甘える君は可愛い

希紫瑠音

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無口な彼は甘いものが好き

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 会社を出て、向かった先は小料理屋だった。

「ここは?」
「いらっしゃい。あら、賢ちゃん」

 和服の良く似合う柔らかな笑顔の女性だ。親しげな様子から恋人かと林を見る。

「実家だ」

 とボソッと言い奥へと向かう。

 今まで仕事の後に誘われたことなど一度もない。なのに実家に連れてこられるなんて。

「ふふ、賢ちゃんのお姉ちゃんの沙世さよです」

 あまり顔は似ていない姉弟だが、ほわほわと笑う姿は、林が甘いものを食べている時の雰囲気と似ているかもしれない。

「清宮です。弟さんにはいつもお世話になっております」
「賢ちゃんが高校生の時にね、両親がなくなって。このお店は私とダンナがお店を継いだの」
「清宮、こい。姉ちゃん、台所借りる」
「え、賢ちゃん!?」

 慌てる沙世を無視して林は間宮の腕を掴んで引っ張る。

 そこには二人の小さな子が座ってテレビを見ていた。

「結衣と湊」

 結衣ゆいは小学四年生の姉で、みなとは小学一年生の弟だ。

 人懐っこい笑顔を向けてそう教えてくれた。

「こんにちは。俺は清宮利成って言います。名前で呼んでね」
「うん。利成クン」

 小さな子に「君」つけで呼ばれて、キュンときた。

「可愛い!!」
「こいつらにプリンを作ってやってくれ」

 と結衣と湊の頭を撫でる。

 その手つきが優しく、愛おしいという気持ちが伝わってくる。

「二人分ですね」

 わざと言えば、林に軽く睨まれた。

「俺の分も頼む。結衣、手伝ってやれ」

 そういうと林は湊を連れて台所を離れる。

「あれ、林さんは手伝ってくれないんですか?」
「俺は料理を作るは禁止されているからな」

 と肩をすくめ、子供たちがその通りだと頷く。

 一体、何をしでかしたのだろうか興味がわき、こっそりと結衣に尋ねた。

「あのね、賢介クンってお料理が下手くそなの。お母さんがお腹をこわしちゃって大変だったんだよ」

 成程、破壊的な何かを作ったようだ。

「俺の話しはしなくていい」

 とバツの悪そうな顔をする。清宮はニィと口角を上げ、面白がるように話を振る。

「ふぅん。ねぇ、もっと話し聞かせてよ」
「いいよ!」

 笑顔で話しを聞かせてくれようとするが、

「こら、結衣!」

 林が捕まえようとし、結衣がはしゃぎながら逃げる。それを追いかけて大きな手が彼女を掴んで抱き上げた。

 楽しそうな二人に笑みがこぼれる。湊もだっこと言いだして替わって遊んでもらっている。

「さて、結衣ちゃんは俺と一緒にプリン作りね」
「うん」

 彼女専用の可愛いピンクのエプロンと三角巾を身に着けて手伝いを始める。

 普段からよく手伝いをしているのだろう。手際が良いなと感心する。

「美味しく焼けると良いね」
「大丈夫だよ。結衣ちゃん、上手に出来てたから」
「本当! ありがとう利成クン」

 後片付けをし、後は焼き上がるのを待つのみだ。

「じゃぁ、焼き上がるまで居間で待っていようか」
「うん。利成クン、宿題見て欲しいな」
「良いよ」

 結衣を連れて居間へ戻ると、林の膝の上に乗った湊がアニメを見ている。

「湊、宿題やるよ」

 とお姉ちゃんらしく湊を連れて隣の部屋へ向かう。

「しっかりしてますね、結衣ちゃん」
「あぁ。母親が仕事してるから、湊の面倒は自分が見るってな」
「料理の手際も良かったです」
「だろう」

 姪と甥が可愛いのだろう。口元が微かに綻んでいた。

 滅多に見ない表情故に驚く。

「なんだ、間抜けな顔」
「へ?」
「利成クン、持ってきた」
「あ、うん。じゃぁ、やろうか」

 プリンが焼き上がるまで結衣と湊の宿題を見つつ、レンジの音が鳴ると三人で焼き上がりを見に行く。

「わぁ、良いにおい」
「後はこれを冷蔵庫に冷やして。食べるのは明日ね」
「うん」
「おい、清宮。から揚げ貰ったから飲まないか?」
「良いですね」

 ビールを冷蔵庫から取り出し、割り箸を持って居間へと戻る。

 揚げたてのからあげからは良いにおいがしてきて、一口食べればじゅわっと肉汁が溢れて、生姜とニンニクが効いた特製たれの味はとても美味しく、カリッとした触感もたまらない。

「うはぁ、美味しい」
「だろう?」
「俺、ここに連れて来てもらえて嬉しいです」

 強引に連れてこられた時は驚いたけれどすごく楽しい。林と酒が飲めるのも、美味しいつまみが食べられるのもだ。

「こいつらに、お前の作った菓子を食わせたかっただけだ」
「そうですか」

 照れくさそうに見えるのは、少しでも自分と仲良したいと思ってくれたからではないのだろうか。

 そうだとしたら、嬉しいと思うくらい清宮も林と仲良くなりたいのかもしれない。
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