刃先に触れる恋 —君が短くなるたび、僕は惹かれていく—

S.H.L

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第2部

1

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1|断髪の直後の沈黙が、熱を帯びていく

 圭介に抱きしめられたあと、
 澪は一歩だけ後ろに下がった。

 でも、距離はまだ近い。
 逃げるための一歩ではなく、
 “見つめたいから”の一歩だった。

 1mmの頭に残るバリカンの余韻。
 肌の上でまだ微かに震えている。

 圭介の手は、
 澪の肩から離れ切れずにいた。

 店内は静か。
 時計の音も聞こえないほど、
 二人の呼吸だけで空気が揺れている。



2|“顔を上げて”と言われた瞬間、呼吸が詰まる

 圭介が低い声で言った。

 「……澪、顔を上げろ」

 その声だけで、
 足元から体温がせり上がる。

 澪はゆっくり顔を上げる。

 圭介がちょうど目の前にいた。
 距離は30cmもない。
 手を伸ばせば触れるどころか、
 胸の鼓動までも聞こえそうな距離。

 「そんな顔すんなよ……
  触れたくなるだろ」

 (……もう触れてるくせに……)

 胸に押し寄せる熱が止まらなかった。



3|頭へ伸ばされた指が、ためらいなく触れる

 圭介はゆっくり手を伸ばし、
 澪の1mm坊主に触れた。

 ざら……ざら……

 爪ではなく、指の腹で。

 髪の長さが短いほど、
 触れ方が直接的になる。

 澪は息を飲んだ。

 「……っ」

 声にならない吐息が漏れる。

 圭介も気づいたようだ。

 「敏感になってるな」

 囁くような声。
 それだけで膝が震える。



4|首筋をなぞられる。電流のような感覚が走る

 圭介の指が、
 頭の丸みをなぞりながら
 後頭部のラインへ降りていく。

 襟足の1mmを、
 そっとすくうように触れる。

 じ…ん……

 熱が背筋を上がってくる。

 さらに指は首筋へ滑り、
 襟足から首にかけての肌を
 羽で撫でるように触れた。

 澪の身体がびくっと震える。

 「っ……あ……」

 圭介は小さく笑う。

 「首……弱いだろ」

 弱い。
 1mm坊主にした日の夜から、
 ずっと。



5|耳元に落ちる声。呼吸が触れる距離で囁かれる

 圭介が少し身を寄せた。

 耳元に、
 圭介の息が落ちてくる。

 「……澪」

 囁くような声。

 耳に触れる前なのに、
 触れられたみたいに熱い。

 「そんな顔されたら……
  もっと触れたくなるだろ」

 澪は声を震わせた。

 「……触れて、ください」

 言ってしまった。

 隠せなかった。



6|肩を引き寄せられ、身体がぴたりと重なる

 圭介は澪の肩をゆっくり強く引き寄せた。

 胸が触れそうなほど近づく。
 間に空気なんてない。

 圭介の体温。
 澪の呼吸。
 二つが重なって、
 混ざり合う。

 「……澪」

 名前を呼ばれただけで、
 身体が熱を帯びる。

 圭介の手が、
 澪の腰にそっと回り込んだ。

 触れ方は優しいのに、
 逃げられないほど近い。



7|額が触れ合う。“キスの手前”の濃密さ

 圭介は澪の額に自分の額を合わせた。

 こつ……

 硬い音じゃない。
 優しい音。

 でもその距離は、
 世界でいちばん近い距離。

 澪の唇と圭介の唇の間は、
 たった数センチ。

 息をすれば、
 お互いの呼吸が混じる。

 圭介が、震える声で言う。

 「澪……
  これ以上は……
  お前が望んだ時だけにする」

 その優しさが――
 官能よりも心を焼く。

 澪は小さく、でもはっきり言った。

 「望んでます……今」

 圭介の呼吸が止まる。



8|唇が触れそうで触れない。焦らされる熱

 圭介は澪の頬を包み、
 唇を近づけた。

 でも――
 触れない。

 紙一重の距離で止まる。

 澪の唇の熱が、
 圭介の唇の熱と混ざる。

 秒針すら存在しない中、
 焦らされる時間が続く。

 澪の声が震える。

 「……圭介さん……」

 圭介の指が、
 澪の下唇の形をそっとなぞる。

 ぞくっ

 電流のような感覚が走った。

 「……澪。
  この距離、耐えられるか?」

 「……無理、です……」

 圭介が微かに笑う。

 「俺もだよ」



9|触れた――けれど、優しくて深いキス

 圭介が、
 ほんの数ミリだけ顔を近づける。

 そして――

 触れた。

 唇が。

 優しく、
 深く、
 肌の温度が混ざるように触れた。

 圭介の手は澪の頭に添えられ、
 1mmの髪をゆっくり撫でながら
 唇の角度を変えた。

 熱が広がる。
 全身が震える。

 離れた瞬間、
 澪は呼吸を整えられなかった。

 圭介は澪の額に静かに触れて言った。

 「澪……
  大事にする。
  ずっと」



10|二人は抱き合い、夜の理容店に静かな熱が満ちた

 澪は圭介に抱きついた。

 圭介も強く抱き返す。

 腰、背中、肩、
 まるで二人の間に線がなくなるように
 身体が寄り添う。

 店内の明かりだけが、
 二人を包んだ。

 1mmの髪に落ちる圭介の手のひらが、
 優しく澪を抱きしめる。

 この夜、
 二人は恋人になった。

 髪で始まり、
 髪で結ばれ、
 そして身体ごと心が結びついた夜。
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