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11 手合わせ。
しおりを挟む「先日はご迷惑をおかけして、大変申し訳ありませんでした。第十三番隊の皆様」
私はいつも覗きに来る稽古場に来て、第十三番隊に深々と頭を下げる。
「いえ、頭を上げてください。幸いにも反省文で済みましたし」
「えー反省文なんて十分きつい処罰でしょー」
「黙れ、ランスロット」
赤髪のランスロットが口を挟むと、セドリックがギッと睨んだ。
隣にいる水色の髪のリクと言う名の青年は、大欠伸をした。
本当、この隊の隊長、大変そう。
「魔法対決しないか?」
私の前に立ったノットが、そう提案してきた。
相変わらず、ジャケットを開いて、鍛えられた上半身を露わにしている。
「え? ……私と、ですか?」
私は目を瞬いて、自分を指差す。
琥珀の瞳を細めたノットは、「とーぜん」と言った。
「なっ! バカ言うな!! 今度こそ謹慎処分されるぞ!? 前回ははぐれたことを言わないでいただきありがとうございます、ハナ様。ノットの戯言は聞き流してください!」
こそっと私にお礼を伝えると、セドリックはノットを引き離そうとする。でも全然動かせないでいた。ノットがビクともしないようだ。
魔物が彷徨く森で一人はぐれたなんて知ったら、へーリーさんの雷が落ちそうだものね。さらには魔物と遭遇したなんて知ったら、セドリックが卒倒するんじゃないだろうか。
ノットは話していないようだ。私が魔法を使えることも、魔物を躱したことも。
「実は聖女様とへーリーさんから少し学んでいるんですよ。腕試ししたいです」
「い、いけません!! もしも怪我を負ったら……」
青ざめるセドリックは、へーリーさんに怒られることを想像したに違いない。
「大丈夫ですよ。へーリーさん直伝の治癒魔法も覚えましたから」
「そういう問題ではっ!!」
「いいじゃないか」
そこで背後から声が聞こえて、私はビクンと震え上がって固まる。
「僕が許可しよう。ハナさんには、僕が防御魔法をかけよう」
ポンと肩に手を置かれて、ゾクッとした。
「ジェイミー殿下!」
第十三番隊が、ビシッと敬礼をする。
固まっていた私も振り返って、「こんにちは、ジェイミー殿下」と一礼をしておく。顔を上げれば、これまた王族らしい装飾が施された服を着崩して、色気がただ漏れの白金髪と青い瞳のジェイミー殿下がいた。
「やあ、ハナさん。僕も実力を見てみたい。もちろん、加減をしてくれるのだろう? えっと……ノットって言ったっけ」
「ええ。手加減しましょう」
にこりと笑うジェイミー殿下が私を見下ろす。
にやり、とノットも口角を上げて私を見る。
え、なんか、嫌な組み合わせな二人だと感じた。私が元気だと知る二人の不敵な笑みに鳥肌を立てつつも、「ではお願いします」と笑みを作っておく。
ジェイミー殿下が手を、私の頭に翳す。
「シャンテ」
そう唱えると、ライトグリーンの光が現れて、私を包み込んだ。
魔法攻撃を防ぐ防御系の魔法だ。
「ありがとうございます、殿下」
「気を付けていっておいで?」
さりげなく私の頭をひと撫でしたジェイミー殿下。
私は心の中で、奇声を上げていた。
やめてくれ、倒れる! 小首を傾げて微笑するだけで、私を失神させそうな色気をなんで持っているんだあなたは! ボタンが外れて露わになった首元が、エッッッロ!
回れ右をして、そんな色気王・弟殿下から離れて、ノットと対峙した。
「加減をしろよ! ノット! 絶対に!!」
セドリックが釘をさす。
そんな自分の隊長を見向きもせずに、ノットは私を指で招く。
「いつでもいいぜ。魔法で攻撃してこい」
すぅーっと息を吸い込む。人に向かって魔法を行使するのは初めてだ。
ちょっと傷付けてしまうかもしれない恐怖を感じる。
だから一撃目は、ノットの斜め上の空中を爆発させた。魔力を放ち、狙ったところを爆発させる魔法だ。レイガン。
平然のノットは、動かない。
「……避けないんですか?」
「お前が当てにこないからだ。当てにこいよ」
そこまで言うなら、当てにいってやる。
大丈夫。ノットも防御の魔法をかけたはずだ。
バァンッ!!
指を差した先、ノットに目掛けて爆発させる。
しかし、ヒュッと避けたノットが素早く右に移動した。
指先を移動しながら、ノットを狙い撃ち。
けれども、素早く駆けていくノットにはかすりもしない。
え、ちょ、待っ。速過ぎないか!?
まるで動物か何かみたいだった。甲冑をつけていないからと言って、身軽すぎだ。
左右にレイガンを避けながら、ノットが間合いを詰めてくる。
ニヤリと好戦的に笑ったノットが左手を突き出そうとした。
きっとあの炎の魔法だ。
私はそれでも狙いをノットにつけて、レイガンを放つ。同時に重力自在魔法を念じて使い、爆風で紙のようにぐるりと吹き飛ばされ、距離を取る。
随分飛んで、稽古場の隅で着地した。
炎とレイガンは、相殺されたみたいだ。ノットはピンピンとしている。
私は後ろの花壇に手を触れた。
「緑よ(ヴェリデ)!」
植物に魔力を注いで操る魔法。
数多の蔦が伸びて、ノットに向かう。
さっきよりも猛スピードでノットは避けながら、距離を詰めてくる。
なんでこの人こんなに速いんだ!? 風の魔法か!?
いや、使っている素振りはない。
ズバッと、剣で蔦が切り捨てられた。
え、剣使うなんて聞いてない!
レイガンを放とうと構えて、今度こそ捉えた!
そう思ったけれど、キラリと白銀の煌めいたかと思えば、ノットが姿を変えた。煙を突き破って現れたのは、人型に近い獅子だ。驚いて、撃ち損ねた。
ドサッとそのまま押し倒される。
「!? ……獣、人っ!?」
「どうだ? 驚いたか?」
ニヤッと白い牙が並ぶ口を開いて発したのは、くすぐるようなノットの低い声だった。間違いない。この獅子はノットだ。
獣人と半獣と人間と三つの姿を持つこの世界の獣人族。
だからあんなスピードを発揮していたのだろう。獣人はその姿の動物の性質を持ち合わせているそうだ。
白銀の鬣。獰猛な琥珀の瞳。ニヒルな笑みの獅子。
私は思わずーーーー両腕で抱き締めた。
鬣に顔を埋める形になる。
「ーーーーも、もふもふっ!!」
「……」
ライオンさんにじゃれつく! 夢を現実にした!
噛み殺されてもいいからライオンさんにハグしてみたいと思っていたくらい、猫科大好き人間である!
ありがとう、異世界。魔法を振るったし、白銀のもふれた。花奈に悔いなし。
噛み殺されるまで存分に頬擦りをしていたら。
「いい加減にしろ」
「ひっ」
かぷっと軽く耳を噛まれた。
硬直すれば、ライオンさんじゃなくてノットが私の上から退く。
「ハナ様!! ご無事ですか!?」
セドリックが駆け寄った。それでも耳を押さえて放心する私。
「頭を打ったのですか!? だ、だ、大丈夫ですか!?」
「……いえ、大丈夫です」
青ざめるセドリックの顔を覗くので、のそっと起き上がる。
「なんて無茶をするのですか!? どこも折れてませんか!? 痛くありませんか!?」
ガクガクと震えながら、怪我がないかと確認するセドリック。
故意に吹っ飛んだ時のことだろうか。ちゃんと着地出来たから平気だ。
「いやぁ、お見事だったよ。予想以上に強くて……出来るじゃないか」
パンパンと拍手をしながら、ジェイミー殿下が歩み寄る。
あとの十三番隊は、口をあんぐり開けてこっちを注目していた。
容姿と反して、元気溌剌な姿を見せ過ぎたかな。
「ありがとうございます、殿下。あのセドリックさん、ノットさんは獣人なのですか?」
「あ、ええ。シーヴァ国では、珍しい獣人の騎士です。まぁ他の国にもいるかどうか、聞いたことありませんが」
セドリックと一緒に、白銀の獅子の背中を見上げる。
見てよ、尻尾まである! 触りたい!
ぶわっと白銀の煙が立ち込めたかと思えば、人間の姿のノットに戻った。
「じゃあノットさんだけが獣人の騎士なのですか?」
「そうなりますね」
獣人の騎士。す・て・き・か。
はぁっとため息を零して、見つめていれば、横から顎を掴まれた。
引っ張られるがままに顔を向いてみれば、そこには私を覗き込むように腰を折ったジェイミー殿下の微笑がある。クラッときて、私は後ろに倒れてしまった。
「おや? 疲れたのかな」
「は、ハナ様ぁああ!!?」
セドリックの声が木霊する。
無理をしたという名目で医務室に運ばれたのであった。
「花奈ちゃんっ!!」
医務室のベッドに横たわっていた私の元に来た亜豆ちゃんが、私の手を掴む。
「死なないで!!」
「いや、死なないから」
危篤みたいな反応されても、お姉さん困る。
いやでも医務室にこの真っ白な容姿で横たわっていると、危篤患者に見えなくもないか。
「ハナさん」
「ひっ」
へーリーさんに呼ばれて、思わず小さく悲鳴を漏らす。
またもやゴゴゴッという効果音が、ぴったりな黒い笑みを浮かべている。
「無理してませんよ? 私はただ……」
私はへーリーさんから目を背けて、王弟殿下がいないことを確認した。
「ジェイミー殿下の色気に当てられて倒れてしまっただけです」
「ほう? 僕のせい、だと言うんだね?」
ひぃいい!? いた!
カーテンで見えなかっただけで、隣のベッドに座っていた!!
私は明後日の方向を見る。天井の隅っこ。どこも目を当てにくい。
「何故また騎士と魔法の手合わせなんてことをしたのですか?」
「ああ、それは僕が許可したんだ。責めるなら僕にどうぞ」
「……ジェイミー殿下」
そう言っても、ジェイミー殿下に反省文を書けなんて言えないだろう。
咎めるように名前を呼ぶだけで、へーリーさんはそれ以上は口を開こうとしない。
「あはは、君にも見せたかったよ。ハナさんの戦いぶり。聖女様にも劣らない勇ましい戦う乙女の姿は素晴らしかったよ」
戦う乙女とか言わないでそこ。
「それで提案だけれど、聖女様の初の魔物退治にハナさんも連れて行ってみたらどうだい?」
な、なんですと!?
「え、花奈ちゃんとっ?」
「お荷物にはならない。なんと言っても聖女様と国一番の魔導師が、魔法を教えたのだからね」
「それは無理です。ハナさんは保護された異世界の一般人です。魔法を覚えたとは言え、戦わせるつもりはありません」
期待が膨れたが、バッサリと切り捨てるへーリーさん。
そうですよねー。過保護なお兄さん以前に、それですよね。
「そう……では、第十三番隊の任務についてもらおうか?」
「はい!?」
ギョッとしたのは、少し離れたところで見ていたセドリックだ。
へーリーさんの一瞥に、ビッと背を伸ばした。
「十三番隊は基本、単独任務で遂行する。性格に難ありの隊員がいるから、複数の隊と合同任務は向いていない。結果、簡単な任務ばかりが下る。セドリックになら、ハナさんを預けられるのではないかい?」
「はっ! ご命令とあらば」
セドリックがそう機敏に返事をするのだけれど、正直そんな命令は願い下げだろう。
「じゅ、十三番隊!? だ、だめですよ!」
十三番隊には近付くなと釘をさされている亜豆ちゃんが、断固反対した。
もうすでに関わっている私は、別に危険だと思っていない。
確かに性格があれな感じだけれど、危害を加える騎士ではないだろう。
「だったら一緒に連れていきます!!」
亜豆ちゃんはそう言って、私を抱き締めた。
わお! 天使にハグされたよ! お胸様が私の頰に!
「……そうですね。私も同行する隊ならば、安全です。行きましょう」
「え? いいのですか? 聖女守り隊に入っても?」
「聖女守り隊という名前ではないですが、いいですよ。許可しましょう」
聖女守り隊もとい聖女の亜豆ちゃんと同行するのは、王子と第一番隊と第二番隊と第三番隊と魔導師のへーリーさんだ。
それなら許可出来るらしく、へーリーさんは優しく微笑んだ。
私はぱぁっと目を輝かせて、手放しで喜んだのだった。
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