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第2部
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1|日中、澪は仕事が手につかなかった
午後、会社に戻った澪は
パソコンの前に座ったまま手が止まっていた。
頭の中にあるのは、
さっきの圭介の声。
——「夜の続き、しよう」
その言葉が
胸の奥に熱を残し続けている。
資料の文字がぼやける。
キーボードの音も聞こえない。
気づけば指先が、
無意識に1mmの頭皮を触れていた。
ざら……
その感触が、
朝の圭介の指の温度と重なってしまう。
(……夜……また、あの距離に……)
頬が熱くなる。
⸻
2|夕暮れ、圭介から短いメッセージが届く
仕事が終わりかけた頃、
スマホが震えた。
画面を見ると——
圭介:
何時に来る?
たったそれだけ。
なのに胸が跳ねる。
澪は指が震えながら返信した。
澪:
19時すぎには着きます
すぐに返事が来た。
圭介:
店、閉めて待ってる。
(……閉めて待つ……)
その言葉だけで、
昼間より強い熱が胸を満たした。
⸻
3|帰り道、澪は風に吹かれながら髪……ではなく頭を触れた
会社を出た澪は、
駅へ向かう道でふと風に吹かれた。
髪が揺れない。
1mmの頭皮だけに、
風の温度が直接触れる。
ざぁ……
それは、
心を撫でられるような感覚だった。
澪はそっと指先を当てる。
(……夜、また触られる……
圭介さんの手で……)
思い出すだけで、
胸の奥がきゅうっと縮む。
⸻
4|理容店が見えてくる。灯りはついていない
駅からの道を歩いていくと、
巴理髪店の屋根が見えた。
でも、灯りは落ちている。
シャッターも半分閉まっている。
(……本当に閉めて待ってる……)
呼吸が浅くなる。
近づくほどに、
胸の鼓動が速くなる。
この先には、
朝でも昼でもない、
夜だけの圭介 が待っている。
⸻
5|「来たな。」暗がりから響く低い声
澪が店の前に立つと、
店の奥から気配がして——
「来たな。」
暗がりの中から圭介が姿を見せた。
夕方よりも低い声。
昼よりも柔らかい目。
澪は思わず息を呑む。
圭介はシャッターを少しだけ開け、
手で中に入るよう促した。
「入れ。
……ここからは、二人だけだ。」
その言葉の響きが、
背筋を震わせる。
⸻
6|店内は明かりが一つだけ。影が深く、近さが強調される
中に入ると、
店内は明かりをひとつだけ灯していた。
その薄い灯りが、
二人の影を長く伸ばし、
距離を曖昧にしている。
澪が立ち尽くすと、
圭介がゆっくり近づいてきた。
靴音が近づくたび、
胸が跳ねる。
圭介が澪の前に立つ。
ほんの30センチ。
空気さえ触れ合う距離。
「澪」
名前を呼ばれただけで膝が震える。
⸻
7|圭介が手を伸ばす。触れられるのを待つ空気
圭介の手が、
澪の頬の横、
空気の中に浮かんだ。
触れていない。
けれど、触れたのと同じ熱が伝わる距離。
澪は喉を鳴らす。
「……圭介さん……」
圭介はゆっくり言った。
「来てくれて、ありがとう。
……ずっと待ってた。」
その一言で全身が熱くなる。
⸻
8|そして——触れる。ゆっくり、深く。
圭介はついに、
澪の首筋に指を添えた。
す……
その瞬間、
澪の身体は軽く震えた。
圭介はその反応を逃さず、
頭皮へ指を滑らせる。
ざら……ざら……
1mmの髪に触れる音が、
夜の静寂を切り裂いた。
澪は息を詰めて言う。
「圭介さん……
今日の触れ方……朝より……」
圭介は耳元で低く囁く。
「朝は……我慢してたからな。
夜は……我慢しない。」
澪の心臓が、
痛いほど跳ねた。
午後、会社に戻った澪は
パソコンの前に座ったまま手が止まっていた。
頭の中にあるのは、
さっきの圭介の声。
——「夜の続き、しよう」
その言葉が
胸の奥に熱を残し続けている。
資料の文字がぼやける。
キーボードの音も聞こえない。
気づけば指先が、
無意識に1mmの頭皮を触れていた。
ざら……
その感触が、
朝の圭介の指の温度と重なってしまう。
(……夜……また、あの距離に……)
頬が熱くなる。
⸻
2|夕暮れ、圭介から短いメッセージが届く
仕事が終わりかけた頃、
スマホが震えた。
画面を見ると——
圭介:
何時に来る?
たったそれだけ。
なのに胸が跳ねる。
澪は指が震えながら返信した。
澪:
19時すぎには着きます
すぐに返事が来た。
圭介:
店、閉めて待ってる。
(……閉めて待つ……)
その言葉だけで、
昼間より強い熱が胸を満たした。
⸻
3|帰り道、澪は風に吹かれながら髪……ではなく頭を触れた
会社を出た澪は、
駅へ向かう道でふと風に吹かれた。
髪が揺れない。
1mmの頭皮だけに、
風の温度が直接触れる。
ざぁ……
それは、
心を撫でられるような感覚だった。
澪はそっと指先を当てる。
(……夜、また触られる……
圭介さんの手で……)
思い出すだけで、
胸の奥がきゅうっと縮む。
⸻
4|理容店が見えてくる。灯りはついていない
駅からの道を歩いていくと、
巴理髪店の屋根が見えた。
でも、灯りは落ちている。
シャッターも半分閉まっている。
(……本当に閉めて待ってる……)
呼吸が浅くなる。
近づくほどに、
胸の鼓動が速くなる。
この先には、
朝でも昼でもない、
夜だけの圭介 が待っている。
⸻
5|「来たな。」暗がりから響く低い声
澪が店の前に立つと、
店の奥から気配がして——
「来たな。」
暗がりの中から圭介が姿を見せた。
夕方よりも低い声。
昼よりも柔らかい目。
澪は思わず息を呑む。
圭介はシャッターを少しだけ開け、
手で中に入るよう促した。
「入れ。
……ここからは、二人だけだ。」
その言葉の響きが、
背筋を震わせる。
⸻
6|店内は明かりが一つだけ。影が深く、近さが強調される
中に入ると、
店内は明かりをひとつだけ灯していた。
その薄い灯りが、
二人の影を長く伸ばし、
距離を曖昧にしている。
澪が立ち尽くすと、
圭介がゆっくり近づいてきた。
靴音が近づくたび、
胸が跳ねる。
圭介が澪の前に立つ。
ほんの30センチ。
空気さえ触れ合う距離。
「澪」
名前を呼ばれただけで膝が震える。
⸻
7|圭介が手を伸ばす。触れられるのを待つ空気
圭介の手が、
澪の頬の横、
空気の中に浮かんだ。
触れていない。
けれど、触れたのと同じ熱が伝わる距離。
澪は喉を鳴らす。
「……圭介さん……」
圭介はゆっくり言った。
「来てくれて、ありがとう。
……ずっと待ってた。」
その一言で全身が熱くなる。
⸻
8|そして——触れる。ゆっくり、深く。
圭介はついに、
澪の首筋に指を添えた。
す……
その瞬間、
澪の身体は軽く震えた。
圭介はその反応を逃さず、
頭皮へ指を滑らせる。
ざら……ざら……
1mmの髪に触れる音が、
夜の静寂を切り裂いた。
澪は息を詰めて言う。
「圭介さん……
今日の触れ方……朝より……」
圭介は耳元で低く囁く。
「朝は……我慢してたからな。
夜は……我慢しない。」
澪の心臓が、
痛いほど跳ねた。
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