(学園 + アイドル ÷ 未成年)× オッサン ≠ いちゃらぶ生活

まみ夜

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第一巻:春は、あけぼの

祝=モノ+コト

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 見た目は、五人の制服女子を部屋に招いているので、その中身がなんだろうと、飲み物はすべてノンアルコールだ。
 ピザを炭酸水で食べたのは、生まれて初めてかもしれない。
 せめて、あみにダイエット・コーラを分けてもらえばよかった。
 そんな時間も、ようやくケーキに、気遣いで一本だけ立ったロウソクを吹き消し、プレゼントをもらい、終了だ。
 渡された包は、華やかだが、思いのほか小さい。
 彼女らは学生だから、高価なものは、突き返すと宣言していたのだが、文房具店で、ボールペンを買ったときのサイズだ。
 プレゼントを開ける、と中身は、耳かきだった。
 ステンレス製なのか、銀色にピカピカ輝いている。
 どういう思考の流れで、ここに行きついたのか、まったく想像できないが、俺は百均で買った綿棒を使っていて、耳かきは持っていなかったので、
「ありがとう、耳かき持ってないので、助かります」
 社交的に礼を言うと、全身から『決まるまで大変だったよ』とミホが負のオーラを垂れ流しているのが見えた。
 迷惑かけたな。
 変に勘繰られさえしなければ、しばらく学食で、奢りたいくらいだ。
 対して、あみと志桜里の二人は、「良かった」くらいのあっさりしたリアクションで、切り分けたケーキを急いでパクついていて、意外だった。
 俺は、何か、見落としがあるのか、と見渡すと、志方がキョトンとし、形山がニヤニヤしていた。
 また何か、お前の入れ知恵か?

「ケーキ、食べ終わった!」
 競争のように、ケーキを食べていたあみが、宣言した。
 なにをそんなに急いで、と思っていたら、彼女は、リビングのフロア畳を敷いてある一角へ移動し、正座した。
「先輩!」
 自分のミニスカートから出た太ももをペシペシ叩く。
 俺は、ケーキを咀嚼しながら、何の儀式か、と思って、彼女の右手に気がついた。
 俺が、プレゼントされたはずの、耳かきを握っていたのだ。
 俺は、どういうことか、とミホを見ると、彼女は目を逸らし、
「・・・講義で、産業はモノからコトへ、というのがありまして」
 それは知っている。
 モノづくりから、一連のサービスまで含めた『体験』を対象とした商圏のことだ。
 サービス?
 体験?
 必死に、話題を逸らすように、
「あ、さわりん。ボク、Youtubeで知り合いのライブ配信始まる時間なんで見たいな。このテレビつながる?」
「・・・ああ」
 テレビの電源をいれ、リモコンで暗証番号を入れ、ログインした。
「ツイスターゲーム?あいかわらずのバカップルだ」
 テレビでは、ミホが検索したアカウントの『身体柔らかバレリーナカップルのツイスターゲーム』と題した動画が、ライブ配信されている。
 いやー、身体柔らかいな、さすがだなー。
「先輩」
 現実逃避していたら、また、あみが太ももを叩く音が響いた。
 お前の仕業か?と形山を見るが、両手をふり、自分じゃない、としつつ、笑っている。
 どうにも、彼女の立ち位置がわからない。
「・・・先輩?」
 あみの声に、不安の粒子が増えたので、俺は観念して、彼女の膝枕に頭をのせた。
 本音を言えば、「優しくしてね」だが、あまりにも場違いなので飲み込む。
「動かないでねー」
 冷たい、金属が、耳に入ってくる。
 俺は、いつ人に耳かきをされたのが最後かを、思い出さないように、息を潜めた。

「じゃあ、反対側の耳、ごろーんして」
「ダメ、志桜里と交代です!」
 ようやくケーキを食べ終わっていた志桜里が、いつになく強く抗議し、あみは「ちっ」と舌を鳴らして、立ち上がろうとしたので、俺は上体を起こした。
 入れ替わるように志桜里が正座して、
「反対側を、上にしてください」
 このまま、身体を半回転して、逆の耳を上にすればいいのだが、それでは、顔が彼女のお腹側を向く。
 俺は、顔が、お腹の側に向かないよう、身体ごと、向きを変えた。
 志桜里の太ももに、頭をのせると、女性五人が、五人それぞれの表情で、俺を見ていた。
 俺は、ちょっとイラついて一番、嘲笑に近い顔の形山に、『アナタだったら、股間に顔埋めてやろうか?』と挑発的に、目力を込めてやった。

「ボクもお金だしてるから、やってみたい」
 世話をかけっぱなしのミホに耳をかかせるなんて、申し訳ない限りだが、そういわれれば、断る理由はない。
 とりあえず、志桜里がしてくれたのと、同じ側の耳を差し出したが、
「痛っ、痛たっ」
 それでは、耳の穴が、貫通する。
「・・・難しいなあ」
 そう言って、ミホが諦め、拷問の時間は終わった。
 と思ったら、俺がさっき挑発的な目をしたせいだろうか、形山が、耳かきを握っていた。
「片耳だけ、たくさんしたら、不平等ですよ」
 ミホの後に滑り込んで、
「はい、ごろーん」
 肩に手を当てられ捻られ、気がついたら、形山のお腹側に顔を向け、膝枕されていた。
「ねえ、じっとしててくださーい」
 やばい。
 一番、上手で、気持ちがいい。
 しかも、すごくいい匂いがする。
 コロンとかではない、本能を、性欲を揺さぶる香り。
「はい、終わり」
 言われて顔を上げた俺は、物欲しそうな顔をしていたのだろうか。
 形山が、くすくすと笑う。
「次、もう一回私!」
「・・・いや、もう血がでちゃいますって」
 本当に、それが理由で、俺は、断ったのだろうか。
 人を部屋に招き、自分の誕生パーティーを主催するという、地獄の時間が、ようやく終わった。
 なにが、俺にとっての一番の苦痛だったのだろう。
 五人を玄関で見送り、部屋に戻ると、残り香を感じた。
 俺は、窓を全開にして、自分以外の気配を換気した。
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