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第1部
第16章:食事に誘われる夜、心の温度が一段上がる
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第16章:食事に誘われる夜、心の温度が一段上がる
1|翌日の仕事は落ち着かない――理由はひとつ
翌日。
澪は仕事に集中しようとしていたが、
何度も無意識に頭を撫でてしまう。
ざら……ざら……
(昨日、圭介さん……少し触れた……
あの感触、まだ残ってる気がする)
メールチェックも、資料作成も、
なぜか意識が上の空になる。
同僚が声をかけた。
「澪さん、今日なんか顔色いいですよね?
昨日、いいことありました?」
「え、べ、別に……!」
顔が熱くなる。
(別に……じゃない……
本当は、ぜんぜん別じゃない)
⸻
2|仕事終わり、店へ行こうと思うが……迷う
定時後。
澪は駅のホームで迷っていた。
(今日は……行く?
行かない?
昨日は弱さを見せすぎたし……)
行きたい。
でも、昨日泣いたばかり。
(会いたい……だけど、会う理由がない)
髪はまだ1mmのまま綺麗で、
整える必要もない。
ただ“会いたい”という理由だけで、
行っていいのか迷う。
その時だった。
スマホが震えた。
⸻
3|圭介:『駅前にいる。今、どこ?』
開くと――
圭介からのメッセージが一行。
圭介:
駅前にいる。今、どこ?
(……え)
心臓が跳ねた。
“店で待ってる”じゃない。
“駅前にいる”。
つまり――
迎えに来ている のと同じ意味だった。
澪は震える指で返信する。
澪:
今、改札を出たところです
すぐに返ってくる。
圭介:
じゃあ動くな。今行く。
胸が爆発しそうになった。
⸻
4|夕暮れの駅前、圭介が“私服”で現れる
改札の横で立っていると、
人混みの中で圭介がこちらに気づいた。
黒いシャツの襟を少し開け、
カーキのパンツ。
店の白衣とは違う、
“大人の男”の雰囲気。
心臓が痛いほど鳴る。
「待たせた」
「い、いえ……!」
声が裏返る。
圭介は、
昨日と同じ柔らかい目をして言った。
「腹減ってないか?
何か食いに行くか」
(……え……これって……)
誘い方はさらっとしているのに、
どう見ても“特別扱い”だった。
⸻
5|居酒屋でもレストランでもなく、“小さな定食屋”
圭介が連れて行ったのは、
駅前の古い定食屋だった。
暖簾が揺れ、
昭和の香りが残っている。
「ここ、子どものころから知ってる店。
落ち着くぞ」
店の中は小さく、
カウンターが6席だけ。
圭介が席を引いてくれた。
(え……椅子……引かれた……)
胸が跳ねる。
圭介は味噌カツ定食、
澪は焼き魚定食を頼んだ。
ご飯を待つ間、
圭介が言った。
「昨日、電話で……声が震えてたな」
「……っ、そんなにわかりました……?」
「澪の声は、わかる」
その言い方が、
あまりにもさりげなくて心臓に悪い。
⸻
6|「俺に言っていい。弱いのも、強いのも」
料理が運ばれ、
二人は箸をつける。
圭介は言った。
「昨日の話、もっと聞かせろ」
澪は小さく息を吸って、
ゆっくり話し始めた。
トラブルのこと。
プレッシャー。
保留の不安。
そして昨日、店に行けなかった理由。
全部、素直に話せた。
圭介は何も遮らず、
黙って聞いてくれた。
話し終えたとき、
圭介は低い声で言った。
「澪。
弱いのも強いのも、どっちも“澪”だ。
どっちも俺は……嫌じゃない」
(……嫌じゃない……?)
鼓動が止まらない。
⸻
7|1mm坊主を見つめる目が、前より少し長い
圭介の視線が、
ふと澪の頭に向く。
以前より長く、
じっと見ている。
澪は恥ずかしくなり、
思わず頭に手を当てた。
「そんなに見ないでください……」
圭介はわずかに目を逸らし、
咳払いをした。
「いや……
坊主が似合う女は、珍しいんだよ」
「に、似合ってるんですか……?」
圭介は、
少し照れたような声で言った。
「……似合ってる。すごく」
その瞬間、
澪の胸に熱が走る。
⸻
8|帰り道、歩幅が自然に合う
食事を終え、
二人で駅に向かって歩く。
足取りはゆっくりで、
なぜか自然に歩調が合った。
(なんでだろう……心地いい)
沈黙も苦しくない。
むしろ、
沈黙の中に優しさがあった。
途中で圭介が言った。
「今度は……店じゃない場所でもいいな」
「え……?」
「店じゃないとこで、話すのも悪くない」
心臓がまた跳ねる。
⸻
9|別れ際、圭介が少し迷ってから言った言葉
改札の前。
圭介はしばらく澪を見つめ、
迷うように視線をそらし――
口を開いた。
「……澪」
「はい」
「また……飯、行こうな」
(……“行こうな”って……)
今日は“店に来い”ではない。
それは――
客としてではなく、
ひとりの女として誘われている
という意味だった。
澪は顔を赤くしながら、
小さく頷いた。
「……はい。ぜひ」
圭介は少し笑った。
静かで、大人で、優しい笑い方だった。
⸻
10|家に帰り、頭を撫でながら気づく
家につき、
シャワーを浴びた後。
澪は鏡の前で、
濡れた1mm坊主をそっと撫でた。
ざら……ざら……
(……私、もう……
圭介さんのこと……)
言葉にしようとして、
喉の奥で衝動が止まる。
でも――
はっきり気づいた。
(たぶん……好きだ)
1mmの髪が、
胸の奥の鼓動と一緒に
微かに揺れた。
1|翌日の仕事は落ち着かない――理由はひとつ
翌日。
澪は仕事に集中しようとしていたが、
何度も無意識に頭を撫でてしまう。
ざら……ざら……
(昨日、圭介さん……少し触れた……
あの感触、まだ残ってる気がする)
メールチェックも、資料作成も、
なぜか意識が上の空になる。
同僚が声をかけた。
「澪さん、今日なんか顔色いいですよね?
昨日、いいことありました?」
「え、べ、別に……!」
顔が熱くなる。
(別に……じゃない……
本当は、ぜんぜん別じゃない)
⸻
2|仕事終わり、店へ行こうと思うが……迷う
定時後。
澪は駅のホームで迷っていた。
(今日は……行く?
行かない?
昨日は弱さを見せすぎたし……)
行きたい。
でも、昨日泣いたばかり。
(会いたい……だけど、会う理由がない)
髪はまだ1mmのまま綺麗で、
整える必要もない。
ただ“会いたい”という理由だけで、
行っていいのか迷う。
その時だった。
スマホが震えた。
⸻
3|圭介:『駅前にいる。今、どこ?』
開くと――
圭介からのメッセージが一行。
圭介:
駅前にいる。今、どこ?
(……え)
心臓が跳ねた。
“店で待ってる”じゃない。
“駅前にいる”。
つまり――
迎えに来ている のと同じ意味だった。
澪は震える指で返信する。
澪:
今、改札を出たところです
すぐに返ってくる。
圭介:
じゃあ動くな。今行く。
胸が爆発しそうになった。
⸻
4|夕暮れの駅前、圭介が“私服”で現れる
改札の横で立っていると、
人混みの中で圭介がこちらに気づいた。
黒いシャツの襟を少し開け、
カーキのパンツ。
店の白衣とは違う、
“大人の男”の雰囲気。
心臓が痛いほど鳴る。
「待たせた」
「い、いえ……!」
声が裏返る。
圭介は、
昨日と同じ柔らかい目をして言った。
「腹減ってないか?
何か食いに行くか」
(……え……これって……)
誘い方はさらっとしているのに、
どう見ても“特別扱い”だった。
⸻
5|居酒屋でもレストランでもなく、“小さな定食屋”
圭介が連れて行ったのは、
駅前の古い定食屋だった。
暖簾が揺れ、
昭和の香りが残っている。
「ここ、子どものころから知ってる店。
落ち着くぞ」
店の中は小さく、
カウンターが6席だけ。
圭介が席を引いてくれた。
(え……椅子……引かれた……)
胸が跳ねる。
圭介は味噌カツ定食、
澪は焼き魚定食を頼んだ。
ご飯を待つ間、
圭介が言った。
「昨日、電話で……声が震えてたな」
「……っ、そんなにわかりました……?」
「澪の声は、わかる」
その言い方が、
あまりにもさりげなくて心臓に悪い。
⸻
6|「俺に言っていい。弱いのも、強いのも」
料理が運ばれ、
二人は箸をつける。
圭介は言った。
「昨日の話、もっと聞かせろ」
澪は小さく息を吸って、
ゆっくり話し始めた。
トラブルのこと。
プレッシャー。
保留の不安。
そして昨日、店に行けなかった理由。
全部、素直に話せた。
圭介は何も遮らず、
黙って聞いてくれた。
話し終えたとき、
圭介は低い声で言った。
「澪。
弱いのも強いのも、どっちも“澪”だ。
どっちも俺は……嫌じゃない」
(……嫌じゃない……?)
鼓動が止まらない。
⸻
7|1mm坊主を見つめる目が、前より少し長い
圭介の視線が、
ふと澪の頭に向く。
以前より長く、
じっと見ている。
澪は恥ずかしくなり、
思わず頭に手を当てた。
「そんなに見ないでください……」
圭介はわずかに目を逸らし、
咳払いをした。
「いや……
坊主が似合う女は、珍しいんだよ」
「に、似合ってるんですか……?」
圭介は、
少し照れたような声で言った。
「……似合ってる。すごく」
その瞬間、
澪の胸に熱が走る。
⸻
8|帰り道、歩幅が自然に合う
食事を終え、
二人で駅に向かって歩く。
足取りはゆっくりで、
なぜか自然に歩調が合った。
(なんでだろう……心地いい)
沈黙も苦しくない。
むしろ、
沈黙の中に優しさがあった。
途中で圭介が言った。
「今度は……店じゃない場所でもいいな」
「え……?」
「店じゃないとこで、話すのも悪くない」
心臓がまた跳ねる。
⸻
9|別れ際、圭介が少し迷ってから言った言葉
改札の前。
圭介はしばらく澪を見つめ、
迷うように視線をそらし――
口を開いた。
「……澪」
「はい」
「また……飯、行こうな」
(……“行こうな”って……)
今日は“店に来い”ではない。
それは――
客としてではなく、
ひとりの女として誘われている
という意味だった。
澪は顔を赤くしながら、
小さく頷いた。
「……はい。ぜひ」
圭介は少し笑った。
静かで、大人で、優しい笑い方だった。
⸻
10|家に帰り、頭を撫でながら気づく
家につき、
シャワーを浴びた後。
澪は鏡の前で、
濡れた1mm坊主をそっと撫でた。
ざら……ざら……
(……私、もう……
圭介さんのこと……)
言葉にしようとして、
喉の奥で衝動が止まる。
でも――
はっきり気づいた。
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胸の奥の鼓動と一緒に
微かに揺れた。
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