召喚破棄されたコボルト、お人よしの魔女と出会う

ユーリアル

文字の大きさ
26 / 37

CBM-025

しおりを挟む

 路地裏に現れた謎の光る何か。煙のような塊は怪しい光を放っている。赤かと思えば青になり、混ざり合った色となる。それはまるで生きているかのようだった。


「おい、アイツに心当たりは?」


「あると言えばあるにゃ! 昔、森にいたころに仲間が飲まれたにゃ! そしたらどっかにいってしまったのにゃ……」


「食べられた? いいえ、どこかに連れていかれたと見るべきですね。風よ!……動かない!?」


 光はゆっくりとした動きだった。それこそのろのろという表現が近いほど。これでは走るどころか歩いているだけでも逃げられるだろう。そのおかげか、まだまだ距離がある。


 恐らく武器は効かない、その上マスターの魔法による風でも揺らがなかった。光や煙のように見えて……違うのだろうか? なんとなく、どこかで見たような気もするのだが。


「騒がしい場所に行くと消えるのにゃ。だけどまた近くに出てくるから……」


「それでご主人様の元から離れてどっかに連れて行こうとしたわけだ」


 もしも、アレが一度狙った相手をずっと狙うのならばケットシーのそれは自己犠牲と呼ぶにも難しい。だが、気持ちはわかる。突然何かが現れるより、いつかきっとそいつが現れるとわかってるほうが心に来るのだ。


 無駄だとは思いつつ、武器を構えて戦う姿勢を取る。牙をむき出しにして、唸り声をあげて威嚇した。目も耳もなさそうな相手だ……効くはずもと思ったところで変化を感じた。


(ひるんだ? いや、これは……そうか!)


 ようやく思い出したそれは、幽霊。召喚される前にも確か住処の近くで見たことがある。この世に未練を残して死んでしまった生き物がたまになるという魂だけの姿。そして刻まれた知識はその多くが嘆きや恨みに支配され、どうしようもない相手になると教えてくれる。


 抵抗する手段は少ないが無いわけじゃあない。


「マスター、浄化の光だ!」


「! なるほどっ、ルト君は咆哮を。きっちり吹き飛ばしてあげましょう!」


 すぐさまマスターの体でマナが巡るのを感じる。その力は先ほど風を産んだように、突然路地裏に日差しのような光を注がせた。俺たち自身には日向で味わえるような陽光だが、相手にとってはそうではないらしい。途端にその形が元より揺らぎ始める。


「かけらも残さず消し飛べっ!」


 大きく息を吸い、力を込めて咆哮。遠吠えのように強く、遠くまで響く声となって間もなく口から飛び出すことだろう。それだけでは足りないと思い、胸元の結晶に意識を向けた……力を借りるぞと。瞬間遠吠えに俺だけじゃない力が混じっていくのを感じた。それはドラゴン。咆哮1つで魂を刈り取るとも言われる強者の力がわずかでも混じった咆哮は謎の存在へと迫り、煙が風に負けるかのようにあっという間に消え去った。


「すごいのにゃ……しっぽぴーんってなったにゃ」


「かっこいいー……」


 背中に聞こえるケットシーと少女の声に我に返った。なんとか、自分が思うように力を引っ張りだせたように思う。頼り切りは良くないが、使える物は使うべきだし、武器がそうであるようにこれも俺の力、そう思うことにしよう。


「さて、他にもいないか見回りを……」


 そこまで言って、先ほどまで相手がいた場所に何か落ちているのが見えた。ゆっくりと近づくと、落ちていたのは石ころ。血のように赤い、石ころだ。手のひらよりは随分と小さいそれには何かが刻まれていた。


 恐らくは文様……だがこれは……。


「召喚術……しかも呼び出されるほうに現れる法陣と同じ気配を感じますね」


「となるとこれに捕まった奴らは召喚されたのか?」


 だが俺自身が召喚された時にこんな良くない光に包まれた覚えはない。もっとも、あまり覚えていないのだが。何の根拠もないが、これは普通の召喚とは違う、そう感じる。だが詳しく調べている時間はなさそうだった。


「にゃにゃ! 人が集まる気配にゃ!」


「よし、ひとまずお嬢ちゃんを送りに行こう。マスター、向こう側で合流だ」


「そうですね。さあ、行きましょうか」


 女の子はマスターに任せ、俺はケットシーと一緒に屋根に駆け上がる。ちなみに怪しい石はマスターの持つそういう物用の布にひとまず包まれている。


 ざわめきを遠くに感じる位置まで移動し、マスターと合流する。


「今回は助かったのにゃ! 何かあったら協力するにゃ!」


「ありがとー!」


 天然の召喚士というわけでは無く、たまたま街にやってきた時に拾われ、良い飼い主だから一緒にいるというケットシーと人間の少女。召喚が関係しない関係もあるんだなと思いながら、マスターと二人、城へと向かっていた。


 ブレグ王子へと報告であり、さらには厄介事を投げるためでもある。


(さすがに全部は追い切れない。俺たちには俺たちの出来ることにしないとな)


 城への道すがら、今後のことを少し考えていた。さすがにこの怪しい召喚を行った相手を突き止めてこいとは言わないと思う。状況的には国を狙ったとも言えるわけだから、俺たちみたいな部外者が全部解決したのではまずいだろうからだ。


 予想通り、報告を受けたブレグ王子は何とも言えない悔しそうな表情となった。


「まさか路地裏とはいえ、王都でそんなことが……ああいや、話は疑っていない。召喚士にも確認させた。弄られてはいるが、確実に召喚が絡んでいる。問題はどこの誰がこんなことをしたかだ。こんな街中では呼び出す怪物は当然、皆無だからな」


「ケットシーは森で襲われたとも言っていたが、町中に出ているという話だったな」


「その通り。1つ、気になる噂がある。こうなってくると信ぴょう性があるように思うのだ」


 そうして王子が話したのは噂の域を出ず、それもよくある妄想の類に近かった。曰く、隣国の戦力を落とすために他国から直接召喚して戦力を大きく変化させるのだという噂。でも、その話にはおかしい部分がある。


「あの、それだと他国の怪物を召喚するわけですからむしろその国にとってはいいことでは?」


 そうなのだ。仮にとある国にいる強力な怪物が召喚されたとしたら、被害を受けていた国にとっては一時的には得である。が、ブレグ王子はマスターの指摘に首を振る。


「噂にはまだあるのだ。そうだな……召喚魔法における限界、禁忌で思いつくことと言えばなんだと思う? なぜ人間だけが召喚魔法を使える?」


「限界……禁忌……まさかっ!」


 この状況ではマナの消費が、とか失敗した時の問題が、といった当たり前の話ではないのだろう。そして、なぜか召喚魔法の使い手、召喚士は人間しかいないという不思議だけれども常識……それがつながれた先は……。


「不可能な同族召喚……つまり、召喚という名の誘拐……?」


 ぽつりとつぶやかれたマスターの声が、妙に響いた気がした。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処理中です...