ゆとりある生活を異世界で

コロ

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遥か日が昇る地へ

朝の目覚めは爽やかに

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ワイナール皇国暦286年、3の月


「ふあぁぁぁ~、おあよ~、ふぁいふぁ~」

「ヒヒン?」(ゴシュジン?)

「あーごふぇん、まら眠いらけらよ
寝おひれ口あマメらない」
『う~ん、まさか朝の5時台から馬の世話始めるのが本当だったなんて油断した
アレは物語だから少しオーバーだと思ってたよ八軒』

まだまだ夜が明けない時間帯、俄かに宿舎内が騒がしくなって目が覚めたロウ
なんだ?と部屋から顔を出すと、元騎士達がゾロゾロと宿舎を出ていく
こっそり後をついて行くと馬房に入っていき掃除を始めている
ひょっとしたら手伝う事が?と思い中へ入ると
元騎士の1人がヴァイパーを外に出すのと鉢合わせた

「馬を全部外に出すの?」

「これはロウ様、おはようございます
ええ、中を掃除するために一旦出します
して、ロウ様は何故馬房に?」

「いや、物音で目が覚めたから手伝う事があるかな?って」

「いやいやいや、とんでもねーですわロウ様
惣領…次代の当主にそんなこたぁさせられやせんよ
こんなのは使用人の仕事でさ」
昨晩の代表の男が駆け寄ってきた

「まだ当主じゃないんだから気にしないで
それに、ヴァイパーは僕の従魔だからね、ブラッシングぐらいはするよ」

「そうですかい?じゃあヴァイパーはお願いしやす
しかし、ロウ様の従者達はまだ寝てんですかい?
主人は起きてるってのに困った奴等だ
後でドヤしつけてやらねーと、元騎士の先輩として」

「まぁそう目くじら立てなくても良いよ
初めての遠征だから気疲れてるんじゃない?
旅慣れたら頑張るさ
僕は、たまたま起きただけだからね」

「いやいや、それでも従者は護衛も兼ねてま…」

「あら、私どもは起きてますわよ?
ロウ様おはようございます」
「おはようございますロウ様
身嗜みに時間がかかり少し遅れました」
リズとミアが薄暗がりの中を歩いてきた

「やあ、おはようリズ、ミア
早起きだね?」

「ロウ様が起き出した気配がしましたので」
「普段のロウ様は早起きなので、元々起床する頃合いでした」

「はあ、さいですか…
じゃあリズとミアにはフワック達の馬をブラッシングしてもらおうかな?
僕はデッカイヴァイパーで手一杯になっちゃうからね、ハハッ」

「「はい、かしこまりました」」

「ヴァイパー、寝そべってくれる?
さすがに背中とかまで届かないよ、小さくて悪いね」

「ヒヒン」

寝そべったヴァイパーをブラッシングして、暫く経つと冬なのに汗ばんでくる
意外な重労働に驚くロウ
コレを毎朝、年がら年中やっている元騎士達に感心した
タップリと時間を使い馬房を掃除して、馬のブラッシングを終わらせると、すっかり夜も明けた

「ロウ様、宿舎に戻って朝飯にしやしょう」

「うん、そうだね」

みんなでワヤワヤ宿舎に戻ると、ちょうどフワック達も起き出してきた

「あれ?ロウ様?みなさんも?おはようございます」
ペコッと頭を下げるフワック達
みんなの目が釣り上がり人間種、獣人種、エルフ種問わず鬼人種になる

「えっ!?なに?」

「ブハッ、おはようフワック、良く寝れたかい?」

「は、はあ、良く眠れましたけど…
みなさん今から朝ごはんなんですか?」

「うん、まあね、そんなか…」

「「フワック隊!」」
リズとミアが腰に手を当て仁王立ちしニッコリ笑う
「「「「「うひゃい」」」」」
寝癖でボサボサ頭の5人がピシーっと気を付けする
「「そこに直りなさい!」」

「さあ僕たちは食堂に行こうか
リズ、ミア、手加減しなよ?」

食堂に向かうロウ達の後ろから
「ひぎゃあ!?」「ごめんなさいごめんなさい…」「あ!そこ…」「ヒイィィィィ…」「あ…」
目醒めたヤツがいるみたいである

朝食を終え、みんなが再び馬房へ行き放牧や調教といった日課を始め
ついでにロウ達も出立の準備をする

「ロウ様、ヴァイパーは魔獣になったんなら肉も与えたほうが良いかもしれやせん」
出立準備を手伝ってくれてた馬房代表のチャズが声をかけてきた

「え?そうなの?」

「はい、魔獣は肉を食って魔素を取り込みやすからね
草ばっかりじゃあ魔素の補給が足りねぇんですよ
ウサギですら魔獣になれば肉を食いやす
ヴァイパーも草ばかりじゃ、この先倒れるかもしれやせんや
牙も生えてるはずなんで肉を食えやすよ」

「へぇ、ヴァイパー、そうなの?」

「ブルル…」と頷く

「じゃあ、ちょっと待ってて」
と馬車に入り収納魔法から肉を一塊り出して
馬車から降りてヴァイパーに与えると1kgぐらいをペロリと平らげた

「これからは肉と草がヴァイパーの飯だね」

「ヒヒン♪」

馬車の準備が整い馭者台に並んで座る
「フワック達も準備できたかな?」

「「「「「ふぁい!」」」」」
頬が赤く腫れたり、引っ掻き傷がある顔を引き攣りながら返事をする

「じゃあ、お世話になりました
ウチの馬達をヨロシクね、元気で頑張って」

「はい、ロウ様もお達者で!
道中、御気をつけて行ってらっしゃいやし!」
チャズを筆頭に総勢30人ぐらいが一斉に頭を下げた

『次に来た時は半分ぐらいは入れ替わってんだろうな、年齢的に…』

ロウ達は一路東を目指した







「ふむ、ロウ達が東へ向かった様だな」
「はい陛下、同行する間者からは、その様に書いて送ってきておりますな
セト様の元にも似た様な情報が来ている様で御座います」
「ふむ?セトにもか?セトの間者も同行しておるのか?」
「どうやら、そのようで御座います
獣人の雌で影働きをしておる者のようで」
「む、獣人か、お前の手の者はエルフであったか?」
「はい、幼き頃に奴隷商人から買ってきた者で御座います」
「ふん、獣人にエルフか…穢らわしいのう
もう、皇祖から20世代近くを数えるのだ、そろそろ差別化し全ての人間種を亜人どもの上に置かなければならんな」
「は、その辺りはショーテン様が数年前より動いておられましたな」
「ふん、充てにはならんがな
して、その間者達はロウに取り込まれた可能性は無いのか?」
「頻度は下がりましたが、未だに情報を送ってくるぐらいなので心配は御無用かと存じます
それに、旅の間は屋敷に居るよりはロウの側近いので
送ってくる頻度が下がるのは仕方がないことかと」
「ふむ、そうだな
それに間者だと露見したら、もう既に殺されておろうからな」
「左様で御座います」






ロウ達一行は2時間に1度づつぐらいの休憩を挟みつつ東へ向かう
休憩を挟むのは、ヴァイパーには問題無いのだがフワック達の騎乗する馬が保たないからだ
フワック達の尻も…
全速力では無いものの
2時間以上駆けさせると、流石に馬転バテるから水を与えたり木のヘラで馬体の汗を擦り取る
朝のブラッシングをリズとミアがしたからか
馬がフワック達に素っ気ないのは気の所為では無いだろう

「あ~ぁ、フワック達に馬が懐くのは時間がかかりそうだね、ハハッ」

「それは仕方ありません、自業自得ですわね、うふふ…」
「それよりもロウ様?もう直ぐロンディアナ平原を抜け、山間やまあいの道を抜けたら関所がありますから
いよいよ皇都を出て、ロウ様にとっては未知の世界になりますね?」

「ハハッ、皇都ですら未知の世界だったんだけどね
それよりロンディアナ平原って名前があったんだね?」

「はい、皇都ミャーコンを中心に、それぞれ英雄の名前をもじった名前が付いていますよ」
「ええ、東は無尽のロンデルからロンディアナ平原
西は閃光のアギトからアギトリウム平原
南は戦慄のカリーナからカリーナート平原
北は絶壁のバスターからバストリア平原ですね」
「何故、皇都はミャーコンなんでしょうね?
皇祖シュトロムとは全く関係なさそうですわね?」

「なんでだろうね…」
『まぁ、どうせみやこからなんだろ?
ワイナールってぐらいだしw』

「あ!またロウ様がニヤニヤしてる!」
「なにを思い出したんですか?」

「いや、別に?
遥か草原を1つ旅の雲があてもなく彷徨い飛んで行くなぁ、ってね
それよりも関所を抜けて野営するの?それとも関所の手前?」

「今のまま進めたら日が暮れる前に関所を抜けれますから
それから野営では如何でしょうか?」

「じゃあ、それでお願いね
リズ、フワックに伝えれる?」

「お任せ下さい、風の魔法で声を届けます」
《風の精霊よ、私の願いを聞き声を届けたもう》
リズの目の前で横倒しの小さな旋風が巻く
見た目はメガホンラッパみたいな感じだ
その旋風にリズが話しかけると20mぐらい先行しているフワックが左手を挙げ親指を立てた

「へぇ、なかなか便利だね 
じゃあ僕は中に引っ込むから、リズとミアは交代で馭者してくれる?
ヴァイパーも、もう少し頑張ってね」

「「はい、かしこまりました」」
「ヒヒン!」







「う~ん、予想外にセロルがポンコツだったわねぇ
やっぱり、自尊心が高いだけの平民ってダメね
ねぇキーラ、他に誰か居ないかしら?」
「同行しているミアに任せてみては如何でしょう?姫様」
「ミアねえ…
多分、あの娘は裏切ったわね、やっぱり獣人なんかじゃ大事な事は任せられないわね」
「え?そうなのですか?
定期的に報告が届いてるようですが?」
「定期的に届くからよ、そんな事が出来るはずがないじゃない?
相手は腐っても英雄の子孫のコロージュン家よ?
そんなボンクラ揃いだと考えるほうが無理があるわよ」
「では、偽りの情報を送ってきているのですか?」
「うううん?情報は本物でしょうね?
ただ全てでは無いだけよ、報せて良い情報だけ送ってきているわね」
「そうなのですか…では新しい手の者を送りますか?」
「今更公爵家に送っても意味がないわね、送るなら辺境領でしょう
ですが、私には辺境領まで伸ばせる手がありません
つくづくセロルのポンコツ振りが腹立たしいわね
失敗したわ、せめてパウル家のほうであれば…」
「では、スタイナー家は切り捨てなさいますか?」
「いいえ、どうせ使えないならば擦り潰れるまで使いましょう
嫌がらせぐらいは出来るでしょうからね
スタイナー家が無くなれば他の街区から呼び込めば良いわ
セロルを数日中に呼び出しておいてちょうだい」
「はい、かしこまりました」






「そろそろ関所に付くかな?」
ロウがテーブルの上で、紙に絵と数字を書き込みながらリズに尋ねる

「はい、もう間も無く到着する頃合いかと思いますが…」
と、リズが馭者台に続く扉脇の小窓から前方を見る

「どお?何か見えた?」

「いえ、ですが少し記憶にあります、もう半刻ほどではないでしょうか?」
吊り下げられている懐中時計を見ながらリズが返事をする

「ハハッ、半刻ね、まだ時計には慣れないかな?」

「はい…今まで見たこともない魔道具ですので…」
リズの顔が、ほんのりと朱に染まる

「そりゃあしょうがないね
関所ってさ、通るのに何か必要なのかな?」

「はい、1人銅貨10枚ほど払わないといけなかった様な気がします
ですが随分前の記憶ですので変わっているかもしれません」

「そっか」





「情報部の皆さん、これから話す事は守秘しなければなりません
無理だと思うものは退室して下さい
あゝだからと言って、これから他部署に移動させられるとか冷や飯食いになったりはしません
この私、キーピーが保証します」
「キーピーさん?何かあったのですか?」
「先日、チンピラが来たでしょう
あの事に関連しています」
「あー、アレですか…」
「あんなバカは久しぶりに見ましたね」
「自殺志願者だったんでしょう」
「と言う事は頭取に関係する事柄ですか?」
「後、コロージュン公爵家にも…」
「やはりと言うべきか、当然と言うべきか…先日諜報しましたが、あの御家はヤバイですね」
「だったなぁ…全て見透かされてる感が凄かった…」
「あれは、頭取ぐらいじゃ逆立ちしたってメイドの1人にすら太刀打ち出来んだろうなぁ」
「はい、皆さん、その件です
誰も動かないと言う事は、話しを聞くと受け取りますがいいですね?」
「当然です」
「はい」
「キーピーさんが持ってくる話で我々が困る事は無いですから」
「では…頭取が皇家のめいで公爵家に画策している事は知っていますね?
それが大前提です」
「「「「「「はい」」」」」」
「皆さんが考えてる様に、頭取は敵にしてはいけない御家に敵対行動をしています」
「無謀ですね」
「スタイナー家の危機ですね」
「キーピーさん、何か手を打つんですか?」
「もう敵対しているなら後手後手になりますよね?」
「そうですね、現在のスタイナー家は断崖絶壁から片足を踏み出している状況だと考えていいです
まだ踏み止まっているのは、コロージュン家の余裕のお陰です
ですが、先日のチンピラの件で公爵家家令から忠告を受けました」
「あ…ハンスさん…」
「彼の方はヤバイ…」
「うん、底が知れない」
「スタイナー家の全員でもハンスさん1人に敵わないな」
「そういうことです、我々は早急に問題を解決しなければならなくなりましたが
その辺りを頭取は理解出来ていません」
「う~ん…」
「でも、何故、頭取はムキになってるのでしょうか?」
「うん、自分で自分の首を絞めているような」
「あぁ、いくら皇家の命とはいえなぁ」
「たぶんですが、コロージュン家惣領への対抗心でしょう」
「「「「「「えっ!?」」」」」」
「まだ惣領様は5歳とか6歳ぐらいの子供ではありませんでしたか?」
「ええ、その幼い子供がハンスさんに言わせると
コロージュン家始祖以上の器量であろうとの事ですね」
「えっ!?英雄以上の…」
「諜報した時はチラとしか見かけなかったが…」
「我々はスタイナー家と言う寄木が朽ち倒れる前に、適切な治療を施さなければなりません
それは頭取を助ける事と同義ではありません
我々が寄って立つスタイナー家があればいいのです
それは国と同じです、国を乱す暗愚な王は首を切られ、賢王に挿げ替えられなければなりません
それによって、国民は安寧な日々の営みを送れるのですから」
「「「「「「はい」」」」」」
「では先ず、頭取の身内で候補を探さなければなりません
それは庶子でも構いませんし、商いを何も知らなくても構いません
我々が教育すれば問題無いのですから」
「キーピーさんが跡を襲うのではないのですか?」
「私は代々番頭ですし、スタイナー家の血縁でもありませんから資格はありませんし
下剋上は後々の禍根になりかねません」
「そうですか…」
「我々はキーピーさんを推したいのですが…」
「意味がない事を言っていても詮無い事です
さあ早速、次代を探しますよ
事は急を要しますからね、動いて下さい!」
「「「「「「はい」」」」」」





「ロウ様、関所です」

「へえ、両側の山肌も利用して石門を作ってあるんだね」

「ええ、やはり東からの皇都への入り口ですから
大軍は通り難くしてあるみたいです」

「なるほどね、切通しってヤツかな
まぁ良いや、僕も馭者台に出ておこう」

馭者台に出ると、前方ではフワック達3人が関守達にロウ達一行の説明をしている
説明を終えたら騎士を2人伴ってきた

「ロウ様、こちらは関所の先の領主、ケイワズ伯爵の遣いだそうです」

「初めまして、コロージュン様
この関所を越えましたら、我等ケイワズ伯爵領です
伯爵より道案内を仰せつかり御待ちしておりました
ここから領府オルチまでウーセタ街道を通り2日ほどになります
その間、大小の村がありますが立ち寄られて宿泊されますか?」

「遥々の御足労ありがとうございます
僕の初めての旅なので、いろいろと体験したい事もあり
極力野営しながら、のんびりと旅を満喫しようかと思っておりますので
騎士の方々には先に領府に戻ってもらい、その旨を伯爵に伝えて貰えればと思います

しかし、僕が東へ旅立った事を伯爵は御存知なのですね?
あまり知る人は居ない事だったのですが
いや、流石はケイワズ伯爵だ、御耳が良い」

「は、はぁ…では、人数はコロージュン様を含め8名
騎乗騎士が5名と馬車に3名で宜しいでしょうか」

「ええ、そうですね」

「は、では我々は先に戻り
無事の御越しをお待ちします」

「はい、宜しくお願いします」

騎馬2騎は関所を越えて駆けていった

「ロウ様?宜しかったのですか?」

「うん、いいよ
みんなも大っぴらな監視付き旅なんて嫌でしょ?」

「まあそうですね」

「さあ、出発しよう
関守さん達、通っても?」

「「はい、どうぞ、いってらっしゃいませ」」


ロウ達一行は
ケイワズ伯爵領のオルチへ、山間の街道を進んで行った






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