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CBM-005
しおりを挟む陽光に金属が光り輝く。表から聞こえる町のざわめきに耳を動かしながら、俺は手の中にある2本の長剣を握り直した。元々は人間用のため、俺にはショートソードが長剣のようになるがちょうどいい。手元にはフックがついており、簡単な物ならそこで受け止めることもできるだろう。
「ルト君、問題ない?」
「今のところは。むしろ俺が持てるものをとなると幸運というしかないと思う」
そう、たまたまクスターが仕入れで手に入れていた雑多な武具の中にあったのは幸運だ。本当なら人間の使う武器を両手で握るなどしないといけないかと思っていたところだ。結局、マスターは自身が売っている傷薬を多めに買い取ることと、この武器の値引きで助けた代金とした。それ自体には何か言うことは無い。
それよりも問題は、ただのというと失礼だが町の1商人が仕入れるには物騒な物が多かったということだ。使うと無くなるが、魔法を発動できるスクロールなんて俺も見たことはない。知識では知っているが、それは貴重品という感覚だ。
「クスターさん、何か戦争の気配でもありましたか」
「まだ噂ですがね。家族は守りたい、そう思ったらこの土地で生きるための力をと思いまして」
ここはアクサームにあるクスターの家だ。表の店の方では彼の妻と、子供たちが仕入れたものを並べているはずだ。話が終われば、彼も店番に出ることだろう。
そうしてこの町を中心に戦う人間らが1人でも生き残れば結果として自分が安全になる……悪くない考えに思える。だが、戦争はそういったあれこれを飲み込んでしまう物だと俺のどこかが訴えてくる。コボルト同士の争いも、どちらかが滅びるまでやる時もあったと記憶しているからだ。
「エルサさんたちは路銀を稼いだらまた出かけられるのでしょう? そうであれば、多少危険は伴いますが泉に関する仕事を受けるといいかもしれませんね」
「泉……あの獣が多く飲みにくる不思議な泉でしょうか」
偶然には偶然が続く物で、気になっていたことの答えがさっそく出てきたようだ。店の準備をしている家族には悪いが、もう少し話を聞くことにしよう。
と言ってもあまり長くはならなかった。あの泉は理由は不明だが、飲んでるだけでも病気が治ることが多い不思議な水なのだそうである。そのためか、周囲に生える薬草も不思議と効能が高く、だからこそ採取の依頼もあるそうだ。それだけだと取りつくされそうだが、乾燥させた奴は特に効果は高くないそうで……つまりは、このあたり限定。しかも泉は複数あるとのこと。
「中の水草もこの町なら買取がありますからね、可能であれば取ってくるとお金になりますよ。噂じゃこのあたりの地下に何かが埋まってるんじゃないかって言われてますけれども」
「何かってまた、人間はそういう噂が好きだな」
コボルトには噂話をするような文化が無いだけなのだが、思わずそう言ってしまうような内容だった。幸い、肉食魚がいるような様子はなかったので潜る分には問題はなさそうだ。
「情報に感謝ですね。さあ、行きましょうか」
一応彼の家族にも挨拶をし、外に出る。そうして再び俺たちは旅する2人に戻った。今日のところは宿に泊まり、また明日からは何かで稼いで旅をするのだ。
そんなマスターの背中には少しだけ、焦りがあるような気がした。
「戦争は嫌いか?って好きな奴はあんまりいないか」
「ええ、そうですね。私も好きではありませんよ。そりゃあ、その方が薬は売れますけれど」
軍に売りつけるほどたくさんはありませんからねとつぶやいたマスターはまた普段通り、出会った時のようなどこか抜けた感じの姿に戻った。内心、ほっとした俺がいる。出来ればマスターには元気で今のような姿でいてもらいたいものだ。
多少の問題は、俺が頑張って振り払おう。それが俺の今生きる道。
「そう思ってたんだが、ちょっとどころじゃない気がするぞ?」
「ルト君は一緒にいるだけでも癒されますから大丈夫です。それよりもですよ」
翌日、俺たちは森の中の泉にいた。さっそく多少は稼ごうと思ってだ。今度は何度か獣に襲われ、この土地にコボルトの代わりに生息しているというゴブリンにも出会った。相手はコボルトがいるのが気に入らないのか、問答無用で襲い掛かってきた。もっとも、喋る感じはなかったのだが。
どこで拾ったかもわからない多少の金属の武器を回収するだけ回収し、今度はこの前とは違う泉の元に到着した俺たちだが、目にしたのは荒らされた森だった。明らかに獣ではない……足跡もそうだし、何かが掘られた跡がある。
周囲を警戒しながら穴を覗き込むと、何かを掘り起こしたような感じだ。良い物でも埋まっていたのだろうか? どちらかというと、井戸でも掘るかのような深い穴だが……ん?
「マスター、下の方にマナを感じるんだが」
「……確かに、何かありましたね、ここ。クスターさんの言っていた噂の何か、でしょうかねえ」
さっきまで熱い物があった時のほんのり温かい感じ、と言えばいいだろうか? 穴の底にそんなものを感じるのだ。と、顔を上げた俺の目に飛び込んできたのは、どこか輝きが減ったように感じる泉だ。もし、話が噂じゃなく本当なら?
そっと泉に近づき、手ですくってみる。冷たさは大差がない。が、匂いがどうも薄くなってるような……。埋まっている物と言えば、人間が大好きな財宝か……石などだろうか? さすがに古代の怪物が眠っていたということはあるまい。土の中と言えば他には木々なんかがあるが、そうであれば他の場所も掘られているはず。
結局、これだというものは見つからず、もやもやしたままだ。マスターもしばらくは穴を覗き込み、あれこれと埋まっていたであろう石たちをつまんでは確かめていたが、結局は首を傾げつつも戻ることになった。
しばらくして、町を1つの話題が駆け巡る。それは少し離れた場所にある大都市の長、まあ偉い人が病から復帰したという話だった。それだけならすぐに収まる話なのだが……マスターはその大都市に行くと言い出した。
理由を一応聞いた俺に、マスターはこう言ったのだ。
「長を治した薬に、とある石を削った物を使ったという話が出て来たんですよ。見てください。これ、あの掘られた穴の中に転がっていたんです」
そうして俺に見せてくれた爪の先ほどの物、それは不思議な色の石だった。
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