ショートに託す母の想い ―親子の春をつなぐ鋏音―

S.H.L

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第7章 娘の葛藤と母の背中

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 翌朝――。瑞希がキッチンで朝食の支度をしていると、夏音は自分の部屋からゆっくりと出てきた。まだ眠たそうな目をこすりながらも、ふと母の方を見つめる。その視線の先には、首筋まできれいにカットされた瑞希のショートヘア。

 「おはよう」
 「…おはよう」

 小さなダイニングテーブルに二人分のパンとサラダ、ゆで卵とみそ汁が並ぶ。瑞希は普段と変わらぬ手つきで朝食を用意していたが、夏音は落ち着かない様子で何度も母の顔と髪を見比べている。

 「ねぇ、お母さん…」
 「うん?」
 「本当に…切っちゃったんだね」
 「うん。思い切ってね」
 「後悔…してないの?」
 「ううん。むしろ、すっきりした感じ」
 「そっか……」

 夏音はスプーンをいじりながら、言いたいことがなかなか言えないまま、テーブルの端を指でなぞった。
 「みんなに、どうして髪切ったの?って聞かれない?」
 「きっと聞かれるよ。でも、娘のためって言えるのが、なんだか嬉しいかな」
 「……お母さん、バスケ部の伝統、本当に守ってたの?」
 「昔はね。今は時代も変わったけど、部活って仲間と気持ちをひとつにする場所でもあるから」
 「でも、私は……」

 言葉が詰まる。夏音の心にはまだ「ロングヘア=自分らしさ」という強いこだわりと、「みんなと同じにするべき?」という迷いが混じっていた。
 母のショートカットは思ったより柔らかく、優しい雰囲気をまとっていた。

 「夏音、無理に髪を切る必要はないよ。自分で決めていいんだから」
 「……」
 「私は、夏音がバスケを好きでいられることを一番に考えたい。髪型じゃなくて、どんな気持ちでコートに立ちたいか、考えてみて」

 夏音は小さくうなずいた。母の背中が、言葉よりも雄弁に「覚悟」を語っているように思えた。
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