坊主女子:青春恋愛短編集【短編集】

切り落とされた約束

第一章: 禁断の誘惑

深秋の大学図書館は静かで、紗也加は本に囲まれた中で穏やかな時間を過ごしていた。そんなある日、彼女は健太という先輩に出会った。彼は物理学の研究で有名な学生で、紗也加が尊敬する一人だった。彼との偶然の出会いが、彼女の心に新しい感情を芽生えさせることになるとは、その時はまだ知らなかった。

健太は、紗也加の隣のテーブルで研究資料を読んでいた。彼の真剣な眼差しに、紗也加は思わず見とれてしまう。

「紗也加さん、その本、面白いですか？」健太が彼女に声をかけた。

紗也加は少し緊張しながら答えた。「ええ、とても興味深い内容です。物理学についてはよくわかりませんが...」

健太は優しく微笑んだ。「物理学は奥が深いですよ。一緒に勉強しませんか？」

そこから二人の距離は急速に縮まり、紗也加は健太との時間を楽しみにするようになった。しかし、紗也加には陽一という3年間付き合っている彼氏がいた。彼との関係はすでに色褪せており、新たな感情が芽生える余地があった。

健太とのある日の勉強会後、紗也加は自分でも驚くほど簡単に、彼の手を握り返してしまった。

「紗也加さん、あなたは大切な人がいますよね。私とこうしていてもいいんですか？」健太が心配そうに尋ねた。

紗也加は心が揺れた。「うん...でも、今は健太くんといることが、とても幸せ。どうしてだろう...」

この瞬間から、二人の関係は一線を越えてしまい、紗也加は健太との禁断の関係に身を任せた。

彼女は混乱と罪悪感に苛まれながらも、健太との甘い時間を止めることができなかった。

第二章: ばれた罪

紗也加の心は健太との甘い時間によって揺れ動いていた。彼女は陽一との関係が遠のいていくのを感じながらも、その現実から目を背けていた。だが、隠し続けることができると信じていたその関係は、突如として暴かれることになる。

ある日の夕方、紗也加が一時的に席を外した隙に、陽一は彼女のスマートフォンの通知画面を見てしまった。そこには健太からの心をくすぐるメッセージが並んでいた。

陽一の声が部屋に響く。「紗也加、これは何だ？誰からのメッセージだ？」

紗也加は戻ってきて、陽一の怒りに満ちた顔を見て愕然とした。「陽一、それは...」

「お前、浮気してるのか？」陽一の声は信じられないほど冷たかった。

「ごめんなさい、本当にごめんなさい...」紗也加は涙を流しながら必死に謝った。しかし、彼女の言葉は陽一の怒りを鎮めるには至らなかった。

「どうしてくれるんだ、これ...」陽一は激しく動揺し、紗也加の裏切りに苦しんでいた。「俺たち、何年も一緒にいたのに...」

紗也加は泣きながら陽一に向かって頭を下げた。「許して...私、本当に間違えだった...」

この一件は、紗也加と陽一の関係に大きな亀裂を生じさせ、二人の間には深い溝ができてしまった。紗也加は自分のしたことの重大さを深く自覚し、どうすれば償いができるのかと自問自答を繰り返していた。

第三章: 罰の条件

陽一の怒りと失望は、冷めやらぬ夜の静けさの中でさらに深まっていた。紗也加は自分の不誠実な行動によって、陽一を傷つけてしまったことを痛感していた。彼女は彼の信頼を取り戻すために何かしなければならないと思い詰めていたが、どうすれば良いのか分からなかった。

紗也加の懇願に対し、陽一は冷静さを取り戻したように見えたが、彼の提案は紗也加にとって想像を絶するものだった。

「紗也加、本当に俺とのことを反省してるのか？」陽一はじっと彼女を見つめながら言った。「なら、その証拠を見せてみろ。」

紗也加は彼の言葉に戸惑いを隠せなかった。「どうすればいいの？何でもするわ...」

「床屋に行って、丸坊主にしてこい。」陽一の言葉は断固としていた。「それができたら、お前の誠意を信じてやる。」

紗也加は言葉を失った。彼女にとって髪は自分の大切な一部であり、女性としての自信の源でもあった。その髪を全て削ぎ落とすことは、彼女にとって想像を絶する試練だった。

「そんな...できない...」紗也加の声は震え、涙が頬を伝った。

「約束したろう？俺を裏切ったんだ。それくらいの覚悟があってのことだろう？」陽一は厳しい表情で彼女を見下ろした。

紗也加は深く苦悩した。自分のしたことを償うため、そして陽一の信頼を取り戻すためには、この過酷な要求を受け入れるしかないのかもしれないと感じた。しかし、それは同時に自分のアイデンティティを失うことを意味していた。

「わかった...やるわ。でも、それで私たちが元に戻れるの？」紗也加は涙にくれながら問いかけた。

陽一は無言で彼女を見つめ、その沈黙は紗也加の心をさらに重くした。彼女はこの決断が、自分の人生における大きな転換点になることを感じていた。

第四章: 決意の道

紗也加の心は、痛みと迷いで満ちていた。陽一への罪悪感と、自分自身への失望。彼の要求を受け入れることは、彼女にとって精神的にも肉体的にも極めて辛い試練だった。しかし、自分の過ちを正すため、そして何よりも陽一との関係を修復するためには、この道を選ぶしかないと紗也加は感じていた。

朝、彼女は鏡の前で立ち尽くした。自分の長い髪を何度も手で撫で、その重さと温もりを感じ取る。これが最後になると思うと、彼女の胸はさらに痛んだ。

「私、本当にこれでいいの...？」彼女は自分自身に問いかけたが、答えはすでに心の中にあった。

紗也加はゆっくりと家を出て、近くの床屋に向かった。足取りは重く、心はまるで暗いトンネルを歩いているようだった。彼女は自分の決断が正しいのか、何度も何度も自問した。

「私は陽一くんにとって、それほど大切なのかしら...？」彼女はふと、そう思った。彼との関係を取り戻すために、自分はどこまで行けるのか。

床屋のドアに手をかけると、彼女の手は震えていた。彼女は深呼吸をして、勇気を振り絞り、ドアを開けた。

店内は静かで、美容師が彼女を迎え入れた。「いらっしゃいませ、どうなさいますか？」

紗也加は一瞬言葉を失い、そして深く息を吸い込んで言った。「丸坊主にしてください...」

その言葉を口に出した瞬間、彼女は自分の決断の重さを改めて感じた。しかし、これは彼女が選んだ道であり、自分の行動に対する償いだという思いを強く持っていた。

第五章: 刈り取られる髪

紗也加が床屋の椅子に座り、鏡を見つめる。その鏡に映るのは、不安と決意が入り混じった表情をした女性だった。美容師は紗也加の要求に驚きつつも、彼女の決意を尊重し、作業を始める準備をした。

「本当によろしいですか？」美容師が最後に確認する。

紗也加は鏡に映る自分の長い髪を見つめ、息を深く吸い込んだ。「はい、お願いします...」

美容師ははさみを取り、結んだ髪を根元近くで一気に切り落とした。カチンという音とともに、髪の束が床に落ちる。紗也加の心には、その瞬間、失われた何かの実感が突き刺さった。

次に、美容師は電動バリカンを取り出し、紗也加の頭皮に優しく当てた。バリカンの振動が頭皮に伝わり、シャーという音が静かな店内に響き渡る。紗也加は目を閉じ、その感触と音に集中していた。鏡を見る勇気がなかった。

細かい髪の切れ端が彼女の顔にかかり、時折、彼女はその感触に小さく身震いする。美容師は慎重に、しかし確実に紗也加の髪を短くしていった。

紗也加は涙を流すことを止められなかった。彼女はこの選択が自分にとってどれほど重要かを知っていた。涙は悲しみ、後悔、そして自らに課した厳しい罰への反応だった。

美容師は静かに作業を続ける。「...ごめんなさいね」と静かに言った。

紗也加は小さく頷いた。「いいえ、ありがとうございます。これは私の選択ですから...」

バリカンの音は次第に小さくなり、最後には静寂が戻る。紗也加が目を開けて鏡を見ると、そこには全く新しい自分がいた。その姿は見慣れないものだったが、同時に新たな一歩を踏み出した自分を象徴していた。

「これで終わりです」と美容師が言う。紗也加は鏡に映る自分をじっと見つめながら、これからの自分の人生に何が待っているのか、不安と期待が入り混じった複雑な感情を抱えながら、椅子から立ち上がった。

第六章: 見せる勇気

丸坊主になった紗也加は、陽一の前に立つことを決意した。彼女の心は複雑な感情で満たされていた。恥ずかしさ、不安、そして何よりも陽一の反応への恐れ。彼女は深く息を吸い込み、彼のアパートのドアをノックした。

ドアが開き、陽一が現れた。彼の目は驚きで広がり、言葉を失った。「紗也加...それは...」

紗也加は勇気を振り絞って、静かに話し始めた。「陽一、これが私の答えよ。私の罪を償うために、私はこれを選んだの。これで、私の気持ちが伝わるかしら？」

陽一は言葉を失い、ただ彼女をじっと見つめていた。その瞳には、怒りや悲しみが渦巻いていた。

「私は間違えた。私のせいで、あなたを傷つけた。私は本当にごめんなさいって言いたいの」と紗也加は涙を流しながら言った。

しばらくの沈黙の後、陽一はゆっくりと口を開いた。「紗也加、ごめん。俺が間違ってた。こんなことを君に要求するべきじゃなかった。俺は君を傷つけた。」

紗也加は驚いた。彼の表情は悲しみに満ちていた。陽一はゆっくりと腕を広げ、紗也加は躊躇いながらも、彼の腕の中に飛び込んだ。二人は互いに抱き合い、涙を流しながら、新しい約束を交わした。

「紗也加、君の勇気に敬意を表するよ。これからは、もっとお互いを大事にしよう」と陽一は優しく言った。

紗也加は頷き、「ありがとう。これで、私たちはまた一緒に歩み始めることができるね」と答えた。

彼らの目には、過去の傷を乗り越え、新しい未来へと歩み始める決意が宿っていた。紗也加は、この試練が自分にとって大きな成長の機会になったと感じていた。そして、それは陽一にとっても、紗也加への信頼を取り戻すきっかけとなったのだった。