聖女のおまけです。

三月べに

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10 王弟殿下。

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「亜豆ちゃん、どこに行くの?」
「えっ? 花奈ちゃん!? 部屋に帰ったんじゃないの!? 風邪引いちゃよ!!」

 パタパタと早歩きで追い付く。

「私は平気。それより、亜豆ちゃんのパーティーなのに、亜豆ちゃんが出て行っていいの?」
「えっと、それが……」

 自分の手を握る王子を見る亜豆ちゃん。

「フン! あんな醜い嫉妬をする連中のそばに、これ以上アズキをいさせたくない! オレがべったりだからなんだって言うんだ、全く!」
「え、どうなったのですか? 令嬢達は」
「オレが知るか!」

 プンプンしている王子。そんな私に八つ当たりしなくても。
 どうやら王子が亜豆ちゃんにべったりしていることに嫉妬したらしい。
 王子だもの。態度はあれだけれど、イケメン。令嬢からしたら、最良の結婚相手。それが亜豆ちゃんにべったりでは面白くもない。
 でも相手が悪い。亜豆ちゃんは聖女様だし、私が味方しているし、私の味方には国一の魔導師へーリーさんがついているのだから。ご愁傷様。

「なんか親が平謝りしてるの……許してくださいって。花奈ちゃんも許してくれるよね? あの人達、本当に反省しているから、許してあげてほしいって頼みたいの」

 まじ天使。いや、亜豆ちゃんはそう私にお願いしてきた。
 私は平気だったもの。亜豆ちゃんがそう言うのならば。

「うん、まぁ、許しちゃおっか」
「なっ!」
「ありがとう! 花奈ちゃん!」

 パァッと目を輝かせて、亜豆ちゃんはカツカツとヒールで引き返していく。
 本当に天使だなぁ、と手を振り見送っていれば、視線を感じた。
 じとり、と王子が私を睨むように見ている。
 そう言えば、なんだかんだでこの人と二人きりになるのは、初めてではないか。護衛の騎士は、どこに行ったんだ。振り払ってきたのかな。

「亜豆ちゃんは優しいですね」

 とりあえず会話をしてみる。

「当たり前だろう! だから聖女に選ばれたんだろうが!」

 ああ、そうですか。
 会話を試みた私がバカだった。自分の部屋に戻ろうとしたその時だ。

「君は何の役には立たないが、今回ばかりは身代わりという役に立ったじゃないか」

 はい?

「まぁ、まぐれだとは思うがな。今回だけは礼を言ってやってもいいぞ」

 はぁ?

「役立たずが聖女を守るように身代わりになってくれてありが」

 ドンッ!!

 私はドレスの裾を蹴り上げて、ヒールを王子の股の間の壁に叩き付けた。幸い、それ以上足が上がらなかったのだ。

「何様ですか!? 守るように身代わりになったんじゃなくて、守って身代わりになったんですよ! 初めて会ってからあなたという人は、無礼極まりないですね! 私に説明も謝罪もなかったですよね!? 騎士達へ紹介はしないわ、ぞんざいに扱うわ、あなただけですよ!? こっちはその礼節のない態度に、我慢してあげていることを覚えておいてください! この駄目王子!」

 私はまくし立てたあと、ハッと我に返って足を引く。
 王子相手に怒鳴ってしまった。
 少し間を空けて固まったが、すぐに頬に手を当ててよろけるフリ。

「頭に血が上ってしまって、つい怒鳴ってしまい申し訳ありません……殿下。しかし、亜豆ちゃんを守りたい気持ちはあなたよりあることをくれぐれも忘れないでください」
「っ……」

 壁に張り付いたまま動かない王子。それを冷たく一瞥してやる。
 そこで、笑い声が響いた。もちろん、王子でもなければ、私のものではない。
 見れば、亜豆ちゃんが引き返したアーチの下に、王弟殿下がいた。

「くはははっ!」

 おかしそうにお腹を押さえて笑う姿さえ、絵になるお方だ。
 名前はそう、確か、ジェイミー。ジェイミー・ダイア・シーヴァ。

「いやぁ、面白いものを見させてもらったよ。何、謝らなくていい。悪いのはこの僕の甥さ。説明も謝罪もしなかったとは……いけない子だね」

 そう歩み寄って、ジェイミー殿下は放心している甥に腕を回す。

「代わりに、僕が心から謝罪をしよう。申し訳ない。すまなかった。至らない甥が君に失礼をしてしまったようで、本当にすまない」

 胸に手を当てて一緒に王子と腰を折って、謝罪してくれるジェイミー殿下から数歩離れる。
 だって、サラサラと揺れる髪すらも色気があって、倒れそうなのだもの。

「見事な啖呵だったよ。君が、見た目よりも元気だってことがわかって安心した、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、

 ギクッと肩を上げる。青い瞳は私を見つめた。
 おかしそうに、愉快そうに、興味深そうに。
 猫にでも標的にされたネズミの気分。

「いえ、そんな、私は……」

 揺れる雫型のピアスに惹き付けられる。
 この人、何か惹き付けるような魔法でも使っているのではないか。
 色気が尋常じゃない。

「もう部屋に戻りますね。失礼いたしました」
「ああ、待って。部屋の前まで送らせてくれ」
「いえ、殿下にそこまでさせては、申し訳なく思います」
「でも城の中とはいえ、女性を一人歩きをさせられない」
「いえいえ。いつものことです」
「いつもなのかい? 全く、甥には再教育が必要かな。でも許してやってほしい。この子はね、聖女の恋物語を聞いて育ったから、自分の運命の人が聖女だって思い込んでいるんだ。きっとそれで盲目になってしまうんだよ」

 首を頑なに振ったのに、ジェイミー殿下は王子を引きずって、結局私を部屋の前まで送り届けた。

「またね。ハ・ナ・さん」
「っ……」

 扉を閉じる時、私に向かって微笑みの爆弾を放ったジェイミー殿下は、ねっとりとした視線で意味深に呼ぶ。だから私の笑みは引きつりそうになった。

「……なんか、いけない人に本性バレた気がする」

 ポスンッと仰向けにベッドに倒れる。
 それにしても、聖女の恋物語が多いとはへーリーさんから聞いていたけれど、それを聞いて王子が育ったなんてね。意外と純粋なのではないか。自分の運命の人だと思い込んでいて、いざ現れた聖女があんな天使じゃあ惚れるよね。絶対自分選ばれていると思っているな。
 あの色気ただ漏れの王弟殿下に口説かれたりしたら、簡単にとられちゃうだろう。やっぱり色気って強いと思うんだ。うん、間近で見て卒倒しそうだった。強い。
 そんな人に弱味を握られた気がする。いや別に弱味っていうわけではないのだけれども。いつだって元気溌剌な姿を見せてやれるけれど。
 でもちょっとへーリーさんために、まだか弱い妹でいたい。
 リースさんが部屋にやってきたので、化粧を落としてもらい、ドレスを脱がせてもらった。ゆったりした寝間着のドレスに着替えて、だらーんとさせてもらう。

「疲れたのですね。大変だったのでしょう? ゆっくりお休みください」
「ありがとうございます、リースさん」

 リースさんも相変わらず私のことをか弱いと認識している。
 まぁいいか、とベッドに身体を沈めた。

「そう言えば、聞きました? 令嬢がどうなったか」
「それが……聖女様の恩恵で許されることになったようですよ」
「そうですか」

 亜豆ちゃんの望み通りになったのなら、それでいいや。
 そのあとへーリーさんが部屋を訪ねてきて、私の様子を確認しに来た。
 大丈夫だと知ると安堵した微笑みで帰っていった。


 
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