花散る男女

トリヤマケイ

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第1部 アイドル編

♬ 24奈美

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   そこまで話した京は、タバコに火をつけた。灰皿ないよ、という飛鳥ちゃんの視線にポケットから筒型の携帯灰皿を取り出してみせ、喫煙のokを取り付ける。




    心地よい疲れにタバコがうまかった。




「それから、どうなるのよ? いったいカヲルって誰なの?  ああ、でもでも、わけわかんねっす。自分で首絞めときながら、もう少しなんだ、もう少しでおまえに触れられそうなんだ?  なんですか、これ?  矛盾もいいとこじゃん」




「いや、まあ、その、あれだよたぶん、カヲルをヤらなきゃ前へ進めないんちゃう?」




「てか、ジローは、人型から影を取り戻さなきゃでしょ?」と飛鳥ちゃん。




「それは、そう。しかし、きょうはここまで」 



「えー‼︎」




   それから、ふたりして腹が空いとぼやきはじめ、時を置かずしてダイニングに直行。




   伽倻子ちゃんに、こっちこっちと呼ばれたので隣に座って、チゲ鍋を一緒に食べはじめた。
 
 

   それからリビングに戻り、リクエスト大会だというので、一切の迷惑も顧みずワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」や、武満徹の「弦楽のためのレクイエム」なんかをリクエストして、苦笑いされた。





   それでまだやたらに気分が高揚していて治らず、気分を落ち着かせるためにも好きな曲を聴きたくなっちゃったので、ジョンスコの『My Foolish Heart』オーネット・コールマンの『Lonely woman』マイブラの『Sometimes』Stray dog『Crazy』なんかを聴いた。




   そんな風に調子づいてしまったのも、飛鳥ちゃんとの久しぶりの邂逅のせいだろう。わけがわからないけれどウキウキしている自分をどうにも制御できなかった。
 




  ま、そんなこんなでとにかくYouTubeは、世界中の人のジュークボックスなのだけれど、折角アップロードしてくれた音源も誰かがリクエストしない限り鳴ることはないし、鳴らないジュークボックスはただの箱にすぎない。
  




   静謐で踊れない現代音楽をBGMにツイスターやる人たちもまあ、いないだろうが、立て続けにクセナキスとか聴いた後にユーロビートはたまらない。




   それから後は何がなにやら、明け方までまたぞろ荒れ狂うビートの大音響の嵐のなかで、気が狂ったように踊りまくった。




   すべてはもはや遠い過去として記憶に残っているだけの事象だった。
 


   ほんとうにあったことなのか、幻想であったのかすらもう誰にもわからない。今、この刹那だけが現実。




   奈美のことを嫌いになったわけではない。ただ生きていてどうにもならないこともある。




   いや、どうにもならないことの方が多い、というか、人生は実のところどうにもならないことばかりだ。




   自分で決めて自分の思い通りに出来ることはごく僅かしかない。




   どうにもならないことにいつまでも拘泥しても仕方ない。諦めることも重要。諦めないことも重要。その見極めが難しい。




   自分に関わってくる事象がすべてだが、取捨選択をしなければならないし、その時は、正しい選択だったが、これからはちがうということも多々ある。




   つまり、わけがわからない。法則性があるわけではない。時所位に応じて臨機応変に対応していかなければならない。




   それが実相だ。それでも生きていくためには、不断に取捨選択していかなければならない。未来は見えないように出来ているからだ。なぜ見えないのかは、言わずもがなだった。
    
   
 
   人とは総じて怠け者なのだ。成功が約束されているならば、もう努力はしないだろうし、また失敗することがわかってしまっても絶望してしまう。
 



   奈美とのことは、もうとっくに先が見えていた。どうにもならない現実にダラダラとしがみついていたわけではないが、どうにもならないからといって即座に別れることは出来なかった。




   ヲタクが推しメンに言う「結婚してください」は、ボクは彼女いない歴=年齢の童貞ですと言っているヲタク語であり、それに比べたら奈美と京は両想いには違いないのだが、お互いが好き同士でも結婚となるとまた別モノらしい。




   それでも尚、諦めきれない若い恋人同士には、駆け落ちという手段も残されている。





   それに、さらには本当の最終手段として手に手を取り合い死出の旅路に出るというあまりにも悲しい結末もある。




  恋愛至上主義のナンチャラ心中は、天国で結ぶ恋などと美化されがちだが、そんなうまい話は絶対にない。とにかく死んでしまったならば、全てはお終いなのだ。




  いまどき、心中はありえないにしても、奈美と関西方面に駆け落ちするという手もたしかにあった。




  しかし、奈美は駆け落ちするような女性ではないのだ。好きで好きでたまらない相手であっても親の許しが出ない相手では駄目であり、決して親の期待を裏切るようなことはできない。それが奈美という女性なのだった。





  良い悪いではなく、奈美にとって両親の存在は絶対なのだ。奈美は生まれた時からそういう生き方が普通なのであり、反対に京は枠にはめられるのが一番イヤな人間なので、奈美みたいな雁字搦めの人生は、はなから考えられない。つまり、一緒にはいられないということなのだ。
    



    奈美には奈美に相応しい立派な人物が必ずいるだろう。ただそれは、京ではなかったという話なのだった。













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