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12&13:デート、どうする?
Aパート
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僕は、固まってしまった。
先輩と「同じ顔の女性」を前にして。
怪訝そうだった先輩は、すぐに僕と気が付いて、笑顔になった。
笑顔は素敵だが、それも目に入らない。
「なんだ、メッキーか、驚いたよ。どうしたんだい?」
まさか、先輩が女といるのにムカついて、正体を聞きにきた、とも言えずにいたら、ショージさんが。
「あ、私、部活で使うウェアを買おうと思って。そうしたら、偶然」
「おー、やる気になってるね。いいことだよ」
ショージさんが倒れたことをかなり気に病んでいた先輩なので、嬉しいのだろう。
笑顔が素敵だ。
じゃなくて。
「これ、双子の姉の拙奈(せつな)。二人は、職場の百目鬼君と東海林さん」
「ああ、メッキーって君ね。二人ともはじめまして、拙奈です。弟がいつもお世話になっております」
丁寧に頭を下げられた。
「すぐ姉ぶって。双子なのに」
「だって、姉だもの」
よくある誤解の第一位「姉」とわかって、にこやかに挨拶するショージさんとは裏腹に、僕は固まったままだった。
拙奈さんは、ヨガのインストラクターをやっていて最近、この近くのスポーツジムで教えるようになったそうだ。
そこで、姉弟で食事でも、となったのだそうだ。
そして、なぜか僕達も同席していた。
店は、先輩ご贔屓の看板猫がいるとこだ。
ショージさんは、サッキーと昨日きて、二日連続らしいが、先輩といっしょなので、嬉しそうだった。
「ダブルデートみたい」
と小声で呟いていたのが、妙に心に刺さった。
今日の日替わりは、甘い卵焼きを薄焼きにして、茹でた春雨と海老をチリソースで和えた具を包んだ、生春巻き風だった。
辛い具と、甘い卵が合う。
揚げた春雨なのか、カリカリしたものが具に混ざっていて、食感もいい。
僕は、甘い卵焼き好きの先輩が、どう反応するか、息を潜めて見ていた。
隣で、ショージさんも同じような表情をしていた。
「うまい!」
喜ぶ先輩に、息を吐く僕らに、拙奈さんが、吹き出した。
「知ってる?家族で旅行に行ったとき、朝ご飯のスクランブルエッグが甘くないとコーヒー用の砂糖かけて、じゃりじゃり食べてたのよ」
吹き出すショージさん。
「姉さんだって、コーンポタージュが甘くないからって、砂糖入れてたじゃないか」
「あれは、溶けるからいいのよ」
仲がいいんだな。
「仲がいいんですね」
「「ぜんぜん」」
ショージさんは、まったく同じタイミングで返されて、また吹き出した。
僕は、未だに混乱していた。
「メッキー君は、大人しいのね?」
呼ばれて、ドキっとした。
先輩は、ビールを買うために立ち上がったところだったので頭上から、
「上司の肉親には、さすがに緊張するかい?」
そういう訳では、なくて。
「アーチェリーやってたんでしょ?どれどれ」
腕を触られて、心臓が止まりかかる。
「まだまだ、いけそうね」
「姉さん、セクハラ」
笑って、先輩は、笑ってカウンターに向かっていった。
「ごめんなさい。ヨガのインストラクターやってると触ることに躊躇なくって」
「いえいえ、光栄です」
強がって言う。
「どうして、アーチェリー止めちゃったの?」
「右目を悪くして」
彼女の表情が曇ったので、
「日常生活には困らないので、大丈夫ですよ」
「でも、ごめんなさい」
頭を下げられて、好感度が上がる。
上げた顔で、いたずらっぽく聞いてくる。
「付き合ってる人、いるの?」
心臓が、止まりかかる。
隣で、ショージさんが、次に同じ質問されたらどうしよう、と慌てていた。
それを見て、
「東海林さんは、言わなくても、わかるから」
ショージさんが固まる。
「あの馬鹿に、気があるんでしょ?」
ショージさんは、固まりすぎて、無表情になった。
「な、なんで、それ?」
「姉のカンよ、双子の姉の。でも弟、馬鹿だよ?」
先輩と同じ顔で、でも違う笑顔で、笑う。
「いないところで、悪口は酷いな」
「だって、テストで一度も勝ったことないでしょ?」
僕は、自分の気持ちが、よくわからなかった。
ただ、カンが鋭い、という彼女が気がつかないのなら、単なる勘違いだろう、と思っていた。
先輩と「同じ顔の女性」に、僕が惚れる、だなんて。
先輩と「同じ顔の女性」を前にして。
怪訝そうだった先輩は、すぐに僕と気が付いて、笑顔になった。
笑顔は素敵だが、それも目に入らない。
「なんだ、メッキーか、驚いたよ。どうしたんだい?」
まさか、先輩が女といるのにムカついて、正体を聞きにきた、とも言えずにいたら、ショージさんが。
「あ、私、部活で使うウェアを買おうと思って。そうしたら、偶然」
「おー、やる気になってるね。いいことだよ」
ショージさんが倒れたことをかなり気に病んでいた先輩なので、嬉しいのだろう。
笑顔が素敵だ。
じゃなくて。
「これ、双子の姉の拙奈(せつな)。二人は、職場の百目鬼君と東海林さん」
「ああ、メッキーって君ね。二人ともはじめまして、拙奈です。弟がいつもお世話になっております」
丁寧に頭を下げられた。
「すぐ姉ぶって。双子なのに」
「だって、姉だもの」
よくある誤解の第一位「姉」とわかって、にこやかに挨拶するショージさんとは裏腹に、僕は固まったままだった。
拙奈さんは、ヨガのインストラクターをやっていて最近、この近くのスポーツジムで教えるようになったそうだ。
そこで、姉弟で食事でも、となったのだそうだ。
そして、なぜか僕達も同席していた。
店は、先輩ご贔屓の看板猫がいるとこだ。
ショージさんは、サッキーと昨日きて、二日連続らしいが、先輩といっしょなので、嬉しそうだった。
「ダブルデートみたい」
と小声で呟いていたのが、妙に心に刺さった。
今日の日替わりは、甘い卵焼きを薄焼きにして、茹でた春雨と海老をチリソースで和えた具を包んだ、生春巻き風だった。
辛い具と、甘い卵が合う。
揚げた春雨なのか、カリカリしたものが具に混ざっていて、食感もいい。
僕は、甘い卵焼き好きの先輩が、どう反応するか、息を潜めて見ていた。
隣で、ショージさんも同じような表情をしていた。
「うまい!」
喜ぶ先輩に、息を吐く僕らに、拙奈さんが、吹き出した。
「知ってる?家族で旅行に行ったとき、朝ご飯のスクランブルエッグが甘くないとコーヒー用の砂糖かけて、じゃりじゃり食べてたのよ」
吹き出すショージさん。
「姉さんだって、コーンポタージュが甘くないからって、砂糖入れてたじゃないか」
「あれは、溶けるからいいのよ」
仲がいいんだな。
「仲がいいんですね」
「「ぜんぜん」」
ショージさんは、まったく同じタイミングで返されて、また吹き出した。
僕は、未だに混乱していた。
「メッキー君は、大人しいのね?」
呼ばれて、ドキっとした。
先輩は、ビールを買うために立ち上がったところだったので頭上から、
「上司の肉親には、さすがに緊張するかい?」
そういう訳では、なくて。
「アーチェリーやってたんでしょ?どれどれ」
腕を触られて、心臓が止まりかかる。
「まだまだ、いけそうね」
「姉さん、セクハラ」
笑って、先輩は、笑ってカウンターに向かっていった。
「ごめんなさい。ヨガのインストラクターやってると触ることに躊躇なくって」
「いえいえ、光栄です」
強がって言う。
「どうして、アーチェリー止めちゃったの?」
「右目を悪くして」
彼女の表情が曇ったので、
「日常生活には困らないので、大丈夫ですよ」
「でも、ごめんなさい」
頭を下げられて、好感度が上がる。
上げた顔で、いたずらっぽく聞いてくる。
「付き合ってる人、いるの?」
心臓が、止まりかかる。
隣で、ショージさんが、次に同じ質問されたらどうしよう、と慌てていた。
それを見て、
「東海林さんは、言わなくても、わかるから」
ショージさんが固まる。
「あの馬鹿に、気があるんでしょ?」
ショージさんは、固まりすぎて、無表情になった。
「な、なんで、それ?」
「姉のカンよ、双子の姉の。でも弟、馬鹿だよ?」
先輩と同じ顔で、でも違う笑顔で、笑う。
「いないところで、悪口は酷いな」
「だって、テストで一度も勝ったことないでしょ?」
僕は、自分の気持ちが、よくわからなかった。
ただ、カンが鋭い、という彼女が気がつかないのなら、単なる勘違いだろう、と思っていた。
先輩と「同じ顔の女性」に、僕が惚れる、だなんて。
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