5 / 64
GMG-004「個人的賢いお金の使い方」
しおりを挟む「ほらほら、見て!」
「あらまあ……ささっとやっただけなのに……」
その日、朝早くから川辺は賑わっていた。
原因は、私の実演。
見慣れない物を持っている私に、おばさまたちの視線は当然集まってくる。
女性が世間話好きなのは、どの世界も共通だ。
興味を引くように実演して見せれば……当然食いつかれる!
「カンツ兄さんの働いているお店で、近々売ってもらう予定なの」
「本当かい? へぇ、そんな値段なら予約に行こうかねえ」
話の中で販売予定の金額を伝えたら、その場にいた全員が買うと言ってくれたのだ。
せいぜい半分ぐらいかなと思っていたのだけれど、予想外。
(それだけこの時期の洗濯はつらいってことよねえ……)
現に私だって、あかぎれにならないように祈るぐらいしかできないのが冬の寒さと冷たさだ。
洗濯機を使っていた記憶も持っている私には、これでもまだ足りないのだけど……ね。
その後もあれこれと世間話をしながら、思い出すのはカンツ兄さんとの商談もどきのこと。
洗濯板の魅力、つまりは売り物になるかどうかとその問題点を兄さんはすぐに思いついた。
売ることは簡単、そして……まねたものが出てくるのも簡単だろう、と。
すぐに兄さんはお店と、木こりのおじさんのところにいって話を付けたらしい。
らしいというのは、私が発案者だと表に出すと色々厄介だろうから、だそうである。
お婆ちゃんの知識でいうと、特許ってものが無いからちょうどいいと感じる。
「ずっとカンツ兄さんが作業するわけにもいかないし、サラ姉にもいい話がいくかしら」
結局、材料の仕入れから加工、販売を決まった人間がやることになった。
これにより、誰かがまねても区別がつくとかどうとか……うう、勉強しなきゃ。
ちゃんと商会の焼き印を入れて、古くなった時の下取りサービスまで決めたあたり、話が早い。
(というか速すぎない? 話をして1週間たってないわよね。そんなに儲け話なのかしら、これ)
こればっかりは実際に売ったことが無いから、おばあちゃんの記憶からもわからない。
でも、少なくとも孤児が手に入れるには、かなり多いお金がカンツ兄さんを経由して入ってくることは決まった。
教会横の家に戻った私が開いた扉は、いつものように音を立てなかった。
そう、私は手に入れたお金の半分を貯金に回し、残りは教会に寄付のように使うことにしたのだ。
隙間風が多くて、建付けの悪いところを中心に直してもらった。
もちろん、材料は木こりのおじさんのところだし、作業はサラ姉の嫁ぎ先、とお互いに得。
「ふふふ……計画通り」
「ター姉、どうしたの?」
以前よりかなり早く洗濯を終え、何かに使う時間を確保した私。
思った通りの結果に、一人ほくそ笑んでいると妹のハンナが駆け寄ってきた。
心配そうに見つめてくるのを見ると……ああ、うん。
扉を閉めてにやりとする姉は不気味よね、心配の1つもするわ。
「ううん、大丈夫よ。それより寒さはマシかしら?」
「うん! びゅーびゅーって風がこないから、薪もちょっとでいいよ」
そうなのだ。お婆ちゃんの記憶からも、換気そのものは大事だとわかっている。
それはそれとして、今までは隙間が多すぎて寒かったのが改善されているのだ。
これで夜の薪が尽きたら、そのうち寒くて目が覚めるなんてのも減った。
「それはよかったわ。さて、お勉強でもしましょうか」
「ええー、お外であそびたい」
「ハンナ、姉さんが困ってるよ」
子供は風の子とは良く言った物で、寒いと言うのに外に出たがるハンナはさすがだ。
その代わりというのか、ひょっこり顔を出した弟のナタルの手には既に何かの本。
この本もカンツ兄さんを経由して、安く売ってもらった中古の本だ。
「そうね、ハンナ。ちゃんとお勉強したら、お手伝いに出れるようになるんだから」
「おこづかい欲しい……がんばる!」
文字通り現金な態度になったハンナを撫でつつ、自分もナタルと一緒に部屋に入る。
私もここで勉強をして、もっとやれることを増やしていかないといけない。
今はお婆ちゃんの記憶があるけれど、それを使いこなすにはちゃんと勉強をしないと。
(思い出そうとしないと、思い出せないことも多いもんね)
それからしばらくは弟たちと絵本を読んだり、自分の勉強をしたりして過ごした。
お昼が近くなれば軽い食事の準備をして、神父様のお手伝いだ。
と言っても、来客の荷物をお預かりしたり、手足を洗うお水を用意するぐらいなもの。
今日もまた、神父様の元には何人もの人が訪れている。
どうやら私が思ってる以上に神父様はすごい人のようで、みんなありがたそうに話を聞いて帰っていく。
最後の来客は、どこか品の良さを感じる若い男性で、言葉は悪いがぼろ目の教会に来るようには見えなかった。
「洗い水です」
「ご丁寧にどうも。神父様、ここは良い町ですね、人が温かい」
それがいいか悪いかは別にして、私のような明らかに孤児だとわかる相手にも丁寧だ。
普通、外から来た人は多少なりとも扱いに差を作るのだけど……。
(どこかの偉い人じゃないかって? ふうん……)
私の何倍もの時間を生きて来たお婆ちゃんの記憶が、視線の先の相手を推測する。
ただの旅人ではない……何かわけありだと。
詳しく話を聞くわけにもいかず、席を離れた私だけど……妙に青年のことが気になったのは間違いなかった。
考え事をしながらの廊下で、水桶を抱えていた私は……。
「ター姉のお腹の音大きい!」
「あはは……お腹空いちゃった。しょうがない、おやつにお芋を蒸かしましょう」
目ざとくハンナに指摘された通り、結構な大きさでお腹がなってしまう。
三食が当然だったお婆ちゃんの記憶は体にも影響を与えているのか、我慢できないのだ。
夜もあるので食べ過ぎない程度に、弟たちとお芋を食べつつ、今日という時間が過ぎていく。
3
あなたにおすすめの小説
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる