刃先に触れる恋 —君が短くなるたび、僕は惹かれていく—

S.H.L

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第2部

7

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1|午前の光が落ち着いた頃、ふたりはまだ離れられなかった

 店の外は完全に朝になり、
 商店街のシャッターが一つずつ開いていく音が聞こえてきた。

 だけど、
 澪と圭介はまだ店の奥で寄り添ったまま
 動けずにいた。

 離れれば日常に戻る。
 だから、離れられなかった。

 圭介が澪の肩に手を置いたまま言う。

 「……そろそろ店、開けなきゃな」

 言葉は現実的なのに、
 声はまるで名残惜しさで濡れていた。

 澪は小さく頷く。

 「……はい」

 でも、身体は動かない。
 圭介の胸の温度から離れられない。



2|立ち上がろうとした瞬間、圭介が澪の手首をそっと掴む

 澪がようやく体を起こし、
 立ち上がろうとしたその瞬間。

 圭介の指が
 そっと澪の手首を掴んだ。

 きゅ……

 強くない。
 けれど、逃がす気のない触れ方。

 澪は振り返る。

 圭介は澪の指先を見つめながら言った。

 「……まだ、行くな」

 その声は、
 昨日の夜より低く、深かった。



3|手首を引かれ、澪は圭介の胸元に倒れ込むように近づく

 引かれた反動で、
 澪は圭介の胸元に軽くぶつかった。

 圭介の両腕が反射的に澪の腰に回る。

 そこは、
 明らかに恋人としての抱き寄せ方だった。

 澪は息を呑む。

 「あ……」

 圭介の手のひらが、
 澪の腰骨のラインをゆっくりと包む。

 その温度が、
 昨日の夜の続きを呼び起こす。



4|1mmの頭に、圭介がためらいなく触れた

 圭介は澪の頭に手を伸ばし、
 ためらいなく撫でた。

 ざら……ざら……

 頭皮の感覚が直に伝わる長さ。

 澪は目を閉じる。

 「……っ……」

 小さく漏れた息に、
 圭介の指が止まる。

 「また震えたな、澪」

 「し、してません……」

 「嘘が下手だ」

 そして圭介は、
 昨日よりゆっくり、深く撫でた。

 耳の上、後頭部、襟足。
 敏感な場所すべてを、
 丁寧に確かめるように。



5|首筋をなぞる指先に、澪は背中を反らせる

 圭介の手は
 頭から首筋へ滑り落ちていく。

 す……

 その一線だけで、
 澪の身体は反応してしまう。

 背筋がわずかに反り、
圭介の胸へ体が近づいた。

 圭介はそれを見て
 目を細めた。

 「……澪。
  そんな反応されたら……
  開店どころじゃなくなるぞ」

 澪は耳まで赤くなる。

 「だ、だって……」



6|唇を求める距離まで近づく。けれど触れない

 圭介は澪の頬に手を添え、
 自然に唇の距離を詰めた。

 今にも触れそうな距離。
 呼吸が混ざる距離。

 澪の心臓が跳ねる。

 「……圭介さん……」

 圭介は答えない。
 ただ、距離を縮めるだけ。

 触れないまま、
 ほんの数ミリで止まる。

 触れないキスほど、
 苦しくて甘いものはない。

 澪は思わず囁いた。

 「……キス……
  してくれないんですか……?」

 圭介は小さく笑う。

 「したら……本当に遅刻する」



7|そのかわりに、額と額を強く寄せ合う

 圭介は唇ではなく、
 額を澪の額に強く寄せた。

 こつ……

 静かな音。

 でも、その距離は
 キスよりも深く、
 恋人以上の温度があった。

 圭介が低く囁く。

 「澪。
  触れたい気持ちなら……
  朝より今の方が強い」

 澪は震える声で返す。

「……わ、私も……」

8|腰を抱かれたまま、圭介が言う

 圭介は澪の腰を抱いたまま、
 ゆっくりと引き寄せた。

 澪の呼吸が跳ねる。

 「……圭介さん……」

 「澪」

 圭介は澪の耳元に唇を寄せた。
 触れないほどの距離で。

 ふ……

 息がかかるだけで、
 澪は全身が熱くなる。

 圭介は囁いた。

 「帰りも……ここに来い」

 「……はい……」

 「そして……
  夜の続き、しよう」

 澪は息を詰めた。

 圭介は優しく笑い、
 最後に頭を撫でて言った。

 「じゃあ行こう。
  開店……二人の一日が始まる」
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