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GMG-005「告白」
しおりを挟む人間、食べないと生きていけないのはどの世界も同じ。
「というわけで今日は、食材を手に入れるべく海にきていまーす」
知らない記憶にある、レポーター?ってやつをまねてみるけど聞く人がいないとちょっと寂しい。
人がいない理由は簡単。ここが冬の海辺だからだ。
今日は幸い、風もほとんどないからマシだけど寒い物は寒い。
しっかりと着込んでいなければ、凍えてしまうことは確実だろう。
「珍しく昼間の干潮だもの、今のうち今のうち」
風邪を引いてもらっては困るので、弟たちはお留守番だ。
そんな中、私はスコップと塩を一袋手に、海岸に来ている。
(内地の人が見たら、塩を使うなんて贅沢なって怒られるかな?)
狙うのは、マテ貝。こっちだと別の名前だと思うけど、市場で見たことがあるので間違いない。
潮の引いた砂浜に向かい、きょろきょろと潮だまりを探して軽く表面を掘れば……穴、穴。
ちなみに、掘る前からそのあたりに何かいるなってことがわかったりしている。
「塩が安いのは大事よね」
私の中のお婆ちゃんが、本心からのつぶやきを漏らす。
作っているところを見たことはないけれど、かなり大量に作られているのは間違いない。
貧乏人でも、塩がなくて生活できないなんてことはないからだ。
「出て来た出て来た。よっと」
この狩りはポイントさえ見つかれば、ひたすら採れるということが面白い。
孫を連れて、よく潮干狩りに行っていたらしい記憶も蘇ってくる。
1時間ちょっとで、食べきれないほどの量が採れた。
「後はー……いたいた。おじさーん!」
「なんだい、お嬢ちゃん」
次に探すのは、この寒い中でも釣りをしているおじ様方。
何をするのかっていえば簡単な話、物々交換だ。
しばらくの間、お互いに話を楽しんでみればそれだけでもう仲良し。
交換のお願いだってしやすくなるってわけ。
もっとも、お話するのも楽しいのも間違いないんだけど。
まだまだたくさんある貝と、家族で食べるには十分なだけの魚を確保して戻る私。
途中、川辺を通れば出回り始めた洗濯板を使って、追加の洗濯をしているおばさま方を見つける。
「ターニャちゃん、狩りの帰りかい」
「そうなんです。焼くか煮るから薪が多くいるのが悩みですけどね」
休憩がてら少しだけのお話だ。
話の種は、さっき口にしたように冬の間の薪の消費だった。
どうしても暖を取る必要があるし、煮炊きにも薪はいる。
全く必要ないってことはないんだよね……とある方法以外には。
「そうだねえ。領主様が使うような魔道具とか、自分が魔法を使えたら節約になるんだろうけどねえ」
「魔法使いって100人に1人いたらいいほうなんですよね? それも、稼げる仕事に移っちゃうらしいですし」
魔法、そう魔法だ。
この世界にはお婆ちゃんの世界と違い、魔法があるのだ!
見たことはないけれど、山のような怪物を相手に大きな火の玉を撃ったり、雷の落としたりと戦うらしい。
そんな魔法使いの素質は、意外に誰にでも可能性はあるって聞いたことがある。
もっとも、実用性のあるぐらいの素質がある人は少ないんだって。
「火が出せれば雨の日も洗濯物乾かせるのになー」
おばさまたちとの話が終わり、帰りながらのそんなつぶやきに応えてくれる人は誰もいない。
……その、はずだった。
「? なんだろ……ムズムズする」
まるで自分の願望に返事をしてくれたように、腕がかゆくなった。
いったん、貝や魚の入った籠を置いて服をめくってみる。
(何もないわよね……あれ……)
視界に揺れる物があった。それは、籠の中の貝。
まるで貝から何かが抜けていくようにぼんやりした物が見える。
私は、山で採取をした時にも、なぜか目的の物がそこにあるように見えたことを思い出した。
潮干狩りの時だってそうだ。掘る前から、私はそこに貝がいることが分かったように思う。
共通しているのは……生きていること?
私は、魂でも見えるのだろうか?
それではまるで、おとぎ話に聞く死神のようではないか。
「神父様に相談してみようかな……」
遅かれ早かれ、きっと神父様や兄さんたちには、私が前のままの私ではないことはバレると思う。
自分でも、言動がすごい大人びて来てると思うし、何より洗濯板の思い付きだとかは普通には無理だ。
告白した後、果たして家族として見てくれるのか?
そんな不安を胸に、トボトボと教会へと帰る。
「ターニャ、もう食べる部分はありませんよ」
「ふぇっ!? あっ!」
その日の晩、いつものように食事の支度をして、いつものように食事……のつもりだった。
でも、神父様に指摘されたように私はいつまでも、蒸した魚の骨から身を取るかのようにつまんでいたらしい。
慌てて手をどかしながら、既に弟たちも自分の部屋に戻っていることを知る。
「考え事があるのでしょうと、先に寝るように言ってあります」
「あはは……ごめんなさい、神父様。食事の時間は感謝の時間だというのに」
お婆ちゃんの記憶にあるどの宗教とも違うけれど、この教会は1つの教えを信じている。
詳しい教えはまだ理解しきってないのだけど、神様は実際にいると誰もが信じている話だ。
私も……神様と呼ばれるだけの存在がいるだろうなってことは信じている。
(だって、こうして戻って来たんだもの)
元のターニャではない、ターニャだけどターニャじゃない私として。
「片付ける前に、聞いたほうがよさそうですか?」
「……いいえ、まずは片付けます」
それからは無言で2人での片付け。
神父様は優しい瞳で、私を見てくれている。
食器を洗い終えた私は、神父様と共に教会側へ。
既に月明かりが、窓から差し込んでいる。
確か大きな虫の甲羅を削り出した窓枠だったはず……あれ、結構高いんじゃないかな。
なのになんでこんな田舎の教会に……っと、今はその話じゃない。
「神父様、私が……私は一回死にかけたようなんです」
「そのようですね。嵐の日に、雷に打たれたと聞いたときには胸が張り裂けそうでした」
しばらくは、なんでもないような話を交えて気持ちを固めていく。
私は一時的にたぶん、死んでいたんだろう時のことを話し始めた。
あの世に行くところでわがままを言って踏みとどまっていたこと、そこで出会ったお婆ちゃんの事。
そして、今の私になったこと。
「それでは、ターニャの中にはターニャ以外に、そのお婆様がいらっしゃるのですね」
「少し違うみたいです。もう一緒になってしまって、区別できない状態です」
神父様は沈黙し、何事かを考えている。
否定されたらどうしよう、嫌悪されたらどうしよう……そんな思いがぐるぐるとめぐる。
長いような短いような時間が過ぎた後、突然私は神父様に抱きしめられた。
「大変でしたね……」
「神父様……」
短い言葉。だけど感じる温かさに、私は涙した。
それから私は神父様と色々なお話をした。
ずっと隠しておくのは難しいけれど、真実を全部語る必要もないだろう、と。
死にかけて、別の人生の夢を見た、そうしておこうということになった。
これからはある意味、おおっぴらにお婆ちゃんの記憶から今の生活に役立つ物を思い出すことに決めた。
「家族にも、幸せになってほしいもの……ね」
一人戻った部屋で、毛布にくるまり寝るまでの間、色々なことを考えた。
1つだけ、神父様も答えがわからないことがあった。
それは、私が見えるという何か。
断言はできないけれど、可能性があるとしたら……私に魔法の才能があるらしいことだ。
けれど、魔法はいつ使えるようになるかははっきりわかってないらしい。
いつか目覚めたら……そう思うことにして気にしないことにした。
冬のとある夜は、そうして過ぎていくのだ。
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