継母の心得

トール

文字の大きさ
230 / 333
第二部 第3章

481.中央諸国首脳会議



「新素材の情報も、レール馬車の情報も、なーんにも、手に入らなかったぁ……?」
「申し訳ございませ……」

どことも知れぬ広く暗い部屋の中、二つの人影が向き合っていた。

「唯一手に入ったものは、熊の人形の作り方って……?」
「おもちゃはパーツを別の場所で職人たちが作り、それを工場などで組み立てておりまして、ベル商会に潜入するのもやっと、」
「ガキのおもちゃなんて、いるわけないだろうが!!」

おもちゃの宝箱で手に入れたのだろう、白いテディが言い訳がましく喋る人物の額にぶつけられる。
柔らかいそれはたいして痛みはないものの、屈辱的な状況が彼の者の身体を震わせた。

「っ……」
「巫山戯るんじゃねぇよ!! だったら、イザベル・ドーラ・ディバインを攫ってこいって、言わなかったっけぇ!?」
「……」
「この『エンプティ』に、一体何人の特異魔法の使い手がいると思ってんだ? あぁん? 能力使やぁ、簡単に攫ってこれるだろうがよ!」

簡単ではないから、ここにイザベルはいないのだ。

「……次は、必ず」
「次があると思ってんの?」

ここは巨大犯罪組織『エンプティ』。失敗した者に次はない。たった今、一人の影が地に伏し、息絶えた。

「あ~……、世界一強度の強い素材、ガキのおもちゃにしておくのはもったいない……レール馬車も、欲しいなぁ……」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



イザベル視点


「中央諸国首脳会議、ですか?」
「その名の通り、グランニッシュ帝国を含めた中央海嶺セントラルリッジ周辺に位置する諸国が一堂に会し、現況について話し合う会議よ」

前世で言う、西側諸国首脳会議や、東アジア首脳会議みたいなものかしら。

ちなみに、中央海嶺セントラルリッジというのは、グランニッシュ帝国が絶大な権力を誇る為、帝国周辺の海を中央海嶺かいれいと言い出した事が発端なのだとか。

恒例の皇后様とのお茶会の最中、話題は専ら、もうすぐ始まる首脳会議についてだ。

今年の開催国はグランニッシュ帝国だからか、最近のテオ様はますます忙しそうで、見ていて心配になりますのよね……。

「現況って、例えばどのような事ですの?」
「そうねぇ、南海側の国々の情勢や、集団防衛、危機管理、安全保障、環境に関してまで、その時によって色々あるんだけど……、今回のメインは、リッシュグルス王国のジェラルド王の即位と、新素材ベリッシモについてかしらね」

新素材ベリッシモについて!?

「そ、それって、新素材ベリッシモに何か問題でもありましたの!?」
「イザベル様、問題だらけよ。逆に何の問題もないと思っている方がおかしいから」
「えぇ!?」

ベリッシモって、問題だらけでしたの!?

「イザベル様も知っての通り、新素材ベリッシモは軍事転用すれば、国内だけでなく、世界のパワーバランスが崩れる恐ろしいもの。というのはわかるわよね?」
「ええ。だからこそ、製造方法はシモンズ伯爵家のみの秘匿としておりますわ」
「そこよ。そもそも、一伯爵程度が扱うには、相当危険なものなわけ。ディバイン公爵家がバッグにいるから良いものの、今回の議題に上ってしまえば、世界に知れ渡る事になるのよ」

まぁ、すでに知られてはいるのだけど、と皇后様は溜め息を吐く。

「つまりね、今後は各国がシモンズ伯爵家を取り込もうと躍起になるの」
「国内の貴族にも狙われておりますのに、次は国単位で……」
「そう。だからこそアタシたち皇族の出番なのよ」
「というと……?」

皇后様は口の端を上げると、堂々と言いきったのだ。

新素材ベリッシモを使用した品物は全て、こちらから指定した国外の商人以外とは売買(輸出)できないよう、制限をかけるわ」

感想 12,000

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

継母の心得 〜 番外編 〜

トール
恋愛
継母の心得の番外編のみを投稿しています。 【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート ☆書籍化 2026/2/27コミックス3巻、ノベル8巻同時刊行予定☆ ノベル8巻刊行前に8巻に掲載される番外編を削除予定です。何卒よろしくお願いいたします】

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。