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辺境領での日常

いやいやいやいや

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ワイナール皇国暦286年、4の月




執事服の男が腕を後ろ手に組みテーブルの上座の席の隣に立つ
「先日の会合から日は経っていませんが、再び集まってもらったのは
貿易部へ中央嫡より魔武具調達の依頼と実働部への刺客依頼があったので
先日の話も含めて依頼を受けるか否かを組織全体で考えろと組織長からの達しがありました
受ける場合は東公爵は敵に回す事になるかもしれませんが中央嫡は味方となるでしょう
受けない場合は中央嫡は敵に回るかもしれませんが中央が全て敵に回る訳ではありません」
「うん?少し意味が分からないんだが、先日の辺境へ送った刺客とは別口での依頼と言う意味かね?」
「そうです、但し内容はほぼ同じです」
「は?ますます意味が分からないんだが?」
「簡単な話です、今回は嫡からの依頼と言う意味です」
「なぁに?親と子で別々に動いてるの?」
「そういう事ですね」
「でも、今回は受けなくても構わなくて、前回は受けた理由は?」
「それも簡単です、まだ嫡には実権が足りませんから組織の脅威となり得ないと判断しております
しかし、その親は全ての実権を握っているので理由も無く断わる事が出来なかったのです
そして、依頼を受けた以上は達成しなければ信用問題ですからね」
「しかし、嫡には今後の組織の事も考え、少なくない手助けをしてきているのではないか?それを全て反故にしてしまうのではないのかね?」
「ええ、そうですね
だからこそ、こうして各役長に再び集まってもらい組織として話し合えとの事です」
「ふむ、先日の会合での話も含むと
コロージュン公とは事を構えるのは得策とは言えない、だったな?」
「情報収集さえままならないのがな…」
「実働部の役長に聞きたいのだが、依頼を受けたと仮定して
再び刺客は揃うのかね?」
「うむ、人間種の手練れは難しいな…
ウチは依頼次第で損耗率が跳ね上がるのでな
しかし、手はある」
「ほう、その手とやらを聞かせてもらっても?」
「あゝ構わない
ここ数年、皇都外での亜人差別が強くなっていてな
皇都や辺境領へ流れる亜人達が増えているんだ
それもあってな、即戦力を調達するのが容易になっている
なにせ亜人の身体能力はバカに出来ん」
「なるほどな、しかし人間種と違い使い所が難しいのではないか?」
「うむ、皇都か辺境領でしか使えないだろうな」
「ふ~む…」
「そういえばさ、中央や他の公爵家の情報は収集出来ているの?」
「はい、今回の件に直接関わるとすれば我等が本拠の南街区ボーナム公爵家ぐらいですが中央含め動きは直ぐに分かる様になっています」
「ほう、中央も……判断材料として中央の動きを聞かせてもらってもいいのかな?オングルー伝導官」
「ええ、構いません。しかし、私よりも諜報部から聞かれたほうが宜しいかと
宜しいですか?諜報部役長?」
「あ~、どこまで話しても良いのかな?」
「中央だけの内情であれば」
「了解した。では、この場には役長しか入れないが表の部下を1人入れても構わないだろうか?」
「身体検査はしますが?」
「当然だろう、私だって他の役長の部下ならそうする
仲良しこよしの同僚ではないのだからな
では部屋の前まで連れてくる」
諜報部役長が部屋を出ていった


「諜報部役長が戻る前に聞きたいのだが、組織長は方針を決めておられるのか?」
「ええ、決めておられるようです
が、御自身が判断した事が役長達の決定と乖離した場合は組織の為にも役長達を全力でサポートする腹積もりだそうです」
「ねえ?それは直接言っていただく訳にはいかないのかしら?」
「難しいですね、彼の方は多忙過ぎます」
「そうなの…組織長とは1年近く会ってないから、直接命じて頂ければヤル気も出るんだけど…」
「ほう?俺は、もっと会っていないぞ」
「仕方ありません
それこそ仲良しこよしの組織ではありませんから、役長に会うのですら命懸けですからね
その為の私、伝導官ですので」
「それもそうか…」
「そうね…」

部屋の外から騒めきが聞こえてくる
「戻られた様子ですね、身体検査をしているのでしょう
私もチェックしてから役長の皆さんが話し合われている間は部屋に戻ります
話が終わられたら、いつものようにテーブルの魔導具に魔力を流して下さい」
「了解した、少し刻がかかるかもしれんが」
「ええ、組織の存亡のつもりでしっかりと議論して下さい
では、また後ほど」




オングルーは倉庫の扉が両側に並ぶ地下の通路を歩いていき、その中の何の変哲も無い扉の1つを開き中に入る
「屋敷に御戻りになりますか?組織長」
倉庫内の暗がりから声がかけられる
「あゝ魔方陣を頼む」
「畏まりました」
倉庫に積み重なった木箱の1つを裏返しにすると魔方陣が書いてあった
魔方陣に乗り魔力を流し込むと魔方陣が発光し回転を始める
オングルーも発光しはじめ縦にスライスされた様に消えていった




魔方陣の発光が収まり目を瞬くと、いつもの見慣れた自室だ
「ふう」と一息つくと、顔を揉みしだく
机に向かって書き物をしていた赤いドレスを着た少女が振り返り近付いてくる
「御帰りなさいませ、カーダシアン様」
「ん、ただいまマルモリア」
返事をした時には女声に変わり、ツリ目がちな眼光鋭い女の顔があった
「お召替えなさいますか?」
「いや、また後で行かなきゃいけないから、このままで良いわ」
「しかし、せめてサラシは緩められないと形の良い胸が潰れてしまう事に私は耐えられません」
「うふふ、マルモリアが私の胸を見たいだけじゃなくて?」
「いえ⁉︎そんな⁉︎」
「うふふふふ、いいのよ?じゃあゆるめてちょうだい」
執事服の前ボタンを外し両手を広げる
「カ、カーダシアン様、失礼致します」
マルモリアが白いシャツを開き、抱きつく様に背中に手を回しサラシを外すと“ぷるん”と小振りながら形の良い乳房が出てくる
「あぁ…」
「緩めるだけで良いの?」
「えっ?」
「良いのよ?」
「カーダシアン様…」
マルモリアが顔を赤らめ小さな舌を出しカーダシアンの胸に這わせていった
「うふふふふ…あゝ次代ボーナム公爵は可愛らしいわねぇ」






「ショーテン様、義手の調子は如何ですか?」
「クックック…良いぞ、元の生身より具合が良いぐらいだ
流石に大枚はたいた価値があると言うものだ
妻達も毎晩夜通しヨガっておる」
「それは良うございました」
「それで?依頼は出したのか?」
「ええ、まだ出しただけではありますが」
「ボーナムの女狐にはバレてはいないな?」
「ええ、いつもの如く伝導官のオングルーには念押ししておりますので大丈夫かと」
「そうか…しかし、その伝導官とは信用出来るのか?
その組織の長とは直接交渉は出来ないのか?」
「それは難しいのです、あの組織は南街区全体に深く根を張っていて他の街区にも手を伸ばしています
組織の幹部であっても年に1度でも会えれば僥倖のようです
まぁ、犯罪行為もいとわない組織ですから身の安全を計っているのでしょう
組織の名前も無いのですから」
「幹部でもか…」
「はい、しかし義手の性能も相まって信用はしても宜しいのではないでしょうか?
カーダシアン・ボーナム公爵と繋がっていれば高性能な魔導具は調達しないでしょう」
「それもそうか、しかし今度の依頼は受けるか?
バレれば組織がコロージュン公爵を敵に回す事になるが」
「左様でございますね、受けるならば高額な依頼料が必要になるかもしれませんね」
「む、白金貨ぐらいは必要になるか…」
「まさか⁉︎高額に過ぎましょう⁉︎」
「いや、無いとは言い切れまい?
それに、そのぐらいは用意出来ると思わせなければ足元を見られるだろう」
「は、確かに」
「あのガキが白金貨1枚ぐらいで始末出来るならば安いものだ」






「あ、集落が見えてきたね?意外に範囲が大きいな?」

道の先に充分な距離を空けて民家がポツンポツンと建っている
里山沿いに民家の数は多いが、いかんせん民家間の距離があるので広範囲過ぎる気がする
辺境の様な魔獣が出る土地なのに集落を囲うような物が無く他人事ながら少々不安になるが、前世ならば地元の農村部が似た様な風景だったなぁと、なんとなく郷愁をいざな

「第1村人発見!」

「ロウ!なにそれー!はっけーん!」

農作業中の鹿獣人がロウとワラシの声に振り返る

「うわあぁぁっっ!?魔獣だとおっっ!?……ん?」

「あ、驚かせてごめんなさい」

ロウがヴァイパーの首の後ろから顔を出し謝る

「あぁ、なんだ、キジが鳴いたかと思ったら魔獣が居たからビックリしたぞい。人間と蜥蜴人の子か?
ん?んん?あれ?大人は一緒じゃないのか?」

鹿獣人が右に左に頭を振ってヴァイパーの背を見る

「僕らだけですよ、英雄の墓を見に行くんです」

「ん?英雄?あゝあれか、シルスか。しかし、もう魔獣が出るぞ?大人無しで大丈夫なのか?」

「え?その魔獣に乗ってるんだし?てかシルス?」

「まぁそりゃそうか…ボウズはテイマーかなんかなのかい?シルスってのは墓の名前?ってのも変だが、この辺りに住む者達は昔からそう呼んでいるな」

「へぇ~シルスか、なにかの意味があっての呼び名なのかなぁ」

「そんな事は知らんなぁ、だが今日は村のオテジンサンに村の衆が集まってるからシルスが何か知ってるのも居るかもな?」

「オテジンサン?知らない言葉ばっかりだ…」

「ハッハッハッ…まあそうだろうな、他の旅人も首を傾げてるよ」

「へぇ、そうなんだ?オテジンサンって、このまま道を行けばいいの?」

「あゝそうだが俺も一緒に行こう。明日は祭りだからな俺も集会に顔を出してこよう」

「仕事はいいの?てか祭り?」

「あゝ麦の様子を見てただけだからな、もう少しすれば収穫だから害虫なんぞに注意するだけだ」

鹿獣人がヴァイパーの隣を歩きだす

「祭りってな、もうすぐ田植えの時期でなオテジンサンで豊作祈年祭りがあるんだ
あ、田植えってなぁ、コメってのを作る農作業なんだがな
まぁ、出来たコメは全て辺境伯に納めるからボウズみたいな他所者は食べる機会がないだろうな」

「ふ~ん、全部納めるなら村の人達も食べれないんじゃない?」

「確かに俺たちはクンチって初秋の祭りぐらいでしか食べれないがな、コロージュン辺境伯様が高値で買い取ってくださるから不満は無いな
それに、コメは村人全員で自分の仕事の合間に作る、村の共作物だから村全体が潤うんだよ
おかげで農具や必需品やら自腹で買わなくて済んでるからな、コメ様様だあな」

「なるほどね~」
『完全自給自足って訳じゃないけど、アレだ、イスラエルのキブツだな、確か集産主義だったか
コメ集産主義って感じになってんのか?
年貢と違って直接収入になるぶん、これで前世日本みたいに生産調整させたり農協みたいな組織が出来たら誰もコメを作らなくなるんだろうな
辺境伯家がコメだけを高値で一括買い上げしてんのも、他の農産物は好きにやらせてんのも良い方法になってんのかもな?
しかしなぁ、秋はクンチときたか…ってこた、オテジンサンってアレか?
シルスが分からんなぁ~』
「あ、もう1つ教えてもらいたいんだけど
この村?は囲ってないんですね?魔獣被害なんか無いんですか?」

「あゝよく旅人に聞かれるんだが、魔獣は出るが囲う事は無いな」

「それは何故?」

「考えてもみな?この村には、たまに行商するが農民しか居ないんだ
つまり、専門の戦闘職が居ないってこった
そんな村が柵に囲まれてて、村ん中に魔獣が出たら何処に逃げれば良いんだ?」

「あ!な~るほど!」

「だがな?一応は防備はしてんだぞ?」
と、地面を指差す

「地面に?防備?」

「あゝ地下だな
村の家は建てる前にデッカイ穴を掘るんだよ
そして石を積んで頑丈な地下室を作ってから家を建てるんだ
地下から出てくる魔獣や魔虫もいるからな」

「ほえ~、考えてあるんだねぇ」

「そりゃそうだ、命は大事だからな」



暫く道を進んで行くと
「ロウ!人が集まってるぞ!」

「うん、アレがオテジンサン?かな?」

視線の先には大きな高床式の東屋があり、集落の人々が集まって車座に座っているのが見える
東屋に入れない人達は外に立って集会に参加しているようだ

「ねぇ、おじさん?余所者の僕達も聞いて良いの?」

「あゝ問題無いぞ?シアまで行ってみるか」

「シア?」

「あゝ皆んなが集まってる建物だ」

『シア…四阿か、なるほどなるほど
じゃあオテジンサンは御天神さんか
クンチと言い、九州弁ばっかだな…
って事は、祭りの時にはシアの中で劇芝居したり、前桟敷で踊りを踊ったりするんだろうな
ん?じゃあ踊りは浮立か?』
「ねぇ、祭りって何をするの?」

「ん?オテジンサンに祈念した後にシアの前で若い奴等がフリュウを夜通し踊るんだ
俺たちみたいな年配は囃子方だな、笛吹いたりかねを叩いたりな
そして、途中で疲れた年頃の奴等は繁みに消えて行くな
なんたって豊年祭りだからな、ワッハッハッハッハ
ボウズ達も踊りが上手かったら暗がりに引っ張り込まれるからな気を付けろよ?クククク…」

「ええ⁉︎何言ってんの⁉︎こんな子供に⁉︎」

「カンケーねぇさ、男は精通してりゃ大人も子供も知った事かってなもんだろうよ
勿論、女も初花が来れば関係無い」

「なんっつー大らかな…そんなん誰が誰の子供かすら分からないじゃないか!」

「それはそんなに大事な事か?誰の子かは関係なく子供は大事なものだろうよ?」
鹿獣人のオッサンは心底不思議そうだ

「…あー…そうかぁ……根本的なところで僕は前世常識が染み付いてんだなぁ…
リズとミアの事が理解出来たかも…
いや、理解出来ちゃダメなような…
とりあえず僕は精通してないからね」

「なに⁉︎そうなのか⁉︎しっかりした話し方するから小柄なだけだと思ってたんだが?」

「6歳だよ!」

「あー6歳かぁ…人の子で6歳じゃあ早いなぁ
せめて10歳じゃないとな
獣人なら大丈夫なんだが…
しかし残念だ、気持ち良いのにな」

「なんでそんなにヤらせたいのさ⁉︎」

「そりゃ見てて面白いからな、クックックッ
他に娯楽も無いしな」

「出歯亀かよ…」

「ロウ?気持ち良いのか?しないのか?」

「いやいやいやいや…」

「ワフワフ」(すればいいじゃない、前世知識総動員すれば面白い事になると思うよ?この世界に前世技術は無いだろうしw)

「いやいやいやいや…」

「ブヒヒヒン」

「いやいやいやいや…」





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