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03:運動、どうする?
Bパート
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「じゃあ、有酸素筋トレしましょうか」
何事もなかったかのように言う百目鬼君を無視して、シロクマっぽい着ぐるみを脱いでいる山崎さんに聞いた。
「それも部費で買ったの?」
「いいえ、以前からの私物」
うん、似合ってたけど、似合って可愛かったけど私物って、どういうこと?
「今日は、基本中の基本、スクワットをやってみましょう」
戸惑う私の方がおかしい、とばかりに話を進める百目鬼君。
「喜んでください。スクワットは腿前、腿裏、お尻の大きな筋肉を使うので、消費が大きいですよ」
着ぐるみを畳み終わった山崎さんを見本に、説明しだす。
「ポイントは三点。上体を倒さない、お尻を後ろへ引く、膝を踵の前へ出さず外へ向ける、です」
それって、四点じゃない?
言われるまま大人しく、山崎さんが、両手を胸の前で組んで、スクワットをしてみせた。
「これを四・四カウント。四つ数えながら下げて、四つで上げます。呼吸は下げるときに吸って、上げるときに吐きます」
山崎さんが、呼吸を合わせて、四カウントづつでスクワットした。
「今日は、十回に挑戦してみましょう」
山崎さんは、簡単そうにやっていたし、初日だから楽そうだ。
百目鬼君も山崎さんも鬼じゃない、と私は思った。
両手にタオルを持たされ、膝にパットをつけられ、鏡張りの壁に向って立たされた。
なんだか、思っていたのと違う。
鏡に、戸惑った自分の顔が、どアップで映っている。
スクワットって、壁際でやるの?
「じゃあ、タオルを鏡に両手の平で軽く押さえてください。膝を曲げて、でもパッドを鏡に当てないように。はい、お尻を下げるー」
バランスが取れなくて、後ろにヨロけた。
え?
難しい。
山崎さん、サクサクやってたのに。
「バランスが取り難い場合は、これ」
じゃじゃん、という口効果音と共に、山崎さんがタオルを出した。
彼女、着ぐるみを着た後から、ノリがいつもと違う気がする。
「これを海苔巻き状に巻いて、はい香恋さん、踵上げて」
言われるまま、つま先立ちになる、と踵に丸く巻いたタオルを噛まされた。
「後ろへヨロけて、膝が前へ出すぎてしまうより、踵を上げた方が、正しいフォームを覚えられます」
そうなんだ。
「筋トレは、正しいフォームが大事。さん、はい」
え?
繰り返せってこと?
若干、山崎さんのノリについていけない。
「さん、はい!」
「き、筋トレは、正しいフォームが、大事」
ぱちぱち、と拍手してくれる二人。
もう早く帰りたい。
「じゃあ、もう一度やってみましょう。はい、お尻を下げるー」
踵が上がっているので、さっきよりは、お尻を下げられる。
「もう少し、お尻を、膝の少し上まで、下げてー」
ぎゃー、きついー!
「上げてー、ツー、ワン。膝は伸ばしきらないー」
休むとこないんですけど?
「下げてー、早い早い、四カウント。上げてー」
力を抜いて下げれば、「もっとゆっくり、コントロール」と指摘され、膝を伸ばして休憩する前に、下げさせられる。
「はい、八回」
「ねえ、まだ?」
「いいですよ、もっとです。せめてあと一回」
「もうダメ、無理ー!」
私は、顔を鏡に押し付けて、悲鳴を上げた。
「そこから、香恋さん!」
「できる、ショージさんなら、できますよ!」
応援してくれる割には、「顔、膝、壁につけないで」と厳しい。
なんとか、足を伸ばした。
「はい、十回!終了です!」
「すごい!香恋さん!」
床にヘタリこんだ私に、山崎さんが、汗を拭いてくれたり、水のペットボトルを差し出してくれたり、と優しい。
「ナイストレーニングですよ、ショジーさん!初日から十回なんて!」
百目鬼君も、満面の笑みで、褒めてくれた。
荒い息の中、少しだけ思った。
ちょっといいかも。
サッキーが、ショージさんから顔を背けて、「チョロッ」と呟いたが、僕は聞こえなかったふりをした。
翌日、私は筋肉痛でギクシャク、と出社した。
昨日は、二人に褒められて、「ちょっといいかも」なんて一瞬、思ったけど、筋肉痛が、それを吹き飛ばした。
もう、嫌だ。
絶対に、辞めよう。
綺麗になるには、もっと他の楽な方法もある、はずだ。
「東海林さん、おはよう」
「あ、おはようございます。佐伯さん」
今朝も佐伯さんは、素敵だ。
少しだけ、筋肉痛が和らいだ気がする。
「あれ?」
「はい?」
佐伯さんが、不思議そうな顔をして、笑顔になった。
今朝の笑顔も素敵だ。
「そうか、顔色が良い、と思ったら昨日、部活だったんだね?」
「え、ええ、はい!」
顔色が良い!
褒められた!
「どう、続けられそう?」
心配そうに問う佐伯さんに、私は即答した。
「はい、もちろん!」
うん、もうだけ少し続けてみよう。
百目鬼先輩が、香恋さんから顔を背けて、「チョロッ」と呟いたが、あたしは聞こえなかったふりをした。
何事もなかったかのように言う百目鬼君を無視して、シロクマっぽい着ぐるみを脱いでいる山崎さんに聞いた。
「それも部費で買ったの?」
「いいえ、以前からの私物」
うん、似合ってたけど、似合って可愛かったけど私物って、どういうこと?
「今日は、基本中の基本、スクワットをやってみましょう」
戸惑う私の方がおかしい、とばかりに話を進める百目鬼君。
「喜んでください。スクワットは腿前、腿裏、お尻の大きな筋肉を使うので、消費が大きいですよ」
着ぐるみを畳み終わった山崎さんを見本に、説明しだす。
「ポイントは三点。上体を倒さない、お尻を後ろへ引く、膝を踵の前へ出さず外へ向ける、です」
それって、四点じゃない?
言われるまま大人しく、山崎さんが、両手を胸の前で組んで、スクワットをしてみせた。
「これを四・四カウント。四つ数えながら下げて、四つで上げます。呼吸は下げるときに吸って、上げるときに吐きます」
山崎さんが、呼吸を合わせて、四カウントづつでスクワットした。
「今日は、十回に挑戦してみましょう」
山崎さんは、簡単そうにやっていたし、初日だから楽そうだ。
百目鬼君も山崎さんも鬼じゃない、と私は思った。
両手にタオルを持たされ、膝にパットをつけられ、鏡張りの壁に向って立たされた。
なんだか、思っていたのと違う。
鏡に、戸惑った自分の顔が、どアップで映っている。
スクワットって、壁際でやるの?
「じゃあ、タオルを鏡に両手の平で軽く押さえてください。膝を曲げて、でもパッドを鏡に当てないように。はい、お尻を下げるー」
バランスが取れなくて、後ろにヨロけた。
え?
難しい。
山崎さん、サクサクやってたのに。
「バランスが取り難い場合は、これ」
じゃじゃん、という口効果音と共に、山崎さんがタオルを出した。
彼女、着ぐるみを着た後から、ノリがいつもと違う気がする。
「これを海苔巻き状に巻いて、はい香恋さん、踵上げて」
言われるまま、つま先立ちになる、と踵に丸く巻いたタオルを噛まされた。
「後ろへヨロけて、膝が前へ出すぎてしまうより、踵を上げた方が、正しいフォームを覚えられます」
そうなんだ。
「筋トレは、正しいフォームが大事。さん、はい」
え?
繰り返せってこと?
若干、山崎さんのノリについていけない。
「さん、はい!」
「き、筋トレは、正しいフォームが、大事」
ぱちぱち、と拍手してくれる二人。
もう早く帰りたい。
「じゃあ、もう一度やってみましょう。はい、お尻を下げるー」
踵が上がっているので、さっきよりは、お尻を下げられる。
「もう少し、お尻を、膝の少し上まで、下げてー」
ぎゃー、きついー!
「上げてー、ツー、ワン。膝は伸ばしきらないー」
休むとこないんですけど?
「下げてー、早い早い、四カウント。上げてー」
力を抜いて下げれば、「もっとゆっくり、コントロール」と指摘され、膝を伸ばして休憩する前に、下げさせられる。
「はい、八回」
「ねえ、まだ?」
「いいですよ、もっとです。せめてあと一回」
「もうダメ、無理ー!」
私は、顔を鏡に押し付けて、悲鳴を上げた。
「そこから、香恋さん!」
「できる、ショージさんなら、できますよ!」
応援してくれる割には、「顔、膝、壁につけないで」と厳しい。
なんとか、足を伸ばした。
「はい、十回!終了です!」
「すごい!香恋さん!」
床にヘタリこんだ私に、山崎さんが、汗を拭いてくれたり、水のペットボトルを差し出してくれたり、と優しい。
「ナイストレーニングですよ、ショジーさん!初日から十回なんて!」
百目鬼君も、満面の笑みで、褒めてくれた。
荒い息の中、少しだけ思った。
ちょっといいかも。
サッキーが、ショージさんから顔を背けて、「チョロッ」と呟いたが、僕は聞こえなかったふりをした。
翌日、私は筋肉痛でギクシャク、と出社した。
昨日は、二人に褒められて、「ちょっといいかも」なんて一瞬、思ったけど、筋肉痛が、それを吹き飛ばした。
もう、嫌だ。
絶対に、辞めよう。
綺麗になるには、もっと他の楽な方法もある、はずだ。
「東海林さん、おはよう」
「あ、おはようございます。佐伯さん」
今朝も佐伯さんは、素敵だ。
少しだけ、筋肉痛が和らいだ気がする。
「あれ?」
「はい?」
佐伯さんが、不思議そうな顔をして、笑顔になった。
今朝の笑顔も素敵だ。
「そうか、顔色が良い、と思ったら昨日、部活だったんだね?」
「え、ええ、はい!」
顔色が良い!
褒められた!
「どう、続けられそう?」
心配そうに問う佐伯さんに、私は即答した。
「はい、もちろん!」
うん、もうだけ少し続けてみよう。
百目鬼先輩が、香恋さんから顔を背けて、「チョロッ」と呟いたが、あたしは聞こえなかったふりをした。
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