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第二部 第3章
417.スライム生地とウォルト
「なんですか、これは……っ」
ウォルトがわたくしの書いた、スライム生地を使ったオムツに関しての企画書を見て瞠目する。
「お、奥様……っ、このスライム生地とは……」
やっぱりスライムは汚いイメージがあるから、反対されるのかしら……。ムーア先生のお弟子さんたちに頼んで、スライムの表皮や内側の水分が清潔であるという太鼓判もいただき、研究資料も作ってもらって、一緒に添付したのだけれど……。この世界ではまだまだ受け入れられないのね。
企画書を持ってブルブル震えるウォルトを眺める。
テオ様の前に、まずウォルトに伝えて反応を見るつもりでいたのだけど、かなりショックを受けておりますわ。
「か、画期的だ……」
「え?」
「これは、衣料品だけに留まらず、またもや産業革命を起こす発明ですよ!!」
「ホホッ、そんな大げさな」
主人の伴侶だから、何とか褒めようとしてくれておりますのね。けれど、そこまで大げさだと、無理している事がわかりますわよ。
「奥様! これはオムツだけでなく、インナーなどに使用する事も出来ますよね!?」
「ヒッ! え、ええ。ただ洗えないので使い捨てになってしまいますわ……」
ある程度水を吸収すると、水に戻りますもの。
「何を仰っているのですか。この生地ならばそもそも洗濯の必要はありませんし、それこそ塩で揉み洗いすれば何度でも使えるのではありませんか?」
あら、そう言われてみればそうですわね……。
「わたくし、思いつきませんでしたわ! さすがウォルト、賢いですわね」
「奥様……」
ウォルトからは呆れられた目で見られ、ミランダや護衛からは生温かく見守られ、何だか居た堪れない。
だってわたくし、イノシシタイプで、一つの事しか考えられませんもの。ウォルトやミランダのように視野が広くありませんわよ。賢い人たちと一緒にしてはいけませんわ。
「ゴホンッ、奥様、ちなみにスライム生地のサンプルはございますでしょうか?」
ウォルトが冷静になったのか、咳払いをした後は落ち着いた様子で、サンプルがあれば見せてもらいたいと言うので、ミランダを見る。
実はミランダの知り合いに、紡績を生業とする方と、織物職人がいて、そちらで作ってもらいましたのよ。
「ウォルト執事長、こちらがスライム生地と糸のサンプルです」
仰々しく、豪華な箱に入っているのは、スライム生地の染色しているものとしていないものの端切れと、糸である。
職人さん曰く、触り心地は違和感があったが、紡績自体は問題なく出来たそう。しかし、白っぽいような、薄っすら青みがかったような半透明の摩訶不思議な糸が出来、ちょっと不気味がられた。染色も、一旦白を入れて他の色に染め上げると普通に染まるらしいが、白を入れず染めると、まさにゼリーのようなスケスケに仕上がる。
それはそれで面白いですわよね。
「これは素晴らしいですね」
「加工も簡単に出来たとの事ですが、糸の細さを均一にするには熟練した技術が必要のようです」
「なるほど。形を変えられるという事でしたが、成形後に変形するおそれがあるのではありませんか?」
そうですの。何しろ際限なく伸ばしたりも出来るものだから、使い物にならないと思っておりましたのよ。そうしたら……
「染色する事で成形後の変形を防ぐ事が可能です。染料のある成分が、スライムの成分と結合し、ある程度の伸縮を残して成形できます」
ミランダが全部ウォルトに説明してくれましたわ。
「つまり、スライム生地は完成しているという事ですね」
いえ、それが最大の問題がありますのよ。
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