(学園 + アイドル ÷ 未成年)× オッサン ≠ いちゃらぶ生活

まみ夜

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第一巻:春は、あけぼの

誘+芸能+爪痕

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『ぴんぽーん!』
 インターホンが鳴り、学園からの帰宅に合わせて宅配便がそろそろ届く予定だった俺は、何の疑問もなく通話ボタンを押してから画面を見て、宅配業者でないことに気がついた。
「こんにちは。形山彩芽です」
「・・・はい。少しお待ちください」
 通話ボタンを押してしまって、居留守が使えず仕方なく返答し、俺はドアを開けた。
「沢田先生は、頭が良ろしいから、ごまかしてもわかってしまうと思いますので、直球で言いますね」
 なぜだか、また学園のミニスカート制服姿の形山は、
「弊社から、文化人枠で、テレビにご出演いただけませんか?」

 玄関先に、ミニスカ制服が長時間いては、中身がなんだろうと、いや年齢がバレた方が何の職種だと、近所に悪い噂が走る。
 仕方なく、部屋に入れた。
 先日の件で、住所を知られたのは、大失敗だったか。
「タレント事務所セカンドチャンス社長、形山彩芽からのご提案です」
 リビングのフロア畳でのミニスカ正座から、
「弊社との専属契約をお願いします」
 ミニスカ土下座となった。
 なんのプレイだ、これ?
「とりあえず、顔を上げてください」
 彼女は顔を上げ、上体を起こしたが、足は正座で両手はまだフロア畳についたままだ。
 俺は、ため息をついて、
「説明してください」
「沢田先生の講義をネットで拝見するに、弊社人材の弱点である文化人、コメンテーターを強化すべく、沢田先生のお力添えをいただきたく存じます」
 また、頭を下げようとしたので、止めて、
「そういうの、もういいですから。そろそろ本音を聞かせてください」
 形山は、薄く笑みを浮かべ、
「今までも、本音ですけど」
 ふと、表情が暗くなった。
「・・・沢田先生」
 いったい、何を言い出す気だ?
「あの、足を崩してもよろしい?」

 正座から一転、お姉さん座りでクッションを抱えた社長は一見、明るい口調で話しはじめた。
「志桜里が、子役だったのは、ご存じ?」
「ドラマを見たことはありませんけど。天才子役だったんでしょう?」
 形山は頷き、
「私も子役出身だったからそうだったんだけど、中学生になるとお仕事激減するの。子供でも、大人でもなくなるから」
 そういう話は、テレビで聴いたことがある。
「娘で食べていた両親は、大慌て。たまたまドラマで志桜里と共演したんだけど、父親が暴力ふるってるの見て、脅してウチに引き取ったの」
 そういえば、『大人に怒られてばかり』と言っていたな。
 しかし、この話は、どこに着地するんだ?
「ウチにきても、落ち着かない様子だったんだけど、寝室に寝顔を見にいったら、幸せそうに寝ていたの。どうしてだと思います?」
「社長が、暴力的な両親から救ってくれたから、安心したのではないんですか」
 彼女は、くすくすと笑って、
「沢田先生。あなたよあなた。あなたの声のおかげ」
 俺のツイキャスをダウンロードして、毎晩聞いてると言っていた。
「なにを聞いているのか、教えてくれるまで結構、時間かかったけど、ようやく聞かせてもらって思ったの。いい声だって」
 顔が赤くなるのが、わかる。
「志桜里が、『先生』を見つけたっていうから、講義をネット配信で見たら、横道に逸れがちだけど、話が面白い。ウチがものにする、って思いました」
 『志桜里が先に、ものにします』って、そういう意味だったのか、勘違いしていた。
「それ、そのまま志桜里さんに言いました?」
「いいえ?沢田先生をウチに所属させたい、って言ったかしら?」
 勘違いじゃないか。
 『十八歳』、『合法』とかも言ってたしな。
「あ、俺の部屋に志桜里さんが来るのを、あっさり許可したのも、そのせいですか?」
「はい。どういう口実でお会いしようかと悩んでいた矢先でしたから、ラッキーでした」
 道理で、物分かり良く、話が進んだわけだ。
 合法といえば、
「でも俺、企業からの出向ですから、副職は職務規定違反ですよ」
「御社の総務部、人事部に確認をさせていただきましたところ、出向中は、出向先の規則に沿うとの回答でした。学園ではタレント活動が許可されてる旨を説明し、具体的に、学園の学生としてタレント活動可能かと確認しましたが、確定申告を自分でするなら問題ないとのことです。もちろん、それはウチの税理士がサポートします」
 すでに調査済みとは、さすがは社長なだけあって、そつがない。
「沢田先生」
 形山は、クッションを脇に置き、再び正座し、両手をついた。
「沢田先生の声で、言葉で、正しい知識で、救われる人。変われる人が待っています。どうか、お力添えを」

 即答なんてできるはずもなく、時間をもらい、社長には帰ってもらった。
 救われる人?
 変われる人?
 待ってる人?
 俺自身が救われても変われてもいないのだ、社長が言うことは、単なるビジネス向けの甘い綺麗事だ。
 俺に、何ができるとも思わない。
 今までだって、何もできてこなかったのだから。
 ただ、すべてを否定してしまう、と摂食障害から救われたというあみ、俺の声が唯一のよりどころで眠っている志桜里、彼女らの想いも否定することになる。
 それに、何もできてこなかった、というならば、失うものもない。
 今更ながら、世界に爪痕を残せるか試してみるのも面白いかもしれない。
 ひとつ、考えなければいけないのが、元家族のことだ。
 元妻、子供、親きょうだいに親戚。
 交流を断っている俺が、いきなりテレビに現れたら、複雑な思いをするだろう。
 まあ、呆れてチャンネルを変えて忘れるのが一番、考えられる反応か?
 想像がつかなさすぎて、考えるのを諦めた。
 あみに、今回の件を相談すると、
「向いてると思うけど、あの社長の事務所なのと、悪い虫がつきそうなのが気になる」
 俺は、逆にあの社長だからやってみようと思ったのだが、アイドルだと、事務所というか、スタッフへは、一般人の俺とは目線が違うのかもしれない。
 あと、オッサンに寄ってくるのは、リアルな虫だ、コバエとか。
「テレビに出て・・・ご家族は、大丈夫?」
 気づかわしげに聞かれるが、
「どう反応してくるか、どうにも想像できないから、出たとこ勝負かな。社長に、ご対面系のドッキリはNGにした」
 それに、俺程度が注目を浴びることもなく、ずっと知られないままの可能性も十分に高い。
「でも、いつか先輩の・・・」
 あみが、途中で言葉を飲み込んだので、視線を向けるが、なんでもない、と少し寂しそうに、目を逸らした。
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