229 / 333
第二部 第3章
480.悪女フラグ再び!?
テオ様に、どうしてそんな事が言い切れるんだ、というような視線を向けられ、余裕ぶって微笑んでみる。
「新素材を使用したおもちゃは、組み立てこそこちらでいたしますけれど、パーツはシモンズ伯爵家やディバイン公爵領の職人たち、孤児院、工場、様々な場所で作っておりますわ」
「確かにそれらを取り仕切るベル商会といえども、その全ての情報を手に入れる事はできない」
テオ様は納得したのか頷き、独り言のように呟いた。
「そうですわ。しかも、新型馬車も、レール馬車も、おもちゃだって、ベースは全て、腕を磨いてきた職人さんの手で作っておりますのよ。さらにそれらに使用されている主な素材は、新素材やゴムですわ。たとえ情報を盗まれようとも、簡単に真似出来るものではありませんのよ」
「君が意気揚々と胸を張るのはわかる。だかな、ベル……」
テオ様が眉間を解しながら、大きな溜め息を吐く。
「ベル商会、系列店舗、さらには商会と取引のある職人などの防犯対策を強化せねば、同じ事が何度でも起こるだろう」
ぅう……、テオ様の仰る通りですわ。
「可能性は低いが、今回の間諜が模倣のような特異能力を持っていたら……、腕の良い職人たちを取り込んでいたら、君の事業に携わる人々の今までが無に帰す事になりかねん」
「はい……。わたくし、楽観視しすぎておりましたわ」
反省ですわね。ノアの誘拐事件後には、ディバイン公爵家の防犯対策を見直しましたけれど、商会なども全て、見直すべきでしたわ。
「いや、あの時に私が指示を出すべきだった。後手に回ってしまうなど……っ、すまない」
頭を下げるテオ様に、わたくしは慌てて、夫のほっぺたを両手で挟み止める。
「ベル……、一体何をしているんだ?」
「夫に、頭を下げさせるなんて、わたくし酷い妻ですわ」
悪女フラグが、まだ残っていたのだろうか。今誰かに見られたら、恐ろしい噂がたつに違いないわ。と苦笑いが漏れる。
「私のベルが、酷い妻などと……、そのような事はあり得ん」
そうは仰いますけれどね、
「わたくし、社交界に酷い噂をたくさん流されるほど、嫌われておりますのよ。という事は、今誰かに見られたら、夫に頭を下げさせたオーガのような悪妻、などと噂されますわよ。ですからどうか、頭をお上げになって」
こうでも言わないと、人一倍責任感の強いこの人は、自分を責め続けるのではないだろうか。
部下の責任は全て自分の責任だと考えるような人なのだから。
全責任は私が取る! みたいに言えてしまうところは、とても素敵なのですけれどね。
「ベル……」
頭を下げ続ける夫に言えば、ようやっと、顔を上げてくれたのだ。
テオ様ったら、頑固な面がありますのよね。そういう所、ノアとそっくりですわ。
「テオ様、どのように防犯対策を強化すべきか、一緒に考えてくださいませ。わたくし一人で対策を考えて、また間諜に潜入されても困りますもの」
「妻から、そのような可愛いお強請りをされると、頑張らねばならないか」
力を抜いて微笑むテオ様に、わたくしの責任を一手に背負い込まさずに済みそうだ、とひと安心する。
「フフッ、頼りにしておりますわ。旦那様」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
~ おまけ ~
「ぺーちゃん、おとぅさま、おかぁさまに、めっ、されたのよ」
「!? みゃおー、めぇ!?」
「さっきね、おかぁさまのおへや、いったの。そちたら、おとぅさま、ごめんなさい、ちてた」
「みゃおー……」
「おかぁさま、おとぅさまのおかお、さんどいっちみたい、ちて、めって、ちてた」
「ちゃ!?」
イザベルの予想だにしないしない所で、噂されているのだった。
あなたにおすすめの小説
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
継母の心得 〜 番外編 〜
トール
恋愛
継母の心得の番外編のみを投稿しています。
【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート
☆書籍化 2026/2/27コミックス3巻、ノベル8巻同時刊行予定☆
ノベル8巻刊行前に8巻に掲載される番外編を削除予定です。何卒よろしくお願いいたします】
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。