思います」
「ふむ、そうか

では、フワック!

貴様の隊は、初めてのロウ様の騎士隊となる!
いずれは人数も増え、騎士団と成るだろうが
貴様達は、その先駆けとなる
これからはコロージュン公爵家では無く
ロウ様の盾となり励むように!」

「「「「「はい!」」」」」

「では先ずは宿舎で風呂に入り汚れを落とし
平服で良いから身嗜みを整えてこい!
その後でロウ様に小隊結成の報告をしてこい!

では、皆、解散!」







ロウに報告に行ったフワック達が宿舎に帰ってきて
そのまま、宿舎の食堂へ行った
少し沈んだ様に見えるフワック達に、その場に居た者達が首を傾げながら声を掛ける

「おい、フワック?
ロウ様に報告に行ったんじゃなかったのか?
どうした、そんなに凹んで
何かヘマやらかしたのか?」

「あ、あゝそんなんじゃ無いんだ
いや、ヘマっちゃあヘマもあったか?
カミーユ様が大泣きしちまった…
いや、マリー様もだな」

「はあ?なんでカミーユ様達が大泣きすんだよ?」

「なんかな?ロウ様が辺境領に行く事を聞いてなかったみたいでな?
俺たちの報告で初めて知った訳だ
後は、分かるだろ?」

「あー…………」

「でもよ、問題はそこじゃないんだよなぁ~
なぁみんな?」
トロリー、オムル、ライザー、スーがうな垂れる

「なんだよお前ら、御叱り受けた訳じゃないんだろ?」

「あぁ、御叱りは受けなかったし
ロウ様への、まぁ着任挨拶?ってのも無事に終わったんだがな…

ほら、最近来たミアさんって居るだろ?」

「あー、あのネコ科美人な
今までもコロージュン家のメイドさん達は美人揃いだったけど
ミアさんは抜きん出てるよな?
獣人系であんな美人は初めて見たわ」
話を聞いていた食堂に居る皆がウンウンと頷いている

「うん、そのミアさんがロウ様に旅に同行させてくれって言ってきたんだ」

「ホントかよ!そりゃ羨ましいってもんじゃないな!」

「いや、俺らも飛び上がりそうなぐらい嬉しかったんだけどさ

ロウ様が、男が6人で行くから女1人じゃダメ!って即却下…」

「あー…ロウ様の言い分もわかるな…」

「そうなんだよ、筋が通ってるからグウの音も出ねーわ…
でもな?それならミアさんが男装するって言い出したんだよ」

「「「ほうほう、それで?」」」

「そんな美人が男装すると余計目立つからダメ!ってさ…」

「あー……まぁなんつーか、フワック頑張れとしか言えんなぁ…」
「だなぁ……でもよ?なんでミアさんは、そんなに付いて行きたがってんだ?フワック」

「さあ?なんでだろうな?」

「ミアさんって、言うなら1番の新参な訳だよな?
その新参者がコロージュン家の内情やロウ様の事もあんまり把握してない状況で
そこまでしてロウ様に数年間付いて行こうとするってなんだ?」

「「「「「う~ん……」」」」」

「あ、ひょっとして?」

「なんだよ?」

「ロウ様に惚れたとか?」

「バッカ!そりゃねーだろ?年の差考えろよ?」

「じゃあなんだよ!」

「そんなん知るか!」

「あ、まさか!お前ら5人の中の誰かに惚れてるって無いよな?」

「「「「「はあ!?イヤイヤイヤイヤ、無い無いナイナイ無い無いナイナイ」」」」」

「なんだよ、満更でもなさそうに否定してんじゃねーよ!」
「お前ら、それがホントだったら夜道に気をつけろよ!
マジ殺す!」

「怖ぇーよ!さ、みんなメシ食おうぜ!」
フワック達5人がニヤニヤしながら食い出した

「チッ、こいつら、あわよくばって思ってやがるな…」






翌日
通常任務から外れたフワック達が食堂のテーブルで話し合っていた
「朝イチでロマン様の所に行って聞いてきたんだが、馬車は軍馬2頭立ての大型だと聞いた」
「あゝアレか、後ろから乗り込むヤツ」
「だったら、確か馬車の屋根にも荷物を積めたな?」
「それに、野営の時にロウ様は馬車に寝れるな?」
「あゝそれも考えてロウ様が言い出したらしい」
「あったまいーなぁ、つーかよ、ロウ様って皇都から出たこと無いよな?そんな知識を何処で知ったんだろうな?」
「さあな?それよりも持っていく荷物を書きださなきゃ準備が遅れるぞ?」
「そうだな、俺たちの動きを合わせる訓練もしなきゃいかんしな」


「………よ………ます、………」

「ん?女の声が聞こえなかったか?」
「なんか聞こえたな?」
「この宿舎に女なんか来るもんかよ」
「シー!」


「おはようございます、誰かいませんか」


「うあ、マジかよ!女のお客さん来てるぞ」
「おい、行ってみようぜ」
ゾロゾロと宿舎玄関まで行くと、そこにはミアとリズが居た

「あ、皆様おはようございます」
2人揃ってペコリとお辞儀する

「み、ミアさん!?」
「あ、あ、おはようございます!」
「と、トロリーですっっっ!ヨロシクっ!」
「り、リズさんも!?どうしたんですか!?」
「ず、ズルイぞお前ら!俺も!」

「「俺も?」」
ミアとリズが可愛く首を傾げる

「あ、いや何でもありません…」
「あ、あ、あ…」
「ミアさん、リズさんも、どうされたのですか?」

「あ、今度のロウ様の旅にリズさんと同行する事になりました」

「「「「「えっ!?ええぇぇぇーーー!?」」」」」

「えっ?そんなに驚く事ですか?
ちゃんとロウ様には許可は頂きましたよ?
ねえミアさん」
「ええ、そうですね
そして、ロウ様に皆様方に伝える様に言われたので参りました
ご迷惑でしたか?」

「いいいいえ!迷惑なんてありませんです!」

「そうですか、良かった」
ミアとリズがニッコリ微笑む

「「「「「はあぁぁぁ…」」」」」

「これからは旅の準備で色々とお聞きしたい事もあるのですが
こちらへ来ても大丈夫ですか?」

「はっ!!それは少しマズイかもしれません」

「あら?それは如何してでしょう?」

「ココは男ばかりの独身者の宿舎ですので
刺激が強い…と言うか…目の毒と言うか…すいません…」

「そうですか…では、良い場所がないかロウ様に聞いて見ますね?」
「そう致しましょう、ではこれで失礼します」
ペコリと頭を下げ、屋敷へ戻っていった


「グハァ…なにがどうしてどうなった?」
「落ち着け隊長!」
「お前が隊長だろ!落ち着け!」
「良い匂いがしたなぁ~」
「あー、したした!」

「てか、リズさんもって…
美人メイドの2トップが同行するとかホント?」
「ホントなんだろう?ロウ様に許可もらったって言ってたし」
「おい!ヤバイぞ!これが、ココの連中に知られたら?」
「ぐっ…俺たち殺られるかもしれん…」
「俺たちもロウ様に相談した方が良いんじゃないか?」
「あゝそうだな、急いで行こう」
慌てて屋敷へ駆け出した




「………と、言う訳なのですが、どこか場所はありませんでしょうか?」

「ふ~ん、じゃあ食堂使って良いよ?」

「え?でも、御家族様の食卓を使用人が使うわけには…」

「ん?そんな気を使うことじゃない
僕たちが使ってない時に誰かが使っても構わないじゃない?
ねえ、リズちゃん」

「そうですね、ロウ様であれば、そう言われるのではないかと思っておりました
ミアさんは、まだ当家に来て浅いのでしょうがない事だと思います」

ミアが少し悔しそうな顔をした


「ん?」
ロウが眉を顰める

「ロウ様、如何なさいました?」

「なんかドタバタこっちに来る」

「「??」」

「「「「「ロウ様!助けてください!」」」」」

「は?」

「「「「「殺されます!」」」」」

「はあ?」

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