5 / 37
CBM-004
しおりを挟むコボルトは小柄な生き物だ。人間の半分ほどの背丈、重さは言うまでもない。それでどうして戦えるのかと言えば、マナを己の物として体を強化するからだ。その点でいうと、ただのイノシシに見えつつも同じくマナを使うことを覚えたビグボアは同じ立場ということになる。
「ちっ、やはり刃が通らないかっ」
1頭はエルサのほうへ、残りの1頭を引き付けることができた。今度は先ほどのように飛び掛かるのは難しい。もう、目の前だからな……そのままやると牙でやられる。
(かといって体力はあっちの方がありそう……っとぉ!)
何度目かの突進を回避し、上がりそうになる息を何とか整える。コボルトは小柄だ……俺も元々は普通のコボルト戦士だったからには、特別鍛えられているわけじゃあない。出来るとしたら、マスターからのマナの供給を受けてさらなる強化といったところだろう。
次の一手を考えていた時、耳にビグボアらしき悲鳴が届く。ちらりと見れば、馬車と俺たちの間にいつのまにか大穴が開いていた。間違いない、マスターの自然魔法だ。
「ルト君!」
「おうっ!」
この短時間であんな大穴を作れる魔法は俺の刻まれた知識には無い。知らない魔法か、それとも……今はそれどころじゃないな、ビグボアの強みはその突進だ。であればその突進を殺す!
相手を挑発し、思う方向へと突撃させ……転げ落とした。
「春の目覚めよ応えよ!」
「縛りか……よし!」
運悪く骨でも折ったのか、あおむけで起き上がれない相手に向けてエルサの魔法により土から一気に緑が伸びる。それは縄のようにビグボアを縛り付け、一時的にだが相手を拘束する。となれば俺がやることは1つ、素早く接近し、無防備な腹から胸元へ向けて刃を突き入れる。
そして、随分と血なまぐさい形だが戦いは終わった。やはり、もっと強くならなければ……コボルトだからと甘んじてるのは良くないだろう。
「マスター、処理はどうする。中身ぐらいは抜いておいた方が良いと思うが」
「お任せしてもいいですか? 私はあちらの方とお話してきます」
視線の先にはこちらに助けられたことを理解したであろう馬車が止まり、中から人間が出てくる。なるほど、助けたのでは終わるつもりはないということか。マスターもタダ働きは御免、か。
頷き、血や内臓を捨てるための穴だけは別に用意してもらう。こうなれば後は体格差に苦労しつつも俺は捌いていくのみ。狩りと違い、殺すだけを考えたから美味しくない奴もいるだろうが……まあ、3頭となれば贅沢にやれるだろう。
マスターの魔法による穴と地面の高さを利用して必要な処理をする。出来れば頭を落としたり、川で冷やしたいが出来るところまで、だな。
「ルト君! もういいですよ。お手伝いしますね」
やはり体格差があると思ったより時間がかかったようで、3頭分の処理が終わったころにはマスターの声がかかることになった。まあ、自分より大きな得物を抱えるコボルト、なんてのはまだ夢ってことだな。
「ビグボア3頭を相手にとなればどんなと思えば……ただのコボルトではなさそうですな」
「コボルトのルト、よろしく頼む。マスター、どう分配する?」
俺も普段からこういった態度を取るつもりはない。これは最初の札。これでこちらを召喚獣ごときが!となる相手であれば助けられたことに何も感じていないということになるわけで、そう言った相手となれば……まあ、やるのはマスターだが。
俺たちが助けた形になる馬車の主は、商人のようだった。体は鍛えている様子はないが、身なりはそこそこよさそうな物だからだ。ちらりと見えた馬車の中身も半分ほど詰まっている。先ほどまでの無茶で多少荷崩れしているようだが。
「それなら少し行ったところに川がありますのでそちらで洗うなり冷やせばどうでしょう」
「ああ、そういえば……手つき代わりに荷台の先をお借りしますね」
マスターの要請に、相手も頷きビグボア3頭は馬車に積まれ、街道を少し逸れた場所に流れる川へと向かうことになる。その間、俺は普通に走っている。乗っていてもいいだが、先ほどのような急ぎでなければこのぐらいの速さで動く物なのだ、馬も疲れてるだろうしな。
「ルト君、こちらはアクサームにお店を持っているクスターさんとご家族ですよ。仕入れの帰りだそうです」
「となると……襲われた理由に心当たりは?」
頭を下げつつ、俺からでいいかはわからないが馬車の男、クスターに聞いてみた。視界には家族であろう人間の女と子供が2人。子供がなんだかこちらを見る目つきが不思議だな。人間からすると怪物で、血まみれだというのに、怯えた様子はない。
「ははは、息子はそちらの活躍に興奮しているようだ。失礼かもしれないが、そのぐらいの背丈でもあんなに戦えるのなら自分も!と言ったところか。襲われる理由か……一応あるにはあるんだが」
なるほど、子供はそういうところがあると俺の中にある知識も言っている。だが、現実はそう甘くないことをいつか知るだろう。それはそれとして、クスターには心当たりがあるらしい。
「街道として整備されてない場所を走っていて、子供を跳ねてしまったんですよ」
「「ああー……」」
思わず俺とマスターの声が重なった。なるほど、不幸な事故、それ以外に言いようがない。街道に埋まっているよくわからない物は怪物避け、これは間違いない。でもそれは全ての道にあるわけじゃないのだ。通れると言っても、雨風で崩れたりした場所は途切れるし、道も1本という訳じゃない。怪物避けがない道だってあるわけだ。
「多少なりともこれで穴が埋まるといいな。お、あれが川か」
俺が渡るのは大変、そう思うぐらいの川があったのでビグボアの処理をそこで行う。俺も乾きかけた血をしっかりと洗う……うむ、さっぱりした。
身ぎれいになってから戻ると、子供たちの視線がまた変わったことに気が付いた。マスターが頷いたので、仕方ないなと思いながら……そばに座って見せる。すると、恐る恐るという感じだが近づいてくる。
「お耳、さわってもいい?」
「ぎゅっとすると痛いからやめてくれよ」
そう言ってやると、耳だけじゃなく全身なにやら触られ始める。だが文句は言うまい。急な命のやり取りで、子供たちは内心怯えているだろうからだ。そこまでする義理は無いと言えば無いが、マスターがそれでいいというのならそうするのだ。
そうこうしているうちに、町へと戻ることになる。戻るまでは順調で特に何事もなく……まあ、平和が一番だな。
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。
織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。
父であるアーヴェント大公に疎まれている――
噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる