刃先に触れる恋 —君が短くなるたび、僕は惹かれていく—

S.H.L

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第1部

第20章:髪が伸びていく、心も揺れていく

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第20章:髪が伸びていく、心も揺れていく

1|朝、鏡の前で気づく“違和感”

 休日から三日経った朝。

 澪は洗面台の鏡を覗き込んだ。

 (……あれ?)

 触ってみる。

 ざら……ざら……
 1mmの鋭い感触ではなく、
 2mmより少し柔らかい。

 (これ……3mmくらい?)

 指が沈む。
 毛先にわずかな丸みが出てきている。

 思わず心臓が跳ねた。

 (伸びてる……本当に伸びてる)

 嬉しいような、少し寂しいような。



2|出勤すると、同僚の反応も変わっていた

 オフィスに入ると、
 隣の席の美咲が言った。

 「澪さん……髪、伸びたね」

 「え、わかります?」

 「うん。なんか柔らかくなったというか……
  なんか可愛いよ?」

 (可愛い……? 坊主で……?)

 新鮮すぎて胸が高鳴った。

 別の同僚も小声で言う。

 「てか……伸びてきた坊主って逆に色気あるよな」
 「なんか触りたくなるやつ」

 澪は思わず顔が赤くなる。



3|仕事中、ふと“昨日の圭介”の横顔を思い出す

 資料作成をしながら、
 指がまた頭へ伸びてしまう。

 (風に吹かれたとき……
  圭介さん、私の髪見てたな……)

 じっと短い髪を見つめる視線。
 触れなかった指先。

 そのすべてが胸に残っている。

 (この髪……伸びたら、
  圭介さん、どう思うんだろう)

 恋の火は、
 髪と一緒に静かに育っていた。



4|帰り道、電車の窓に映った自分に“違和感”

 仕事帰り。

 電車の窓に映る自分を見て、
 澪はふっと息を止めた。

 (……なんか、雰囲気が違う)

 1mmのときは“強い覚悟”だった。
 2mmのときは“走り続けてる感じ”だった。

 でも3mmは――
 女性らしさ が少し戻ってきていた。

 (これ……似合うけど……
  圭介さんは、どう思うんだろう)

 胸がざわつく。



5|思い切って店に立ち寄る。理由は…“見てもらいたいから”

 自然と足が路地へ向いていた。

 (切るつもりじゃないけど……
  見てほしい……)

 圭介の意見を聞きたいわけじゃない。
 ただ、
 今の私を見てほしい
 それだけだった。

 扉を押す。

 ちりん。

 圭介が顔を上げた。

 「……来たな」

 その声が、急に胸を熱くする。



6|圭介が“3mmになった澪”を見て、一瞬だけ言葉を失う

 澪が近づくと、
 圭介はふと眉を上げた。

 「……ああ」

 「え……?」

 圭介は澪の頭をじっと見つめて言った。

 「伸びたな。
  ……3mmくらいか」

 (言った……! やっぱりわかるんだ……!)

 圭介の視線が、
 1mmのときよりも長く留まる。

 「……悪くない」

 その一言が胸を震わせた。



7|「触っていいか?」と言われると思った。でも――

 圭介は椅子を指す。

 「座れ。今日は切らないんだろ?」

 「……はい。でも、見てもらいたくて」

 圭介は小さく笑った。

 「知ってる」

 澪の胸が跳ねる。

 圭介が後ろに立ち、
 指を伸ばして――
 また、触れずに止めた。

 (触れない……また……)

 「3mmは、1mmより柔らかい。
  でもまだ“坊主の芯”は残ってる」

 圭介は、触れずに
 まるで風で撫でるように
 手を動かした。

 「……澪の性格に合ってる」

 (そんなこと言われたら……
  また好きになる……)



8|「切るかどうか迷ってる顔だな」

 圭介は澪の横に座り、
 静かに言った。

 「伸びても似合うけど……
  切るかどうか迷ってる顔だな」

 図星すぎて、
澪は思わず目を伏せた。

 「……迷ってます」

 圭介は澪の顔をしばらく見ていた。

 その目が優しい。

 「伸ばすのもいい。
  切るのもいい。
  大事なのは――
  “澪が自分のために選ぶかどうか”だ」

 (圭介さん……)

 胸の奥が熱くなる。



9|帰り際、圭介が不意に言った

 帰ろうとすると、
 圭介が不意に言った。

 「次、切りたくなったら……
  ちゃんと言えよ」

 「はい……」

 「俺が切る。
  伸びていくのを見るのもいいけど……
  また“澪の覚悟の頭”を見るのも、悪くない」

 (……そんな言い方……ずるい)

 心臓がきゅっと縮む。

 髪が伸びるほど、
 圭介への想いは強くなっていく。



10|帰宅後、シャワーを浴びながら気づく

 水に濡れた3mmの髪を撫でる。

 ざら……
  ふわ……
  ざら……ふわ……

 1mmの硬さはない。
 でも“丸坊主の柔らかい最初期”の感触が
 やけに愛おしい。

 (伸びると……また切りたくなる)

 理由は一つ。

 ――圭介に切ってほしいから。

 その事実に気づいた瞬間、
 胸が強く震えた。
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