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第2部
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1|触れるだけで十分だった。二人の距離はもう迷わない
首筋に触れた圭介の指。
1mmの頭皮を撫でる音。
すべてが胸を震わせるのに——
澪は気づいた。
(……これ以上、何もいらない)
触れるだけで、
抱きしめられるだけで、
圭介の呼吸を感じるだけで、
もう十分だった。
圭介も同じように、
触れたまま動かない。
ただ澪の反応を感じながら、
指をゆっくり胸元へ戻した。
⸻
2|圭介が、抱きしめるというより“包み込む”抱擁をした
圭介は澪の肩に手を回し、
そっと抱き寄せた。
夜の最初より、
午前より、
どんな時よりも柔らかい抱擁。
抱きしめる、ではない。
包むような抱擁。
澪は胸の奥が熱くなる。
「……圭介さん……」
「澪」
圭介は額に触れるほどの距離で言った。
「お前のこと、
大切にしたいんだ」
言葉が触れた瞬間、
澪の目に涙が滲む。
⸻
3|“触れたい”より、“そばにいてほしい”が勝った瞬間
圭介の手が、
頭と背中を行き来するように優しく撫でる。
首筋に触れた熱が、
夜の深さを物語っているのに……
澪は思った。
(触れ合いより……
そばにいたい……)
この瞬間、
澪の中で何かが変わった。
官能よりも、
温もりが欲しくなっていた。
圭介は澪の肩に額をつけて言った。
「澪……
俺は、今日お前を抱こうと思ってた。
でも……」
胸が跳ねる。
圭介はゆっくり続けた。
「違う。
それより……
ちゃんと大事にしたい」
澪の涙が一粒落ちた。
⸻
4|椅子に座るよう促され、二人は向かい合う
圭介は澪の肩に触れ、
ゆっくりと椅子へ誘導した。
カットも、
バリカンも、
恋の始まりもここだった。
圭介は澪の前に立ち、
その目を見ながら言った。
「澪。
俺は……お前を幸せにできる男になりたい。
そのために、
ゆっくり進みたい」
澪は首を横にふる。
「違います……
もう幸せです……
圭介さんと一緒にいるだけで……」
圭介の目が少し潤む。
⸻
5|指先だけで交わす、もっとも深い“触れ合い”
圭介は手を伸ばし、
澪の手をそっと握った。
恋人の手の握り方ではない。
誓いのような握り方。
指先が絡まる。
それだけで胸が締めつけられる。
「澪」
「はい……」
「お前を抱くのは……
今日じゃない」
澪の胸がふっと緩む。
圭介は優しく続けた。
「でも……
手を握るのは今日じゃなきゃ嫌だ」
澪は静かに微笑み、
圭介の指を握り返した。
手と手が重なるその場所から、
ゆっくり、確かな熱が広がった。
⸻
6|深夜の理容店に、ただ息づかいだけが残る
二人はそのまま、
手を繋いで、
向かい合ったまま目を閉じた。
触れたい、抱かれたい、
そんな感情はもちろんある。
けれど——
今はそれ以上に、
「一緒にいる」という事実が愛おしかった。
圭介が呟く。
「澪……
これが俺たちの“終わりじゃない始まり”だ」
澪も囁く。
「……はい……
これから……ずっと……」
そのまま静かに、
夜がゆっくりと更けていく。
首筋に触れた圭介の指。
1mmの頭皮を撫でる音。
すべてが胸を震わせるのに——
澪は気づいた。
(……これ以上、何もいらない)
触れるだけで、
抱きしめられるだけで、
圭介の呼吸を感じるだけで、
もう十分だった。
圭介も同じように、
触れたまま動かない。
ただ澪の反応を感じながら、
指をゆっくり胸元へ戻した。
⸻
2|圭介が、抱きしめるというより“包み込む”抱擁をした
圭介は澪の肩に手を回し、
そっと抱き寄せた。
夜の最初より、
午前より、
どんな時よりも柔らかい抱擁。
抱きしめる、ではない。
包むような抱擁。
澪は胸の奥が熱くなる。
「……圭介さん……」
「澪」
圭介は額に触れるほどの距離で言った。
「お前のこと、
大切にしたいんだ」
言葉が触れた瞬間、
澪の目に涙が滲む。
⸻
3|“触れたい”より、“そばにいてほしい”が勝った瞬間
圭介の手が、
頭と背中を行き来するように優しく撫でる。
首筋に触れた熱が、
夜の深さを物語っているのに……
澪は思った。
(触れ合いより……
そばにいたい……)
この瞬間、
澪の中で何かが変わった。
官能よりも、
温もりが欲しくなっていた。
圭介は澪の肩に額をつけて言った。
「澪……
俺は、今日お前を抱こうと思ってた。
でも……」
胸が跳ねる。
圭介はゆっくり続けた。
「違う。
それより……
ちゃんと大事にしたい」
澪の涙が一粒落ちた。
⸻
4|椅子に座るよう促され、二人は向かい合う
圭介は澪の肩に触れ、
ゆっくりと椅子へ誘導した。
カットも、
バリカンも、
恋の始まりもここだった。
圭介は澪の前に立ち、
その目を見ながら言った。
「澪。
俺は……お前を幸せにできる男になりたい。
そのために、
ゆっくり進みたい」
澪は首を横にふる。
「違います……
もう幸せです……
圭介さんと一緒にいるだけで……」
圭介の目が少し潤む。
⸻
5|指先だけで交わす、もっとも深い“触れ合い”
圭介は手を伸ばし、
澪の手をそっと握った。
恋人の手の握り方ではない。
誓いのような握り方。
指先が絡まる。
それだけで胸が締めつけられる。
「澪」
「はい……」
「お前を抱くのは……
今日じゃない」
澪の胸がふっと緩む。
圭介は優しく続けた。
「でも……
手を握るのは今日じゃなきゃ嫌だ」
澪は静かに微笑み、
圭介の指を握り返した。
手と手が重なるその場所から、
ゆっくり、確かな熱が広がった。
⸻
6|深夜の理容店に、ただ息づかいだけが残る
二人はそのまま、
手を繋いで、
向かい合ったまま目を閉じた。
触れたい、抱かれたい、
そんな感情はもちろんある。
けれど——
今はそれ以上に、
「一緒にいる」という事実が愛おしかった。
圭介が呟く。
「澪……
これが俺たちの“終わりじゃない始まり”だ」
澪も囁く。
「……はい……
これから……ずっと……」
そのまま静かに、
夜がゆっくりと更けていく。
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