甘える君は可愛い

希紫瑠音

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年下ワンコとご主人様

9・波多

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 久世は家族の愛情をあまりしらない。いつだったか、彼がそう話してくれた。

 あまりに平然とした顔で言うものだから、波多はその日、久世をいっぱい甘やかしてやった。

「大丈夫ですよ。俺には甘えられる人が傍にいてくれますし」

 波多の手をとり、ありがとうございますと頭を下げる。

 その時見せた笑顔を思いだすと切なくなる。彼に必要とされたいと、そう思った時もある。

 実際に必要とされていたのは自分ではなく、恋人の女性であり久世が帰る場所だ。それを失ってしまったしまったら、どうなってしまうのだろうか。

 それがあるから、泊めて欲しいという彼の言葉を拒否することができなくなった。

 なのに、久世は彼女と別れたというのにいつもと変わらない。それどころか波多の家に行くことを楽しみにしているようにも見える。

 泣いているかと、心配した自分がバカみたいだ。





 家に着くなり久世の胸倉をつかんで玄関のドアに押し付けた。

「波多さん!?」
「お前、なんなの?」

 イライラする。今日のことといい、久世に振り回されている。

「帰る場所がなくなったらお前が……、そう思っていたのに」

 胸倉をつかむ手が離れ落ち、そのまま久世から離れてリビングへと向かう。

「波多さん待って」

 そう後を追い、腕を掴まれた。

「今日は泊めてやるから。もう寝ろ」
「波多さん、俺のことを心配してくれたの?」
「お前のことなんてッ」

 手を離せと振り切ろうとするが、強い力で握りしめられた。

「波多さん、好きです」

 腕の中へと引き寄せられて、やめろと突放そうとするが、更に力を込めて抱きしめられて身動きが取れない。

「俺は、貴方が居るから寂しくない」

 肩に額を当て、いつもするようにぐりぐりと頭を動かした。この行為は波多に対する甘えだった。

「久世」
「彼女に言われたんです。貴方を特別だと思っている筈だと」

 顔を上げ、額同士をくっつける。間近に見つめる久世の目に、波多は目を見開いて動けなくなるが、

「俺、諦めませんから。恋も、波多さんのことを舐めるのも!!」

 その言葉に我に返る。

「おま、何を」
「これからは隙あればガンガン攻めますんで」

 好きです、と、そう言うと、ペロリと舌で唇を舐められた。

 ぶわっと熱が一気にかけめぐり、

「こ、このバカ犬がぁ――!!」

 後頭部を叩いて久世を突き飛ばした。

「うわっ、いきなり突き飛ばすのは危ないですって」

 踏ん張って尻もちをつくのを耐えた久世を、さらに玄関の方へと押しやる。

「お前はここで寝ろ、良いな?」

 と玄関を指さす。

「えぇッ! 酷いです、波多さん」
「うるさい」

 すがる久世を蹴とばし、波多は寝室へと向かった。







 寝室のドアの前。

「波多さん、入れてくださいよぉ」

 甘えた声をだす久世を無視する。

 しばらくすると静かになり、やっとあきらめたかと目を閉じたその時だ。

「波多さん、俺のことが好きな癖に」

 といきなり言われ、波多はベッドから飛び起きてドアを開く。

「お前、何を言って……!」

 するとドアに寄りかかっていたのだろう、久世が背中から倒れるように部屋の中へとなだれ込み、そのまま顔を見上げてにやりと口角を上げる。

「やっぱりそうなんですね。俺、嬉しいです!!」

 顔、真っ赤ですよと、そう言われて、波多は自分の頬をパタパタと手で触る。

 確かに頬は熱いし、胸も高鳴りっぱなしだ。

「波多さん、俺のことを好きって言って?」

 久世が身を起こし、波多を抱きしめようと手を広げた瞬間、低い声で相手の名を呼び、ハウスと玄関を指差した。

「えぇっ、波多さぁん」

 嫌ですと足元に縋ろうとする久世を蹴とばし、

「さっさといけ、バカ犬がッ」

 と部屋の外へと追い出し、久世があわてて中へと戻ろうとする寸前でドアを閉じた。

「波多さん、はたさんっ!」

 ドアの前で何度も名前を呼ばれ。それが鬱陶しくて枕を手にし、ドアを開いて顔に投げつける。

「ハウス、だ。いうことが聞けないのなら追い出すぞ」

 今度は丸めたブランケットを胸のあたりに押し付けた。

 久世はそれをらを受け取り、しょんぼりとしながら玄関へと向かった。






 自分は甘いと思う。久世のために朝からおかずを多めに作った。それを見て調子づくことも解っているのにだ。

「波多さん、愛してます」

 両手を広げて抱きついてきそうな彼に、

「まだ寝ぼけていやがるのか、この頭は」

 とお玉で頭を叩く。

「うわぁ、お玉は頭を叩くものではありませんよぉ」
「うるさい。ほら、食え」

 少し乱暴に味噌汁を置き、こぼれそうな中身を久世がすする。

「こら、行儀が悪いぞ」

 と、目の前の席に腰を下ろせば、嬉しそうな表情を浮かべた久世が口元を綻ばせる。

 こんな些細なことが嬉しいと、そう言っているようで。照れる顔を見られたくなくて波多は茶碗を手にしご飯をかっ込んだ。
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