刃先に触れる恋 —君が短くなるたび、僕は惹かれていく—

S.H.L

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第1部

第18章:揺るがぬ視線と、仕事の決着の日

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第18章:揺るがぬ視線と、仕事の決着の日

1|週明けの朝、胸の奥に“確信”があった

 週が明けた月曜日。

 澪は駅のホームで電車を待ちながら、
 頭に手を当てた。

 1mm坊主は少し伸び、
 2mmほどになっていた。

 (ざら……ざら……
  今日の私は、負けない)

 圭介の言葉。
 圭介の過去。
 圭介の“誇りだ”という声。

 そのすべてが、
 澪の背中を押していた。



2|保留だった案件が、ついに“動く”

 出社して間もなく、
 市村部長が澪を呼んだ。

 「三枝。先方から連絡が来た」

 澪は身を固くする。

 「明日、再提案の場を設けたいと。
  今回は……決着をつけたいそうだ」

 (ついに……)

 喉がひりつく。
 でも、心は静かだった。

 「任せてもらえますか?」

 澪が自ら言うと、
 市村は意外そうな顔をしたあと、
 ゆっくり頷いた。

 「もちろんだ。三枝、お前に任せる」

 周囲の社員がざわついた。

 「また三枝さんが行くのか……」
 「でも前より頼もしさあるよな」
 「てか坊主で営業って強くない?」
 「いや、あれはカッコいいだろ……」

 澪は聞こえないふりをした。

 (坊主だからじゃなくて……
  坊主で“戦おうとしてる私”だからだ)



3|資料を整える手が震えない

 提案資料をまとめながら、
 澪はふと気づいた。

 (……私、今日震えてない)

 前なら、小さな修正でも手が止まった。
 でも今は違う。

 “怖い”よりも“進みたい”が強い。

 髪を触る。

 ざらっ

 強くなった自分の背中を、
 その感触が押してくる。



4|母からの電話で、胸がじんわり温かくなる

 昼休み、スマホが鳴く。

 母からだった。

 「澪? 元気?」

 「うん。元気だよ」

 母は続けた。

 「この間の髪……見慣れてきたわ」
 「あなたが笑ってるほうが嬉しいし」
 「応援してるからね」

 (……なんで今日……)

 澪は涙を堪えた。

 圭介だけじゃない。
 母も、自分を肯定してくれる。

 (大丈夫。私なら行ける)



5|前日の夜、圭介に連絡する

 帰り道。
 澪はスマホを取り出して
 短いメッセージを送った。

 澪:
  明日、再提案の日です。
  決着つけてきます。

 すぐに返ってくる。

 圭介:
  任せろ。
  坊主の女が負けるわけがない。

 澪は声を出して笑いそうになった。

 (気が抜けるような言いかたなのに……
  どうしてこんなに勇気が出るんだろう)



6|提案当日――“圧”に飲まれない私

 翌日。

 澪はスーツを整え、
 2mmに伸びた坊主を軽く撫でて、
 深呼吸して会議室に入った。

 相手企業のメンバーが3人。
 全員が厳しい顔だ。

 (前の私なら、ここで足がすくんでる)

 でも――
 今日は違う。

 澪は、まっすぐ相手の瞳を見た。

 2mm坊主のせいではなく、
 2mm坊主を選んだ私の覚悟のせいで
 視線が揺れなかった。



7|相手の質問が鋭くても、折れない声で返す

 担当者が強い口調で問いかけた。

 「この見直し案、本当に実現可能なんですか?」

 「はい。可能です」

 即答できた。

 「前回の数字と整合性がとれていない箇所がありますが」

 「そこはこちらで補完しました。
  理由はこちらにまとめています」

 資料を示す澪の手は、
 少しも震えない。

 担当者たちは、
 澪の目を見て議論を続けた。

 議論は白熱したが――
 澪の視線は一度も落ちなかった。



8|「三枝さん。この案件、あなたに任せたい」

 会議の終盤。

 担当者が深く息を吸い、言った。

 「……よくここまで持ってきましたね」

 (……っ)

 「本題に入ります。
  この案件、あなたに任せたいと思います」

 澪は息を止めた。

 「弊社の社内調整も終えました。
  明日から正式にこの提案で進めましょう」

 胸が熱くなる。
 涙がこぼれそうになる。

 (やった……!
  ついに……!)



9|会社に戻ると、課の空気が一変した

 会社に戻ると、
 課の全員がざわっと立ち上がった。

 「三枝さん、どうでした!?」
 「通ったんでしょ!?」
 「え、まさかの通し!? すげぇ!」

 課長が腕を組んで言う。

 「三枝。……よくやった」

 市村部長も笑った。

 「坊主にしてから、お前は見違えるようだ」

 澪は照れて笑う。

 (違う……坊主にしたからじゃない)
 (坊主に“なったあと”の自分で戦ったからだ)



10|帰り道、圭介に送ったメッセージで涙が溢れる

 澪は電車を降り、
 小走りでベンチに座ってスマホを開いた。

 澪:
  通りました。
  全部、やりきりました。

 圭介からはすぐ返事が来た。

 圭介:
  お疲れ。
  その結果は、お前が勝ち取ったんだよ。
  よく頑張ったな。

 その一言で――
 本当に涙が溢れた。

 風が坊主頭をなでる。

 (私……強くなれた……)



11|その夜、澪は鏡の前で泣き笑いする

 家に着くと、
 シャワーを浴び、
 2mm坊主を軽くタオルで拭く。

 ざらざら……

 その感触が今日は特別だった。

 (この髪で戦って、勝てた)

 涙が頬を伝う。

 (圭介さん……ありがとう)

 鏡の中の自分は、
 髪が短くても、
 いや短いからこそ、
 誇らしく見えた。
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