召喚破棄されたコボルト、お人よしの魔女と出会う

ユーリアル

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CBM-024

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 通りを歩く人々のざわめき、生活の音、匂い。意図的に感じるのを抑えていなければ、うるさくてたまらないし、我慢しにくい匂いだらけだった。


「怪物が清潔だとは口が裂けても言えないが、人間も大概だな」


「たぶん、安心するんですよ。自分一人じゃないという安心」


 そんなもんかね、とやや脱力し抱えられたままの腕の中で周囲を観察する。何に急いでいるのかはわからないが、ほとんどの人間は忙しそうに移動しており、あまり俺の方を向く人間はいない。召喚獣が珍しくないのだろうか?


(いや、気にしてない……ということか?)


 恐らくは俺が怪物のコボルトであると認識している人間が少ないんじゃないかなと思うのだ。その証拠に、近くを通った人間は俺を見るなり驚くことが多い。それでもいちいち叫ばないのには悲しい理由がある。


「マスター、やはり脱いでは駄目か?」


「駄目ですよ。ちゃんと着ててください」


 出来れば脱ぎたい。まるで人間の子供が着るようなヒラヒラとした布地の服に、なぜか帽子までかぶせられている。ぱっと見、やや大きな犬や狼が抱きかかえられているように見えているんじゃないだろうか?


 さすがに歩いていると目立つし、変な輩が近寄ってくるかもしれないとのことでこんな服に着替えさせられた挙句、マスターに抱きかかえられたままの移動である。そりゃあ、その分鼻や耳で異常が無いか確認はしているが……くそ、今さらだなとか考えた自分が憎い。


「仕方ない……仕事だ、我慢する。それにしたって何とも言えない依頼だな」


「ええ、そうですね。本当に、すっきりしない」


 ぎゅっと、俺を抱きかかえる腕に力が入ったのを感じる。この姿勢では見えないが、きっとマスターの視線は鋭い物になっているだろう気配があった。苦しくはないのでそのままにさせ、こうなった経緯を思い出す。


 それは数日、兵士達の宿舎に泊り込んだ最後の日のことだった。王子であるブレグが訪ねて来たかと思うと、マナ結晶の代金を渡してきた。それ自体は予定通りだったが、一緒に仕事を頼まれたのだ。


 兵士達が巡回の際、変な煙や光、異形を見たというから探ってほしいと。もちろん、結果が出るとは限らないので適当な具合で良いと。


「人とは運が違いそうな俺たちなら……ってまあ、観光と思えばいいか」


 実際、王都は刺激に溢れている。僻地や自然とは違う刺激だが、飽きないという点では間違いない。様々な物が売っているし、色んな人間がいる。俺がコボルトだと知っても干し肉食べるか?なんて差し出してくる変な奴もいた。


「そう思って4日目ですねえ。噂以外の話は聞かない……と。探し方が問題なんでしょうかね」


 無駄足ばかりなのだが、マスターの機嫌は悪くない。不思議に思って聞いてみると、ルト君を思う存分抱いていられますからなんて面と向かって言われてしまった。


(そりゃあ、外じゃ自分で歩くし、すぐに動けないというのは落ち着かないので長時間は嫌なんだよな)


 考えを切り替えるべき、仕事に意識を戻す。今のところは怪しい気配や物事には遭遇していない。


「こういう時は裏路地に……なんてのはあからさまだよなあ」


 無駄知識、というわけではないが召喚時に刻まれた不思議な記憶は大通りばかりじゃ外ればかりだと訴えてくる。かといって不用意に踏み込めばそこの規則にぶつかることだってある。獣や怪物に縄張りがあるように、人間だって自分たちの領域というものを持っているからだ。


「地道に行くか、誰かを頼るか……無難なのはそれらしい酒場にでも飛び込むことか? ん、マスター……」


 視線の先には人間の子供。汚れた感じではないからそこそこいいところか、普通の家庭の子供だろう。馬車だって走ってるのにあんな子供1人では危ないに決まっている。が、その理由もなんとなくわかる。子供、人間の女の子は泣き顔だった。きょろきょろと周囲を見ているから迷子か探し物かというところか。


「ミィちゃん……どこぉー」


 どうやら後者……探し物のようだ。俺が何かを言う前に、マスターは人間の前に歩いていく。お人よし……というには簡単だが、俺もなんとなくこれがつながっていくと感じた。


「迷子をお探しですか?」


「え? う、うん。ミィちゃんが散歩から帰ってこないの」


 最初は声をかけられたことに驚き、次に俺というコボルトに驚いた少女だったが、すぐにマスターと打ち解け会話が始まる。それはいいのだが、少女が俺の足をぐにぐにするのは止めてほしい。まあ、泣かれるよりはいいのだが。


(猫探しとなれば、あれだな)


 俺とマスターは頷きあい、そのまま少女を連れて路地裏……まだ明るさのあるちょっと人通りがないぐらいの場所に移動する。ここなら猫が来ても逃げることはないだろう。


「ふふ、じゃあ見ててくださいね。このお水が猫さんを集めちゃいますよー」


「えー、ほんとー?」


 微笑みながらマスターが取り出したやや大き目の瓶、その中には液体が入っている。厳重な蓋をされ、ちゃんと操作しないと開かない仕組みらしい。そんな蓋をあけると、俺がわずかに感じる匂いが漂い始める。そう、中身は巨人胆である。あの街でも猫が良く集まっていたソレを水薬に漬け込んであるのだ。


「白……黒、これも違うな」


「うわー……!」


 マスターが生み出したそよ風に乗り、何かが周囲へと広がり……少しずつだが、着実に集まってくる猫たち。瓶に飛び掛かられても困るので、集まってきたそばから適当にえさ代わりに塩抜きした干し肉のかけらを食わせる。こうしておけばしばらくはいいだろう。


 今のところは目標となる猫は来ていない。近くにいないのか……それとも。


(ん? この気配は……)


 ちらりと視線だけを気配を感じたほうに向けると、1匹の猫。暗がりだからよくわからないが、少女に聞いていた特徴と一致するような……まあ、確かめればわかるか。


 マスターに頷き、そろりと反対側へと移動し、そして隠れるようにして建物の上から背後に回り込む。逃げられないようにと気を付けながら一気に飛び降りて捕まえた!


「ニャニャ!? なんにゃー!」


「喋った!? お前、ケットシーか!」


「ミィちゃん!」


 驚いて危うく手を放すところだった。四つ脚で歩いていたし、気にしなかったが俺が捕まえるなり器用に2本足で立って暴れようとした。と、そこに少女の声。俺の腕の中でケットシーが跳ね、やがて何とも言えない気配をまといながら足を地面に降ろした。


「にゃーん」


「バレバレだって……」


 思わず指摘すると、俺とマスター、そして少女を見て最後には人間のようにため息をついて座り込んだ。


「今日までばれずに来たのににゃー」


「ミィちゃんおしゃべりできたんだね、やったー!」


 落ち込んだ様子のケットシーとは対照的に、少女はとても喜びケットシーを抱きかかえるようにして抱き付いている。服が汚れるのもお構いなし、つまりは良い主人ということだ。


「ああ、もう。ご主人様が危なくないようにと思ったのにゃ……って、しまったにゃ」


「おい、どうした……これはっ」


 慌てた様子で少女を守るように立ち上がったケットシー。その視線が見つめる先は別の路地。その暗がりに……ぼんやりとマナを感じる光が現れた。


「ケットシー君は下がっててください。ルト君、行きますよ」


「ああ」


 こちらの声が聞こえたかのように、不思議な光は何かの形を作っていく。 


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