聖女と呼ばれても、そこそこ暮らしが一番です~秘密の種は異世界お婆ちゃんの知恵袋~

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GMG-004「個人的賢いお金の使い方」

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「ほらほら、見て!」

「あらまあ……ささっとやっただけなのに……」

 その日、朝早くから川辺は賑わっていた。
 原因は、私の実演。

 見慣れない物を持っている私に、おばさまたちの視線は当然集まってくる。
 女性が世間話好きなのは、どの世界も共通だ。

 興味を引くように実演して見せれば……当然食いつかれる!

「カンツ兄さんの働いているお店で、近々売ってもらう予定なの」

「本当かい? へぇ、そんな値段なら予約に行こうかねえ」

 話の中で販売予定の金額を伝えたら、その場にいた全員が買うと言ってくれたのだ。
 せいぜい半分ぐらいかなと思っていたのだけれど、予想外。

(それだけこの時期の洗濯はつらいってことよねえ……)

 現に私だって、あかぎれにならないように祈るぐらいしかできないのが冬の寒さと冷たさだ。
 洗濯機を使っていた記憶も持っている私には、これでもまだ足りないのだけど……ね。

 その後もあれこれと世間話をしながら、思い出すのはカンツ兄さんとの商談もどきのこと。
 洗濯板の魅力、つまりは売り物になるかどうかとその問題点を兄さんはすぐに思いついた。
 売ることは簡単、そして……まねたものが出てくるのも簡単だろう、と。

 すぐに兄さんはお店と、木こりのおじさんのところにいって話を付けたらしい。
 らしいというのは、私が発案者だと表に出すと色々厄介だろうから、だそうである。
 お婆ちゃんの知識でいうと、特許ってものが無いからちょうどいいと感じる。

「ずっとカンツ兄さんが作業するわけにもいかないし、サラ姉にもいい話がいくかしら」

 結局、材料の仕入れから加工、販売を決まった人間がやることになった。
 これにより、誰かがまねても区別がつくとかどうとか……うう、勉強しなきゃ。
 ちゃんと商会の焼き印を入れて、古くなった時の下取りサービスまで決めたあたり、話が早い。

(というか速すぎない? 話をして1週間たってないわよね。そんなに儲け話なのかしら、これ)

 こればっかりは実際に売ったことが無いから、おばあちゃんの記憶からもわからない。
 でも、少なくとも孤児が手に入れるには、かなり多いお金がカンツ兄さんを経由して入ってくることは決まった。

 教会横の家に戻った私が開いた扉は、いつものように音を立てなかった。
 そう、私は手に入れたお金の半分を貯金に回し、残りは教会に寄付のように使うことにしたのだ。
 隙間風が多くて、建付けの悪いところを中心に直してもらった。
 もちろん、材料は木こりのおじさんのところだし、作業はサラ姉の嫁ぎ先、とお互いに得。

「ふふふ……計画通り」

「ター姉、どうしたの?」

 以前よりかなり早く洗濯を終え、何かに使う時間を確保した私。
 思った通りの結果に、一人ほくそ笑んでいると妹のハンナが駆け寄ってきた。
 心配そうに見つめてくるのを見ると……ああ、うん。
 扉を閉めてにやりとする姉は不気味よね、心配の1つもするわ。

「ううん、大丈夫よ。それより寒さはマシかしら?」

「うん! びゅーびゅーって風がこないから、薪もちょっとでいいよ」

 そうなのだ。お婆ちゃんの記憶からも、換気そのものは大事だとわかっている。
 それはそれとして、今までは隙間が多すぎて寒かったのが改善されているのだ。
 これで夜の薪が尽きたら、そのうち寒くて目が覚めるなんてのも減った。

「それはよかったわ。さて、お勉強でもしましょうか」

「ええー、お外であそびたい」

「ハンナ、姉さんが困ってるよ」

 子供は風の子とは良く言った物で、寒いと言うのに外に出たがるハンナはさすがだ。
 その代わりというのか、ひょっこり顔を出した弟のナタルの手には既に何かの本。
 この本もカンツ兄さんを経由して、安く売ってもらった中古の本だ。

「そうね、ハンナ。ちゃんとお勉強したら、お手伝いに出れるようになるんだから」

「おこづかい欲しい……がんばる!」

 文字通り現金な態度になったハンナを撫でつつ、自分もナタルと一緒に部屋に入る。
 私もここで勉強をして、もっとやれることを増やしていかないといけない。
 今はお婆ちゃんの記憶があるけれど、それを使いこなすにはちゃんと勉強をしないと。

(思い出そうとしないと、思い出せないことも多いもんね)

 それからしばらくは弟たちと絵本を読んだり、自分の勉強をしたりして過ごした。
 お昼が近くなれば軽い食事の準備をして、神父様のお手伝いだ。
 と言っても、来客の荷物をお預かりしたり、手足を洗うお水を用意するぐらいなもの。

 今日もまた、神父様の元には何人もの人が訪れている。
 どうやら私が思ってる以上に神父様はすごい人のようで、みんなありがたそうに話を聞いて帰っていく。

 最後の来客は、どこか品の良さを感じる若い男性で、言葉は悪いがぼろ目の教会に来るようには見えなかった。

「洗い水です」

「ご丁寧にどうも。神父様、ここは良い町ですね、人が温かい」

 それがいいか悪いかは別にして、私のような明らかに孤児だとわかる相手にも丁寧だ。
 普通、外から来た人は多少なりとも扱いに差を作るのだけど……。

(どこかの偉い人じゃないかって? ふうん……)

 私の何倍もの時間を生きて来たお婆ちゃんの記憶が、視線の先の相手を推測する。
 ただの旅人ではない……何かわけありだと。

 詳しく話を聞くわけにもいかず、席を離れた私だけど……妙に青年のことが気になったのは間違いなかった。

 考え事をしながらの廊下で、水桶を抱えていた私は……。

「ター姉のお腹の音大きい!」

「あはは……お腹空いちゃった。しょうがない、おやつにお芋を蒸かしましょう」

 目ざとくハンナに指摘された通り、結構な大きさでお腹がなってしまう。
 三食が当然だったお婆ちゃんの記憶は体にも影響を与えているのか、我慢できないのだ。

 夜もあるので食べ過ぎない程度に、弟たちとお芋を食べつつ、今日という時間が過ぎていく。
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