聖女と呼ばれても、そこそこ暮らしが一番です~秘密の種は異世界お婆ちゃんの知恵袋~

ユーリアル

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GMG-025「塩を、圧倒的塩を!」

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(戦争……かぁ)

 行儀が悪いなと思いつつも、蛸の足を咥えたまま歩くのはやめられない。
 今度、たこつぼを試してみようかな?なんて考えてしまうほどだ。

 もぐもぐと口を動かしながら、別のことを考える。
 港にいたのは、シーベイラの人だけではなかったのだ。

 こんな場所には似合わない、汚れたくなさそうな服装の人。
 まあ、要はお役人さん、みたいな?
 王様からの伝達として、各港町に伝えて回っているんだとか。

「他国の人に警戒を、って言ってもねえ」

 よほど、武装して押し寄せるとかでなければ寄る人を拒否することがないのが港町だ。
 何か事故があったかもしれないし、いざとなれば水や食料を助け合うのが掟なのだから。
 とはいえ、確かにいざ攻めてきたということを考えると防備の面では不安が残る。

「堤防でも作って、出入りの場所を制限する? うーん」

 思い出すのは、お婆ちゃんの記憶。
 こう、岸から埋め立てていって、波の直撃しない場所を作る。
 台風の時なんかも、役に立つかもね。

 色々浮かぶけれど、私一人でどうにかすることじゃないし、どちらかと言えばお偉いさんの仕事だ。
 私は今日を、いつも通り精一杯生きるのだ。

 今のところの目標は、食べるのに困らないお金を継続して得られるようにして、人生を楽しむこと。
 ちょっとだけ、他の人のお手伝いも出来たらいいよね。

 お婆ちゃんが、これが出来れば一番いいよなんて思ってるのもあるけれど……。
 遊んで暮らす、ではないのが重要。やっぱり、何かしていないと人生つまらないからね。

(遠心分離機を改良して、干物造り機とかやっちゃう?)

 魚や蛸が固定され、ぐるぐる回るさまを思い浮かべて一人笑う。
 そういえば、このあたりにはイカを見ない。
 沖に出ればいるのかもしれないと思いつつ、お店に配達完了の連絡をするべく寄る。

 ついでに買い物もしようと思うので、今度は表側から入ると賑わいを感じた。
 半分は討伐者、探索者等の旅人、残りは町の人って感じかな。

「あ、ターニャ。こっちに来たんだね。小麦、買って帰るかい」

「うん、そうするわ。今のところ、外からの物が値上げになるようなことはないのね」

 戦争となれば、そのうち生活に影響が出る。
 なにせ、男手で取られていくのだから。
 そうなれば、自然と値段にも……今は大丈夫そうだ。

「どちらかというと、外の怪物の方が問題かなあ。ターニャも、一人で出歩いちゃだめだよ」

 やはり、暖かくなると怪物も動きが活発になるらしい。
 町の近くでも、私の時のようなことが起きるかもしれないから気を付けるようにと言われてしまった。

 ずっしりと思いを感じる小麦の入った袋を背負い、教会に帰ることにする。
 ちなみに、この背負い袋は記憶にあるリュックをヒントに作った。
 抱きかかえてると危ないし、大変だもんね。

(色々作ってみたいけど、工作機械ってのがわからないからなあ)

 さすがのお婆ちゃんの記憶も、見たことしかないから仕組みがわからない。
 電気?ってのもよくわからないし、再現には限界があるのだ。
 でも、この世界にはあって、お婆ちゃんの世界にはない物もある。

 そう、魔法だ。正確には魔素を使ったあれこれ、になるんだと思う。
 燃やすものがないのに、火を出せるし、雷みたいなことだってできる。
 風のようで風ではない、何か動く力もあるみたいだから……実験あるのみだ。

「あれ? お客様?」

 いつものように、教会にお祈りに来た人がと思えば、そうではないようだった。
 馬車が教会横の我が家の方に止まっている。
 
 神父様に用事なら、教会の方にくるわけで……となると。

「急にどうされたんですが、ワンダさ……ま?」

 そう、家でもきれいにしている客間にいたのは、領主様であるワンダ様と、一緒に戻って来たらしいマリウスさん。
 でも、一緒にいる護衛の人も、2人もなんだか渋い顔……問題でも起きたんだろうか?

「邪魔をしている。少し、力を借りたくてな」

「私のような小娘に? ええっと、記憶も万能ではないとは思いますが……」

 十中八九、私の中のお婆ちゃんの記憶だよりの話だろうと思う。
 でも、私だからこそわかる。お婆ちゃんはただのお婆ちゃんだ。
 少しだけ、人より色々知る機会があっただけで、神様じゃあ、ないのだ。

「ああ、うむ。それはそうなのだが……実はな」

 本当は、私のような表向きの立場の無い相手に言うことではないんだと思う。
 ワンダ様も、単純に手詰まり過ぎてもしかしたらと、ここに来たんだろう。
 聞かされた話は、確かに護衛の人すら頭を抱えることだった。

 問題は、塩。

 海が近いなら、どこでも困ることはないんじゃないかって?
 確かに、その町だけ、その家庭だけなら困らないかもね。
 でも、内陸の都市ともなれば大きな問題。

 それに、塩は国で扱うぐらい重要な物資になるってお婆ちゃんも言っている。

(というか、私にそんなことを話さないでほしい)

 困りながらも、ワンダ様に相談されたこと……塩の生産と輸送について考える。
 なんでも、直轄領で大量に生産をしていたが、そこが怪物たちの襲撃を受けたらしい。
 夜のうちに海から襲われたようで、詳細がわからない。

 理由は不明、他国の仕業かもしれないし、偶然かもしれない。
 その上、その余波で輸送経路も打撃を受けているのだとか。

「出来るだけ早急な塩の確保と、経路の復活……道の方は、討伐者とかをたくさん雇うのが早いんじゃないですか?」

「ああ、それは既に進めている。問題は塩なのだ。土地が荒れてしまってな」

 なるほど、確かに怪物を退治できてもその血肉で汚れた場所は使いたくないよね。
 あれ……んー?

「少しお聞きしますけど、塩の作り方って機密じゃないですか?」

 私の疑問に、ワンダ様もマリウスさんも、途中で合流して来た神父様まで頷いた。
 下手に言いふらせば、私の命がヤバイやつですよ、これ。

(どうしたものか……あれ、待って? 一時的になら簡単じゃない?)

 最初は、どうにかしてお婆ちゃんの記憶にある仕組みを再現しようと考えていた。
 塩水をくみ上げたり、延々どこかに少しずつ流すとかどうしようかと思っていた。

 でも、でもだよ? よく考えてみれば、私は既にその問題を解決している!

「意外と、海水の中の塩って少ないんですよね。だから、煮詰めたりするのに薪が必要だったり」

「その通りだ。だから山の維持を考えると無茶な手はとれなくてな」

 悩み続けるワンダ様。私はそんな相手を放って、別の部屋に行く。
 そこには、実験に使った残りがあるはず……持ってきたのは……一見するとただの布。

「それは?」

「ほら、泳ぐ水筒の皮ですよ。これを使った海水ろ過樽君は、そのうち交換が必要です。説明はしてなかったんで誰も気が付いてないかもしれないんですけど……その理由って、塩気が残るからなんですよね。だから、水が通らなくなるんです」

「「あああああ!!!!」」

 この国の、塩造りを変えてしまった瞬間だった。
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