きんだーがーでん

紫水晶羅

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美乃里

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 ホテルの入り口をくぐった途端、シャンデリアの煌びやかな光が瞳を刺し、美乃里は思わず目を細めた。
 午後六時ジャスト。
 ロビーの柱時計をちらりと見やり、美乃里はふうっと息を吐いた。

 約束の時間まで近くのファミレスで軽食をとりながら暇を潰していた美乃里は、あまりにも正確な自身の行動に自嘲的な笑みをこぼした。
『今ロビーに着きました』
 トークアプリでメッセージを飛ばすと、美乃里は正面のエレベーターへと歩を進めた。

 指定された部屋は603号室。
 上方向ボタンを押した直後、美乃里のバッグが小刻みに震えた。
 どうやら先ほどの返信が来たらしい。
 内容は見なくてもわかっている。きっと、『了解』の二文字のみ。
 開いたドアに身体を滑り込ませると、美乃里は六階のボタンを押した。
 乗客は美乃里一人。
 階数表示を食い入る様に見つめていると、程なく『6』の数字が点灯し、ドアが開いた。

 一呼吸置いてからエレベーターを降り、壁の案内表示に従い指定の部屋を探す。
「あった」
『603』という数字のプレートの付いたダークブラウンのドアをノックし、美乃里はバッグからスマホを取り出した。
 ロック画面上に表示されたトークアプリの通知が目に飛び込む。『了解』の二文字に、美乃里は一人、静かに笑った。

「はい」
 間も無く部屋の中から、男性にしては少し高めの穏やかな声が漏れてきた。
 開錠する音とともにドアが開く。
 美乃里の顔が一気に華やぎ、色白の頬に赤みが差した。

「お待たせしました」

 次の瞬間、はにかんだ笑みを浮かべたまま、美乃里の身体がドアの向こうへと吸い込まれていった。


 ***


 なるべく音をさせずに玄関を開錠すると、美乃里はそっとドアを開けた。
 リビングに明かりが灯っている。
 遠慮がちに「ただいま」と声を掛けながら、美乃里は恐る恐るリビングのドアを開けた。

「なんだ。誰もいないじゃん」
 拍子抜けして、大きく息を吐き出す。
 どうやら母は、先に寝てしまったようだ。
 美乃里の帰りが遅い時はいつも、母はリビングの明かりを点けたまま就寝する。
 以前、勿体ないから明かりを消すよう言ったところ、「だって、暗い中帰って来るのは寂しいでしょ? そう思うなら早く帰って来なさい」と返されたのだ。

 時刻は十一時を少し回ったところ。
 母の小言が先延ばしになったことに安堵し、美乃里は明かりを消すと二階の自室へと向かった。


 メイクを落とし、部屋着に着替える。
 服を脱ぐ時、ボディーソープの香りに混じって、甘いシトラスの香りが鼻腔をくすぐった。

 篠崎しのざきの香りだ。

 美乃里は、脱ぎたての白いカットソーに顔を埋めた。
「先生……」
 先程別れたばかりなのに、もう身体が疼いている。
 あまりにも節操の無い自分に呆れ、美乃里は自嘲気味にくすりと笑った。

 カットソーを床に置き、部屋着を手に取る。
 ふと目を向けたドレッサーの鏡の中に、無数の愛の証が刻まれた白い素肌が映っていた。
「先生ったら……」
 ふっと笑みをこぼすと、美乃里は胸元にそっと手を当てた。
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