聖女のおまけです。

三月べに

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08 お叱り。

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「私は天才なのかもしれない」

 森を一人歩いて、嘯いてみる。
 魔法で転移出来るゲートは、森の入り口に繋がっていた。
 早速、第十三番隊は森の中に進んだ。鬱蒼とした森の木々はとても背が高く、遠くは暗がりでよく見えないそんな森。まさに何か得体の知れない魔物が出てきそうな予感がした。
 ワクワクしながら周りを見回して歩いていたら、あら不思議。気付けば一人きりだったのだ。甲冑をカチャカチャと鳴らしている騎士達から見事にはぐれてしまうなんて、ある意味才能かもしれない。なんて戯言を思ってみながら、とりあえず前に進んだ。
 ノットがずっと手を持ってくれていれば、はぐれなかった。ゲートを潜ったあとは、一人で歩けるだろうと言わんばかりに放された。
 歩けますとも。
 そして、見事に一人きりである。セドリックにどう詫びろう。
 茂みを避けながら進んでいくと、けたたましい鳴き声が聞こえてきた。
 見れば後ろから、猪のような巨大な生き物が猛突進してくる。魔物だ。
 咄嗟に、その猪の顔に、念じて火をつける。それでも魔物の足は止まらない。
 重力自在魔法を使って身体を浮かせると同時に、地面を蹴って高く飛び上がった。魔物は私の真下を通過して、悲鳴を上げながら走り去る。
 安全そうだと思い、一回転しながら身体を下ろして地面に着地した。あれが魔物。迫力があった。
 ほとんどが獣の姿をして暴れるそうだが、それでも亜豆ちゃんに出来るのだろうか。
 退治。討伐。駆除。誰かというか、何かを傷付けられるだろうか。心配である。いい子だから、つらそう。私も火傷を負わせたことに罪悪感を覚える。身を守るとはいえ、なかなかきつい。亜豆ちゃんは国を守るために剣を振れるのだろうか。
 そんな亜豆ちゃんに、私はどんな言葉で励ませばいいのだろう。会いに来てくれる亜豆ちゃんに、いい加減な言葉は渡せない。
 やっぱり私も、魔物退治の仕事をやらせてもらおう。亜豆ちゃんと一緒ではなく、他の隊に同行させてもらって、こうして戦えそうだから、もっと学ばせてもらって挑もう。
 そうして、微力ながら手助けをして、私も頑張れているって伝えれば少しは糧になるかも知れない。
 問題は許可が出るかどうかだ。この儚げな容姿がネックだ。お兄さんことへーリーさんを説得出来れば、私に頭が上がらないらしいセドリックの隊に同行を頼めそうだけども。過保護なへーリーさんの説得が難関なのである。
 ゾッとした。
 何かに見られていると気付いて周りを見てみた。何もいない。
 でも視線を感じる。
 大きな岩の暗がりの先だ。何かいる。真っ暗なそこに何かがいて、じっと私を見ている。虎視眈眈と襲う瞬間を待っている魔物が潜んでいるのだろうか。威圧というものを感じて、息を飲み込んだ。
 これはきっとさっきの魔物と比べ物にならないほどの強敵に違いない。ゲームでダンジョンのラスボスと対面した時の雰囲気を感じる。絶対にそうだ。

「ハナ様!」

 セドリックの声に反応して、視線をずらしてしまう。
 緑の髪のセドリックが駆け付けた。ガサガサと茂みを掻き分ける音が耳に届く。
 しまった! 目を逸らした隙に襲われてしまう! 
 身構えたけれども、そこにいたのは魔物ではなく、ノットだった。

「……」

 ポカンとしてしまう。ノットは何もなかったかのように、私の目の前に立つ。

「ハナ様、ご無事ですか!?」
「あ、はい、すみません。はぐれてしまいまして……私は無事です。ご心配をおかけしてすみません」

 我に返って、セドリックに微笑んで見せる。
 頭から足元まで見たセドリックは、怪我がないとわかると胸を撫で下ろした。

「もう仕事は済みました。帰りましょう。大丈夫ですか? 疲れていませんか? 背負って差し上げましょうか?」

 いやそこまで疲れていない。背を負われるほど疲れていないし、背を負われたくない。
「大丈夫です」とのほほんと返す。
 けれど、ふわっと身体が浮いた。足と背中を持ち上げられる。
 誰に、って。ノットにだ。
 人生初のお姫様を、さらりとやられました。
 私は恥ずかしさのあまり、顔を両手で覆う。
 ちょっとノットさん。せめてジャケットをしっかり着ましょう。どこに目を当てればいいのですか。ニヒルな笑みを浮かべた顔すら近くて見れません。

「顔が赤いですね、熱でも出されてのでは? 早く帰って医者に診てもらいましょう」
「医者は要らねーんじゃねーの?」

 くつくつと笑うノットの声が、低すぎてくすぐったい。
 そうだ。この人は、私が元気溌剌だって目撃したのではないか。というか、私が感じたラスボスの気配はこの人が発したのでは?
 恐る恐ると手の隙間から、ノットの顔を盗み見た。琥珀の瞳が、こっちを見ている。ニヤリ、と不敵な笑み。
 な、なんなんだ、この人。下ろしてくれないだろうか。
 そう思っていれば、ゲートの手前でやっと下ろしてくれた。
 セドリックに「大丈夫ですか?」と気遣われつつ、ゲートを潜る。
 そうすれば、待ち構えていたへーリーさんを見付けた。
 腕を組んで笑みを浮かべているけれど、怒っているとわかる。
 超怒っている。ゴゴゴッて、効果音が聞こえてきそうだもの。

「一体……誰の許可を得て、ハナさんを任務に連れていったのでしょうか?」

 怒っていらっしゃる。お兄様がお怒りである。

「わ、私が……同行を許可しました」

 口を開くのも憚る空気の中、口を開いたのはセドリックだった。

「い、いえ、私が望みましたっ」

 セドリックを責めないでほしい。無理に連れて行ってもらったのは私だ。
 セドリックの前に出たが、へーリーさんの威圧感が想像以上で気圧される。
 この人……出来る……!!
 国一番の魔導師とは、伊達ではない。肌がピリピリするのは、魔力がただ漏れになっているのだろうか。

「何故……そう望まれたのでしょうか? ハナさん」

 ゆっくり、静かに、怒っているへーリーさんは問う。

「いえ、たまたま、任務に行くと言うので、そうのですね」
「その、なんですか?」
「危険じゃないなら、見させていただきたいなぁと思いまして」
「ほう? 一体どこの誰が危険ではないと言ったのですか?」

 私とセドリックは、右を向いた。斜め後ろに立っていたのは、今まで私を抱えていたノットだ。

「あ? オレか」

 思い出したように、呑気な声を出した。
 一人だけ怒られていないみたいな反応をしないでほしい。
 私のせいで皆が怒られているのです! 第十三番隊の皆さんごめんなさい!

「いやでも危険は承知の上で一緒に行きましたっ! 責めるなら私一人」
「そうはいきません。第十三番隊は、全員反省文を書いて私に提出をしてください」

 私はずっこけそうになった。何それ学校みたい。反省文で済むのか。
 それは幸いであるが、第十三番隊は落ち込んだ様子だった。

「ハナさんは、私の部屋に来てください」
「は、はい!」

 まだ怒っている空気をまとっているへーリーさんが歩き出す。
 付いていこうとしたら、セドリックが呼び止めた。

「具合が悪いようです。休ませて差し上げた方がいいかと思われます」

 ハッ! そうだ。今こそ、病弱容姿の出番だ!
 ナイスセドリック!

「では、抱えますので、許可をください」
「あ、はい」

 へーリーさんに言われて、すんなりと許可してしまう。
 宣言通り、へーリーさんは私をお姫様抱っこをした。
 本日二回目のお姫様抱っこ。人生で二回目のお姫様抱っこ。
 まだ慣れなくて、じゅわっと頬が熱くなってしまう。

「顔が真っ赤ですね。医者に診てもらいましょう」
「いえ! ちょっと疲れただけで休めば平気です!」

 覗き込もうとするへーリーさんに、きっぱり断る。
 へーリーさんもイケメン属性だから、そんな顔を近付けないでほしい。
 そのままへーリーさんに運ばれて、別塔の私の部屋に到着。

「無理はしないでほしいとあれだけ頼んだというのに、あなたという人は……」

 ベッドに下ろしてもらうと、へーリーさんはそう切り出した。

「あなたが部屋にも城中にもいないと知った私がどれだけ心配したか、わかりますか? 十三番隊と共にゲートに歩いていたという情報を聞いて、肝が冷えました」

 傅いて私の手を握るへーリーさんは、真剣に告げる。

「ごめんなさい。そこまで考えが及ばず……」
「どうして魔物討伐の任務なんかに、同行したのですか?」

 しょぼんと項垂れていれば、静かに理由を問われた。
 だから、素直に好奇心と、これから亜豆ちゃんが戦う魔物を見ておきたかったと話す。どう励ませばいいのか。私に出来ることはないのか。模索していたのだと、へーリーさんに話した。

「優しいのですね……しかし、無理をして心配をかけさてはいけません。私も聖女様も、あなたを大事に思っているのですから」
「……はい、わかっています」

 大事に思われていると理解している。
 でもそれがくすぐったくってたまらない。庇護ってやつは、私が持つもので、向けられたことがなかったからだ。親が不仲な家庭で、妹を守っていた。だから逆の立場は面白くて、くすぐったくって、不慣れでしょうがない。
 唇をギュッと閉じて俯く。

「わかっているのなら、今後は私の許可をもらってから同行してくださいね」

 そっと白くなった髪を撫でられた。というより頭だろう。

「え? 許可がもらえるのですか?」

 てっきり、もう二度と任務に同行するなと釘をさされるのかと思った。

「私の許可がもらえるかはどうかは別の話です」
「うっ。ずるい……」
「私は兄ですから」
「お兄さん、ずるい」
「兄ですから」

 キラッキラの笑みで言い退けるへーリーさん。お兄さんは絶対だ。
 絶対に許可出そうにないな、と私は仰け反って、ボスンとベッドに倒れた。

「でも魔物を見ましたが、それほど危険って感じではなかったですよ」

 私は平然と避けられたし。むしろノットっていう騎士の方が、威圧感すごかった。あれはなんだったのだろうか。

「第十三番隊に下る任務は、それほど危険というわけではないのですよ。よほど危険な任務の場合は、複数の隊が出向くのです」

 なるほど。今回はレベルの低い魔物だったってことか。

「そう言えば、へーリーお兄さん」
「はい?」
「なんでまた、私が部屋にいないことを知ったのですか?」
「ああ、それならもうすぐ……」

 へーリーさんが扉を振り返るので、私もそれを見る。
 すると騒がしい音が聞こえてきた。これはあの子の走る音だな、と予想をする。
 バンッと扉を開いたのは、予想通りの亜豆ちゃん。でも予想外なことに、いつもより天使だった。純白のマーメイドドレスを着ている彼女は、まさしく聖女。虹色に艶めく鱗のデザイン。
 よくこのドレスで騒がしく来れたな、この子。

「まじ天使」
「十三番隊に連れて行かれたって聞いたから心配したんだよ!? 花奈ちゃんのバカ!!」
「本当天使」
「聞いてる!?」

 私に抱き付く亜豆ちゃんは、本当に天使だ。怒っているけど、まじ天使。

「私は見ての通り無事だから、安心して。心配かけてごめん。でもどうしたの? そのドレス……」

 普段着るドレスではないだろう。
 まさかプロポーズされてウエディングドレスをもらった!? あの王子め!! 私に許可を得るのが筋だろう!! 蹴り倒してやろうか!?

「あれ? 言ってなかったっけ? 今度パーティーがあるから、一緒に出席してって頼んだと思うのだけれど」
「んー頼まれてないと思うけれど、いいよー」

 あ、ウエディングドレスではない。なんだ早とちりか。脳内で王子をけちょんけちょんにしてしまったわ。天使の頼みなら仕方ない。しょうがないなぁ。

「聖女のお披露目を兼ねたささやかなパーティーです。ハナさんも特別に招待をしましたし、私からドレスを贈ります」
「え、ありがとうございます、へーリーお兄さん」

 あとから入ってきたリースさんが抱えていたのは、淡いオレンジ色のドレスだった。広げて見せられたそれは、キラリと光沢に光る石が散りばめられている。素敵だと見惚れていたけれど、気が付く。

「……パーティーって、王族や貴族が集まるあれですか?」
「ええ、主に貴族が集まるパーティーですよ」

 さも当然だというように微笑み返すへーリーさん。
 貴族のパーティーですと!?


 
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