228 / 333
第二部 第3章
479.魔法契約の穴
謎に包まれた犯罪組織『エンプティ』。
そんな組織の関係者なのだろうか、ベル商会に勤める者の中に、支援センター開設の横槍を入れ、情報をシャットアウトしていた者がいた。
「意味がわかりませんわ……」
一体何のためにそんな事をしたのか。
今回の事は、ただの嫌がらせのようにも思える。
「嫌がらせをして、何になるといいますの?」
ミランダからこの事を聞いてから、私室に閉じこもり、紙とペンを前に、ぐるぐると頭の中でくり返し考えていた時だ。テオ様が心配して部屋にやって来て、わたくしの話を熱心に聞いてくださったのだ。
「ベル、おそらくその者は新素材の情報を手に入れようとしたのだろう。他にも、君のアイデアを横取りしようと狙っていたか……しかし、デルベ関係の調査が進み、これ以上は難しいと考え逃げ出した可能性が高い」
その際、何の情報も得られなかった為に、一矢報いてやろうと嫌がらせをしたのではないか、というのがテオ様の推測のようだ。
「新素材はシモンズ伯爵家が一手に担っておりますのに、ベル商会ですの?」
「シモンズ伯爵家は、何故か当家の影ですら情報を掴まさぬ強固なセキュリティで守られている。ディバイン公爵家の関係の者であっても内部に入り込む事が難しい」
そうでしたの!? いえ、でもウチ、そんなセキュリティあったかしら……? わたくしが嫁いだ後に強化した?
「さらに、ベルが新素材の開発に携わっている事は、調査すればわかる。だからこそ、ベル商会に狙いをつけたのだろう。新たな商会を起ち上げる際が一番入り込みやすいものだ」
デルベ元伯爵夫人は、エンプティに利用されたのだろう。とテオ様は淡々と口にする。
「今回の嫌がらせも、撹乱させる為のものかもしれないが……」
「撹乱?」
「そもそも、ベル商会に携わる者、ディバイン公爵家、シモンズ伯爵家の使用人、新素材に携わる者も含め、皆が魔法契約を結んでいる」
「情報漏洩させない為ですわね」
「そうだ。つまり、スパイ行為をしていた者は契約不履行により、死亡している」
「死亡……ですが、魔法契約は万全なものではありませんわよね。以前に前妻……いえ、フィオーレの当主が降爵され、契約が無効になったと口にしていた事がありますわ。それを思えば、もし契約者が名前や身分を偽っていた場合、魔法契約自体無意味なのではありませんの?」
ずっと懸念していた事を話せば、テオ様は対策している事を教えてくれた。
「身分を偽るなどをした場合、その場で判明するよう、二重に魔法契約をしている」
「では、今回の間諜は本当の名や身分を明かし、魔法契約しているという事ですのね。……自らの命をかけて、情報を
盗んだと……」
それって、まさか……っ
「最初から、捨て駒に使われていたという事だろう」
「そんな……っ」
「家族を人質にされるなどの、弱みを握られたのかもしれないが」
なんて事を……
「ベル、君がそのような顔をする話ではない。全ては推測でしかないのだからな」
「テオ様……」
優しい言葉をかけて慰めてくれる夫に甘え、今はスパイ個人の事情はそれ以上考えない事にする。
「しかし、新素材の製造方法は盗まれてはいないだろうが、新型馬車やレール馬車、君の考案したおもちゃなどの情報が漏洩した可能性もある」
テオ様は難しい顔をして、唸るように低い声で呟いた。
「それでしたら、心配はいらないと思いますわ」
「何だと?」
あなたにおすすめの小説
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
継母の心得 〜 番外編 〜
トール
恋愛
継母の心得の番外編のみを投稿しています。
【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート
☆書籍化 2026/2/27コミックス3巻、ノベル8巻同時刊行予定☆
ノベル8巻刊行前に8巻に掲載される番外編を削除予定です。何卒よろしくお願いいたします】
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。